2024年02月26日

ドイツの責任準備金評価用最高予定利率を巡る最近の動き-DAV(ドイツ・アクチュアリー会)が2025年からの0.25%から1.00%への引き上げを推奨-

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DAVプレスリリース
2023年11月30日 ケルン
DAVは新規契約の上限金利を2025年から1.0%に引き上げることを推奨
金利の大幅な上昇、現在の経済予測、インフレの進展を考慮して、DAVは、2025年からの新規生命保険契約の上限金利を1.0%とすることが適切であると考えている。これは、連邦財務省が設定する上限金利が1994年以来初めて引き上げられることを意味する。

DAV会長のMax Happacher博士は、「2021年と2022年には、いくつかの主要国では、供給ショックと拡張的な財政政策によりインフレ率が上昇した。主要中央銀行は昨年、大幅な金利引き上げでこれに対応した。」と説明する。これに伴い、債券市場の利回りが急激に上昇した。この傾向は 2023 年まで続き、金利はこの高水準で安定した。

近年、脱グローバル化や進行中の人口動態の傾向など、マクロ経済環境に永続的な影響を与える要因がいくつか観察されている。新型コロナウイルス感染症のパンデミック、エネルギー価格危機、あるいはほぼ2年続いているロシアのウクライナ侵略戦争などの外生ショックの増加が観察されていることから、インフレ圧力は少なくとも中期的には継続すると予想される。「これは、2021年までの期間と比較して、中長期的に金利の上昇に反映されるだろう。現時点では長期国債利回りもECBのインフレ目標である2.0%を上回る水準にとどまると考えられる。」とMax Happacher博士は述べている。

現在のモデル結果と経済見通しを考慮すると、新契約に対して提案されている最高予定利率は中期的には安定的に維持できると想定される。そこで、DAVは、最高予定利率を2025年から1.0%に引き上げることを推奨している。2016年から2021年までの予定利率の上限は0.9%だったが、2022年以降は当時の低金利水準の長期化の影響で0.25%となっている。

推奨最高予定利率の導出背景
様々な金利の動向を想定して、代表的な投資ポートフォリオから得られる平均収益が将来に予測された。平滑化の目的で、これらの収益の加重平均が5 年間にわたって計算された。「さらに、安全バッファーとして40%の割引が含まれている。1990 年代半ばから欧州の保険監督制度であるソルベンシーIIが導入されるまで、議会はこれを義務付けていた。」とMax Happacher博士は手順を説明する。この最高予定利率要件については、現在は削除されているが、DAV は引き続きこの安全マージンを分析に使用している。また、十分なレベルの安全性を確保するために、低金利局面であっても、安全性のヘアカットは常に少なくとも0.4%ポイントでなければならないことも決定された。

4―保険業界団体GDVの反応

4―保険業界団体GDVの反応

このDAVの推奨を受けて、ドイツの保険会社の業界団体であるGDV(ドイツ保険協会)は、DAVによる最高予定利率の引き上げの推奨について、適切なもので、歓迎すると述べている3

GDV マネージングディレクターのJörg Asmussen氏は「我々の見解では、推奨される利上げは金利の全般的な上昇に対する適切な対応である。これは生命保険商品の設計にプラスの影響を与え、消費者に利益をもたらすだろう。」と述べている。

また、「調整に関する決定は連邦財務省にある。この提案が受け入れられれば、最高予定利率は30年ぶりに引き上げられることになる。最高予定利率が調整されることで、保険会社は顧客に対し、より高い保証金利を提供できるようになり、保証される年金給付額も増加する可能性がある。さらに、予定利率の上昇は定期生命保険や就業不能保険の保険料にもプラスの影響を及ぼす。」としている。

5―まとめ

5―まとめ

以上、最近の金利上昇の影響を受ける形での、ドイツの責任準備金評価用の最高予定利率を巡る動きについて、報告してきた1

以前の保険年金フォーカスで述べたように、「監督ツールとしての最高予定利率については、当分の間(for the time being)、維持される。」が、「2018年の生命保険改革法のレビューの中で、監督手段としての最高予定利率の必要性等については検討されることになる。」となっていたが、2024年時点においても、引き続き最高予定利率が維持される形になっている。

今回のDAVの提案を受けて、今後BMF(財務省)がどのような動きを見せていくのかが注目されていくことになる。

また、仮に今回のDAVの推奨を受けて、BMFが1.0%への引き上げを決定した場合、伝統的な保険商品への回帰等、保険会社の商品戦略等にどのような影響を与えるのかについて、関心が及ぶところとなる。仮に1%という水準に引き上げられたとしても、他の金融商品との関係等で、この程度の水準が顧客の意識や行動に大きな影響を与えるのかについては疑問視している意見も多いようである。

今後も、金利の反転状況下での、ドイツの責任準備金制度を巡る動向やそれを受けての保険会社の対応等については眼を離せない。引き続き注視していくこととしたい。
 
1 日本においては、2024年4月1日契約から、米ドル建ての平準払の標準利率は2.25%から2.75%に、豪ドル建ての平準払の標準利率は2.25%から3.25%に引き上げられることになっている。また、米国においては、2025年から「保険期間が20年超」契約の評価利率が3.00%から3.50%に上昇することが想定されている。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2024年02月26日「保険・年金フォーカス」)

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