2024年10月08日

国民年金保険料の納付は、義務?権利?~年金改革ウォッチ 2024年10月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月の動き

年金数理部会は、2024年財政検証結果の報告を受け、同部会が実施するピアレビューに向けて質疑を行った。年金事業管理部会は、日本年金機構の2023年度業務実績と第3期中期目標期間の業務実績の案を了承した。年金部会は、働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会のとりまとめや、国民年金の納付猶予制度や任意加入特例などについて議論した。
 
○社会保障審議会 年金数理部会
9月4日(第101回) 令和6年財政検証結果、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_42443.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
9月13日(第75回) 日本年金機構の令和5年度及び第3期中期目標期間の業務実績の評価、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo75_00001.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金部会
9月20日(第18回) 被用者保険の適用の在り方、その他の制度改正事項、公的年金シミュレーター
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240920.html (資料)

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:国民年金保険料の納付猶予制度を巡る議論

9月の年金部会では、その他の制度改正事項の1つとして国民年金保険料の納付猶予制度が論点となり、様々な意見が出た。本稿では、制度の概要や改正議論を確認し、考察する。
1|制度の概要と現状:非正規雇用者の納付機会を拡大するために導入。30歳前後の約15%が利用
国民年金保険料の納付猶予制度は、2004年改正で導入され、2005年4月から開始された。当時は就職氷河期世代などの20代で非正規雇用者が増大しており、将来の無年金・低年金の防止を目的として、30歳未満に対する10年間(2015年6月まで)に限定した制度として始まった。2014年改正では、非正規雇用者が中高年でも増加していることを踏まえて、対象者が50歳未満に拡大され、期間が10年延長された。2020年改正では、政府の「就職氷河期世代プログラム」を考慮して、5年延長された*1
図表1 国民年金保険料の猶予や免除の要件 国民年金保険料に関する制度には、学生納付特例や申請免除もある。納付猶予は、全額免除と所得要件は同額だが、所得要件の対象者が本人と配偶者に限定されるため、該当しやすくなる*2(図表1)。
図表2 国民年金保険料を納めなかった場合の扱い 納付猶予が認められれば、申請免除と同様に、保険料を納めなくても障害年金の受給要件や老齢年金の受給資格期間として認められ、追納可能期間が10年へ延長される。しかし、全額免除と異なり、保険料を追納しなければ年金額は増えない(図表2)。
図表3 国民年金保険料の納付状況(2018-19年度) 現在の利用者は納付対象者全体の5%だが、25~34歳では約15%が利用している(図表3)。この年齢層の利用者の51%を無職、36%をパート労働者等が占めており、非正規雇用者の利用がうかがわれる。
 
*1 2020年改正に関する内容は、高橋俊之(2024)「年金制度改正の議論を読み解く:第9回 国民年金保険料の納付猶予制度の方向性」に依拠している。
*2 納付猶予と免除の申請書は一体で、猶予や免除の区分は基本的に記入不要である。日本年金機構が、申請者の委託に基づいて世帯や所得の情報を入手し、猶予や免除の区分を判定している。
2|改正議論:厚労省は世帯主(親)の所得の勘案を提案したが、多くの委員は反対
厚労省は、現行制度を延長しつつ、親などの世帯主に一定以上の所得がある場合には納付猶予の対象外にすることを提案した。

委員からは、世帯主の所得を勘案することに対して、「古い家制度を引きずっている」「世帯全員の所得を考慮すべき」「時代に逆行している」「年収が高くても障がいを持つ子がいるなどの事情がありうる」「親が肩代わりせず、本人が働いて納付すべき」「日本は国際的に見て親が子どもに責任を持つ期間が長い」「親が保険料を負担しない場合に子が障害年金を受けられなくなる」などの理由から反対する意見が多く出された。

また、別の論点であった厚生年金の適用拡大における学生要件に関連して、「学生納付特例を利用しても、賃金が低く奨学金の返済もある時期に保険料の追納は難しい」「若いうちに海外旅行などの機会が奪われたり、出会いの場などが少なくなり少子化にも繋がっていると思う」などの理由で、基礎年金の拠出期間の始期を現行の20歳から22歳に上げるべき、という意見も複数の委員から出た。

確かに、親世代の共働きを考えれば免除も含めて世帯単位で判定すべきだろう。また、保険料の納付は義務であり、他制度と同様に世帯単位で納付責任を負うべきであろう*3。他方で、保険料の納付は国庫の補助を得て年金額を充実できる機会(一種の権利)であり、猶予を含めて充実を図るべきだろう。
 
*3 世帯状況や親が納付しない場合の悪影響には注意が必要だが、子を所得税の扶養控除の対象にしている場合は世帯単位で考える必然性が高いだろう。なお、現行制度では、世帯主に対して督促状を送るなどの徴収徹底が行われている。

(2024年10月08日「保険・年金フォーカス」)

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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

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