2024年12月24日

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1―はじめに

金融安定理事会(FSB)は、2024年12月5日に、「2024年破綻処理改革の実施に関する報告書」を公表1して、グローバルな破綻処理制度の進展について詳細を述べるとともに、破綻処理計画基準の対象となる保険会社のリストを初めて公表2した。これは、保険会社と監督当局が破綻の可能性に対処する準備ができていることを広く知らせることで関係者を安心させることを目的とした措置となっている。

今回のレポートでは、破綻処理制度に関連してのFSBによる公表の概要及びそれに対するIAISの声明について報告する。

2―FSBによる公表内容

2―FSBによる公表内容

FSBが、2024年12月5日に公表した内容のポイントは、公表資料3に基づくと、以下の通りとなっている。

1.破綻処理報告書4では、2023年の銀行破綻から破綻処理枠組みに残された教訓に対処するためにFSBが行っている作業について概説している。

2.複数の管轄区域でシステム上重要な中央清算機関(CCPs)のリストは、オーストラリアの ASX Clear (Futures) が追加され、2022 年の前回の更新から 14 に拡大された。

3.破綻処理計画基準の対象となる保険会社の最初の年次リストがFSB の破綻処理報告書で公表され、これには13の保険会社が含まれている。

より、具体的には、以下の通りとなっている。

1.2024年破綻処理報告書「教訓から行動へ―破綻処理準備の強化」
(金融庁の発表5によれば「「2024年破綻処理改革の実施に関する報告書」(原題:2024 Resolution Report "From Lessons to Action: Enhancing Resolution Preparedness")」)

FSBの破綻処理報告書は、過去1年間のFSB破綻処理関連の作業と、銀行、金融市場インフラ、保険セクター全体にわたる破綻処理改革の実施および破綻処理可能性の向上におけるFSB加盟国の進捗状況を評価している。また、破綻処理分野におけるFSBの2025年の優先事項も示している。

2024年、FSBは2023年の銀行破綻の教訓を調査し、対処するための作業を進めることに重点を置いた。これには、公的部門のバックストップ資金調達メカニズム、ベイルインの運用化、技術革新が破綻処理プロセスに与える影響の評価に関する作業が含まれた。

2025年には、FSBはこれらの分野にさらに取り組むとともに、破綻処理において移転ツールを使用する当局の慣行(資産ポートフォリオの売却など)を調査し、非危機管理グループメンバー当局との国境を越えた協力と情報共有を促進する。

2.CCP の秩序ある破綻処理を支援するための新しいグローバル基準を最終決定
FSBは、金融システムの他のセクターの破綻処理枠組みの開発を進める上で重要なマイルストーンを達成した。FSBは、CCPの秩序ある破綻処理を支援するための新しいグローバル基準6を最終決定した。この基準は、CCPの秩序ある破綻処理を達成するために、透明性のある調整済み破綻処理リソースが確実に利用できるようにすることを目指している。

さらに、オーストラリアの ASX Clear (Futures) が、複数の管轄区域でシステム上重要な CCPsのリストに追加された。

3.破綻処理計画基準の対象となる保険会社の最初の年次リストの公表
FSBは、FSBメンバーの監督当局から、「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」7に沿った破綻処理計画基準の対象であると報告された保険会社のリストを初めて公表8した。

今後1年間、FSBは保険会社に対する破綻処理計画基準の適用範囲の一貫性の促進に取り組む予定である。

3―今回のFSBによる破綻処理計画基準

3―今回のFSBによる破綻処理計画基準の対象となる保険会社の公表の背景等

2022年12月、FSBはG-SIIs(グローバルなシステム上重要な保険会社)の年次特定を中止すると発表9した10

その中で、FSBは、「2023年以降、毎年、FSBの年次破綻処理報告書とFSBのウェブサイトで、加盟当局の評価と自己報告に基づき、FSBの『金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性』に沿った破綻処理計画と破綻処理可能性評価の対象となる保険会社のリストを公表する。」ことをコミットしていた。

FSBは、保険セクターの破綻処理可能性の監視と年次報告に関してIAISと緊密に連携しており、今後もそうしていく予定としている。

4―破綻処理計画基準の対象となる保険会社のリスト

4―破綻処理計画基準の対象となる保険会社のリスト

FSBが、2024年12月5日に公表した資料等に基づくと、以下の通りとなっている。

FSBメンバーは、FSBが定めた「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」(以下、適宜「FSB主要特性」と記す)に準拠した破綻処理計画基準の対象となる保険会社のリストに含めるために、管轄区域内の13の保険会社を報告した。これらの保険会社は、「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」の主要特性8~11に準拠した破綻処理計画および破綻処理可能性評価要件の対象であると、それぞれの監督当局から報告されている。
FSB主要特性8~11に準拠した破綻処理計画要件の対象であると報告されている保険会社
なお、今回のFSBによる報告対象会社は全て、各国の保険監督当局が指定するIAIGs(国際的に活動する保険グループ)(2024年11月末時点で59社)に分類されている11
金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性
「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」は、FSBが実効的な破綻処理の枠組みに必要と考える中核的な要素を示しており、その実施により、当局は、金融機関の重要な経済機能の継続性を維持しつつ、納税者がソルベンシー支援による損失にさらされることなく、秩序ある方法で金融機関を破綻処理することが可能となる。FSBは、この「金融機関の実効的な破綻処理の枠組みの主要な特性」を「破綻処理制度の新たな国際基準」として承認している。これは、全ての国・地域の破綻処理制度の一部となるべき12の主要特性(Key Attributes)を示しており、これらは以下の項目に関連している。

1.範囲
2.破綻処理当局
3.破綻処理権限
4.相殺、ネッティング、担保、顧客資産の分離
5.セーフガード
6.破綻処理における企業の資金調達
7.国境を越えた協力のための法的枠組み条件
8.危機管理グループ(CMGs)
9.企業固有の国境間の協力合意
10.破綻処理可能性評価
11.再建および破綻処理計画
12.情報へのアクセスと情報共有
リストの公開の目的と意味合い
リストを公開することで、報告された保険会社と関係当局が、必要になった場合に備えて準備を進めていることが、市場、保険契約者、一般大衆に明らかになる。リストは、関係当局が国境を越えて協力する用意があることを含め、企業とその監督者が保険会社の重大なストレスや破綻に対処する準備がより整っていることを市場参加者に知らせる。また、リストは、世界中で破綻処理基準が一貫して適用されていることの安心を提供する。なお、保険会社は、リストに報告されていなくても、重大なストレスや破綻に対処する準備ができている場合がある。
G-SIIsとの関係
保険会社は、報告保険会社リストに含まれているからといって、システム上重要であるとはみなされない。したがって、このリストは、FSBが 2013年から2016年にかけて公表したG-SIIs(グローバルなシステム上重要な保険会社)の廃止されたリストとはいくつかの重要な点で異なる。報告保険会社リストは、FSB主要特性8~11の適用にのみ関連しており、FSB加盟当局によって評価および報告された保険会社を含み、保険会社がシステム上重要であるかどうかについては言及していない。
リストの今後
このリストは、当局が保険会社の破綻処理制度の実施に取り組むにつれて、今後も進化し続ける。これは、FSB が毎年作成する予定のリストの最初のバージョンである。FSBメンバーが保険会社の破綻処理の枠組みに影響を与える新しい法律や規制を改訂し、実施するにつれて、このリストは拡大していくと思われる。
FSBによる補足説明)
FSBメンバーの監督当局は、関係当局がFSB主要特性8~11に合致する破綻処理計画基準の対象となるべきと判断した管轄区域内の保険会社を報告した。その対象は、(i)保険会社がシステム上重要であるかどうか、(ii)当局によるこれらの基準の実施段階、(iii)破綻処理に関連する国境を越えた調整が専用のCMGsと協力協定を通じて行われるか、監督カレッジと既存の協力協定を通じて行われるか、(iv)保険会社が破綻処理計画を毎年更新するかどうか、に関わらない。このリストには、(i)再建計画のみの対象であり、破綻処理計画と破綻処理可能性評価の要件の対象ではない保険会社、(ii)国際活動が全くないか限定されている保険会社、(iii)FSB総会に代表者がいない管轄区域に本社を置く保険会社、は含まれない。

報告対象保険会社のリストの公表は、FSBが2022年にG-SIIsの年次特定を中止することを決定したことを受けてのものである。この決定に関連して、FSBは今後、保険監督者国際機構(IAIS)の包括的枠組みを通じて入手可能な評価を活用し、保険セクターのシステミックリスクの検討に役立てることを決定した。これには、そのようなシステミックリスクに対処するために必要だと考えられる監督政策措置も含まれる。

(2024年12月24日「保険・年金フォーカス」)

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【FSBが破綻処理計画基準の対象となる保険会社13社を指定】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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