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2023年09月07日
ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2022年Annual Reportより(生命保険会社の監督及び業績等の状況)-
5―ソルベンシーIIによるSCR比率等の結果数値の概要
ここでは、ドイツの生命保険会社におけるソルベンシーIIに関する状況を報告する。
ソルベンシーIIの対象になっている79社のうち、2022年末のソルベンシー資本要件(SCR)を計算する目的で、69社が標準式を採用し、10社は(部分)内部モデルを使用した。いずれの生命保険会社も会社固有のパラメータを使用しなかった。これは2021年末と変わっていない。
79の生命保険会社のうち、51社が保険監督法第82条に従いボラティリティ調整(VA)を適用し、かつ保険監督法第352条に基づく技術的準備金の移行措置(TMTP)を適用した。この数値は2021年末の52社に比べて1社減少している。生命保険会社3社は技術的準備金の移行措置のみを適用し、14社はボラティリティ調整のみを使用した(2021年末は、それぞれ3社、11社であった)。1社は、保険監督法第351条に従って、リスクフリーレートの移行措置(TMFR)、即ち移行割引曲線を、ボラティリティ調整との組み合わせで適用した(2021年末は2社だった)。
結果として、66の生命保険会社がボラティリティ調整を適用し、54の生命保険会社が技術的準備金の移行措置(TMTR)を、1つの生命保険会社がリスクフリーレートの移行措置(TMFR)を適用した。
なお、技術的準備金の移行措置(TMTP)及びリスクフリーレートの移行措置(TMFR)からの資本利益については2032年までに消滅することから、これらの適用無しでのソルベンシー資本要件の充足も求められてくることになる。因みに、2021年末において、技術的準備金の移行措置(TMTP)及びリスクフリーレートの移行措置(TMFR)を適用しないとした場合には、5社のSCR比率が100%を下回ることになっていたが、金利の上昇により、全ての生命保険会社が2022年第二四半期と第三四半期に、2016年以来初めて移行措置を利用することなく、ソルベンシーIIの下でのソルベンシー資本要件を満たしていた。
79の生命保険会社のうち、51社が保険監督法第82条に従いボラティリティ調整(VA)を適用し、かつ保険監督法第352条に基づく技術的準備金の移行措置(TMTP)を適用した。この数値は2021年末の52社に比べて1社減少している。生命保険会社3社は技術的準備金の移行措置のみを適用し、14社はボラティリティ調整のみを使用した(2021年末は、それぞれ3社、11社であった)。1社は、保険監督法第351条に従って、リスクフリーレートの移行措置(TMFR)、即ち移行割引曲線を、ボラティリティ調整との組み合わせで適用した(2021年末は2社だった)。
結果として、66の生命保険会社がボラティリティ調整を適用し、54の生命保険会社が技術的準備金の移行措置(TMTR)を、1つの生命保険会社がリスクフリーレートの移行措置(TMFR)を適用した。
なお、技術的準備金の移行措置(TMTP)及びリスクフリーレートの移行措置(TMFR)からの資本利益については2032年までに消滅することから、これらの適用無しでのソルベンシー資本要件の充足も求められてくることになる。因みに、2021年末において、技術的準備金の移行措置(TMTP)及びリスクフリーレートの移行措置(TMFR)を適用しないとした場合には、5社のSCR比率が100%を下回ることになっていたが、金利の上昇により、全ての生命保険会社が2022年第二四半期と第三四半期に、2016年以来初めて移行措置を利用することなく、ソルベンシーIIの下でのソルベンシー資本要件を満たしていた。
3|裁量配当の動向
生命保険会社は、裁量配当を数年間にわたって引き下げてきたが、金利の上昇により、2023年に緩やかな引き上げを実施した。市場で利用可能な養老保険契約の現在の総リターン、すなわち保証予定利率と利差益配当率の合計は、2022年に業界全体で平均1.9%であり、2021年の2.0%から低下した。2023年には2.1%に上昇すると予想されている。
生命保険会社は、裁量配当を数年間にわたって引き下げてきたが、金利の上昇により、2023年に緩やかな引き上げを実施した。市場で利用可能な養老保険契約の現在の総リターン、すなわち保証予定利率と利差益配当率の合計は、2022年に業界全体で平均1.9%であり、2021年の2.0%から低下した。2023年には2.1%に上昇すると予想されている。
4|追加責任準備金(ZZR)の動向
金利上昇により、ZZRを算出する際の基準金利は、2022年末時点で1.57%と前年比で安定したため、セクターレベルでの追加積立は必要なかった。むしろ、保険ポートフォリオの変更と経過年数の進行により、2022年に約39億ユーロが取り崩され、2022年末のZZRの積立額は921億ユーロとなった。ZZRの取崩しは総利益を増加させ、保険契約者に利益をもたらすことになる。
金利上昇により、ZZRを算出する際の基準金利は、2022年末時点で1.57%と前年比で安定したため、セクターレベルでの追加積立は必要なかった。むしろ、保険ポートフォリオの変更と経過年数の進行により、2022年に約39億ユーロが取り崩され、2022年末のZZRの積立額は921億ユーロとなった。ZZRの取崩しは総利益を増加させ、保険契約者に利益をもたらすことになる。
6―まとめ
以上、今回のレポートでは、BaFinの2022年のAnnual Reportの「IV.保険会社及び年金基金の監督」等に基づいて、ドイツの生命保険会社の監督及び業績等の状況について報告してきた。
ドイツの生命保険会社は、長引く低金利環境下で、これまでZZRの積立や新契約の保証利率の引き下げ、さらには保障性商品や固定保証利率を有さない商品へのシフトを進めることにより、健全性維持のために着実な対応を進めてきた。ただし、2022年に入ってからの金利の急激な反転により、資産の含み損の発生や解約の増加懸念等の新たなリスクへの対応が求められる状況になってきている。金利の上昇は基本的には生命保険会社にとって望ましいものと考えられてはいるが、生命保険業界を巡る状況は、引き続き必ずしも楽観視できるものとはなっておらず、今後とも注意深く監視していく必要がある状況にある。
ドイツの生命保険会社を巡る状況に関しては、日本の生命保険業界関係者にとっても極めて関心の高い事項であることから、その監督や業績等を巡る動向については、今後とも引き続き注視していくこととしたい。
ドイツの生命保険会社は、長引く低金利環境下で、これまでZZRの積立や新契約の保証利率の引き下げ、さらには保障性商品や固定保証利率を有さない商品へのシフトを進めることにより、健全性維持のために着実な対応を進めてきた。ただし、2022年に入ってからの金利の急激な反転により、資産の含み損の発生や解約の増加懸念等の新たなリスクへの対応が求められる状況になってきている。金利の上昇は基本的には生命保険会社にとって望ましいものと考えられてはいるが、生命保険業界を巡る状況は、引き続き必ずしも楽観視できるものとはなっておらず、今後とも注意深く監視していく必要がある状況にある。
ドイツの生命保険会社を巡る状況に関しては、日本の生命保険業界関係者にとっても極めて関心の高い事項であることから、その監督や業績等を巡る動向については、今後とも引き続き注視していくこととしたい。
(2023年09月07日「保険・年金フォーカス」)
経歴
中村 亮一のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/07/18 | 曲線にはどんな種類があって、どう社会に役立っているのか(その7)-サイクロイド・トロコイド(その応用)- | 中村 亮一 | 研究員の眼 |
2024/07/04 | 欧州大手保険Gの内部モデルの適用状況について-2023年のSFCRからのリスクカテゴリ毎の標準式との差異説明の報告- | 中村 亮一 | 基礎研レポート |
2024/06/26 | 欧州保険会社が2023年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(2)-内部モデルの適用状況等- | 中村 亮一 | 保険・年金フォーカス |
2024/06/19 | 欧州保険会社が2023年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(1)-長期保証措置と移行措置の適用状況- | 中村 亮一 | 保険・年金フォーカス |
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