2024年04月25日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-

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3|Generali
Generaliは、2016年11月26日に開催した「投資家の日(Investor Day)」において、現在事業展開している市場を、(1)既に一定のプレゼンスを有して、規模があり魅力的な市場(6~9市場)、(2)プレゼンスが十分でないが魅力的な市場(16~18市場)、(3)魅力的な市場でもなくプレゼンスも無い市場(13~15市場)、の3つに分類して、(3)については合理化を進めることを計画している、と述べていた。

さらに、2020年11月19日に開催された「投資家の日」には、資本配分の最適化を図るため、保有契約の生命保険ポートフォリオをさらに売却する可能性があることを述べていた。

こうした考え方に基づいて、Generaliは、ここ数年、(1)2018年第1四半期にオランダの事業の売却、(2)2019年第1四半期にベルギー事業の売却、(3)2019年第2四半期にドイツのGenerali Lebenの株式のViridium Groupへの一部売却、(4)2020年第4四半期に英国の生命保険ランオフポートフォリオの売却、等により、保証利率の高い事業の売却を進めてきた。これらを通じて、2021年の決算発表時においては、520億ユーロの準備金を処分し、グループのソルベンシー比率を8%ポイント上昇させた、と述べていた。

2022年には、新たな3か年戦略「Lifetime Partner 24」が策定され、その中の「持続可能な成長の促進」においては、欧州の中小企業、医療、高齢者介護、米国の旅行など、大きな成長が見込まれる分野での市場シェアを拡大することで、損害保険の収益を引き続き増加させ、クラス最高の技術利益率を維持することや、生命保険事業では、軽資本契約と技術利益を拡大し、ユニットリンク型契約の数量増加と利益率のさらなる内製化を図り、成熟市場における継続的なコスト規律と、アジア及び手数料関連事業への集中的な投資による効果的なコスト管理によって支えられた成長を目指すとされた。

なお、2024年4月19日には、構造を再編し、保険と資産管理の2つの主要事業に焦点を当てた「多角的な金融グループ」として運営する計画を発表している。それによると、保険部門は、イタリア、フランス及びグローバル事業活動、ドイツ、オーストリア、スイスの5つの事業部門と直属の地中海&中南米、中近東&東欧、アジアの3つの地域で構成される、と述べている。また、資産及びウェルス管理事業部門はGIH(Generali Investments Holding)となり、GIHは、買収したConning Holdings Limited(CHL)の資産管理活動を含む、中国等の一部の事業を除くグローバルな資産管理活動を監督することになる、としている。

(1) 地域別の業績-2023年の結果-
Generaliは、世界の50カ国以上で事業展開をしている。欧州で主導的なポジションを確保し、アジアと中南米でのプレゼンスを拡大させている。

Generaliは、(他社とは異なり)2023年の保険収益49,496百万ユーロの地域別の内訳を示しておらず、従前の「保険料(Gross Written Premium)」の数値を用いて報告している。なお、CSM残高については、税引き前等のグロスベースで、グループ全体では、2023年末は31,807百万ユーロ(生命保険30,911百万ユーロ、損害保険896百万ユーロ)、2022年末31,025百万ユーロ(生命保険30,207百万ユーロ、損害保険818百万ユーロ)となっている。

各種の指標において、自国のイタリアに加えて、ドイツとフランスで高い構成比を有しているが、さらにその他の欧州の国々のいくつかにおいても有意なポジションを確保している。

一方で、他の欧州大手保険グループとは異なり、欧州域外でのプレゼンスは現時点ではあまり高くない。

アジアでは、 中国、香港、インド、インドネシア、マレーシア、フィリピン、タイ及びベトナムの8つの国と地域で保険事業を展開している。主要なセグメントは生命保険であり、保険料収入は主に貯蓄、年金、保障契約に集中している。生命保険事業は、中国、香港、インド、マレーシア、フィリピン、インドネシア、タイ、ベトナムで、損害保険事業は、香港、インド、マレーシア、タイで展開している。
 
保険事業の地域別内訳(2023年)/うち 欧州の主要国別内訳
Annual Reportによれば、欧州における生命保険と損害保険の市場シェア及びポジションについては、以下の図表の通りとなっている。
Generaliの事業地域におけるランキングと市場シェア
(2) 地域別の業績-2022年との比較-
2022年との比較では、グループ全体の保険料は、損害保険セグメントの大幅な成長により、5.6%増加15して、824億66百万ユーロとなった。

保険料(生保)は、2.0%増加して、513億46百万ユーロとなった。保障契約は、フランスとイタリアが牽引する健全な成長軌道を確認し、6.4%増加した。貯蓄契約もイタリアとアジアを中心に大幅に改善して、10.0%増加した。ユニットリンク契約は特にイタリアとフランスで減少し、13.1%減少した。なお、イタリアとフランスの市場において、生命保険契約の解約率が急上昇していることが指摘されていたが、これに対しては新商品と継続率維持戦略でこの問題に対処していると述べた。

営業利益(生保)は、非経常的な引当金の影響にもかかわらず、37億35百万ユーロに増加した。

金利の上昇により悪化した経済環境を反映し、PVNBP(新契約保険料現在価値)は9.2%減少(割引率の影響を除いた年換算保険料相当額で表すと、2.7%減少)して、403億ユーロとなったが、一方で対PVNBP新契約利益率は、主に金利の上昇により0.09%ポイント上昇して5.78% となった。これらの結果として、新契約価値(NBV)は7.7%減少して、23億31百万ユーロとなった。

CSM残高(生保)が30,270百万ユーロから30,911百万ユーロに増加したのは、CSMのリリースが3,035百万ユーロあったものの、新契約のCSM 2,796百万ユーロが貢献し、これに保有契約収益の1,692百万ユーロが加わったことによる。

保険料(損保)は、12.0%増加して、311億20百万ユーロとなった、自動車保険以外は8.7%増となり、グループが事業を展開する主要分野の全てで幅広く成長を達成した。Euro Assistanceの保険料は、旅行事業の継続的な拡大により23.5%増となった。自動車は、イタリア、フランス、CEE(中東欧)、アルゼンチンを中心に主要地域全体で17.5%増(ハイパーインフレの影響を受けたアルゼンチンの寄与を除くと6.3%増)となった。

営業利益(損保)は、15.8%増加して、29億2百万ユーロとなった。高い割引効果と自然災害除きの非割引コンバインドレシオの低下によって、自然災害の大きな影響を相殺して、コンバインドレシオが94.0%を1.4%ポイント低下したことによる。
保険事業の地域別内訳(2022年から2023年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2022年から2023年に向けての増加額と進展率)
 
15 図表の進展率の数値は、実際の数値ベースでの値であるのに対して、文中の進展率の数値は、同等ベース(為替と連結範囲が一定)によるものとなっている。また、2023年第1四半期より、Cattolica社 (Vera社及びBCC社) のバンカシュアランスJVはIFRS第5号の下で「売却目的の処分グループ」とみなされるため、その結果は「非継続事業の結果」に再分類されている。これに伴い、2022年の業績は修正再表示されている。「非継続事業の結果」は84百万ユーロ(2022年は▲93百万ユーロ)となっている。

(3) 地域別展開に関する方針及びトピック
Generaliは、2023年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

2023年5月4日に、Frankfurter LebenとGenerali Deutschland Pensionskasseの売却で合意したと発表した。この取引は、生命保険事業のプロファイルと収益性の継続的な改善を通じて収益プロファイルを強化し、資本集約度を削減し、営業成績を向上させるというGeneraliの戦略に沿ったものである。この取引により、グループのソルベンシーII比率が1%ポイント増加する、と述べた。

2023年6月15日に、Liberty MutualからLiberty Segurosを買収し、欧州保険業界のリーダーシップを強化すると発表した。これにより、スペイン(4位)とポルトガル(2位)での損保ポジションを強化し、アイルランドと北アイルランドに参入する。取引総額は23億ユーロとなり、グループのソルベンシーII比率への影響は約▲9.7ポイントと推定されている。Liberty Segurosは、2022年12月31日時点でソルベンシー比率が330%を超え、強固な資本基盤を有している。なお、この取引は、2024年1月31日に完了している。

2023年6月30日に、Eurovitaの保険契約者を保護するため、他の保険会社4社(Allianz, Intesa Sanpaolo Vita, Poste Vita and Unipol SAI)と共同で事業を展開すると発表した。

2023年7月6日に、アジア最大の金融機関の一つであるCathay Financial Holdingsの子会社であるCathay Lifeから、保険及び機関投資家向けの世界有数の資産運用会社であるConning Holdings Limited(CHL)を買収して、グローバルな資産管理ビジネスを強化し、Cathay Lifeと長期的なパートナーシップを構築する、と発表した。Conningとその関連会社は、約1,570億ドル(1,440億ユーロ)の運用資産を持ち、保険会社やその他の機関顧客のニーズに応える世界的な資産管理会社である。この買収により、Generaliの運用資産総額(AUM)は8,450億ドル(7,750億ユーロ)になる。また、CHLがGenerali Investments Holding S.p.A (GIH)に出資した結果、Cathay LifeはGIHの少数株主となる。CHLのGHLの株式100%拠出の結果として、Cathay Lifeは慣例的なクロージング調整を条件として、クロージング時点でGIHの株式資本の16.75%を所有する予定である。また、Generali又はGIHがCathay Lifeに対して支払うべき現金の前払いはなく、グループのソルベンシーII比率への影響はごくわずかであると想定されている。なお、この買収は、2024年4月3日に完了したと発表された。

2023年10月12日に、TUA Assicurazioni SpAをAllianzに売却することで合意したと発表した。

2023年12月21日に、BaFin(ドイル連邦金融監督庁)及び関連するドイツの独占禁止当局の承認を受けて、Generali Deutschland Pensionskasse AG (GDPK) のFrankfurter Lebenへの処分を完了した、と発表した。この取引により、ドイツのポジションに約10%ポイント、グループのソルベンシーIIポジションに1%ポイントがそれぞれ追加される。

なお、2024年に入ってからも、以下の資本取引等が公表されている。

2024年1月10日に、約99百万ユーロの対価でGCI(ジェネラリ中国保険会社)の51%を買収する契約に署名し、GCIの100%株主になる、と発表した。

2024年3月1日に、TUA Assicurazioni SpAのAllianzへの売却を完了した、と発表した。この取引により、純利益に対して約 50百万ユーロのプラスの影響が生じ、正常純利益(特殊要因等を除いた実態ベースの純利益)に対しては中立的な影響が生じ、グループのソルベンシーIIポジションが約1%ポイント増加する、としている。
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中村 亮一

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