2023年04月03日

日銀短観(3月調査)~景況感は製造業で明確に悪化したが非製造業は堅調、設備投資計画は強め、値上げ圧力は続く見込み

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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4. 売上・利益計画:22年度の増収増益計画は上方修正、23年度は減益計画

2022年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比8.1%増(前回は7.7%増)、経常利益が同7.9%増(前回は7.5%増)と、ともにやや上方修正され、前年比での増収増益計画が維持された。

例年、経常利益計画は初回の3月調査時点で保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナス圏でスタートし、6月調査で前年度分の上方修正などを受けて伸び率がさらに下方修正された後は、(景気が想定外に下振れた場合を除き)実績が判明するにつれて上方修正される傾向が強い。今回も同様のパターンとなった。

原燃料価格の高騰や海外経済の減速などは収益の重荷になっているものの、前回調査以降も国内の経済活動再開の流れが継続したことを受け、もともとの保守的な想定よりも収益がやや上振れたことを反映したとみられる。実際、利益計画は非製造業で上方修正される一方、製造業では下方修正されている。

企業規模別では、大企業が増益となる一方で、中小企業では小幅な減益となる見込みが維持されている。大企業と比べた場合の価格転嫁の難しさを反映している可能性がある。
 
2022年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は130.65円(上期129.26円、下期132.03円)と、前回調査時点(130.75円)からわずかに円高方向へ修正されている。前回調査以降、130円を割り込むほど円高が進む場面があったためとみられるが、年度平均レートの実績(135.5円)と比べて依然としてかなり円高の水準に留まっている。従って、今後6月調査(実績)に向けて、想定為替レートが円安方向に修正されることで、輸出企業が牽引する形で全体の収益計画が上方修正される余地が残っている。
 
また、今回から集計・公表された2023年度収益計画(全規模全産業)は、売上高が前年比1.1%増、経常利益が同2.6%減となっている。

例年、経常利益計画は年度始時点では保守的に見積もられ、前年比で小幅なマイナスでスタートする傾向が強く、今回も同様となった。また、インバウンドの増加などコロナ禍からの経済活動再開が期待される一方で、欧米など海外経済の減速や原燃料価格の高止まりといった下振れリスクが残るため、とりあえず小幅な減益に仮置きして様子見している企業も多いと推測される。
 
なお、2023年度の想定ドル円レート(全規模・全産業ベース)は131.72円(上期131.81円、下期131.62円)と、足下の実勢(133円程度)と大差ない水準が示されている。米FRBによる利上げ停止やその先の利下げ開始、日銀の緩和修正などによって想定よりも大幅な円高が進めば、収益計画の下方修正要因になり得る。
(図表6)売上高計画
(図表7)経常利益計画
(図表8) 経常利益計画(全規模・全産業)

5. 設備・雇用

5. 設備・雇用:設備投資計画は強め、人手不足感は過去最高をうかがう

生産・営業用設備判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント上昇の▲1となった。設備の需給に大きな偏りはみられない。

一方、雇用人員判断DI(「過剰」-「不足」)は、全規模全産業で前回から1ポイント低下の▲32となった。コロナ禍で一旦縮小したDIのマイナス幅は、今回コロナ禍直前(2019年12月調査・▲31)の水準を超えたことになる。国内で経済活動再開の流れが継続したうえ、全国旅行支援や水際対策の緩和などの政策的な支援もあってサービス需要が回復したことで、非製造業を中心に人手不足感がさらに強まっている。

上記の結果、需給ギャップの代理変数とされる「短観加重平均DI」(設備・雇用の各DIを加重平均して算出)は前回から0.3ポイント低下の▲20.6となり、不足超過の度合いが高まった。
(図表9) 生産・営業用設備判断と雇用人員判断DI(全規模・全産業)/(図表10) 短観加重平均DI
先行きの見通し(全規模全産業)は、設備判断DIが▲4、雇用判断DIが▲34とそれぞれ3ポイント、2ポイントの低下が示されており、不足感がやや強まることが見込まれている。雇用に関しては、過去最大のマイナス幅である▲35(2018年12月調査ならびに2019年3月調査)に肉薄する水準が見込まれている。

この結果、「短観加重平均DI」も▲23.0と足元から2.4ポイント低下する見込みとなっている。
 
2022年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年比11.4%増と3月調査(1997年以前は2月調査)としては1990年度以来の高い伸びが示され、前年度から大幅に持ち直すとの計画が維持されている。

ただし、前回調査(同15.1%)からの修正幅は▲3.7%ポイントと例年3よりも下方修正幅が大きめになっている。もともと3月調査(実績見込み)では大企業を中心に下方修正が入り、全体としても小幅に下方修正される傾向があるが、足元では既往の資源高や円安によって資材価格が高止まり、工事を請け負う建設業等での人手不足も強まっているうえ、海外経済の減速などの事業環境悪化を受けて、投資を先送りする動きが例年より現れたとみられる。
 
一方、今回から新たに調査・公表された2023年度の設備投資計画(全規模全産業)は、2022年度見込み比で3.9%増となった。例年3月調査の段階では翌年度計画がまだ固まっていないことから前年割れとなる傾向が強いためプラス圏になるのは稀で、しかも3.9%増という伸び率は3月調査としては過去最大にあたる。

例年より下方修正が大きめとなった2022年度計画からの先送り分が23年度計画を押し上げている面があるとはいえ、それでも強めの計画と言える。既往の収益回復を受けた投資余力の改善、コロナ禍で手控えていた分の再開、脱炭素・DX・省力化に向けた投資需要の存在が堅調な計画の背景になっているとみられる。
 
なお、2022年度設備投資計画(全規模全産業で前年比11.4%増)は市場予想(QUICK 集計10.1%増、当社予想は12.0%増)を上回る結果だった。2023年度設備投資計画(全規模全産業で前年比3.9%増)は市場予想(QUICK 集計0.7%増、当社予想も0.7%増)をかなり上回る結果だった。
 
なお、2022年度のソフトウェア投資額(全規模全産業)は前回(17.8%増)から下方修正されたものの、前年度比14.4%増と大幅な増額計画が維持されている。また、今回から新たに調査・公表された2023年度の計画(全規模全産業)も2022年度比6.9%増と比較的高い伸びが示されている。企業において、オンライン需要への対応や業務のIT化といったデジタル化が加速している結果とみられ、前向きな動きと言える。
(図表11)設備投資計画とソフトウェア投資計画
(図表12) 設備投資計画(全規模・全産業)/(図表13) 設備投資計画(大企業・全産業)
(図表14)ソフトウェア投資計画(全規模・全産業)
 
3 2012~21年度における3月調査での修正幅は平均で▲0.7%ポイント

6. 企業金融

6. 企業金融:原材料コスト高、借入返済が資金繰りの重荷に

企業の資金繰り判断DI(「楽である」-「苦しい」)は大企業が11、中小企業が7とそれぞれ前回から1ポイントの下落となった。

企業サイドから見た金融機関の貸出態度判断DI(「緩い」-「厳しい」)は、大企業が15と前回から1ポイント上昇する一方、中小企業は15と1ポイント下落した。

このように。企業の金融環境に絡む指標は小動きとなった。また、水準としては緩和的な状況が続いているが、トレンドとしてはじわじわとタイト化方向に動いている。

経済活動再開の流れが続いたことは、キャッシュフローの回復を通じて資金繰りを支えたと考えられる一方で、ゼロゼロ融資などコロナ禍で膨らんだ借入の返済や、原材料コストの上昇に伴う運転資金の増加、人手不足に伴う一部人件費の増加が資金繰りの悪化に繋がり、資金調達先である金融機関の貸出態度もやや厳格化してきていると受け止められているようだ。
(図表15)資金繰り判断DI(全産業)/(図表16) 金融機関の貸出態度判断DI(全産業)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2023年04月03日「Weekly エコノミスト・レター」)

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