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年金額は2024年度に2.7%の増額だが、実質的には▲0.4%の目減り-2024年度の年金額と2025年度以降の見通し (3)

保険研究部 主席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査部長 兼任 中嶋 邦夫
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年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライドの調整率)の計算過程を示したのが、図表6である。調整率は、当年度の調整率と前年度から繰越された調整率の合計である。当年度の調整率は「公的年金加入者数の増加率(2~4年度前の平均)-引退世代の余命の伸びを勘案した率(0.3%)」で計算され、前年度から繰越された調整率は図表4のルールで計算される。
調整率の計算に使用される公的年金加入者数の変動率(図表6の⑤の列)は、2~4年度前の平均である。ここで言う公的年金の加入者は、国民年金の第1号被保険者と厚生年金の被保険者と国民年金の第3号被保険者であり、年度内の各月末の人数を平均した値(年度間平均)が用いられる。公的年金の加入者数が国民年金の第1~3号被保険者の合計となっていないのは、国民年金の第2号被保険者には厚生年金被保険者のうち65歳以上の人(老齢基礎年金の標準的な受給開始年齢以上の人)が含まれないためである。国民年金の第1号被保険者と第3号被保険者の対象年齢は20~59歳だが、厚生年金被保険者の対象年齢は69歳までであるため、高齢期の就労が進展して60代の厚生年金加入者が増えれば公的年金加入者数は増加する可能性がある10。
2024年度の当年度分の調整率には、2020~2022年度の公的年金加入者数の変動率の平均が使用される。3年度前にあたる2021年度はコロナ禍の影響があったためか微減となったが、4年度前にあたる2020年度と2年度前にあたる2022年度は、過去の少子化の影響を受ける一方で60代の厚生年金加入者の増加等によって公的年金加入者数が概ね横ばいだった。その結果、3年度平均では-0.1%になった(図表6の⑤の3年平均の列)。これに引退世代の余命の伸びを勘案した率(-0.3%、図表6の⑥の列)が加味され、2024年度の当年度分の調整率は-0.4%となった(図表6の⑤+⑥の列)。2024年度には前年度から繰り越された調整率がなかったため、この-0.4%が2024年度に適用すべき調整率となった。
そして、前述のように、本来の改定率が67歳以下と68歳以上の双方で+3.1%で、調整率が-0.4%だったため、67歳以下と68歳以上の両者とも図表4の「原則」に該当して調整率がすべて反映され、2024年度の調整後の改定率(実際に適用される改定率)は、67歳以下も68歳以上も+2.7%となった(図表6の⑧の列)。また、67歳以下と68歳以上の両者とも調整率がすべて反映されたため、翌年度に繰り越される調整率は発生しなかった(図表6の最右列)。
10 なお、パート労働者等に対する厚生年金の適用拡大によって20~59歳の厚生年金加入者が増加しても、公的年金の加入者数には影響しない。20~59歳で厚生年金に加入する人は、国民年金の第1号または第3号被保険者からの移行であり、厚生年金に加入する前から公的年金の加入者数に含まれているためである。他方で、厚生年金の適用拡大によって60代の厚生年金加入者が増えれば、公的年金加入者数の増加に寄与する。実際に、厚生年金加入者のうちパート労働者(短時間労働者)の性・年齢分布を見ると、特に男性においては60代の比率が高い。しかし、厚生年金加入者のうち短時間労働者の60代は男女計で16万人に過ぎないため、公的年金加入者数全体(約6700万人)に対しては限定的な影響に留まる。
4 ―― 総括:物価変動を早期に反映する仕組みと賃金や加入者の変動を平準化する仕組みが奏功。ただし、68歳以上の改定ルールは再確認が必要
- 本来の改定率の計算過程では、2023年(暦年)の大幅な物価上昇率が即時に反映された。
- 本来の改定率の計算に用いる実質賃金変動率は2~4年度前の平均であるため、近年の変動の影響を抑えた。
- 実質賃金変動率はわずかにマイナスとなり、67歳以下と68歳以上の本来の改定率がともに賃金変動率となった。
- 年金財政健全化のための調整率(いわゆるマクロ経済スライドの調整率)も2~4年度前の平均であるため、コロナ禍が年金額に与える影響を抑えられた。
- 本来の改定率が物価上昇を反映して大幅なプラスになったため、年金財政健全化のための調整率はすべて反映された。
- この結果、2024年度の調整後の改定率(実際に適用される改定率)は、67歳以下と68歳以上の双方で2年連続の増額になったが、調整率の適用により年金額は目減りした。
物価の上昇が続く中、年金額が2年連続で増額された点は、朗報と言えよう。また、改定率の計算過程に3年平均を取る仕組みが入っていたことで実質賃金の変動やコロナ禍の影響を抑えられた点も、制度設計の恩恵を受けたと言えよう。
一方で、年金額の実質的な価値が2年連続で目減りする点には、注意する必要がある。特に2024年度の改定においては、賃金変動率が物価変動率よりも低いものの、本来の改定率がプラスだったため、物価変動率よりも低い賃金変動率からマクロ経済スライドの調整率が差し引かれている。その結果、マクロ経済スライド適用後の改定率と物価変動率を比べれば、物価変動率と賃金変動率の差(-0.1%)とマクロ経済スライドの調整率(-0.4%)を合わせた-0.5%分が目減りする形になっている。
本来の改定率の特例は現役世代とのバランスを取るための仕組みであり、マクロ経済スライドは少子化や長寿化に対応するための仕組みとは言え、公的年金が収入の大半を占める高齢世帯にとっては厳しい改定となった。現役世代の賃金の伸びも物価の伸びに追いついていない中ではあるが、68歳以上の年金の伸びを本来の改定率の特例とマクロ経済スライドの2つの要素で抑える必要性について、再確認する必要があるだろう。
(2024年06月19日「基礎研レポート」)
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03-3512-1859
- 【職歴】
1995年 日本生命保険相互会社入社
2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
(2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)
【社外委員等】
・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)
【加入団体等】
・生活経済学会、日本財政学会、ほか
・博士(経済学)
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