2022年10月07日

「24年ぶりの円買い介入」、その効果と限界をどう見るか?

経済研究部 上席エコノミスト 上野 剛志

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2. 日銀金融政策(9月)

日銀の長期国債・ETF買入れ額 (日銀)コロナオペの段階的終了を決定
日銀は9月21日~22日に開催した金融政策決定会合において、「新型コロナ対応金融支援特別オペ」(コロナオペ)を段階的に終了しつつ、幅広いニーズに応える資金供給へ移行していくことを決定した。具体的には、コロナオペのうち、中小企業等向けの制度融資分については、期限を3ヵ月延長して12月末に終了。プロパー融資分については、期限を半年間延長して来年 3 月末に終了する。他方、幅広い担保を裏付けとして実施している「共通担保資金供給オペ」について、金額に上限を設けずに実施することとした。

その他の金融政策については、長短金利操作、資産買入れ方針ともに現状維持となった。今回は審議委員のうち2名が交代4して最初の会合となったが、これまで追加緩和を主張して長短金利操作に反対し続けた片岡氏が退任したこともあり、久々に全員一致での決定となった。

なお、円安の進行やコロナオペの終了予想を受けて一部で修正観測が台頭していたフォワードガイダンスについても、今回は変更なしであった。
 
声明文における景気の現状判断は、「持ち直している」と前回から据え置きとなった。一方で個別項目では、海外経済の判断が「総じてみれば緩やかに回復しているが、先進国を中心に減速の動きがみられる」(前回は「一部に弱めの動きがみられるものの、総じてみれば回復している」)へとやや下方修正された一方、生産の判断が「基調として増加している」(前回は「下押し圧力が強い状態にある」)へとやや上方修正された。また、住宅投資の判断が下方修正される一方で、公共投資の判断が上方修正された。先行きにかけて、景気が回復し、物価上昇が鈍化に向かうとの見方には変化がなかった。
 
会合後の会見で、黒田総裁は物価上昇が進む中で金融緩和を続ける理由について、日本経済が「コロナ禍からの回復途上にある」うえ、「資源高が交易条件の悪化を通じて海外への所得流出につながって、景気の下押し圧力になってしまう」という状況を踏まえると、「現在は経済を支えて、賃金の上昇を伴うかたちで 2%の物価安定の目標を持続的・安定的に実現することが必要であって、金融緩和を継続することが適当である」と説明。「今回の金融政策決定会合における委員方の考え方も、全くその通りだった」と付け加え、日銀としての総意であったことを示唆した。

そのうえで、長短政策金利については、「当面、金利を引き上げるというようなことはないと言ってよい」と述べ、金利のガイダンスを含めたフォワードガイダンスについても「当面、変更は必要とは考えている」と述べた。後者に関しては微調整は有り得るとしつつも、「当面というのは、数か月の話ではなくて、2~3 年の話というふうにお考えになって頂いた方がよい」と踏み込んだ発言をした。

円安の進行に関して総裁は、「様々な要因があるにもかかわらず、円安が進んできたことは一方的な動きであり、投機的な要因も影響しているのではないか」、「他の国で金利をかなり引き上げて長期金利が米国よりも高くなっている国も含めて、対ドルでかなり為替が下落している」、「従って、今の為替動向を日米金利格差だけで説明したり、云々するということはいかがかと思う」との認識を示し、「企業の事業計画策定を困難にするなど、先行きの不確実性を高め、わが国経済にとってマイナスである。望ましくない」と発言し、市場の動きをけん制した。
 
なお、10年物国債の取引が2日連続で不成立となるなど、機能度の低下が危惧される債券市場については、債券市場サーベイの機能度判断DIの下落を指摘したうえで、「債券市場の動向については、引き続き注意深くみていきたい」と述べた。
 
また、為替介入が実施された後の27日に大阪で行われた記者会見で、黒田総裁は介入について「これまでのような急速かつ一方的な為替の変動は日本経済にとって好ましくないというのは事実であるため、そうした観点から政府が介入されたことは適切であった」と前向きに評価。政府の為替介入と日銀の金融緩和は、政策の方向性が異なるのではないかとの指摘に対しては、「為替介入と金融政策でも目的も効果も違うが、それらが組み合わされてより適切な状況が実現されるというポリシーミックスで、相互補完的だ」との認識を示した。

長期金利の許容上限引き上げが金融引き締めになるのかとの質問に対しては、「それはなる」、「±0.25%の幅をより広くしたら、仮にその上の方に行けば、明らかに金融緩和の効果を阻害しますので、そういうことは考えていない」と、上限引き上げの可能性を否定した。

一方、決定会合後の総裁会見で言及した「当面」の期間については、「新型コロナウイルス感染症の影響を注視しつつ政策を行う期間であり、必ずしも「2~3 年」という長期ということではない」と発言のトーンを落とした。自身の任期を大幅に超える期間の政策についての言及であるうえ、市場で円安材料と見なされた可能性があることから、修正を図ったものと考えられる。
 
4 片岡氏、鈴木氏の後任として、7月24日に高田氏と田村氏が審議委員に就任している。
(今後の予想)
日銀は現在の物価上昇を一時的と見ており、円安による悪影響への批判や一部投資家によるYCCに挑戦する動きを受けても金融緩和を粘り強く維持していく姿勢を崩していない。日銀の金融緩和維持に対する意思は強く、少なくとも来年4月の黒田総裁任期末までの間は現行の緩和がそのまま維持される可能性が高い。

次期総裁が就任した後も、安定的な物価上昇の実現が難しい以上、金融緩和を続けると見込まれるが、継続のためには副作用への対応も適宜必要になるだろう。従って、次期総裁就任後しばらくしてから、債券市場の機能度低下といった緩和の副作用軽減を名目として、枠組みの修正(誘導目標金利を10年債利回り→5年債利回りへ)を絡めて実質的に金利上昇許容幅を小幅に拡大しにいくと予想している。その際、日銀は金融緩和の縮小ではなく、あくまで副作用軽減を通じた緩和の持続性向上策であるとの位置付けを強調すると見込んでいる。

3. 金融市場(9月)の振り返りと予測表

3. 金融市場(9月)の振り返りと予測表

(10年国債利回り)
9月の動き(→) 月初0.2%台半ばでスタートし、月末も0.2%台半ばに。
月初、日銀による0.25%での連続指値オペが意識されたほか、米雇用統計結果が予想の範囲内に留まったことで5日に0.2%台前半へ一旦低下。しかし、翌6日には豪州の大幅利上げを受けて0.2%台半ばへ上昇。以降は堅調な米経済指標や米CPIの上振れを受けて米利上げの加速観測が高まり、日銀の許容レンジ上限である0.25%付近での推移に。日銀が国債買入れの増額や指値オペで金利の抑え込みを続けるなか、下旬もFRBによる大幅利上げや英政権による大規模減税などに伴う海外発の金利上昇圧力が続き、月末にかけて0.25%付近での膠着した推移が継続した。
日米長期金利の推移(直近1年間)/日本国債イールドカーブの変化/日経平均株価の推移(直近1年間)/主要国株価の騰落率(9月)
(ドル円レート)
9月の動き(↗) 月初139円台半ばでスタートし、月末は144円台後半に。
月初、堅調な米経済指標が続き、米利上げ加速観測の高まりを通じて2日に140円台に上昇。その後もドル高の流れは止まらず、7日には144円台に到達した。翌12日以降は黒田日銀総裁の円安けん制発言や日銀によるレートチェックを受けて為替介入への警戒感がやや高まり、しばらく143円台を中心とする推移が継続。22日には日銀が緩和継続を決定したうえ緩和を続ける姿勢を強調、前日に大幅利上げ方針を示したFRBとの方向性の違いが鮮明化したことで一時145円台後半に突入。直後に政府・日銀が円買い介入を実施したことで一転して円高に振れ、一時140円台を付けるなど乱高下した。月終盤はFRB要人発言により再び米利上げ継続が意識されてドル高圧力が高まったが、介入への警戒感も残り、月末にかけて144円台での推移が続いた。
ドル円レートの推移(直近1年間)/ユーロドルレートの推移(直近1年間)
(ユーロドルレート)
9月の動き(↘) 月初1.00ドル付近でスタートし、月末は0.97ドル台半ばに。
月初、堅調な米経済指標や欧州向けガスパイプラインの再開延期を受けてユーロが下落、1.00ドルのパリティを下回り、7日には0.98ドル台に。一方、8日にECBが大幅利上げを決定し、今後も利上げを続ける方針を示したことでパリティを一旦回復したが、米CPIの上振れを受けてFRBの利上げ加速観測が高まったことで、14日には0.99ドル台に下落した。下旬にはウクライナ情勢の緊迫化や欧経済指標の悪化、伊総選挙での極右政党の躍進、欧州向けガスパイプラインの損傷などユーロ安材料が相次いだことでユーロが下落基調を辿り、28日には0.95ドル台まで低下。月終盤には、欧州の物価上昇率拡大やBOEによる英国債買入れに伴うリスク選好のユーロ買いが入ってやや持ち直し、月末は0.97ドル台半ばで終了した。
金利・為替予測表(2022年10月7日現在)
 
 

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経済研究部   上席エコノミスト

上野 剛志 (うえの つよし)

研究・専門分野
金融・為替、日本経済

経歴
  • ・ 1998年 日本生命保険相互会社入社
    ・ 2007年 日本経済研究センター派遣
    ・ 2008年 米シンクタンクThe Conference Board派遣
    ・ 2009年 ニッセイ基礎研究所

    ・ 順天堂大学・国際教養学部非常勤講師を兼務(2015~16年度)

(2022年10月07日「Weekly エコノミスト・レター」)

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