2024年08月19日

ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2023年Annual ReportやGDVの公表資料からの抜粋報告(生命保険会社等の監督及び業績等の状況)-

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1―はじめに

前回のレポートでは、ドイツの保険監督官庁であるBaFin(Bundesanstalt für Finanzdienstleistungsaufsicht:連邦金融監督庁)の2023年のAnnual Report(Jahresbericht)1の「スポットライト(Spotlights)」の章等に記載されている項目の中から、主として生命保険の監督に関連するトピックの内容を抜粋して、それらのトピックに関する状況について報告した。

今回のレポートでは、Annual Reportの「I.スポットライト」の「2-1.リスク分類と(その他の)検査」及び「II.企業の監督」の「2.保険会社及び年金基金」等、及びGDV(ドイツ保険協会)の公表資料等に基づいて、ドイツの生命保険会社等の監督及び業績等の状況について報告する。なお、以下の図表は、BaFinのAnnual ReportやGDVの公表資料からの図表に基づいて、筆者が作成している。

2―保険会社のリスク分類と検査結果

2―保険会社のリスク分類と検査結果

BaFinのAnnual Reportの「I.スポットライト」の「2-1.リスク分類と(その他の)検査」における記述に基づくと、以下の通りとなっている。

1|保険会社のリスク分類
BaFinは、監督下にある保険会社と年金基金をリスククラスに分類している。これは比例監督とリスクベースの監督の基礎となるものである。

これらの会社について、以下の図表が、2023年のリスク分類の結果を示している(図表番号は、出典資料に従っている、以下同様)。

分類において、BaFinは会社又はグループの質を考慮に入れており、これは、「財務状況とキャッシュフロー」、「財務業績」、「ガバナンス体制」、「将来の実行可能性」及び「重要な持株の保有者」の要素に基づいている。一方、監督は、各会社のソルベンシー又は流動性危機が金融セクターの安定性に及ぼす潜在的な影響を考慮に入れている。

グループの評価において、BaFinは「重要な持株の保有者」の代わりに「グループ固有の要素」というサブセクションを使用し、特定の企業の分類結果だけでなく、定性的及び定量的なグループ固有の情報も提供している。

評価システムは、個々の基準に対する評価を合計して、「A(高品質)」から「D(低品質)」からなる4段階の総合評価を作成している。
2|リスク分類の結果
2023年12月31日時点のデータに基づく評価は、以下の通りとなっている。

BaFinは、2023年のリスク分類で、保険会社の約76%を、質の高い「A」又は「B」に分類しており、これは2022年の約75%に比べて、若干上昇した数値となっている。
表4:2023年と2022年の保険会社と年金基金のリスク分類結果
また、保険グループのリスク分類は、2023年に「A」(1.8%)、「B」(78.6%)又は「C」(19.6%)(2022年は、「A」(1.9%)、「B」(79.6%)又は「C」(18.5%))となっている。
3|保険会社の検査
BaFinは、保険監督における検査計画についても、リスクベースのアプローチを採用しているが、リスク分類の結果に加え、特に、監督対象会社で検査が最後に実施された時期を考慮している。さらに、例えばITに関する検査など、アドホックな検査やトピックに関連した検査を実施している。

2023年、BaFinは保険監督分野の会社に対して、合計72件の検査を実施している(2022年は75件)が、そのリスククラス別の検査の内訳は、以下の図表の通りとなっている。
表5:2023年と2022年の保険会社及び年金基金に対する検査(リスククラス別)

3―保険会社と年金基金の監督に対するBaFinの具体的な対応

3―保険会社と年金基金の監督に対するBaFinの具体的な対応

BaFinのAnnual Reportの「II.企業の監督」の「2.保険会社及び年金基金」等における記述に基づくと、BaFinは、2023年において、以下のような新たな監督実務の原則等の公表や監督上の対応を行っている。

1|監督実務の原則等の公表
1.事業行動監督に関するガイダンス通知
2023年5月、BaFinは、資本形成型の生命保険商品(養老保険契約)の事業行動監督の側面に関するガイダンス通知01/2023 (VA) 2を公表3したが、これにより、とりわけ、資本形成型の生命保険契約が顧客に金額に見合った適切な価値を提供することを確実にし、これらの商品の販売における不適切なインセンティブを回避すること、を目指している。このガイダンス通知は、保険販売指令(IDD)の規定に基づいている。

BaFinは、事業行動監督において、リスクベースのアプローチ4を追求しており、保険会社がガイダンス通知を考慮に入れているかどうかをチェックする。その過程では、主に、収益の大幅な減少や、特に多額の新契約手数料という形で、保険仲介業者に対しての著しく高い費用を伴っている商品を提供する保険会社に焦点を当てている。その後、BaFinは、顧客の利益のために欠点が是正されるように、これらの保険会社と協議する。
2.適合性と適正性(資質)要件(fit and proper要件)に関する通達
2023年12月、BaFinは保険監督法(ISA)に基づき、適合性と適正性(資質)要件に関する三つの通達を発行したが、これらの通達は、取締役会5、取締役会・監督機関のメンバー6、及び主要な職務遂行者7に関係している。

これらの通達は、2018年の同名のガイダンス通知に基づいており、BaFinはこれを更新し、さらに強化した。とりわけ、企業は現在、取締役会及び主要な職務のポジションについて具体的な要件プロファイルを定めなければならず、また、候補者がそれぞれのポジションに適している理由を説明しなければならない。
3.BaFinIHKによる団体保険契約の仲介者の地位に関する監督声明
2023年7月、BaFinは仲介監督を担当する商工会議所(IHK)と共同で、2022年9月29日の欧州司法裁判所(ECJ)の判決(C-633/20)の影響に関する監督声明8を公表した。この判決は、団体保険契約における保険契約者の仲介者としての地位に関するものであったが、監督声明は、保険契約者が保険仲介者でもある場合について、実務的に規定している。
2|監督上の対応
1.BaFinは投資ファンドと特別投資ファンドへの投資を分析
2023年、BaFinはリスクベースの観点から厳選された会社がプライベートデット、プライベートエクイティ、モーゲージローンという資産クラスをどのように扱っているかを分析した。また、不動産プロジェクト・ファイナンスとインフラプロジェクトへの投資についても調査した。保険会社はこうした投資の大部分を、ファンドを通じて間接的に行い、通常は専門のファンドマネージャーを利用している。分析の結果、保険会社は一般的にこれらの資産クラスの特定のリスクを正しく評価していることが判明した。

さらに、BaFinは特定の会社における特別投資ファンドへの間接投資に関連するリスクを調査し、報告とリスク管理の透明性の問題に焦点を当てた。その結果、保険会社は特別ファンドに対して非常に異質な投資方針を有しており、その中には特定な要件を満たすために開発されたものもあることが判明した。場合によっては、保険会社はより高いリターンを達成するために、より複雑でリスクの高い投資を行っていた。

2023年、BaFinは会社に対して、そのような投資に伴うリスクを自ら評価しなければならず、外部の専門家だけに頼るべきではないことを明確にした。
2.EIOPAが保険会社向けの欧州全体のストレステストを開始
EIOPAは、保険会社向けの欧州全体のストレステストを開始したが、BaFinは、ドイツの参加者の結果を検証し、継続的な監督においてそれらを考慮に入れる。ストレステストの目的は、保険セクターがネガティブな展開に対してどの程度レジリエンスがあるかを評価することにあるが、今回のテストでは、インフレ率の上昇と金利の上昇というシナリオが特に注目されている。

欧州の大手保険グループに焦点が当てられており、欧州全体では、46の保険グループと2つの保険会社がメインモジュールである「資本コンポーネント」に参加する。ドイツからは、Allianz、Munich Re、HDI/Talanx、R+V、Debeca、Versicherungskammer Bayern、Viridiumの7つの保険グループが参加する。2021年のストレステストと同様に、別のモジュールである「流動性コンポーネント」では、保険グループの個々の保険会社が流動性ストレスにさらされる。

ドイツの参加保険グループは、2024年8月8日までに報告書をBaFinに提出する必要がある。その後、BaFinとEIOPAは、多段階のプロセスでデータを調査し、EIOPAが2024年12月に結果を公表する予定となっている。

(2024年08月19日「保険・年金フォーカス」)

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