2022年06月07日

欧州大手(再)保険グループが2022年第1四半期業績発表でロシアのウクライナ侵攻による影響を開示

文字サイズ

1―はじめに

欧州大手(再)保険グループが5月に2022年第1四半期業績を公表している。今回の第1四半期業績発表における大きな注目点の1つは、ロシアのウクライナ侵攻に伴う影響等についての開示となる。

欧州の保険会社は、今回のロシアのウクライナ侵攻に伴い、ロシア事業からの撤退や新たなロシアからの保険引受けの停止、新たなロシアへの投資の停止等の内容を公表してきている。また、ロシアにおける保険事業や投資に関するエクスポジャーを開示してきている。

これによれば、欧州の保険会社のロシアにおけるエクスポジャーは、保険事業という面においても、投資先という面においても、一定程度のレベルに収まっており、その意味において、これらのエクスポジャーに伴う各社の財務状況への直接的な影響はそれほど大きなものではなく、管理可能なものだと考えられているようである。

ただし、今回の影響額の開示においては、例えば、S&P Globalが全体で60億ドルから150億ドルに達すると見積もっているロシアに差し押さえられている数百機のリース航空機からの請求については、訴訟の可能性等から、請求の解決に何年もかかることも想定され、最終的な請求額が非常に不確実であるとして、含まれていない。さらには、S&P Globalによれば、航空機保険を含めて、サイバー保険等の特殊保険(スペシャルティ)で160億ドルから350億ドルにも及ぶ請求も見積もられているが、これらに関する損失の想定もサイバー保険における「戦争免責条項」の取扱等に関して、不確実なものとなっていること等から、反映されていないようだ。

加えて、今回のロシアのウクライナ侵攻が、サプライチェーン、エネルギーや資源の供給等に打撃を与えることで、世界経済等に大きな影響を及ぼしていることを通じて、間接的に保険会社の事業等に与える影響等については、いまだ不確実で不透明な要素が大きいものとして、言及されてはいるものの、一定程度の前提等に基づく定量的な評価等の開示は行われていない。

今回のレポートでは、あくまでも、第1四半期の業績発表における欧州大手(再)保険グループによるロシアのウクライナ侵攻による影響等の開示内容に絞って、その概要を報告する。

2―欧州大手保険グループ

2―欧州大手保険グループ

ここでは、欧州大手保険グループとして、グローバルな事業展開を行ってきているAXA、Allianz、Generali及びZurichの状況について報告する。
1|AXA
AXAは、ロシアにあるロシア企業等の所有資産に関連する新しい保険契約の引受及びロシアの保険会社との新しい再保険の引受を中止し、ロシアの資産に新たな投資を行わない、としている。また、2008年当時にロシアで2番目に大きい損害保険会社であったReso Garantiaの36.7%の株式を保有していたが、これについて「運営上又は経営上の管理」を持たず、AXAからの取締役を辞任させるとした。

なお、影響については、「今まで、この危機から報告された請求は重要ではなかった。AXA XLに記載されている航空及び海上のリスクは非常に複雑であり、請求の発生には時間がかかり、ほぼ確実に訴訟の対象となることが予想される。」としている。また「現在の評価と現在の紛争の範囲に基づいて正確なガイダンスを提供するには時期尚早だが、現在、危機による正味引受損失は中規模の自然災害事象に類似していると予想している。」と述べている。

また、AXAは、難民と一般市民を支援するために、ウクライナの非政府組織への600万ユーロ(660万ドル)の寄付を含む人道的イニシアチブを開始したと述べた。

なお、AXAは2月24日の決算発表のアナリストと投資家向けの説明会で、(1)資産側では、ロシアの資産に対する直接のエクスポジーは0.5億ユーロ、Nord Stream 1に対するエクスポジャーが1.44億ユーロで、ウクライナに関しては何もない、(2)保険面では、政治リスク保険を販売しており、ロシアに対するエクスポジャーは1.8億ユーロ、ウクライナに対するエクスポジャーは1.3億ユーロで、その事業は50%再保険されている(即ち、正味のエクスポジャーは半分)、とし、全体的にエクスポジャーはわずかである、と述べていた。また、5月6日の第1四半期発表のアナリストと投資家向けの説明会では、これらの数値に変化はないと述べた。
2|Allianz
Allianzは、ロシアによるウクライナ侵攻後に制裁が課された後、3月に、ロシアでの引受を一時停止すると述べていた。また、ロシアとウクライナの事業は、2021年のグループ営業利益の0.2%で、全体的な投資エクスポジャーは、グループ全体の0.3%であるとしていた。

Allianzは、5月に、ロシアからの完全な撤退を計画しているが、その実現にはプロセスを経る必要がある、と述べた。

なお、Allianzのロシア事業のCEE(中東欧)地域における収益シェアは1%未満でネグリジブルであるとしている。また、ロシア事業の売却に伴うP/Lへの影響は、主として過去からの為替の変化に伴うマイナスのOCI準備金のリサイクリングにより、4憶から5億ユーロとなるが、一方でグループのソルベンシーII比率やキャッシュへの影響は無い、と想定されると述べた。

Allianzは、紛争に起因する請求のために主に信用保険において約1億ユーロ(1億400万ドル)の準備金を計上しているが、多くのラインで戦争によるエクスポジャーは排除していると述べている。

なお、IBNR(既発生未報告備金)のうち、約7500万ユーロは貿易信用エクスポジャー、2000万ユーロはAGCS(Allianz Global Corporate&Specialty)に対するものである。
3|Generali
Generaliは、ロシアとウクライナへのエクスポジャーやそれによる影響等について、プレス資料及びプレゼンテーション資料で詳しく説明している。それによると、以下の通りとなっている。

1.36億ユーロに達するロシアへの投資の減損による影響を受けて、第1四半期の純損益が2021年の8.02億ユーロから2022年には7.27億ユーロに9.3%減少した(この影響がなければ、純損益は8.63億ユーロだった)としている。

またこれらの減損後、Generaliのロシアのエクスポジャーは、ロシアの保険会社のIngosstrakhへの直接投資(38.5%の株式)で1.76億ユーロ(2021年末には3.84億ユーロ)、グループによる直接保有の債券で0.4億ユーロ(2021年末には1.88億ユーロ)になった、としている。

加えて、ロシアとウクライナの間接投資及びユニットリンク投資が、ごくわずかであるが、それぞれ0.43億ユーロ(2021年末は1.11億ユーロ)及び0.34億ユーロ(2021年末は1.17億ユーロ)であった、としている。

さらに、GeneraliのCristiano Borean CFOは、「ウクライナでの紛争の影響を受けた人々の近くに連帯し続け、300万ユーロの緊急寄付と世界的な資金調達キャンペーンにより、彼らを支援する」と述べた。

なお、2022年第1四半期から、(1)ACEER(オーストリア&中東欧)地域は、モスクワ駐在員事務所を閉鎖するというグループの決定に伴い、ACEEに名前が変更され、(2)Ingosstrakhの取締役会の職を辞任し、(3)ロシアでのEurop Assistance事業を終了した、と述べている。
4|Zurich
Zurichの損害保険事業や投資ポートフォリオを通じての、ロシアとウクライナへの直接のエクスポジャーは重要でないと想定されると述べた。

Zurichは、3月に、ロシアでの新規国内顧客の獲得を停止し、既存の現地事業を更新しないと述べていたが、ロシアでの事業は小規模であり、その収益に与える影響は低水準であるとしている。

なお、Zurichは、5月20日に、ロシアでの事業であるZurich Russiaをユニットのチームの11人のメンバーに売却することに合意した、と発表した。これは、関連する規制当局の承認が必要となる。

新しい所有者の下で、事業は別のブランドで独立して運営されるが、Zurichはロシアで事業を行うことはなくなる。この取引により、新会社は、蓄積された保険の専門知識を備えた専門家チームを維持し、ロシア市場にサービスを提供し続けることになる。

Zurich Russiaは、ロシアの損害保険市場の約0.3%を占める損害保険会社で、その主な事業は、Zurichの海外顧客のロシアでの活動を支援することにあった。2021年、Zurich Russiaの総保険料は、国内の顧客からの3百万米ドルを含め、約34百万米ドルだった。

3―欧州大手再保険グループ

3―欧州大手再保険グループ

ここでは、欧州大手再保険グループとして、Munich Re、Swiss Re、Hannover Re及びSCORの状況について報告する。
1|Munich Re
Munich Reは、3月に、ロシアとベラルーシの既存の契約を更新せず、新契約は停止する、と述べていた。さらに、この地域への投資についても同様に取り扱うとした。ただし、Munich Reは、事業の停止が保護を必要とする人々や企業に悪影響を与える場合にのみ、その規則(制裁規則が許可する)に例外を設けると述べた。

なお、Munich Reは、ウクライナに事務所や支店を持たず、ウクライナとロシアで保険事業を行っているのはごくわずかであると述べた。

第1四半期の業績発表において、Christoph Jurecka CFOは、「戦争と制裁の経済的影響は、第1四半期の業績に深刻な影響を及ぼした。ロシアとウクライナの債券の減損損失を評価減し、最初の請求を記録した。」と述べた。具体的には、今年の第1四半期において、いくつかの専門分野で、ロシアとウクライナの戦争に関連して、1億ユーロ(1億600万ドル)をわずかに超える請求支出を報告した。また、債券投資の評価減は、総額7億ユーロ(純額で3.7億ユーロ)だった。

なお、ウクライナでのロシアの侵略戦争の経済的影響に関してはかなりの不確実性がある、とした。
2|Swiss Re
Swiss Reは、3月にロシアとベラルーシの顧客との新契約を、制裁の有無にかかわらず受け入れておらず、ロシアの顧客との既存契約を更新していないと述べた。また、5月には、5月12日にモスクワのオフィスを閉鎖すると発表した。

Swiss Reは、2022年の第1四半期に2億4800万米ドルの純損失を報告したが、これは、ウクライナでの戦争、金融市場のボラティリティの高まり及び進行中のCOVID-19パンデミックの影響を受けたものだとしている。また、ウクライナでの戦争に関連する準備金として2億8,300万ドルを計上した。

投資収益率0.7%は、時価評価損とロシア関連のエクスポジャーのわずかな損失の影響を受けた。

損害保険再保険の純利益は0.85億米ドル(2021年の同時期は4.81億米ドル)で、この結果は、事業の堅調な技術的業績と、低い投資結果や1.54億米ドルのウクライナ戦争に関連した準備金を反映している、とした。

Corporate Solutionsの純利益は0.81億ドル(2021年の同時期は0.96億ドル)で、この堅実な結果は、ウクライナ戦争に関連する1.2億米ドルの準備金(コンバインドレシオに9.3%ポイントの影響)と大幅に低い投資結果にもかかわらず達成された、とした。

Christian Mumenthaler CEOは、「第1四半期は困難なものであることが判明した。ロシアのウクライナ侵攻はショックであり、私たちの考えは影響を受けた全ての人とともにある。状況は依然として非常に不確実であり、私たちが大規模なエクスポジャーを持っているとは思わないが、私たちは戦争からの潜在的な影響に対する準備金を確立するために積極的かつ慎重なアプローチを取ることにした。」と述べた。

なお、Swiss Reは、今回の戦争による請求額は、紛争が長引けば、商品やサービスの不払いをカバーする信用・保証保険を中心に、増加する可能性があるとし、最終的な請求額は小さなカタストロフィーに類似していると想定している、と述べている。
3|Hannover Re
Hannover Reは、第1四半期で、かなりの自然災害の請求、生命と健康の再保険におけるパンデミック関連のさらなる損失、及びウクライナでの戦争から生じる可能性のある損失に対する引当金の追加の強化にもかかわらず、2.64憶ユーロ(2021年の同時期は3.06億米ドル)の純利益を計上し、13.8%減少したが、通年で14億ユーロから15億ユーロの収益予想を引き続き見込んでいる、と述べた。

「ロシアがウクライナとの戦争で解き放った苦しみに私たちは皆愕然としているが、現時点での経済的影響について具体的な数字を示すことはまだ不可能である。」としている。

Hannover Reは、ウクライナでの戦争による損失の可能性に備えて、第1四半期に3桁の低い百万ユーロ(1~1.5億ユーロ)の範囲で追加の一般準備金を設定した。

なお、3月の決算発表の場で、ロシアとベラルーシでの全ての新契約及び更新契約の引受けを保留にしたと述べた。ロシアとウクライナにおけるHannover Reの再保険料の額は、相対的に少なく、それほど重要ではないとし、生命保険分野では旧ソビエト連邦諸国に対する保険料は1百万ユーロ未満であるとした。また、外貨建債券を通じてロシアとウクライナにある程度のエクスポジャーを有し、これにより再保険債務の通貨と期間を一致させているが、そのエクスポジャーは「重要な数値ではない」と述べていた。
4|SCOR
SCOR PO(SCORが所有するロシアの子会社)は新契約の引受を停止している。ウクライナでの紛争に関してSCORが準備金計上された0.85億ユーロにより、四半期純損失は0.8億ユーロになった。これらのネガティブな展開にもかかわらず、グループは2022年第1四半期末に推定240%のソルベンシー比率で十分な資本を維持している。

SCORのDenis Kessler会長は、「不確実性と不安定性は増大している。パンデミックが進行中であり、グローバルな再断片化が加速し、インフレが再び起こって、経済成長が鈍化し、世界は自然災害に見舞われている…私たちの環境はますます確率的かつランダムに見え、世界的な予測可能性は縮小しているようだ。実際、(再)保険業界はますます頻繁なショックと多面的で広範囲にわたる脅威に直面しているように見える。この点で、私たちは『大きな変化』の時代に生きている。・・・」と述べている。

Laurent Rousseau CEOは、「これらの中で、財政的、運営的、そして人間的な観点から、私たちは特にウクライナでの紛争の影響を管理することに焦点を当ててきた。」と述べている。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【欧州大手(再)保険グループが2022年第1四半期業績発表でロシアのウクライナ侵攻による影響を開示】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

欧州大手(再)保険グループが2022年第1四半期業績発表でロシアのウクライナ侵攻による影響を開示のレポート Topへ