2023年02月03日

インドの保険監督規制を巡る動向-IRDAIによる一連の改革の状況(その3)-

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5―インドの保険会社の登録規則

IRDAIは、2022年12月12日に、ビジネスのしやすさを促進し、インドにおける保険会社の設立プロセスを簡素化することにより、保険部門の成長を促進することを目的として、新しい規則「2022年IRDAI(インドの保険会社の登録)規則」を公表5した(通知は12月5日付)。

これによる主な改正は、以下の通りとなっている。
1.プライベートエクイティ(PE)ファンドでは、特別目的会社(SPV)を通じた投資がオプションとなり、保険会社に直接投資できるようになり、柔軟性が増す。

2.(一定の条件付きで)子会社も保険会社のプロモーターとなることが認められる。

3.単一投資家による払込資本金の25%(全ての投資家全体で50%)までの投資は「投資家」として扱われ、それ以上の投資はプロモーターとしてのみ扱われるようになる(以前は個人投資家が10%、全体で25%が基準だった)。

4.新たな規定が導入され、保険会社が過去5年間の十分なソルベンシーの実績を有し、上場企業であることを条件として、プロモーターは出資比率を最大26%まで希薄化することができる。

5.投資家とプロモーターの「フィット&プロパー」判断の目安が含められた。

6.投資家とプロモーターの投資のロックイン期間は、保険会社の設立からの年数を基準に定められる。

6―規制サンドボックスの変更

6―規制サンドボックスの変更

IRDAIは、2022年12月14日に、現行の規則を改正する新しい規則「2022年IRDAI(規制サンドボックス)規則」を公表6した(通知は12月5日付)。

規制サンドボックスは、会社が管理された規制環境で革新的な商品や技術等をテストできるようにするためのテスト環境を提供するフレームワークであり、業界のイノベーションと技術的解決を促進する。

今回の改正では、保険者/仲介者が実験期間を「6ヶ月」から「最大36ヶ月」に延長し、既存のバッチ方式(コホートアプローチ)のクリアランス/承認から、継続ベースのクリアランス/承認に移行することで、継続的に実験を行うことを可能にしている。また、サンドボックス下で拒否された申請を審査する規定も導入された。

7―ソルベンシー基準

7―ソルベンシー基準

1.損害保険会社
IRDAIは、2022年12月14日に、現行の規則を改正する新しい規則「2022年IRDAI(損害保険事業の資産・負債・ソルベンシーマージン)規則」を公表7した(通知は12月5日付)。

これにより、保険会社が資本とリソースを効率的に活用し、農作物保険の保険普及率を高めることを目的として、ソルベンシーポジションの計算のために州/中央政府の保険料を考慮する期間が180 日から365 日に延長された。作物保険に関連するソルベンシー係数も0.70から0.50に引き下げられ、これにより保険会社の資本要件が約146億ルピー解放される。

2.生命保険会社
IRDAIは、2022年12月13日に、現行の規則を改正する新しい規則「2022年IRDAI(生命保険事業の保険数理報告と要約)規則」を公表8した(通知は12月5日付)。

これにより、生命保険会社が資本を効率的に活用できるようにするため、規制で定められているソルベンシーの計算要素が次のように変更される。

i. ユニットリンク契約(保証なし)の場合-0.80%から0.60%に引き下げ
ii. PMJJBY9の場合-0.10%から0.05%に引き下げ

これらにより、約200億ルピーの資本要件が緩和される。
 
7 https://irdai.gov.in/web/guest/document-detail?documentId=1629887
8 https://irdai.gov.in/web/guest/document-detail?documentId=1630071
9 PMJJBY(Pradhan Mantri Jeevan Jyoti Beema Yojana)は、18歳から50歳までの貯蓄口座保有者に対して、低コストで保険を提供する制度。

8―クロスボーダー再保険会社(CBR)

8―クロスボーダー再保険会社(CBR)に対するファイル参照番号 (FRN) の発行に関するガイドライン

IRDAIは、2023年1月3日に、以下の内容のガイドラインを公表10している。
1|ガイドラインの背景等
十分に発達した再保険市場が利用可能であることにより、保険契約者が合理的な価格で保険商品を利用できることが保証される。クロスボーダー再保険会社(CBR)は、保険会社に再保険のサポート/キャパシティを提供する再保険市場において重要な役割を果たしている。保険会社は、CBRと契約を行う前に、CBRが「2018年IRDAI(再保険)規則」に基づく格付け要件を満たし、ファイル参照番号(FRN)を保有していることを確認しなければならない。現在、そのようなFRNは当局によって毎年割り当てられている。

IRDAIは、損害保険会社及び再保険会社に関するタスクフォース及びビジネスのしやすさに関するワーキンググループからのフィードバック及びインプットを検討した結果、CBRに関する規制プロセスの合理化を図る観点から、一定の要件を満たすCBRを対象として、保険会社自身によるFRNの自動更新を認めることとしている。
2|具体的内容
A.新規FRNの申請
・現行の規制に基づく適格基準を満たすCBRは「適格CBR」としての資格を得る。適格基準を満たさないCBRは「非適格CBR」とみなされる。
・CBRで再保険業務を行うことを希望する保険者は、「適格CBR」又は「非適格CBR」のいずれかのカテゴリに属するCBRにFRNを割り当てるために、当局にオンライン申請を行う。
・当局は、CBRにFRNを割り当てる一方で、必要に応じて、そのような申請の処理のために他の要件を引き上げることができる。保険会社による提出物の審査の後、当局は、システムによって生成されたFRNをCBRに割り当てる。
・CBRへのFRN割り当ての申請は、現行の規則に従い、保険者の再保険プログラムに見合ったものでなければならない。

B.FRNの更新申請
保険会社は、自動更新の資格を有するCBRに対して、独自にFRNを生成することができる。自動更新の資格を有しないCBRは、年単位でFRNを取得しなければならない。
自動更新機能は、CBRの3会計年度連続で利用できる。3会計年度が経過すると、保険会社はCBRポータルを通じて新規申請を提出する必要がある。
自動更新の資格を有しないCBRは、毎年FRNを更新しなければならない。

C.総則
・いかなる保険者も、有効なFRNなしにCBRと再保険業務を行ってはならない。
・当局は、CBRに国別のFRNを割り当てることができる。
・2023-24年度以降は自動更新の設備が利用可能となる。
・FRNが特定のCBRに割り当てられた後は、他の保険会社が当該CBRに再保険業務を委託する際に使用するものとする。
・保険者は、再保険業務をCBR(有効なFRNを有する者)に委託する一方で、CBRが現行の規則に定める適格条件を満たすことを保証する責任を単独で負う。
・保険者は、「適格でない」CBRとの間で行われた全ての再保険契約の募集を、その承認/批准のために取締役会に提出するものとする。また、15日以内に当該決議の認証謄本を当局に提出するものとする。
・保険者は、会計年度開始から30日以内に、全ての再保険契約が適格基準に適合するCBR又は本ガイドラインに規定されたCBRに対して行われたことを確認する適合証明書を当局に提出しなければならない。この証明書は、「2018年IRDAI(再保険)規則」の3(A) (c)に基づいて行われる必要のある提出とともに当局に提出される。
・本ガイドラインに記載されている事項にかかわらず、保険者は、1938年保険法及び当局が随時発行するその他の適用規制を遵守するものとする。

9―ソブリングリーンボンドの分類

9―ソブリングリーンボンドの分類

IRDAIは、2023年1月13日に公表した通達11で以下のように述べている。

経済の炭素集約度を削減する目的と、気候変動、緩和、適応、金融、環境保全に関連する2015年パリ気候変動合意の下での国家が決定する貢献(NDC)を達成するための措置として、インド政府はソブリングリーンボンド(SGrBs)を2022-23年度予算で発行することを提案している12

また、保険会社のインフラ投資ポートフォリオの分散・集中を図る目的や、環境・社会・ガバナンス(ESG)への参画、持続可能な開発や環境悪化防止への積極的な参画の観点から、ソブリングリーンボンドへの投資を検討するように促している。

ソブリングリーンボンドへの投資は、「インフラ投資」 として取り扱われ、「中央政府証券」 に区分される。
 
11 https://irdai.gov.in/web/guest/document-detail?documentId=1836032
12 インド政府は、2022-23年度に初のソブリングリーンボンドの発行を通じて、1600億ルピー(19億6000 万ドル)の調達を計画している。インド準備銀行は、1月25日のオークションで、5 年物及び 10 年物のグリーンボンドをそれぞれ400億ルピー(4.9憶ドル)売却した。この後2月9日にも、同様の売却が予定されている。

10―まとめ

10―まとめ

以上、今回のレポートでは、Shri Debasish Panda氏の長官就任後のIRDAIの規制改革等の動きについて報告した、2022年11月の2回の保険年金フォーカス以降のその後の進展を含めた最近の動向について、IRDAIの公表資料に基づいて、報告してきた。

急速に発展しているインドの保険市場ではあるが、さらなる発展のために、新たな規制の策定や既存の規制の緩和・見直し等が求められている。IRDAIのイニシアティブは、現在4.2%となっている保険普及率(=対GDP保険料比率)を2027年までに8~10%とすることを目指している。これらを通じて、インドは今後10年で、保険料収入規模において世界第6位の保険市場になることが想定されている。

新たな長官の下でのIRDAIによる保険規制改革の動きは、インドの保険市場に興味・関心を有する関係者にとって極めて注目度の高い事項である。

今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2023年02月03日「保険・年金フォーカス」)

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