2023年07月28日

中国経済の現状と今後の注目点-「家計・企業のマインド改善と自律的回復力」、「不動産関連の成長回復力」、「政府の景気対策の行方」の3点に注目

三尾 幸吉郎

経済研究部 主任研究員 三浦 祐介

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1. 中国経済の概況

中国国家統計局が7月18日に公表した第2四半期(4-6月期)の経済成長率は実質で前年同期比6.3%増と、前期(1-3月期)の4.5%増から伸びが加速した。もっとも、これは前年の上海ロックダウンによる落ち込みの反動によるところが大きく、季節調整後の前期比では0.8%増(年率換算+3.2%)と、前期から減速している(図表-1)。昨年末のゼロコロナ政策の解除を受けた経済のリバウンドは持続せず、早々に一服した感がある。

不動産市場が引き続き弱含んでいるほか、高止まりしている若年労働者(16~24歳)の調査失業率に代表される雇用・所得環境への先行き不安等から財を中心に消費が振るわなかった。また、輸出も減速するなど、内需、外需ともに弱さが目立った。
(図表-1)GDP成長率/(図表-2)調査失業率
こうした最終需要の弱さを背景に、工業企業設備稼働率は依然低水準での推移が続いており、生産活動や設備投資の回復に勢いがつきづらい状態にある。また、第2四半期の消費者物価(CPI)は前年同期比0.1%、食品・エネルギーを除くコアコアで0.6%と、前期(それぞれ同1.3%、同0.8%)から低下している。サービスについては0.9%と、前期(0.8%)から伸びが高まったが小幅にとどまっている。なお、工業生産者出荷価格(PPI)も、前年同期比マイナス4.5%と、前期(マイナス1.6%)からマイナス幅が拡大した。昨年からの原油価格下落の影響を受けた鉱業を中心に幅広い業種で、マイナス幅が拡大、または伸び幅が縮小した。
(図表-3)設備稼働率/(図表-4)CPI-PPI

2. 需要の動向

2. 需要の動向

最終消費(個人消費+政府消費)は、第2四半期のGDP成長率に5.3%ポイントのプラス寄与となった(図表-5)が、個人消費は昨年末にゼロコロナ政策が解除された割に盛り上がりを欠いているのが実情だ。個人消費の代表指標である小売売上高の推移を見ると(図表-6)、前年比では上海ロックダウンの反動で年初から4月にかけて伸びが高まった後、昨年のベース効果のはく落もあり伸びが鈍化した。前期比でも3月以降低調な推移が続いている。
(図表-5)需要項目別Bの実質GDP成長率寄与度/(図表-6)小売売上高
総資本形成(=総固定資本形成+在庫変動、≒投資)は2.0%ポイントのプラス寄与だった(図表-5)。投資の代表指標である固定資産投資について、前年比伸び率の推移を見ると(図表-7)、堅調に推移している。ただ、業種別では、ハイテク分野をけん引役とする製造業投資やインフラ投資が不動産開発投資の減速を補い、所有形態別では、国有・国有支配企業の投資が民間企業の投資減速を補っている構図であり、不安定さが残る状態にある。

純輸出はマイナス1.1%ポイントと、前期からマイナス寄与が拡大した(図表-5)。輸出入の推移を見ると(図表-8)、足元では輸入価格の下落等により輸入の減速が続いているが、輸出の落ち込みがその程度を上回った。日米欧向けの輸出は昨年後半来マイナスの伸びが続いてきたが、足元ではそれまで高水準の伸びを続けていたASEAN向けの輸出がマイナスに転じた。
(図表-7)固定資産投資/(図表-8)輸出入(ドル建て)

3. 産業の動向

3. 産業の動向

第2四半期の産業動向を概観すると(図表-9、10)、第1次産業は前年同期比3.7%増と前期(同3.7%増)から横ばいであった。第2次産業は前年同期比5.2%増で前期(同3.4%増)から加速した。さらにその内訳をみると、「製造業」、「建築業」は、それぞれ同4.9%増、同8.2%増と前期(同2.8%増、同6.7%増)からいずれも伸びが高まった。

第3次産業は前年同期比7.4%増と、GDP成長率を最も押し上げる主因となった。その内訳を見ると、「宿泊飲食業」は同17.5%増と、コロナ禍で落ち込んだ昨年から伸びが高まっている。「情報通信・ソフトウェア・IT」も同14.6%増と前期(同11.2%増)から伸びを高めた。2020年末から続いたIT産業に対する是正措置で成長ペースが鈍っていたが、足元では再び勢いがつきつつある。一方、第3次産業の中で唯一「不動産業」だけは同マイナス1.2%とマイナス成長となった。昨年第4四半期まで6四半期連続で続いたマイナス成長の幅に比べれば小幅ではあるが、依然安定を欠く状況にあることがうかがえる。
(図表-9)産業別の実質成長率(前年同期比)/(図表10)GDP産業構成(2022年)
なお、関連する月次指標の推移を見ると(図表-11、12)、工業生産は年初来緩やかながら回復基調にある。他方、サービス業生産は昨年の反動で年初から5月にかけて高い伸びをみせた後、その影響がはく落した6月には伸びが低下している。
(図表-11)工業生産/(図表12)サービス業生産

4. 今後の注目点

4. 今後の注目点

1|家計・企業のマインド改善と自律的回復力
今後の経済情勢をみるうえでの第一の注目点は、家計・企業のマインド改善と自律的回復力である。家計に関しては、2023年に入ってから2四半期連続で1人当たり家計消費支出の伸びが可処分所得の伸びを上回る(図表-13)など、消費改善の兆しもみられる。ただ、その傾向が持続するかは、まだ予断を許さない。消費の約8割を占める都市部(城鎮)の預金者2万世帯に対して中国人民銀行が四半期に一度実施しているアンケート調査では、所得や雇用の先行きに対する見通しが前期から悪化しており(図表-14)、再び消費が抑制される可能性がある。
(図表-13)1人当たり家計可処分所得・消費支出/(図表-14)人民銀行預金者アンケート(所得・雇用先行きDI)
雇用・所得の先行き不安には、雇用の約8割を占めるとされる民営企業をはじめとする企業の業績不振(図表-15)やマインドも影響しているだろう。ふるわない財消費や不動産市場の低迷、不安定な外需などから、製造業では在庫調整が続いており(図表-16)、実需の回復が待たれる状態にある。また、ITや教育などサービス業では、2020年末から相次いだ統制強化の動きを背景に、政策面での不確実性が依然意識されていると思われ、先行きに対する姿勢は慎重とみられる。企業活動の活発化→雇用所得環境の改善→家計消費の活性化→企業活動の活発化と、経済が自律的回復力を確りと取り戻すことができるかが、今年の下半期から来年にかけてのポイントとなるだろう。
(図表-15)工業企業利益/(図表-16)生産在庫バランス
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三尾 幸吉郎

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