2022年08月16日

世界における中国生保市場(2021年)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(53)

保険研究部 主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任 片山 ゆき

このレポートの関連カテゴリ

文字サイズ

1――2021年、中国保険市場の世界シェアは引き続き第2位。新型コロナの再拡大などの影響で、保険料収入は小幅な増加に。

Swiss ReのSigma「World insurance:inflation risks front and centre」によると、2021年、世界の保険市場において、保険料収入総額(生保・損保合計)でみた場合、中国のシェアは10.1%と第2位であった(図表1)1。首位は米国、3位は日本となっており、上位5か国のみで世界の保険市場の65.7%のシェアを占めた。

2020年は新型コロナウイルス感染症が世界的に拡大したことにより、経済や消費の落ち込みから、保険料収入も前年比マイナスとなる国・地域が多かった。特に、英国、フランスはその影響が顕著であったが、2021年はその反動から保険料収入が大幅に増加している。

一方、中国は2020年に新型コロナが一旦沈静化したものの2021年になって再拡大した。経済への影響、所得の不安定化、先行きの不透明感から消費市場全体が冷え込んだ。保険料収入総額は前年比6.1%増(インフレ調整後は1.7%減)の6,961億ドルとなったが、その増加幅(2020年は前年比6.2%増、インフレ調整後は3.6%増))は前年の2020年と比較すると小さくなった。
図表1 各国・地域別の保険料収入総額(生損保合計)上位5か国(2021年)
 
1 2021年、世界における保険料収入総額(生損保合計)は、前年比9.0%増(インフレ調整後は前年比3.4%増)の6.9兆ドル。

2――中国は生保市場も第2位

2――中国は生保市場も第2位。首位の米国とのシェアの差は更に縮小へ。

次に、生保市場についてみてみると、2021年の中国の生命保険料収入は世界における生保市場の12.2%(前年より0.2ポイント減)を占め、国・地域別では前年同様2位となった(図表2)2。首位である米国のシェアが前年より2.3ポイント減少したため、シェアの差は8.1ポイントと前年(10.2ポイント)より縮小した。また、上位5か国の合計シェアは全体の58.1%と半数を超えた。

一方、2021年の上位5か国について、そのシェアを2020年からのおよそ20年という推移の中でみてみると、米国は8.8ポイント減少、日本は15.9ポイント減少、英国は3.3ポイント減少、フランスは0.7ポイント減少している(図表3)。上位国の中でも、米国、日本はシェアが大きく減少しているが、英国、フランスは増減はありつつも一定程度を維持していることがわかる。中国については、直近20年間でシェアを11.6ポイント増加しており、世界におけるプレゼンスが急速に上昇した。
図表2 生命保険料収入シェア上位10か国・地域(2021年/ドルベース)/図表3 生命保険料収入シェアの推移上位5か国(2020-2021年/ドルベース)
図表4 生命保険料の前年比増減率上位5カ国(現地通貨ベース) 図表4は、上位5か国における直近5年間の生命保険料収入の増減率を示したものになる。中国は、主務官庁が市場の健全化をはかった2018年、新型コロナなどの影響を受けた2021年の生保収入保険料が前年と比較してマイナスとなっている。それ以外の2016年、2017年、2019年、2020年は上位5か国のうち、保険料収入の増加率が最も大きく、生保市場全体の成長を牽引していたと言える。

2021年は、2020年の反動から中国以外の4か国はいずれも保険料収入が前年より増加に転じている。特に、フランス(前年比29.4%増)、英国(前年比11.0%増)など保険料収入が2020年に大幅に減少した2か国はその反動から大幅なプラスに転じた。

一方、2021年、中国における生命保険料収入は前年比1.7%減と鈍化している。その背景には新型コロナの影響のみならず、近年取り組みが強化されている代理人チャネルの高度化問題、急速に進む保険事業のデジタル化なども関係している3

需要サイドからみると、2021年は経済情勢が複雑化し、国内の新型コロナの感染が再拡大したこともあって、所得の見通しが不安定化、保険商品の販売が停滞した点が挙げられる。供給サイドからみると、保険会社では、新型コロナによって代理人など人を介した顧客への直接訪問や活動が制限され、活動量や業績の低下、保険経営の健全性強化に伴う評価体系の変革によって、保険代理人の離職などが進んだ。保険会社は業務のデジタル化を急速に進めるなど、人件費などコスト面での見直しも進めている。

中国の生保市場は急速に成長しているように見えるが、新型コロナのみならず、メインチャネルの1つの代理人の大量離職や保険会社の健全性の強化など市場が抱える内的な課題も抱えている。
 
2 2021年の生命保険料収入の合計は前年比9.9%増(インフレ調整後は前年比4.5%増)の3.0兆ドル
3 片山ゆき(2022)「ネット保険の需要拡大(中国)-加速する生保経営の再構築」、保険・年金フォーカス、ニッセイ基礎研究所

3――保険の普及度合は引き続き世界平均以下

3――保険の普及度合は引き続き世界平均以下。課題は、保険商品にアクセスできていない人をどのように包摂していくかにある。

世界におけるシェアが第2位ではあるものの14億人という多くの人口を抱える中国では、保険が広く普及しているとは言えない状況にある。2021年のGDPに占める生命保険料収入の割合は、2.1%と世界平均の3.0%に達していない(図表5)。また、1人当たりの生命保険料収入(ドルベース)も253ドルと世界平均の382ドルに達していない状況にある。

ただし、中国の場合、保険の普及についても地域格差が大きい点に留意が必要である。例えば、北京市、上海市、浙江省など経済都市であり、個人所得、保険加入意識も高い一部の都市については、保険料収入が域内総生産に占める割合は5~6%と比較的高い状況にある4。一方、チベット自治区や貴州省、青海省など所得が相対的に低い地域では2~3%と低くなる傾向がある。今後は、こういった地域においても、加入ハードルの低いネット保険の加入促進などによって、保険商品へのアクセスの向上、加入促進が期待されている。
図表5 GDPに占める生命保険料収入の割合(2021年)/図表6 1人当たりの生命保険料収入(2021年/ドルベース)
 
4 中国人民銀行『中国区域金融運行報告』(地域別)
Xでシェアする Facebookでシェアする

このレポートの関連カテゴリ

保険研究部   主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の社会保障制度・民間保険

経歴
  • 【職歴】
     2005年 ニッセイ基礎研究所(2022年7月より現職)
     (2023年 東京外国語大学大学院総合国際学研究科博士後期課程修了) 【社外委員等】
     ・日本経済団体連合会21世紀政策研究所研究委員
     (2019年度・2020年度・2023年度)
     ・生命保険経営学会 編集委員・海外ニュース委員
     ・千葉大学客員准教授(2023年度~) 【加入団体等】
     日本保険学会、社会政策学会、他
     博士(学術)

(2022年08月16日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【世界における中国生保市場(2021年)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(53)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

世界における中国生保市場(2021年)【アジア・新興国】中国保険市場の最新動向(53)のレポート Topへ