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欧州保険会社が2023年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-内部モデルの適用状況等-
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Aegonは欧州の保険会社ではないが、SFCRと同様なFCR(財務状況報告書)を公表しているので、その中からの情報に基づいて、報告する。
AegonのSCRの構成は、以下の図表の通りとなっている。
AegonのグループSCR 73.66億ユーロのうち、連結会計法によるものが18.00億ユーロ(構成比は24%、以下同様)、控除合算法とOFS(その他金融機関)によるものが35.90億ユーロ(49%)、a.s.r.持分によるものが19.75億ユーロ(27%)(2022年の構成比は、連結会計法によるものが46%、控除合算法とOFSによるものが54%)となっている。
また、内部モデルによるものが、連結会計法による分散効果控除前、LAC-DT控除後で93.0%、LAC-DT控除前で81.5%(2022年は66.6%)を占めている。
なお、連結会計法における分散効果は1,377百万ユーロで、これによる控除率が43.3%となっている。
E.3.4.集計方法と分散効果の記述
ソルベンシーPIMの下で、Aegonは国単位及びリスクタイプ間の分散効果を計算する。
標準式コンポーネント内では、規定された標準式相関行列に従って分散化が決定される。
内部モデル内では、過去のデータと専門家の判断を利用して、全てのリスク要因に対して限界確率分布関数が適合されている。組み合わされた全てのリスク要因の全体的な同時確率分布関数は、リスク間の依存構造を考慮に入れる。この共同分布からのサンプルをシミュレートする200万シナリオからの損失は、全体的な経験的損失分布関数を当てはめるために使用され、これから99.5%のポイントを取ることによって200年の1回の損失を導き出す。
シナリオはシナリオジェネレータと依存構造を使用して生成され、市場データと専門家の判断に基づくリスクドライバー間の依存関係(相関)が定義される。各シナリオには、金利、株式リターン、死亡率などのリスク要因の値が含まれている。
合計ネットSCR(分散効果反映後)は、自己資本における200年に1回の損失の平均によって決定される。分散はリスクタイプの独立型SCRの合計と合計ネットSCRの差として定義される。
ソルベンシーPIMの内部モデルと標準式コンポーネントの間の分散は、ソルベンシーⅡの規定に従って、統合テクニック3(IT3)を使用して計算される。
E.3.5.内部モデルのリスク領域に対して使用される手法や前提における主要な差異の記述
市場リスク
通貨リスクについては、ショックはAegonのポートフォリオに基づいて調整される。さらに、標準式では通貨エクスポージャー間の分散が行われないのに対し、ソルベンシー PIM では、異なる通貨へのエクスポージャー間の分散が考慮されている。
(中略)
引受けリスク
ソルベンシー PIM に基づく Aegon UK の保険契約者行動(解約)リスクは、パラメータと伝染ショックの合計だが、標準式ではパラメータと伝染ストレスの大きい方となる。さらに、ショックは Aegon UK ポートフォリオに基づいて調整されるため、標準式よりもショック規模が大きくなり、分散化前の SCR が高くなる。ソルベンシー PIM ストレスは、費用レベル、トレンド及びボラティリティストレスをカバーしているため、Aegon UK のソルベンシー PIM 費用リスクショックの合計は標準式ストレスよりも高くなる。これにより、分散化前の SCR が高くなる。
(中略)
オペレーショナルリスク
Aegon UK の場合、オペレーショナルリスクのソルベンシー PIM は標準式と次の点で異なる。
・ソルベンシーPIMは、ワークショップを使用して経験データで補足された可能性のあるシナリオを生成する、主題専門家の入力に基づいている。次に、データは確率モデルに適合されるが、標準式は技術的準備金、保険料及び費用に基づいている。
・ソルベンシーPIMでは、オペレーショナルリスクを他のリスクタイプで分散できるが、標準式ではオペレーショナルリスクの分散はまったくできない。
(中略)
分散
ソルベンシーPIMの内部モデルと標準式コンポーネント間の分散は、統合手法3(IT3)を使用して計算される。このEIOPA規定の統合手法では、内部モデルと標準式コンポーネント間の暗黙の線形相関係数の計算方法が説明されている。この相関係数は、平方根式を使用してソルベンシー PIM SCR の合計を計算するために使用される。標準式では、相関行列を使用して、リスク・モジュール別及び全体レベルでの分散を計算する。
欧州大手4グループについては、USP(Undertakings Specific Parameters:会社固有パラメータ)と簡素化(Simplification)の使用状況について、SFCRのQRTsのS.25.05.22(AXA、Allianz、Generaliの場合)、S.25.02.22(Avivaの場合)において、報告されている。
生命保険及び健康保険改訂リスク、損害保険(健康保険の一部を含む)の保険料及び責任準備金リスクに対しては、標準式で使用されているパラメータの代わりに、監督当局の承認を得て、会社固有のパラメータUSPを用いることができる。
欧州大手4グループのうち、以下の3グループは、USPの使用に関して明示的に記述している。
・Allianzは、Fragonard Assurance S.A.とAGA Internationalの損害保険の保険料リスクの標準偏差に対してUSPを使用している(また、USPの使用によるSCR及びMCRへの影響は1%未満であるとしている)。
・Generaliは、2022年は、Europe Assistance Group、イタリアの会社DAS(Difesa Automobilistica Sinistri)とEuro Assistance Group、TUA Assicurazioni S.p.A.及びSocieta Cattolica di Assicurazione S.p.A.のSCRの計算に、USPを使用しているとの記載があったが、2023年のSFCRではこの記載は削除されている。
・Avivaは、SCRの算定にUSPを使用していない。
なお、AXAについては文中に明示的な記載はないが、QRTsによれば、USPは使用していない。
Allianzは、標準式の計算におけるカウンターパーティデフォールトリスクモジュールに簡素化を使用している。
その他の会社は、SCRの算出における簡素化は使用していない。
3―まとめ
2023年から、EUのソルベンシーIIにおけるテンプレートが変更されたことにより、これまでの分析からの連続性は必ずしも確保できなくなったが、今回の報告でもこれまでとほぼ同様の状況になっており、各社の内部モデルの適用状況等は把握できているものと思われる。
次回のレポートでは、適用されている内部モデルについて、標準式との差異を中心に報告する。
(2024年06月26日「保険・年金フォーカス」)
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中村 亮一のレポート
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