2023年08月08日

公的年金の配偶者手当が廃止?加給年金の見直しが論点に~年金改革ウォッチ 2023年8月号

保険研究部 上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任 中嶋 邦夫

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1 ―― 先月までの動き

企業年金・個人年金部会は、今年5~6月に実施したヒアリングにおける主な意見を確認し、今後の審議で取り上げる論点について意見交換した。年金部会は、遺族年金制度と加給年金制度について事務局から説明を受け、委員が意見を述べた。資金運用部会は、GPIFの2022年度業務実績について報告を受け、その評価について議論した。
 
○社会保障審議会 企業年金・個人年金部会
7月24日(第25回) ヒアリング等における主な意見、「経済財政運営と改革の基本方針2023」等
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_34284.html (資料)
 
○社会保障審議会 年金部会
7月28日(第6回) 遺族年金制度、加給年金制度
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/nenkin_230728.html (資料)
 
○社会保障審議会 資金運用部会
7月31日(第20回) GPIFの2022年度業務実績評価
 URL https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_shikinshiryo20.html (資料)

2 ―― ポイント解説:加給年金の経緯・課題・展望

2 ―― ポイント解説:加給年金の経緯・課題・展望

7月28日の年金部会では、公的年金における加算の1つである加給年金の見直しが取り上げられた。本稿では、加給年金について、経緯と課題を確認し、今後の方向性を展望する。
1|経緯:1954年改正で導入。1985年改正で65歳以後は基礎年金となり、64歳までの加算へ移行
加給年金は、老齢厚生年金や障害厚生年金の受給権が発生した際に、受給権者が扶養する配偶者や子がいる場合に受給できる加算である*1。制度としては性別による違いはないが、実態としては対象となる配偶者には女性が多い*2
図表1 1985年改正前後の老齢年金の構成のイメージ 1954年の制度改正で導入されたが、1985年の改正で配偶者の年金を確立させるために、従来の厚生年金の定額部分と加給年金が、夫婦2人分の基礎年金として再構成された(図表1)。
図表2 65歳前後における老齢年金の構成のイメージ その際、老齢基礎年金は65歳から受給できるため、配偶者分の加給年金は64歳までと変更された(図表2)。また、国会審議で、老齢厚生年金の配偶者分の加給年金を基礎年金満額の半額程度にするために、特別加算が追加された。
 
*1 障害厚生年金には子を対象とした加給年金はない(障害基礎年金には子を対象とした加算がある)。また、受給には複数の要件がある。例えば、配偶者や子は本人と同一生計で年収850万円未満。子は18歳到達の年度末(1級・2級の障害の状態にある場合は20歳到達)まで。配偶者は、加入20年分以上の老齢厚生年金を受給できないこと。本人は、老齢厚生年金の受給権者の場合は厚生年金に20年以上加入したこと、障害厚生年金の受給権者の場合は障害等級が1~2級であること。
*2 2023年7月8日の社会保障審議会年金部会の資料2 p.4によると、老齢厚生年金の配偶者加給の受給者95万人のうち男性(すなわち加給年金の対象である配偶者が女性の場合)が93万人、障害厚生年金の配偶者加給の受給者8.1万人のうち男性(すなわち加給年金の対象である配偶者が女性の場合)が6.2万人、を占める。なお、老齢厚生年金の子を対象とする加給年金の受給者は2.5万人である。
2|課題:社会の変化に伴う役割の低下や仕組みに対する不公平感
加給年金のうち、老齢厚生年金の受給権者に給付される配偶者分の加給年金に対しては、以前から複数の課題が指摘されている。

例えば、社会の変化との関連で、共働き世帯が増加しているために必要性が薄れているという指摘や、女性の活躍の推進や60代前半の就労の推進に逆行するという指摘がある。また、仕組みに対する不公平感として、厚生年金の加入期間によって受給の可否が分かれることや、夫婦の年齢によって累積受給額に違いが生じること、繰下げ受給を選んだ場合は待機中に受給できず待機後に年金額の割増の対象にならないことなどが、指摘されている。
3|展望:基礎年金拠出期間の延長とセットで、段階的に廃止か
社会全体としては共働きや60代前半の就労が進展しているものの、病気や家族の世話などで働けず扶養の対象となっている人々も存在するため、見直しには慎重な検討が必要だろう。

その一方で、次期改革に向けた検討事項として挙げられている基礎年金拠出期間の64歳までの延長と合わせて考えれば、「64歳までは拠出期間であり、老齢年金の給付は加算も含めて65歳以上が対象」と、わかりやすく整理することも可能であろう。制度の存廃や縮小に加えて、段階的に廃止・縮小する場合の経過措置などについて、今後の議論を注視したい。
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保険研究部   上席研究員・年金総合リサーチセンター 公的年金調査室長 兼任

中嶋 邦夫 (なかしま くにお)

研究・専門分野
公的年金財政、年金制度全般、家計貯蓄行動

経歴
  • 【職歴】
     1995年 日本生命保険相互会社入社
     2001年 日本経済研究センター(委託研究生)
     2002年 ニッセイ基礎研究所(現在に至る)
    (2007年 東洋大学大学院経済学研究科博士後期課程修了)

    【社外委員等】
     ・厚生労働省 年金局 年金調査員 (2010~2011年度)
     ・参議院 厚生労働委員会調査室 客員調査員 (2011~2012年度)
     ・厚生労働省 ねんきん定期便・ねんきんネット・年金通帳等に関する検討会 委員 (2011年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員 (2014年~)
     ・国家公務員共済組合連合会 資産運用委員会 委員 (2023年度~)

    【加入団体等】
     ・生活経済学会、日本財政学会、ほか
     ・博士(経済学)

(2023年08月08日「保険・年金フォーカス」)

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