2023年06月07日

「新築マンション価格指数」でみる東京23区のマンション市場動向-良好な需給環境と低金利を背景に、東京23区の新築マンション価格は過去10年間で+69%上昇

基礎研REPORT(冊子版)6月号[vol.315]

金融研究部 主任研究員 吉田 資

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1―はじめに

総務省「国勢調査」によれば、東京23区の分譲マンションに居住する世帯*1は、2005年から2020年の15年間で1.5倍(約70万世帯→ 約103万世帯)に増加し、総世帯数に占める割合は約17%から約20%に増加した。また、不動産経済研究所によれば、2022年に東京23区で販売された新築分譲マンションの平均価格は8,236万円となり*2、2005年と比べて+67%上昇した。分譲マンションで暮らす人々が増加し、価格が大きく上昇するなか、マンション市場への人々の関心は高まっている。そこで、本稿では、新築マンションの販売データを用いて、「新築マンション価格指数」を作成し、東京23区の新築マンション市場の動向を概観する。
 
*1 「持家」かつ「3階建て以上の共同住宅」に居住する世帯
*2 2023年3月の平均価格は、「三田ガーデンヒルズ」(平均価格約4億円台)と「ワールドタワーレジデンス」(平均価格約2.5億円)が押し上げ、過去最高の1億4360万円となった。

2―新築マンション市場を取り巻く需給環境

1│新規供給戸数の動向
不動産経済研究所によれば、首都圏の新築分譲マンションの新規供給戸数は、2005年の8.4万戸から2022年の2.9万戸へ約1/3の水準に大幅減少した。同様に、2022年の東京23区の新規供給戸数は1万797戸(2005年対比▲65%減少)となり、2005年以降で最も低い水準にとどまった。各マンションデベロッパーは市場環境をみながら慎重な供給姿勢を維持している。
2│建築コストの動向
建設物価調査会「建築費指数」によれば、東京の集合住宅(RC造)(2022年)の建築費は、「133.8」(前年比+8%)となり2005年対比で+35%上昇した。

国土交通省「建設労働需給調査」によれば、建設業の労働需給を示す「建設技能労働者過不足率」は、2011年以降、一貫してプラス(人手不足)で推移している。

「建設業」の就業者は他の産業と比較して若年層の割合が少なく高齢化が進行している。構造的な人手不足を背景に建築コストの上昇が続いており、新築マンションの供給戸数を押し下げる要因の1つとなっている。
3│開発用地の動向
土地総合研究所「不動産業業況等調査」によれば、「住宅・宅地分譲業」の「用地取得件数」の動向指数は、2013年以降マイナス(取得件数減少)で推移している。デベロッパーの開発用地の取得は低調な状況にある。

マンション開発適地がもともと限定的である東京23区ではマンション用地価格が高止まりするなか、今後も供給戸数が増えにくい状況が続くと考えられる。
4│望まれる住宅形態
国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査」によれば、東京圏在住者を対象に「今後望ましい住宅形態」を質問したところ、一貫して「一戸建て」が最も多く、次いで「戸建て・マンションどちらでもよい」、「マンション」の順となっている[図表1]。ただし、「一戸建て」の比率が減少傾向(2006年79%⇒2021年48%)にあるのに対して、「戸建て・マンションどちらでもよい」(10%⇒24%)及び「マンション」(13%⇒22%)の比率が増加している。東京圏では、依然として「一戸建て」を望む人が約半数を占めるものの、都心部を中心に「マンション」居住を志向する人が増加しているようだ。
[図表1]今後望ましい住宅形態(東京圏)
5│人口移動の動向
総務省「住民基本台帳人口移動報告」によれば、東京23 区の転入者数は、2012年以降、増加傾向で推移していたが、コロナ禍を経て、減少に転じた。しかし、2022年はプラスに転じ前年比+3.7%の34.7万人となった[図表2]。

一方、転出者数は、長らく30万人近辺で推移していたが、2020年以降増加に転じ、2022年は前年比+4.5%の約32.8万人となった。

この結果、「転入超過数」は2012年以降増加傾向にあり、2019年は+7.0万人の「転入超過」であったが、コロナ禍以降、「転入超過数」は大幅に減少し、2022年は+1.9万人とコロナ禍前の1/3の水準に留まっている。
[図表2]転入者数および転出者数(日本人・東京23区)
6│新築マンション購入層の動向 
リクルート住まいカンパニー「首都圏新築マンション契約者動向調査」によれば、首都圏における新築マンション購入者の世帯構成は、「夫婦のみの世帯」が最も多く、次いで「子供あり(第1子小学校入学前)世帯」となっている。

総務省「国勢調査」によれば、2020年の東京23区の「夫婦のみの世帯」は80.4万世帯で2005年対比+19%増加した。また、「夫婦と子供から成る世帯(6歳未満の子供あり)」も2020年に32.3万世帯となり2005年対比+27%増加した。これらの「夫婦世帯」と「夫婦と子供の世帯」の増加が、東京23区における新築マンションの需要を支えていると考えられる。
7│住宅ローンの動向
長期固定金利住宅ローンである「フラット35」の金利は、2005年から2008年にかけて2%前半から3%台へ上昇した後、低下に転じ、2016年には1%を下回る水準まで低下した。その後も概ね1%台前半で推移していたが、2022年に入りやや上昇している。

住宅金融支援機構「住宅ローン利用予定者調査」によれば、「今(今後1年程度)は、住宅取得の買い時だと思うか」という質問に対して、「買い時だと思う」との回答が「買い時とは思わない」との回答を、2021年10月調査まで上回る状況が続いていた。また、「買い時だと思う理由」として、「住宅ローン金利が低水準だから」との回答が最多を占める。このように、長期にわたる低金利がマンション購入資金の負担を軽減し、マンション購入を後押してきたことが確認できる。

3―「新築マンション価格指数」の作成

東京23区の新築マンションの販売データ(2005年~2022年)を用いて、品質調整をした「新築マンション価格指数」と、サブインデックスとなる「エリア別価格指数」と「タワーマンション価格指数」を算出した[図表3]。
[図表3]新築マンション価格指数(2005年=100、年次)(東京23区、都心、南西部、北部、東部、タワーマンション)
2005年以降の価格動向をみると、次の3つのフェーズに分類することができる。1つ目は、「2005年~2008年:リーマンショック前までの価格上昇局面(不動産ファンドバブル期)」、2つ目は「2009年~2012年:リーマンショック後の価格下落局面(東日本大震災を含む)」、3つ目は「2013年~2022年:アベノミクス以降の価格上昇局面」である。直近2022年の価格指数(2005年=100)は「192.4」となり、アベノミクスがスタートして以降の過去10年間で+69%上昇した。

エリア別にみると、都心が「213.9」、南西部が「186.6」、東部が「179.0」、北部が「174.3」となり、都心のみ、東京23区(192.4)を上回る結果となった。また、「タワーマンション価格指数」は「220.6」となり、東京23 区を上回った。

人手不足に伴う建築コストの上昇やマンション用地価格の高止まりを背景に、マンションデベロッパーが慎重な供給姿勢を維持するなか、新築マンションの新規供給は長期的に減少傾向にある。一方、マンション居住の希望が高まり、主なマンション購入層である「夫婦のみの世帯」と「未就学児がいる夫婦世帯」の増加が続くなか、低金利環境がマンション購入を後押している。この結果、東京23区の新築マンション市場は良好な需給環境が継続しており、リーマンショック後の価格下落局面(2009年~2012年)を除いて、長期にわたり価格上昇が続いている。

ただし、足元の人口流入の鈍化や住宅ローン金利上昇が今後も継続すると、価格上昇を支えた良好な需給環境が悪化に転じる可能性がある。引き続き、価格動向や需給環境を中心に、新築マンション市場を注視する必要がありそうだ。
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金融研究部   主任研究員

吉田 資 (よしだ たすく)

研究・専門分野
不動産市場、投資分析

経歴
  • 【職歴】
     2007年 住信基礎研究所(現 三井住友トラスト基礎研究所)
     2018年 ニッセイ基礎研究所

    【加入団体等】
     一般社団法人不動産証券化協会資格教育小委員会分科会委員(2020年度~)

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