2023年07月06日

火災保険料率の引き上げに向けた動き-自然災害、特に水災の増加を受けた、参考純率の引上げと細分化

保険研究部 主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任 安井 義浩

文字サイズ

1――はじめに

自然災害による保険金支払いの増加を受けて、また火災保険料が引き上げられる見通しである1

損害保険料率算出機構が「参考純率」を全国平均で1割程度引上げ、6月28日に金融庁に認められた。これをもとに、各社が具体的な保険料を検討し、2024年度中には実際に引上げられる見通しである。特に水災による保険料はこれまで全国一律であったが、水準の引上げに加えて市区町村別に5段階に細分化される。
 
1 火災保険参考純率改定のご案内(損害保険料率算出機構 2023.6.28)
 https://www.giroj.or.jp/news/2023/20230628_1.html

2――参考純率と保険料の改定

2――参考純率と保険料の改定

始めに、損害保険における、保険料の決まり方について復習しておく。

一般に保険料は、事故発生の際保険会社が支払う保険金に充てられる部分である「純保険料率」と会社の事業に必要な経費である「付加保険料率」とで構成されている。このうち純保険料部分に関して、損害保険料率算出機構が「参考純率」を算出する。これは、損害保険料率算出機構が、会員会社から報告を受けた契約や保険金支払いに関するデータを保有し、分析することにより算出される。

本来は、個々の会社が、それぞれ実績データと統計に基づいて保険料を算出してもいいはずだが、ほぼ全ての損害保険会社のデータが集まることから、データの信頼性あるいは安定性が高まっている。分析には合理的な保険数理的手法が用いられ、自然災害に関しては将来シミュレーションも行われている。

作成された参考純率は、金融庁に届出が行われ、適合性審査(「合理的であること」「妥当であること」「不当に差別的でないこと」)を受けることで、正式に決定される。(ここまでが今般のできごと)

さてそのあと、会員保険会社は、この参考純率をそのまま使用することもできるし、自社の保険商品に合わせて修正して使用することもできる。さらに各社で算出した付加保険料を加えたものが、契約者に対する保険料率となる。

逆に参考純率の使用義務はなく、各社が独自に料率を算出してもよいが、各社の保険商品に参考純率を使用している場合は、その部分は、先に述べた適合性については問題がない前提で金融庁の商品審査が進められる(ので、説明の手間が省ける。)

また参考純率は毎年検証され、必要と判断された場合は改定される。
 
火災保険の参考純率の改定は、最近では以下のようなものである。

2014年(平均+ 3.5%引上げ 適用期間を10年に短縮)
2018年(平均+ 5.5%引上げ)
2019年(平均+ 4.9%引上げ)
2021年(平均+10.9%引上げ 適用期間を5年に短縮)

と、主に自然災害リスクの高まりを受けて、何回か続けて引上げが行なわれてきている。

3――火災保険の参考純率の改定

3――火災保険の参考純率の改定

1水災保険について
さて今回は「水災保険料率」が主役であるので、少し説明しておく。

水災あるいはそれを補償する水災保険とは、

・豪雨などで河川の水があふれ出る「外水氾濫」、
・下水道の処理能力を超える降雨により生じる「内水氾濫」
・土砂災害

などによる浸水や破損といった建物被害を補償する保険である。一般に火災保険と呼ばれるものは、火災だけではなく水災、風雪災なども含まれていることが多い。
2参考純率改定の背景
(参考純率引き上げについて)
近年、大きな規模の台風等による自然災害が毎年のように発生している。

また、住宅の老朽化や修理費の高騰が、火災保険金の支払いを増加させる一つの要因ともなっている。

また、リスク評価の手法についても実態に合わせて見直しを行っている。例えば台風をとってみると、これまでは過去のデータを同等に用いてリスク評価をしていたが、近年の研究により、気候変動の影響が従前とは変化しているのではないかという示唆から、近年の台風を特に重視する手法に変更された。(このことは料率が引上がる方向に働く。)
 
(リスクの細分化について)
火災保険の参考純率の一部である水災料率は、これまで全国一律としていた。しかし洪水や土砂崩れなどの水災による損害が増加している中では、以下のような観点から料率体系そのものの見直しが必要とされた。

・住宅のある場所による水災リスクの違いを反映して保険料負担の公平性を確保する。これまでは高台でも川沿いでも、それによって保険料の差がつくことはなかったが、そうしたことをできる限り反映する。

・今では地域毎のハザードマップの充実などにより、水災リスクを契約者自身で判断できる情報も多くなってきた。この場合、リスクの低い契約者は水災補償部分をはずす傾向が多くみられるとのことである。すると、水災リスクの高い人(住宅)だけが必要性を感じて契約を続けるが、そのままでは、リスクの低い人も含めて算出した安い保険料で引き受けることになる。それでは収支上問題がある。

そうしたことを考慮して、リスクに応じて細分化された保険料設定をすることで、公平化を図るということである。今回実際の細分化は、市町村単位で行なわれている。(高台か川沿いかなどというと、同じ市町村の中でも異なるはずだが、そうしたさらなる細分化は将来の課題だろう。)
3改定の内容
火災保険(住宅総合保険)の参考純率は全国平均で13.0%引き上げられることになった。

うち水災については、市町村単位で、リスク別に5段階に細分化された2

その結果、引き上げ幅の大きなところでは、+30%以上になるところもある。また、リスク細分化により最大1.5倍程度の地域格差が生じることになった。

従来、建物の種類(鉄筋コンクリート、準耐火構造、木造、など)により参考純率は異なっているが、例えば東京都(平均)の鉄筋コンクリートの建物でいうと、これまで通りの一律水準だとまずは約10%の引き上げとなるところ、細分化により4%~20%にバラついた引上げとなるようである。 

なお、最終的には使用義務がなく、各社の保険料率とも異なることから、参考純率そのものについては、公表されていない。(地域別、建物別にいくつか改定の例が挙げられている。)
 
2 各市町村の具体的な等地は以下で検索できる。
 水災等地検索(損害保険料率算出機構HP) https://www.giroj.or.jp/ratemaking/fire/touchi/

4――実際の保険料改定は来年度?

4――実際の保険料改定は来年度?

さて、この参考純率を各社が参考にして、自社の保険に合わせた調整を行い、必要経費を上乗せして最終的な保険料ができ上がる。これには各社の検討やシステム対応も必要となるので、もう少しあとの話となり、今回でいえば2024年度中からではないかと予想されている。

今回は火災保険の参考純率の改定であったが、参考純率はおもに火災保険、自動車保険、傷害保険について算出されている。なお、地震保険や自賠責保険の保険料率も損害保険料率算出機構において算出されているが、これらは(参考純率とは呼ばず)「基準料率」と呼ばれている。届出等の手続きはほぼ同様である。
Xでシェアする Facebookでシェアする

保険研究部   主任研究員 年金総合リサーチセンター・気候変動リサーチセンター兼任

安井 義浩 (やすい よしひろ)

研究・専門分野
保険会計・計理、共済計理人・コンサルティング業務

経歴
  • 【職歴】
     1987年 日本生命保険相互会社入社
     ・主計部、財務企画部、調査部、ニッセイ同和損害保険(現 あいおいニッセイ同和損害保険)(2007年‐2010年)を経て
     2012年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     ・日本アクチュアリー会 正会員
     ・日本証券アナリスト協会 検定会員

(2023年07月06日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【火災保険料率の引き上げに向けた動き-自然災害、特に水災の増加を受けた、参考純率の引上げと細分化】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

火災保険料率の引き上げに向けた動き-自然災害、特に水災の増加を受けた、参考純率の引上げと細分化のレポート Topへ