2024年03月01日

NAIC(米国)やACPR(フランス)が2024年の監督・規制上の優先事項を公表

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1―はじめに

米国のNAIC(全米保険監督官協会)は、2024年2月13日に、2024年の規制上の優先事項を公表している1。また、フランスのACPR(健全性監督破綻処理機構)も2024年1月15日に監督上の優先事項を公表2している。

今回のレポートは、これらのNAICやACPRの2024年における監督・規制上の優先事項について、報告する。

2―NAICの2024年の規制上の優先事項

2―NAICの2024年の規制上の優先事項

NAICは、2024年2月13日に、2024 年の戦略的優先事項を発表した。

NAIC会長兼コネチカット州保険局長の Andrew N. Mais氏は、以下のように述べている。

「調整、協力、コラボレーションの基盤に構築された州ベースの保険規制システムは、これまで以上に相互接続された世界の共通の課題と責任を引き受け続けるための十分な仕組みを備えている。 NAICの2024 年の規制上の優先事項は、消費者、保険業界、市場に影響を与える最も差し迫った問題に対する革新的かつ効果的な解決策を追求するというNAICの取り組みを反映している。」

NAIC の2024年の規制上の優先事項は、アルファベット順で、以下の通りとなっている。

気候リスク/自然災害とレジリエンス
気候リスクの増大によってもたらされる脅威に取り組むには、緩和、消費者教育、緊密な連携が引き続き中心となる。NAIC が提案する保険のための国家気候レジリエンス戦略は、プロテクションギャップを測定及び評価するための包括的な NAIC 気候リスクダッシュボードの立ち上げを含む、統 合されたアプローチ、データ収集と利用、及びレジリエンス活動を規定している。NAIC はその活動の中で、新たなレジリエンスツールの作成、災害前軽減資金の提唱、州規制当局向けのシナリオ分析リソースの開発も目指す。

保険会社の財務監視と透明性
監視を強化し、進化する投資戦略に適応することを目的とした NAIC の「保険会社投資規制の枠組み」は、信用格付けプロバイダーへの盲目的な依存を減らし、NAIC の証券評価局の役割を近代化する。その他の戦略項目には、最新の経済シナリオジェネレーターの開発や、保険会社の仕組証券保有のキャッシュフロー評価の透明性と正確性を高めるための資産十分性テストフレームワーク(AG 53)の継続導入が含まれる。

保険商品のマーケティング
州の保険規制当局は、欺瞞的で誤解を招く保険マーケティングから消費者を守るために、多角的なアプローチを再び講じることになる。州保険規制当局は議会や連邦政府機関との連携に加え、各部門間の情報共有を強化し、消費者が保険会社のライセンスを確認できるNAIC.orgでホストされるツールを開発する予定で、追加情報は州保険セクターのウェブサイトで入手できる。他のステップには、健康保険のリードジェネレーター(見込み顧客開拓活動者)に対する規制権限を付与するためのNAICモデル法の修正が含まれる。消費者をさらに支援し、高齢者のプロテクションギャップを埋めるために、NAICは議会に対し、メディケア・アドバンテージ市場に対する州の規制権限を回復するよう引き続き求めている。

人種と保険、金融包摂、プロテクションギャップ
これらの相互に関連する多面的な問題は、消費者、保険規制、業界に影響を与えるため、個人、政治、公共政策の領域に及ぶ。これらの重要な分野のそれぞれを主導することに専念するNAICは、2024年も引き続き関連問題を特定し、プロテクションギャップの解消と金融包摂の拡大に焦点を当て、最新情報を入手し、法的又は規制の変更を推奨する予定である。

保険会社によるAIの使用とサイバーリスク
人工知能やその他のテクノロジーの急速な開発と使用は機会を生み出すが、消費者のプライバシー、サイバーリスク、キャリア(保険会社・グループ等)のニーズと能力、規制環境の複雑さに関する重要な疑問も生じる。NAIC のイノベーション・サイバーセキュリティ・テクノロジー(H)委員会は、NAIC をこの分野の最前線に位置付けている。2024年のNAICの議題には、教育と関与の機会の促進、保険会社による人工知能システムの使用に関するモデル速報の採用を監視及び支援する主要プロジェクトと取組みの主導、傾向の調査と監視、規制枠組みの提案などが含まれる。サードパーティのデータと予測モデルを監督し、 サイバーセキュリティイベント対応計画の開発を完了する。プライバシー保護(H)ワーキンググループを通じて、州の保険規制当局は、最新化及び強化されたプライバシー保護を通じて消費者の機密情報を保護する将来に焦点を当てている。

なお、NAIC メンバーは、戦略的な規制上の優先事項に加えて、引き続き重要なモデル法とモデル公報の採用を実施及び実行し、AM(集計法)の国際的な同等性を目指して取り組み、州連携戦略計画を通じて強化されたメンバー サービスと接続性に注力していく。

なお、2023年の規制上の優先事項としては、以下の項目が挙げられていた。
 

・気候リスク/自然災害とレジリエンス
・データ/人工知能、サイバーセキュリティ、及びイノベーション
・保険会社の財務監視と透明性
・長期介護保険(LTCI
・保険商品のマーケティング
人種と保険、金融包摂、プロテクションギャップ

また、2022年の規制上の優先事項としては、以下の項目が挙げられていた。
 

・「H」委員会によるサイバーセキュリティ、消費者データ/AI、イノベーション
・介護保険
・人種&保険
・気候リスク/自然災害とレジリエンス

従って、2024年は、基本的には2023年の項目を継続しているが、一方で過去2年間において掲げられていた「長期介護保険(LTCI)」の項目が無くなっている。

3―ACPRの2024年の監督上の優先事項

3―ACPRの2024年の監督上の優先事項

フランスのACPR(健全性監督破綻処理機構)は、2024年1月15日に、2024年の作業計画を公表した。2024年の作業計画は、ACPRとフランス銀行(Banque de France)が作成したフランス金融システムのリスクマッピングに基づいており、単一監督メカニズム(SSM)、単一破綻処理委員会(Conseil de résolution unique (CRU))3、欧州銀行監督局(EBA)及び欧州保険年金局(EIOPA)の管理の優先順位を統合したものである。

ACPR事務局長のNathalie Aufauvre氏によれば、ACPRのロードマップの優先事項の中には、より循環的な要素に加えて、サイバーや気候リスク管理など、金融セクターが経験している構造的な変化に関連する要素が含まれている。また、「ACPRの保険気候ストレステストの結果が今年公表されれば、気候変動リスクが保険会社の対応能力に与える影響について新たな尺度が提供され、リスクの保険性や再保険に関する疑問が提起されることになる」と述べている。

具体的な項目としては、監督カレッジ破綻処理カレッジについて、それぞれ以下の項目が挙げられている。各項目のうち、主として保険に関係する項目について、抜粋して報告する。

監督カレッジは、以下の4つの主要業務を定めて、採択している。
 
3 英語で「Single Resolution Board(SRB)」と呼ばれる。破綻銀行の秩序だった破綻処理を確保し、参加するEU 諸国及びその他の国の実体経済及び財政への影響を最小限に抑える役割を有している欧州銀行連合の破綻処理機関
1.マクロ経済・金融・地政学的リスクに直面する銀行・保険セクターの安全性と健全性の維持・強化
保険セクターでは、金利リスクと資産・負債のデュレーションギャップの管理を引き続き注意深く監視する。生命保険分野では、2023年に向けて支払われるリターンの変更、特に貯蓄者にとって魅力的なリターンを維持するために、近年積み立てられた利益配分引当金の段階的な再配分を検討する。ACPRは、2023年に抑制されている生命保険の解約の動向と、それが保険会社のソルベンシーと流動性に及ぼす影響を監視する。損害保険では、ACPRは、保険会社の収益性とともに、約定のモデル化においてインフレがどのように考慮されているかについても検討する。

(信用リスクに関係しては)保険セクターでは、経済情勢の影響を最も受けやすい組織、特に保証会社部門(信用保険、完成保証)、及び保険料の下落の影響を受ける可能性のある医療・年金保険部門に警戒が集中する。
2.構造的な脆弱性に対処し、新たなリスクや発展途上のリスクの特定、予防、監督に積極的に取り組む
(気候変動の取組に関しては)2024年には、保険会社を対象とした第2回気候ストレステストの実施の結果とこのガバナンスに関する作業が公表される予定である。ACPRの専門家は、気候変動と生物多様性に関する国際的な取り組みにも貢献する。

(業務プログラムでは、新技術に関連するリスクの監視を重要な優先事項として維持し)ACPRの専門家は、クラウド・コンピューティングとオープン・バンキング・サービスの外部プロバイダーの監督を規定するDORA(デジタル・オペレーショナル・レジリエンス法)規制を実施する。また、情報システムのデジタルトランスフォーメーションのコストとメリット、人工知能やブロックチェーンを利用したアプリケーションに関連するオペレーショナルリスクについても研究する。金融システムに対する攻撃が高度化し、その数も増加しているため、サイバーリスクと情報システムのセキュリティは引き続き注意深く監視される。

ACPRは、銀行セクターについてはバーゼルIIIへの移管、保険セクターについてはソルベンシーII指令及び保険・再保険会社の再建・破綻処理に関する指令の改正のための実施文書など、国際レベルで進行中の規制作業を引き続き監視する。
3.不祥事リスクの特定と是正、質の高い LCB-FT4システムの維持
顧客保護の分野では、ACPRは金融詐欺を防止し、係争中の支払取引の処理を改善するため、AMF(金融市場庁)及び公的機関と引き続き協力する。

グリーンウォッシングとの闘いの一環として、ACPRチームは、金融商品の販売にESG(環境、社会、ガバナンス)選好が含まれているか、広告に持続可能な主張が使用されているかを監視する。

ACPRは、銀行商品と保険商品の設計とマーケティングが顧客の利益を尊重することを保証する。生命保険と損害保険においては、顧客にとっての商品の経済的利益(バリュー・フォー・マネー)と、適用される手数料の水準に細心の注意を払う。
 
4 マネーロンダリング及びテロ資金供与との闘い
4.ACPR の近代化と効率化の継続及びフランス銀行の戦略的計画への貢献
ACPRは、その監督ツールの有効性を高め、将来の監督手法に備えるため、引き続きイノベーションを活用していく。データの質を向上させ、各チームによるデータの利用価値を高めることは、引き続き中心的な課題である。特に、気候変動リスク、顧客保護、サイバーセキュリティ、データサイエンス、市場リスク、カウンターパーティーリスクなど、様々な分野の人材を採用することによって、ACPRの魅力を維持することも、2024年の大きな課題となる。
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中村 亮一

研究・専門分野

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