2023年07月28日

中国経済の現状と今後の注目点-「家計・企業のマインド改善と自律的回復力」、「不動産関連の成長回復力」、「政府の景気対策の行方」の3点に注目

三尾 幸吉郎

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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2|不動産関連の成長回復力
第二の注目点は、これまでも指摘してきた不動産関連の成長回復力である。4-6月期の不動産市場は、依然停滞局面にある。図表-17は、住宅販売面積および住宅販売価格の前年比伸び率をそれぞれ横軸、縦軸にしてプロットしたものだ。コロナ対策の影響で歪な形状となっているが、過去の経験則に基づけば循環する傾向があり、足元では販売面積・販売価格のいずれもが前年比マイナス圏で足踏みをしている状況にある。

今後は、段階的に右下の局面(販売面積が前年比プラス・販売価格が前年比マイナス)から、右上の局面(販売面積、販売価格とも前年比プラス)へと移行していくことが予想される。ただ、家計の雇用・所得に対する先行き不安や、途上にあるデベロッパーの資金繰り改善など、販売の回復を抑制する要因は残存していることから、回復の歩みは緩やかなものとなりそうだ。また、昨年の販売不振により、建設中で未販売となっている住宅在庫はかつてないほどの水準まで積みあがっているとみられる(図表-18)。こうした中、足元で悪化が止まらない不動産開発投資も年内の底打ちは見込みづらいが、どのようなペースで回復していくか、引き続き注視が必要だ。
(図表-17)(図表-18)
3|政府の景気対策の行方
第三の注目点は、政府の景気対策の行方だ。これは、先の2つの注目点の先行きを左右し得るだけに、とりわけ注目に値する。これまでにみられた主な動きは図表-19の通りで、とくに7月に入ってから、個人消費や不動産市場、民営企業など、足元の景気改善を遅らせているボトルネックを意識した動きが目立つ。ただし、個人消費促進や不動産市場下支えに関する施策は、いずれも制度改善や地方政府ごとの対応などで構成されており、景気浮揚の効果は限定的とみられる。また、民営企業の支援を巡る動きに関しても、過去に公表された政策や発信されたメッセージに対して新味を欠く印象があり、それだけを以て民営企業のマインドが大きく改善することは期待しづらい。
(図表-19)2023年に入ってからの景気支援に関連する中国政府の主な動き
そうした中、今後どのような対策が講じられるかが焦点となる。中国国内では、振るわない経済情勢を受け、財政赤字を今年の目標であるGDP比3%から拡大させ、インフラ投資拡大や消費クーポン発行、企業減税強化等の景気対策を行うべきといった論調もみられるが、7月24日に開催された中央政治局会議の結果をみる限り、追加的な景気浮揚策を講じる考えはうかがえない。これまでの習政権下での経済運営における過度なバラマキや緩和には消極的なスタンスを今次局面でも踏襲し、あくまで従来の延長線上での対策を進める方針のようだ。

同会議の概要は図表-20の通りで、現在の経済情勢における課題が適切に認識されている。今後の財政・金融政策は、減税・コスト削減の延長・最適化や、インフラ向けの地方政府専項債券の発行加速・資金利用、預金準備率や政策金利の小幅な引き下げなど、これまでにとられてきた策の継続が中心となるだろう。ただ、想定を上回る外需の悪化など大きなネガティブサプライズがあれば、政府性金融機関によるファイナンス等を活用したインフラ投資上積みや追加金融緩和を行う用意はあるとみている。為替については「合理的で均衡のとれた水準で基本的な安定を維持する」とされ、過度な人民元安に対しては為替安定化ツールの活用も含めた対応がとられる見込みだ。

また、目下最大の懸案となっている不動産市場に関しては「我が国不動産市場の需給関係に重大な変化が起こったという新たな状況に適応し、適時に不動産政策を調整・最適化し、都市に応じた政策ツールを適切に用いる」との方針が示された。2016年12月以来継続して強調されてきた「不動産は住むためのもので投機するためのものではない」とのフレーズは用いられず、従来に比べ緩和する方向感が示唆された。今後、需要の弱い地方都市を中心に購入規制の緩和が進むと予想されるが、上述の不動産市場を巡る基本的な情勢を踏まえれば、規制緩和の効果は限定的とみられる。なお、実需を念頭に置いて不動産政策を進める基本姿勢に変化はないとみるべきだろう。

以上を踏まえ、経済は一進一退で緩慢な回復ペースを辿ると予想しているが、中国政府にとっては、今年の経済成長率目標(プラス5%前後)を睨みつつ綱渡りの経済運営となりそうだ。
(図表-20)中央政治局会議(2023年7月24日開催)における短期経済運営に関連する主なポイント
 
 

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三尾 幸吉郎

経済研究部

三浦 祐介 (みうら ゆうすけ)

(2023年07月28日「Weekly エコノミスト・レター」)

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