2023年03月07日

APRA(豪)やACPR(仏)が2023年の監督・政策上の優先事項を公表

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1―はじめに

オーストラリアのAPRA(オーストラリア健全性規制機構)は、2023年2月2日に、2023年の監督と政策上の優先事項を公表している1。また、フランスのACPR(健全性監督破綻処理機構)も2023年2月15日に監督上の優先事項を公表している2

今回のレポートは、これらのAPRAやACPRの2023年における監督・政策上の優先事項について、報告する。

2―APRAの2023年の監督と政策上の優先事項

2―APRAの2023年の監督と政策上の優先事項

APRAは、2023年2月2日に、2023 年の監督と政策上の優先事項を公表した。

APRA の最新計画3の戦略的目標に沿って、ペーパーは APRA が引き続き金融の安定性と銀行預金者、保険契約者、退職年金加入者の利益を保護するための主要な重点分野を概説している。

年次の報告書は、今後12~18か月間の一連の目標を設定し、より効率的な将来計画を可能にするタイムフレームを含む、統合された透明性のある作業計画を利害関係者に提供している。

世界経済が不確実な時期に、APRAの2023 年のアジェンダは、最近の規制改革を組み込むことに加えて、オペレーショナル・レジリエンスを強化し、企業が新たな金融ストレスに対するバッファーとして機能するのに十分な財務力を確保することに焦点を当てている。 
 
3 APRAは、2022年8月8日に、今後 4 年間で銀行、保険、退職年金業界の財務健全性を強化するための最新の計画を発表している。 https://www.apra.gov.au/news-and-publications/apra%E2%80%99s-latest-corporate-plan-continues-focus-on-%E2%80%9Cprotected-today-prepared-for
1.2023 年の主な監督上の優先事項
・詳細な評価と違反の徹底的な追跡を通じて、サイバー・レジリエンスの監視を強化する。
・銀行と保険会社の資本改革を組み込む。
・老齢年金(Superannuation)加入者の成果を改善するために、引き続き管財人に説明責任を負わせる。
・保険の入手可能性、手頃な価格、持続可能性における課題に対処するための継続的な作業
2.2023 年の主な政策上の優先事項
・APRA 規制対象事業体の財務及び運営上のレジリエンスを強化し、退職年金加入者の成果を改善するための主要な改革を完了する。
・健全性構造(prudential architecture)を現代化するAPRA の計画4を前進させる。
・コングロマリットグループのガバナンスと規制を含むコア基準の見直し

John Lonsdale会長は、APRAは近年の主要な政策改革に基づいて(制度等を)構築することを目指しているとして、以下のように述べている。

「金利の上昇とインフレが進み、不動産価格が下落し、地政学的な不確実性が続く環境において、APRAの2023年の優先事項は、今日のリスクと地平線を越えた新しい課題に迅速に対処できるようにすることである。」

「数年間の規制改革を経て、2023 年には APRA の政策負担が軽減される。これにより、規制対象の事業体は、銀行や保険における資本改革などの以前の主要な改革の組み込みや、今後の事業環境における課題への対応に集中することができる。」

「私たちは引き続き、主要な監督の優先分野に取り組む。サイバーへの備えを含むオペレーショナル・レジリエンスは、監督上の優先事項として重要性を増し続けており、昨年末に Optus と Medibank で発生した重大なデータ侵害がその理由を浮き彫りにしている。私たちには、気候リスク、ガバナンス、文化、再建計画に関する重要な仕事があるが、老齢年金部門は、加入者の最善の利益に反するパフォーマンスの悪い商品や行動を明らかにして、根絶するための努力を緩めることはできない。」
 
4 APRAは、2022年9月12日に、規制の枠組みの設計をより明確、シンプル、かつ適応性の高いものにするための中核的な戦略的イニシアティブとして、健全性構造の現代化へのアプローチを概説している。 https://www.apra.gov.au/news-and-publications/apra%E2%80%99s-latest-corporate-plan-continues-focus-on-%E2%80%9Cprotected-today-prepared-for
1|主な監督上の優先事項5
(1)全体
以下の3つの要素を挙げている。

1) 強靭かつ慎重に管理された金融機関
・オペレーショナル・レジリエンスの強化
・サイバー・レジリエンスの向上
・取締役会の機能と任期の更新慣行の強化

2) 安全で安定したオーストラリアの金融システム
・再建と撤退計画の成熟度向上
・資本の枠組みの埋め込み
・気候関連の金融リスクに対する理解の深化
・問題資産の規律ある管理

3) 良好な財務成果
・保険の入手可能性、手頃な価格、持続可能性における課題への取り組みの進展
・(非常に悪くて)受け入れられないパフォーマンスを有する受託者商品の改善
・透明性のある退職実績

(2)保険
保険に関しては、以下の優先事項が挙げられている。

損害、生命保険、民間健康保険の各部門にわたって、APRAは、保険契約者の財務的成果を向上させるために、保険の入手可能性、手頃な価格、持続可能性の課題に対処するのに役立つ戦略的ワークストリームを有する。

損害保険については、現在進行中の自然災害により、厳しい気象現象により脆弱な地域の住宅所有者や企業が手頃な価格の損害保険に加入することの困難さが増している。一般賠償責任保険等の一部の企業保険部門に対する圧力も続いている。

生命保険については、特定の商品、特に個人就業不能保障保険 (IDII) の持続可能性を確保するために、業界と協力することに引き続き重点が置かれる。

主に請求と医療費の増加に影響を受ける民間の健康保険の入手可能性もまた、依然として懸念されている。

問題は複雑であり、潜在的な解決策は多面的であり、業界、規制当局、政府、消費者の間で協力的なアプローチが必要となる。それに伴い、APRAは利害関係者との関わりを強めており、これは今後12ヶ月にわたって継続される。しかし、保険会社は、オーストラリアのコミュニティにおける保険の入手可能性、手頃な価格、持続可能性を支援する上で、単独でもグループでも、重要な役割を担っている。

APRAのデータ収集作業の保険ストリームを進展させるために、APRAの保険データ変換プロジェクトは、2023年中に損害保険及び生命保険のためのより広範でより詳細なデータ収集の第一段階に関する協議を開始する。APRAは、他の政府機関とデータ収集計画を緊密に調整し、保険の入手可能性や手頃な価格などの懸念分野に関する証拠に基づく洞察の開発に貢献する。
2|主な政策上の優先事項6
(1)全体
以下の3つの要素を挙げている。

1) 健全性構造の現代化
・フレームワーク設計の改善
・デジタルハンドブックの構築
・業界利害関係者の参画

2) 主要改革の完了
・再建・破綻処理計画の強化
・オペレーショナルリスクの強化
・老齢年金の投資ガバナンスの改善

3) コア基準の見直し
・ガバナンスとより広範な取締役会要件の見直し
・グループの要件の見直し
・戦略計画と加入者成果の向上

(2)保険
保険に関しては、以下の優先事項が挙げられている。

1) 保険の枠組み
APRA は、2023 年 4 月に廃止予定の 4 つの生命保険健全性基準の再作成についてコンサルティングを行っている。APRA はまた、健全性構造を現代化するイニシアティブの一環として、保険の健全性フレームワークの既存の構造を見直すことを意図している。

2) 保険リスク管理
APRA は、健全性実務ガイド GPG 240 保険リスク(GPG 240)及び健全性実務ガイド LPG 240 生命保険リスク及び再保険リスク(LPG 240)で、商品設計、引受及びリスク管理に関する生命保険及び損害保険会社向けのガイダンスを見直し、更新する予定である。このレビューの意図は、保険リスク管理の一貫した基準がこれらの業界全体で維持されることを保証することであり、監督者の所見を反映する更新が行われる。

3―ACPRの2023年の監督上の優先事項

3―ACPRの2023年の監督上の優先事項

フランスのACPR(健全性監督破綻処理機構)は、2023年2月15日に、2022年12月6日に機構のカレッジ、2022年11月25日に破綻処理機構のカレッジによって定義された、2023年の監督上の優先事項を公表した。その中では、ウクライナ戦争、金利上昇、インフレ上昇に伴うマクロ経済の不確実性に起因するリスクの監視を優先するとしている。

ACPRは、最も重要な銀行機関のために欧州中央銀行と協力して、国際情勢の進展とそれが支配する機関に及ぼす影響に注意を払っている。保険部門の監督は、ソルベンシーIIの発効以来初めてとなる前例のない利上げを背景に行われており、保険事業への様々な影響を考慮した警戒が求められている。

ACPR事務局長のNathalie Aufauvre氏は、以下のようにコメントしている。

「不確実な経済環境の中で、ACPRは健全性の枠組みが有効であり続け、サイバーリスクなどの新たなリスクに対応できるようにしなければならない。気候変動との闘いに対する我々のコミットメントは、2回目のストレステストの開始とともに継続される。デジタル化が進む中での詐欺の復活は、一般市民との予防行動の指針にもなっている。」
1|全体
ACPRは、金融システムの安定を確保するために、以下の優先事項を設定している。

1.国際的な経済・地政学的状況、特にエネルギー価格の上昇と成長見通しの悪化に関連するリスクの監視
銀行部門では、信用リスクの動向に特に注意が必要である。最も脆弱な産業や地理的領域への機関のエクスポージャーにも警戒が必要である。

保険分野では、建設保険や信用保険のような経済状況に非常に敏感な活動が、監視の強化の対象となる。

ACPRはまた、ウクライナ戦争に関連して国内外の当局が決定した制裁を実施するための機関の取り決めを監視している。

2.ウクライナ戦争の結果によって増幅される金利上昇、インフレ、不動産・金融資産の評価のリスクのモニタリング
銀行や保険のバランスシートリスク(借換え、資産・負債管理)の分析・モニタリング、住宅購入資金の融資基準を含む金融安定理事会のマクロプルーデンス判断のモニタリングに留意する。ACPRチームは欧州ストレステストに参加し、マクロ経済の非常に不利なシナリオにおいて、銀行が3年間にわたってシミュレートされたショックを吸収する能力を評価する。

他の金融機関(投資会社、決済・電子マネー機関)の状況は、金融市場のボラティリティの高まりと資金調達源の減少により、注意深く監視される。

3.構造的なサイバー・気候リスクのモニタリング
気候変動との闘いにおいて、ACPRは物理的リスクと移行リスクが金融機関に及ぼす影響の分析と考察の先駆者となった(2021年にパイロット演習を実施)。2023年も作業を継続する(保険に関する演習、国際活動への貢献)。

ITリスク、情報システム戦略、サイバーリスクを含む技術開発と関連リスクのモニタリングを実施する。また、新たなデジタル金融仲介機関の分析も実施する。

4.顧客保護及びマネーロンダリング及びテロ資金供与(LCB-FT)との闘いの分野における行動の継続
ACPRは、銀行及び保険商品のマーケティングのガバナンスに引き続き焦点を当て、生命保険のコストに関する作業を継続する。ACPRはまた、証券会社改革の実施を監視し、ACPR-AMF共同ユニットの枠組みの中で金融詐欺に対する意識を高めるための更なる行動を実施する。

LCB-FTの分野では、自動取引監視装置に関するテーマ別レビューを最終決定し、デジタル資産サービス提供者を対象としたコントロールキャンペーンを実施し、2021年に欧州委員会が提示した「AMLパッケージ」の交渉に参加する。

さらに、規制分野では、銀行部門に関する欧州規制CRR 3及びCRD 6の最終決定、保険部門のソルベンシーIIの改訂に関する欧州における交渉、欧州委員会のデジタル金融ロードマップ(DSP 3、DORA)の実施に焦点を当てた作業を行う。

破綻処理の分野では、ACPRは、単一破綻処理委員会(Conseil de résolution unique (CRU))7と連携して、特に一般的に低い要件の対象となる国際銀行との平等な取扱いを確保することにより、銀行の適格資本負債(MREL)の最低要件の確立に貢献する。

さらに、保険会社向けに 2022 年に作成された最初の破綻処理計画の継続と、保険の破綻処理に関する欧州文書草案に関連する作業への参加に焦点を当てる。
 
7 英語で「Single Resolution Board(SRB)」と呼ばれる。破綻銀行の秩序だった破綻処理を確保し、参加するEU 諸国及びその他の国の実体経済及び財政への影響を最小限に抑える役割を有している欧州銀行連合の破綻処理機関
2|保険に関するテーマ
繰り返しになるが、上記の中から、特に保険に関するテーマを抜粋すると、以下の通りとなる。

・保険部門の監督は、ソルベンシーIIの発効以来初めてとなる前例のない利上げを背景に行われており、保険事業への様々な影響を考慮した警戒が求められている。
・建設保険や信用保険のような経済状況に非常に敏感な活動が、監視の強化の対象となる。
・2021年のパイロット演習に続き、2023年には2 回目の気候変動ストレステストを実施する。
・保険商品のマーケティングのガバナンスに引き続き焦点を当て、生命保険のコストに関する作業を継続する。
・保険部門のソルベンシーIIの改訂に関する欧州における交渉に焦点を当てた作業を行う。
・保険会社向けに 2022 年に作成された最初の破綻処理計画の継続と、保険の破綻処理に関する欧州文書草案に関連する作業への参加に焦点を当てる。

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、オーストラリアのAPRAやフランスのACPRの2023年における監督・政策上の優先事項について、報告してきた。

前回までの保険年金フォーカスで報告したEIOPA(欧州保険年金監督局)の2023年の監督上のコンバージェンス計画米国のNAIC(全米保険監督官協会)や英国のPRA(健全性規制機構)の監督上の優先事項に加えて、今回のAPRAやACPRが掲げている課題のいくつかは、基本的には世界各国の保険業界に共通する課題であり、そのためグローバルレベルでのIAIS(保険監督者国際機構)においても、同様のトピックに関する検討が行われてきている。

これらの課題は、日本の保険会社にとっても極めて重要な課題であることから、これらの検討を巡る動向等については、今後も引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年03月07日「保険・年金フォーカス」)

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レポート紹介

【APRA(豪)やACPR(仏)が2023年の監督・政策上の優先事項を公表】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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