2022年11月04日

円安の背後にある日本経済の根深い問題

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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■要旨
 
  1. 今年急速な円安が進んだ背景には、米利上げに伴うドル高の存在があるが、円は相対的に大きく下落しており、円安の側面も強い。そして、円安の背後には日本経済の根深い問題の存在がある。まず、中長期で見た場合、国内企業による対外直接投資の拡大が拡大する一方で、海外企業による対内直接投資は低迷が続き、ネットでの円売り要因になっており、日本経済への成長期待の低さがその一因になっていると考えられる。現に、日本企業の国内設備投資意欲は低迷が続いている。また、日本企業による海外投資拡大によって生産能力が海外へシフトしたことで、円安にもかかわらず輸出が伸び悩み、貿易赤字の増幅を通じて実需の円売りが拡大した面もある。
     
  2. 円安の最大の材料に位置付けられる日米金利差の拡大にも日本経済の問題が関わっている。日銀は従来、賃金上昇を伴う形での物価上昇を目指してきた。賃金の上昇を伴わなければ、持続的な物価上昇が実現できないためだ。しかし、過去長期にわたって日本の賃金は上がってこなかった。日本経済に対する企業の成長期待の低迷が付加価値や人件費の伸び悩みという形で経済の重荷となってきたためだ。この結果、日銀は金融緩和を継続せざるを得なくなり、日米金利差の拡大が増幅されて円安が促進された面がある。
     
  3. 今後については、次第にドル高圧力が後退する形で円高に転じると予想している。ただし、既述の構造的な円安要因が改善されない場合、いつか到来する次の米金融引き締め局面においても今回同様、大幅な円安進行が起きる懸念がある。それを避けるためには、企業の成長期待を高めて国内投資を活性化し、生産性を高めて企業が稼げる国にしたうえで、企業が稼ぎを十分分配することで賃金が上がる国にしていく必要がある。一朝一夕にはいかないが、実現に向けた政治の舵取りの重要性が高まっている。

 
主要為替レートの対ドル騰落率(G20・年初来)
■目次

1. トピック:円安の背後にある日本経済の根深い問題
  ・積極的な対外直接投資⇔低迷が続く国内投資
  ・対外投資は貿易赤字拡大の一因にも
  ・利上げ競争に参加できず
  ・まとめ+求められること
2. 日銀金融政策(10月)
  ・(日銀)現状維持
  ・今後の予想
3. 金融市場(10月)の振り返りと予測表
  ・10年国債利回り
  ・ドル円レート
  ・ユーロドルレート
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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

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