2023年05月09日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2022年決算数値等に基づく現状分析-

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6|Zurich
Zurichは、世界の200以上の国と地域で、生命保険や損害保険等のサービスを提供している。

Zurich は、事業ポートフォリオの見直しを適宜行っており、非中核事業の撤退を通じて資本を解放する一方で、成長が見込める市場において、買収等に再投資してきている。

(1)地域別の業績-2022年の結果-
欧州では、自国のスイス以外に、ドイツから高い営業利益を上げている他、英国、アイルランド、スペイン、イタリアからの営業利益も有意な水準となっている。ただし、こうした欧州各国からの構成比は全体の62%であり、残りの38%を北米10、中南米、アジア・太平洋が占めている。

他社との比較では、アルゼンチン、ブラジル、チリ、メキシコ等の中南米の位置付けが高くなっているのが特徴的で、営業利益で20%を占めている。Banco Santanderとの提携によるZurich Santanderにおける販売等が貢献している。また、オーストラリア、香港、インドネシア、日本、マレーシア等のアジア・太平洋のシェアも保険料、営業利益において2割程度と高い水準になっている。
生命保険事業(Global Life)の地域別内訳(2022年)/うち 欧州の主要国別内訳
 
10 Zurichの米国子会社グループは、他の米国事業を有する会社の米国子会社グループのような大きな規模を有していない。


(2)地域別の業績-2021年との比較-
Zurichの決算数値は米ドル建で報告されているため、2021年との比較を見る上では、2022年の米ドルの主要通貨に対する状況を考慮しておく必要がある。Zurichは通貨変動が各種指標に与える影響を開示している。

営業利益については、以下の通り。

・全体では、不利な外国為替と市場の動きの影響があったものの、堅調な基本業績、経営行動及びCOVID-19 の請求経験の改善による影響が上回って、前年同期より8%増加した。

・欧州・中東・アフリカ(EMEA)では、2021年の7,600 万米ドルに達した COVID-19 の請求の影響が無くなったことで1%増加したが、一方でCOVID-19 の請求とイタリアの生命保険バックブックの売却の影響分を調整すると、1%の減少となった。現地通貨での成長が通貨の不利な動きによって相殺された。この結果は、経営行動による好影響によって相殺された以上の、主に繰延新契約費の加速償却に関連した不利な市場の動きの影響も反映している。

・Farmers Lifeを除く北米では、不利な仮定の更新により、1,200 万米ドル減少した。

・中南米では、投資収益の増加、収益性の高い成長及びCOVID-19の請求の減少(2021年の1億1,500 万米ドルから 2022 年の1,000万米ドルへ)により、75%増加した。

・アジア太平洋地域では、主に日本での入院給付に起因する4,600万米ドルのCOVID-19 保険金等請求の影響で5%減少(COVID-19 保険金等請求を調整すると、営業利益は7%増加)した。仮定の更新、準備金のリリース及び基礎となる成長の有利な影響は、通貨の不利な動きによって部分的に相殺された。

なお、新契約価値は、全体で21%減少した。
生命保険事業(Global Life)の地域別内訳(2021年から2022年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2021年から2022年に向けての増加額と進展率)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Zurichは、2022年に入ってからこれまでに、以下の地域別事業展開の見直し等を公表してきている。

2022年1月3日に、イタリアの伝統的な保険とユニットリンク保険の両方で構成される生命保険と年金のバックブックをポルトガルの保険会社Gama Lifeに売却することを発表した。これにより、グループの信用リスクへのエクスポジャーの大幅な削減を図ることができ、約12億米ドルの資本を解放し、グループのSST比率は11%ポイント増加する、と述べた。

2022年5月20日に、ロシアでの事業をユニットのチームの 11 人のメンバーに売却することに合意した、と発表した。新しい所有者の下で、ビジネスは別のブランドの下で独立して運営され、Zurichはもはやロシアでの事業運営を行わない。この取引により、新会社は保険の専門知識を蓄積した専門チームを保持し、ロシア市場へのサービスを継続することができる。なお、ジョイントストックカンパニーZurich Russiaの売却は、関連する規制当局の承認が必要となる。なお、Zurich Russiaは損害保険会社で、ロシアの損害保険市場の約 0.3%を占めている。2021年の総収入保険料は、国内顧客からの300万ドルを含め、約3,400万ドルだった。

2022年6月24日に、ドイツの生命保険ポートフォリオ管理の大手スペシャリストである Viridium Holding AGに、ドイツの伝統的な生命保険バックブックを売却することに合意した、と発表した。これは、資本集約度と金利へのエクスポジャーをさらに削減するための売却であり、金利に対する感応度の低下により、ボラティリティから保護するために必要な資本が削減される。この取引により、SST比率は8%ポイント増加する、と想定されている。なお、この売却は規制当局の承認を条件とし、顧客及び販売パートナーに対する契約上の義務を変更するものではない。

2022年12月1日に、イタリアの子会社のZurich Investments Life S.p.A.が、ポルトガルの保険会社 Gama Life(Companhia de Seguros de Vida)に、伝統的な保険とユニットリンク保険の両方で構成される生命保険と年金のバックブックの売却を完了したことを発表した。
 
 
7|(参考)Prudential
以前のPrudential plcは、2019年10月に、アジアと米国における保険事業を展開するPrudential plc11と欧州における保険事業と投資管理事業を展開するM&G pl12に分割された。さらに、Prudential plcは、2021年1月に、2021年第2四半期に米国事業であるJackson Financial Inc.13をグループから分離することを決定した、と公表し、2021年9月20日に分離を完了したと発表した(なお、Jackson National Groupは、2022年末の認容資産で、米国の生命保険・健康保険グループで第9位(2021年末は第8位)となっている)。

現在のPrudential plcは、高成長のアジアとアフリカを中心に23の市場で、生命保険と健康保険及び資産管理事業を提供する会社となっている。アフリカでは8カ国(カメルーン、コートジボワール、ガーナ、ケニア、トーゴ、ウガンダ、ザンビア、ナイジェリア)で事業展開している。なお、M&G plcは英国と欧州を中心とした28の市場で保険事業と投資管理事業を展開している。

(1)地域別の業績-2022年の結果-
アジア・アフリカの事業の中では、香港の位置付けが最も高く、シンガポールがこれに次いでいる。その他に、中国、インドネシア、マレーシアの位置付けが高くなっている。
生命保険事業(Long-Term Business Operation)等の地域別内訳(2022年)/うち アジアの主要国別内訳(2022年)
 
11 分離後のPrudential plcは、英国に本社を置き、ロンドン証券取引所でpremium listingされ、香港でprimary listingされ、ニューヨークとシンガポールに上場している会社となる。また、英国又は欧州の顧客を持たないため、ソルベンシーII制度の対象外となる。
12 M&G plc は持株会社であり、その子会社の一部は、適宜、PRA(健全性規制機構)及びFCA(金融行為監督機構)によって規制されている。M&G plcはPrudential Assurance Company Limitedの親会社である。
13 Jackson Financial Inc。(JFI)は、米国の持株会社で、Jackson Holdings LLC(JHLLC)の直接の親会社となる。JHLLCの間接的な完全所有子会社に、Jackson National Life Insurance Company及びPPMAmerica.Incが含まれる。


(2)地域別の業績-2021年との比較-
調整済み営業利益は、一定為替レートベースで 8%(実際の為替レートベースでは 4%)増加して33億7,500 万ドルになった。これは、保険及び資産運用事業からの一定為替レートベースでの調整済み営業利益の6%(実際の為替レートベースでの 2%)の増加と、一定為替レートベースで、中心的なその他の収入と支出の 26%(実際の為替レートベースでの28%)の改善を反映している。これらは、リストラ及びIFRS第17号経費の増加によって相殺された。

アジア・アフリカの事業について、2021年との比較では、インドネシアを除くと、各地域の営業利益は進展している。ただし、2021年のインドネシアの業績は概ね2桁のマイナス進展となっている。
生命保険事業(Long-Term Business Operation)等の地域別内訳/うち アジアの主要国別内訳(2022年)(2021年から2022年に向けての増加額と進展率)
なお、アジア各国の営業利益の推移及び各国・地域における市場ランキングは、以下の図表の通りとなっている。
営業利益の地域別内訳(アジアの主要国)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Prudential plcは、2022年以降に、Jackson Financial Inc.の分離に加えて、以下の地域別展開の見直し等を行ってきている。

・2022年4月5日に、インドネシアでグローバル保険会社として初めて、シャリア生命保険事業を行うPrudential Syariahを設立すると発表した。

・2022年4月26日に、シンガポールに本拠を置くデジタルヘルス企業のNervotecと提携し、人々が日常的に健康とストレスレベルをより適切に管理および監視できるようにする、と発表した。

・2023年1月26日に、マカオ特別行政区からマカオに香港事業の支店を設立する承認を受けたと発表した。マカオが加わることで、Prudentialはアジアとアフリカの 24 の市場で存在感を示すことになる。

(2023年05月09日「基礎研レポート」)

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