2024年03月12日

週20時間未満のパート労働者等を厚生年金の対象にするかも論点に~年金改革ウォッチ 2024年3月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会は、今年の春頃までに関係者へのヒアリングを実施し、今年の夏頃までに議論を取りまとめる方針を確認した。年金事業管理部会は、日本年金機構の2024~2028年度の中期計画と2024年度の計画の修正案を確認した。被用者保険の適用拡大に関する効果的な広報のためのアドバイザー会議では、企業へのヒアリング結果の報告と新たな広報コンテンツ案が提示され、今後の広報活動について議論された。企業年金・個人年金部会は、健全化法への対応方法(厚生年金基金の在り方)とこれまでの議論の中間整理について議論した。
 
○年金局 働き方の多様化を踏まえた被用者保険の適用の在り方に関する懇談会
2月13日(第1回) 座長の選出、働き方の多様化と被用者保険の適用の現状、今後の進め方
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_20240131_00002.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金事業管理部会
2月14日(第72回) 日本年金機構の第4期中期目標、第4期中期計画及び令和6年度計画の策定
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/kanribukai-siryo72_00001.html (資料)
 
○年金局 被用者保険の適用拡大に関する効果的な広報のためのアドバイザー会議
2月21日(第3回) 被用者保険の適用拡大に関する広報、その他
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000212815_00040.html (資料)
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
2月27日(第32回) 健全化法への対応、議論の中間整理
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_38068.html (資料)

2 ―― ポイント解説

2 ―― ポイント解説:短時間労働者への厚生年金の適用拡大の経緯と展望

次の制度改正に向けて、被用者保険の適用の在り方に関する懇談会が招集された。本稿では、短時間労働者(パート労働者)への厚生年金の適用拡大の経緯を確認し、今後の論点を展望する。
1|経緯:2016年から徐々に拡大中
短時間労働者への厚生年金の適用拡大は、2000年頃からの議論を経て、2016年から段階的に進められている。2020年改正では、対象企業の規模を正社員50人超まで拡大することが法定され、さらなる拡大の検討が法律の検討規定となっている。

適用拡大を巡っては年収の壁など専業主婦に関する論点が話題になるが、扶養の範囲を超えながらも家庭の事情などで短時間でしか働けず厚生年金に加入できない人々など、勤労者全体への拡大が重要な課題である。
図表1短時間労働者への厚生年金適用拡大の経緯と前回改正の素案
2|論点と展望:企業規模以外の拡大も視野に
第1の論点は対象企業の規模である。前回改正の素案ではこの要件の撤廃が最も小規模な拡大案だったが、結局は正社員50人以下の企業が対象外となった。次の改正ではこの要件の撤廃が焦点になるが、正社員51~100人の企業への拡大は未実施のため議論が進みにくい状況にある。懇談会で検討対象となる企業の声を聞きつつ、年金部会で今年10月の実施状況を見ながら結論を得る形になるだろう。

第2の論点は賃金である。2016年改正では労使合計の厚生年金保険料が当時の国民年金保険料を下回らないよう、基本給月額8.8万円以上が対象となった*1。この考え方は、かつては適用拡大の範囲を抑えたい企業側が主張していたが、経団連は昨年4月に中長期的には拡大が必要と提言している*2。いわゆる年収の壁への恒久的な対策も求められており、拡大に向けて議論が進む可能性がある。

第3の論点は勤務時間である。2016年改正では雇用保険を参考に週20時間以上を適用対象としたが、雇用保険では週10時間以上を対象とする改正案が今年2月に閣議決定された。過去には企業側が拡大に反対していた論点だが、経団連は昨年10月に中長期的には拡大が必要と提言しており*3、当懇談会でも雇用保険の改正動向を踏まえた検討を求めている。

第4の論点は公的医療保険との連動である。これまでの適用拡大は公的年金と公的医療保険が連動する形で行われたが、国のみが運営主体となっている公的年金とは異なり、公的医療保険では各運営主体(企業の健康保険組合など)の収支に影響が生じる。また、適用拡大によって公的年金では厚生年金(2階部分)の受給権を得るのに対し、公的医療保険では健康保険の傷病手当金と出産手当金(病欠中と産休中に給与の2/3相当を支給)を得られるのみでメリットが小さいという意見がある。そこで、同懇談会では複数の委員から公的医療保険との連動について再検討を促す意見が出た。

当懇談会と同様の会議は過去の改正案策定の際にも設けられたが、今回は企業側が従来よりも拡大に積極的な点が大きな違いである。人手不足の顕在化を受けて、中小企業でも適用拡大に対して今までより寛容な態度が見られる。本来は人手不足にかかわらず必要な施策ではあるが、機会を逃さずに議論が進むことを期待したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2024年03月12日「保険・年金フォーカス」)

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