2024年04月25日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-

文字サイズ

(3) 地域別展開に関する方針及びトピック
AXAは、2023年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

2023年2月28日に、AXA SA が Banca Monte dei Paschi di Siena SpAの1億株の株式の2億3,300万ユーロでの売却を成功裏に完了したと発表した。

2023年7月13日に、総額3億10百万ユーロの現金でのGroupe Assurances du Crédit Mutuel España(「GACM España」)の買収を完了したと発表した。GACM Españaは、代理店やパートナーの幅広い流通ネットワークを通じて商品を販売しており、2022年のリテール損保と医療部門の総収入保険料が4億ユーロであった。2022年末において、連結ソルベンシーII比率は272%、適格自己資本は3億ユーロだった。

2023年8月3日に、AIGの子会社であるCorebridge Financial Inc.からLaya Healthcare Limited(「Laya」)を6億50百万ユーロの対価で買収する契約を締結したと発表した。Layaは、アイルランドの医療保険市場で主導的な地位を占めており、28%の市場シェアを誇り、70万人近くの保険契約者にサービスを提供し、年間保険料 約8億ユーロとなっている。AXA はアイルランドに既に拠点を置き、損害保険市場でナンバー1の地位を築いているが、この取引により、活況で急速に成長する医療保険市場での事業をさらに拡大することになる。この取引により、AXAグループのソルベンシーII比率は▲3 ポイントの影響があると想定されている。なお、この取引は、2023年11月1日に完了したと発表された。

Allianz
Allianzは、世界の70カ国以上で生命保険、損害保険事業、資産管理事業等を展開している。

Allianzは、以前に生命保険事業の主要な市場として、ドイツ、フランス、イタリア及び米国を挙げていたが、これらの市場における保険収益や営業利益の構成比が大きなものとなっている。

(1) 地域別の業績-2023年の結果-
Allianzは、売上高を「保険料等(Total Business volume)12」、事業損益を「営業利益(Operating profit)」で説明しているので、以下の図表にはこれらの数値を掲載している。なお、CSM残高については、税引き前等のグロスベースで、グループ全体では、2023年末は53,818百万ユーロ(生命・医療保険52,601百万ユーロ、損害保険1,239百万ユーロ)、2022年末53,382百万ユーロ(生命・医療保険52,227百万ユーロ、損害保険1,172百万ユーロ)13となっている。

これによれば、営業利益(生保)は、自国のドイツの構成比が25%(2022年は32%)で、フランス、スペイン、イタリア等の主要国からも有意な収益を上げており、欧州全体で66%(2022年は69%)の構成比となっている。一方で、営業利益(損保)は、ドイツの構成比が17%(2022年は24%)、欧州全体で64%(2022年は64%)となっている。

米国の子会社であるAllianz Life Ins Groupは、2023年末の認容資産ベースで、米国の生命保険・医療保険グループで第18位(2022年末は第19位)14となっている。そのグループ全体の生命保険事業における構成比は、保険料等で24%、保険収益で10%、営業利益で21%、新契約価値で28%、CSM残高で22%となっており、ほぼ2割程度の構成比となっている。

アジア・太平洋の生命保険事業の構成比は、保険料等で8%、保険収益で10%、営業利益で11%、新契約価値で14%、CSM残高で9%となっており、ほぼ1割程度の構成比となっている。
保険事業の地域別内訳(2023年)/うち 欧州の主要国別内訳
 
12 保険事業においては、収入保険料(gross premiums written)と手数料収入(fee and commission income)で構成されるため、ここでは「保険料等」としている。
13 生命・医療保険と損害保険の合計は、連結効果のため、グループ全体に一致していない。
14 AM Best社の「U.S. Life/Health-2023 Financial Results」による(以下の該当箇所においても同じ)。

(2) 地域別の業績-2022年との比較-
2022年との比較では、グループ全体の業績の概要は、以下の通りだった。

保険料等は、内部ベース(為替換算及び買収・売却の影響を除いたもの)(以下、同様)で8.0%増加した。これは主に、不動産損害保険事業セグメントにおいて、Allianz Partners、AGCS(Allianz Global Corporate & Specialty SE)、ドイツをはじめとする多くの事業体からのプラスの価格効果と数量効果による。また、生命・医療保険事業と資産管理事業においても、プラスの内部成長を記録した。

営業利益は、6.7%増加した。これは主に、生命・医療保険事業における米国事業の営業投資の成果が増加したことによる。損害保険事業も営業投資の成果が増加したことにより、堅調に推移した。一方、営業手数料等の減少や保険サービスの成果により相殺された。資産管理事業の営業利益は、主に為替換算の影響により若干減少した。

このうちの生命保険事業の業績の概要は、以下の通りだった。

・保険料等(生保)は、名目ベースでは3.5%増加したが、これには、不利な為替換算効果(13億78百万ユーロ)とマイナスの(非)連結効果(2億12百万ユーロ)の両方が含まれており、これらを除いたベースでは42億10百万ユーロ、5.6%増加した。生命保険では、一時払保険料の減収等により、0.7%減少の219億15百万ユーロだったが、医療保険では、保険料調整等により、4.0%増加の41億50百万ユーロだった。米国では、固定インデックス年金事業の増収により、22.2%増加して、183億8百万ユーロ(図表では183億10百万ユーロ)だった。イタリアでは、主に資本効率の高い保証商品や保障&医療商品の増加により、0.9%増加の112億29百万ユーロとなった。フランスでは、1.0%減少の71億67百万ユーロだった。アジア太平洋では、タイ、インドネシアを除いて、地域全体にわたって減少し、5.7%減少の58億72百万ユーロだった。これは主に、台湾において、規制変更に伴うユニットリンク市場の縮小により、無保証ユニットリンク等が3億80百万ユーロ減少したことと、中国において、貯蓄及び年金の減少により、2億54百万ユーロ減少したことによる。

・営業利益(生保)は、主にAllianz Lifeのヘッジ調整及び正常化により、23.1%増加の51億91百万ユーロと堅調に推移した。この主な要因は以下の通りである。

1) CSMのリリースについては、主に米国及び再保険事業において2022年に大量にリリースされていたこと、メキシコにおいて契約変更に伴い投資契約をIFRS第9号に再分類したことにより、減少した。一方、フランスでの保険及び医療商品のリプライシングによるリリースの増加、イタリアでの新契約の収益性向上と経済性の改善により、これが一部相殺された。

2) リスク調整のリリースは、主に前提条件の更新により減少した。

3) 保険給付と費用の差異は、主にフランスとアジア・太平洋地域で、保障と医療の保険給付実績が改善したことによる。

4) 不利な契約に係る損失及び戻入は、主として、前年におけるマイナスの影響(フランスのユニットリンク型及び保障契約の不採算、ウクライナ戦争に伴うロシアでの損失)がなくなったことに加えて、有利な金利による台湾貯蓄の影響、により改善した。

5) 非帰属費用(保険契約に直接帰属しない費用)は安定的に推移した。

6) 投資利益は、異常な低水準であった前期から大幅に増加した。米国では、変額年金のヘッジ効果が2022年にマイナスになっていたが、米国事業のヘッジ戦略がIFRS第4号からIFRS第17号に変更されたことにより、プラスに転じた。これは、フランスでの金利変動に伴う保障及び医療関連の割引の影響により一部相殺された。

7) その他の営業利益は、メキシコでの契約変更に伴い投資契約をIFRS第9号に再分類したことや、ルクセンブルグの本社売却に伴う一時的な利益を計上したこと等により、若干増加したが、これは、イタリアでの運用資産の減少に伴う投資契約の結果減少により一部相殺された。
保険事業の地域別内訳(2022年から2023年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2022年から2023年に向けての増加額と進展率)
新契約価値は、87百万ユーロ増加して、3,985百万ユーロとなった。フランスにおいて保証付貯蓄と年金のマージンが増加したことと、保障・医療保険におけるAllianz Reinsuranceでの大きな再保険契約のプラスの影響が、Germany Lifeにおける資本効率化商品における一時払保険料の減少で一部相殺された。

CSM残高は、375百万ユーロ、0.7%増加して、52,601百万ユーロとなった。CSMのリリースが4,967百万ユーロあったものの、新契約からの貢献が4,515百万ユーロ、保有契約収益が3,022百万ユーロあったことによる。なお、経済変動で500百万ユーロ、非経済変動(モデル・前提変更、経験変化等)で▲2,696百万の影響があった。

(3) 地域別展開に関する方針及びトピック
Allianzは、2023年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

2023年7月10日に、ミュンヘンの大手資産運用会社であるGlobal Gate Capital(GGC Group)へのレバノン事業の売却及び譲渡に関する取引を完了したと発表した。この取引により、Allianzグループのソルベンシー資本と現金ポジションは影響を受けない、としている。

2023年9月5日に、Allianzとアフリカ最大のノンバンク金融サービスプロバイダーであるSanlamは、汎アフリカ有数のノンバンク金融サービスを創設する合弁会社であるSanlam Allianzについて規制当局の承認を得たことを発表した。これにより、アフリカ27市場でアフリカ大陸の顧客の進化し続けるニーズを満たす革新的な保険及び金融のソリューションとサービスを提供できることになる、と述べた。

2023年9月28日に、中東での事業運営を合理化するためのグループ事業戦略の一環として、Allianz Saudi Fransiの株式51%をアブダビ国民保険会社(ADNIC)に売却する拘束力のある契約を締結したと発表した。なお、この取引は、2024年4月18日に、完了したと発表された。

2023年10月12日に、Allianz SpAが2億80百万ユーロの対価でAssicurazioni Generali S.p.A.からTua Assicurazioni S.p.A.を買収する、と発表した。これにより、イタリアの魅力的な損害保険部門で市場シェアが約1% ポイント増加する。Tua Assicurazioni S.p.A.の約500の代理店による販売能力の大幅な強化が図られる、としている。なお、この取引は、2024年3月1日に完了したと発表された。

2023年10月13日に、Allianz SE は、CPIC Fund Management Co.Ltd.の株式49%を国泰君安証券有限公司に売却することについて最終合意を締結した、と発表した。

なお、2024年に入ってからも、以下の資本取引等が公表されている。

2024年4月5日に、AGCSが、米国におけるFireman's Fund保険事業をArch Insurance North Americaに総取引額14億ドルで売却すると発表した。これにより、AGCSは、大企業及びスペシャリティ事業を通じて、戦略的に重要な米国の保険市場における競争上の優位性を引き続き活用していくと述べている。 

2024年4月18日に、Allianz GIが、CSRC(中国証券監督管理委員会)から、中国本土で完全外資系の公的資金管理会社(FMC)として運営する承認を取得したと発表した。 
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2023年決算数値等に基づく現状分析-のレポート Topへ