2022年04月12日

欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(3)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(資本取引等)-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2021年決算発表に伴い、ソルベンシーII制度に基づく各種数値等が開示されている。

このテーマに関する前々回のレポートでは、欧州大手保険グループのSCR比率の水準等について、全体的な状況を報告し、前回のレポートでは、各社のSCR比率の推移分析や感応度の推移について報告した。今回のレポートでは、ソルベンシー比率に影響を与える資本管理に関係する取引等のトピックについてについて報告する。

2―各社の2021年における資本取引等

2―各社の2021年における資本取引等

各社の2021年における主な資本管理に関係する取引等とその概要について、各社のプレスリリース資料等に基づいて報告する。なお、2022年に入ってからの取引等についても、このレポート作成時点までの情報に基づいて、できる限り反映することとしている。
1|AXA
AXAの2021年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2021年3月31日に、2041年までの10億ユーロの劣後グリーンボンドの発行に成功したことを発表した。

2021年5月31日に、ギリシャの生命保険事業及び損害保険事業をGeneraliへ総額1億6,700万ユーロの現金で売却することを完了したと発表した。

2021年6月22日に、マレーシアでの保険事業をGeneraliに売却する契約を締結したことを発表した。これには、AXA Affin General Insurance(「AAGI」)の49.99%の株式保有、及びAXA Affin Life Insurance(「AALI」)の49%の株式保有が含まれる。契約条件に基づき、AXAはAAGI及びAALIの所有権を6億88百万リンギット(又は1億4百万ユーロ)の現金対価で売却する。

2021年8月16日に、AXA Insurance Pte Ltd(「AXAシンガポール」)をHSBCに総額575百万米ドル(又は487百万ユーロ)の現金対価で売却する契約を締結したことを発表した。

2021年9月7日に、AXA Gulfの50%の株式と、AXA Cooperative Insurance Company(サウジアラビア)の34%の株式を、2億6,400万米ドル(又は2億2,200万ユーロ)の現金でGulf Insurance Groupに売却したことを発表した。

2021年9月8日に、インドの損害保険事業であるBharti AXA General Insurance Company Limited(「Bharti AXA GI」)をICICI Lombard General Insurance Company Limited(「ICICI Lombard」)に統合したことを発表した。

2021年11月4日に、2022年4月末までの、17億ユーロの自社株買戻しプログラムを発表した。なお、これらの買戻し株は全て消却される予定としている。

2021年12月31日に、ベルギーの銀行業務であるAXA Bank BelgiumをCrelan Bank NV/SA(「Crelan」)に691百万ユーロで売却することを完了し、さらに、AXAとCrelanは、2022年1月1日に発効する長期のP&C及び保障保険販売パートナーシップを締結し、AXA Bank BelgiumとAXA Belgiumの間の既存のパートナーシップをCrelanネットワーク全体に拡大すると発表した。この取引の完了により、2021年第4四半期のAXAグループのソルベンシーII比率に4%ポイントのプラスの影響が見込まれるとした。

なお、AXAは2022年に入ってからも、以下のような動きを見せている。

2022年1月6日に、2042年満期の12.5億ユーロの劣後債の発行が成功したことを発表した。この取引は、ソルベンシーIIの下でTier2資本として適格となる。

2022年2月11日に、AXA Insurance Pte Ltd(「AXA Singapore」)のHSBC Insurance(Asia-Pacific)Holdings Ltd (「HSBC」)への現金対価総額5.29億米ドル(4.63億ユーロ)での売却を完了したと発表した。

2022年2月24日に、20220年4月27日までに最大5億ユーロの自社株を買い戻すと公表した。なお、これらの買戻し株は全て消却される予定としている。
2|Allianz
Allianzの2021年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2021年1月28日に、Allianz China Insurance Holdingが、中国で最初の完全に外資系の保険資産運用会社を設立するための承認を受けた。2021年2月5日には、Allianz China LifeがAllianz China Insurance Holdingの完全子会社となることを発表した。

2021年3月4日に、Avivaグループのイタリアの損害保険会社であるAviva Italia S.p.A.を買収することを発表した。なお、この取引は約3.3億ユーロ相当の価値があり、2021年10月1日に完了したと発表された。

2021年3月26日に、Avivaグループから、ポーランドにおける生命保険及び損害保険事業、年金及び資産管理事業を買収し、SantanderとのAvivaの生命保険及び損害保険の合弁事業の51%の株式を取得することに合意したと発表した。これは、25億ユーロに相当する取引である。これによりAllianzは、ポーランドでは、総保険料に基づいて、全体で5番目に大きい保険会社になり、生命保険セグメントで2位に上昇することが見込まれている。また、営業利益の面で中東欧において第2位になることが想定され、中東欧での主導的地位が強化されたと述べている。

2021年4月1日に、AllianzとMonument Reは、ベルギーでのAllianzのクローズド生命保険ポートフォリオの一部の売却を完了したと発表した。

2021年5月4日に、ケニアのJubilee General Insurance Limitedの過半数の株式の取得を完了したと発表した。

2021年7月1日に、Allianz AustraliaがWestpacの損害保険事業を買収する取引を完了し、Westpacの顧客に損害保険商品を販売するための20年間の独占契約を開始したと発表した。

2021年7月30日に、Allianz Insurance Asset Managementが、中国で最初の完全外資系保険資産管理会社になるための承認を受けたと発表した。

2021年8月5日に、Allianz SEが最大7億5000万ユーロの新株買戻しプログラムを決議したと発表した。

2021年9月30日に、Resolution Reが、Allianz Suisse Lifeの個人生命保険商品のレガシーポートフォリオ(準備金で約40億スイスフラン)の市場リスクと保険リスクを引き継ぐ革新的な再保険ソリューションに合意した、と発表した。

2021年10月25日に、Jubilee Insurance Company of Uganda Limitedの過半数の株式の取得を完了したと発表した。なお、この取引は、2020年9月にJubilee Holdings Limited (JHL)と締結した契約の一部である。また、ケニアの取引も完了し、タンザニア、ブルンジ、モーリシャスは、規制当局の承認を条件としてフォローしていくと述べた。

2021年11月17日に、Allianz China Lifeが、合弁会社から発展した中国で最初の100%外資系の生命保険会社になるための規制当局の承認を受けた、と発表した。

2021年11月30日に、2021年3月26日に発表されたポーランドとリトアニアでのAvivaの事業の買収が完了した、と発表した。

2021年12月3日に、米国の固定インデックス年金ポートフォリオ(350億ドルの負債)について、Resolution LifeとSixth Streetの関連会社との再保険契約を締結した、と発表した。この取引により、41億ドルの価値が解き放たれて、Allianzの規制資本が解放される。Allianz Lifeの株主資本利益率は、約6%ポイント改善して約18%になり、グループレベルでは、2021年9月末のプロフォーマベースでAllianzのソルベンシーII比率が約9%ポイント向上して216%になる、と予想されている。この取引は、2022年1月7日に完了したと発表された。

なお、Allianzは2022年に入ってからも、以下のような動きを見せている。

2022年1月4日に、Allianz Franceの貯蓄契約ポートフォリオ(ユニットリンク資産の60%で総額21億ユーロ)をCNP Assurancesに譲渡することを発表した。

2022年2月11日に、European Relianceの72%を2.07億ユーロ相当で取得する株式購入契約を発表した。統合された会社はギリシャでナンバーワンの損害保険会社になる、としている。

2022年2月17日に、最大10億ユーロの新しい株式買戻しプログラムを発表した。

2022年3月24日に、Allianz Ayudhya Capital PCL(AYUD)がAetna Thailandを買収し、タイの保険市場でのプレゼンスをさらに拡大すると発表した。

加えて、これらとは別にAllianz Groupのデジタル投資部門であるAllianz Xは、欧米のフィンテック企業等に積極的に投資を行っている。例えば、2021年9月16日には、28か国で活動する最先端のテクノロジー及びデータ駆動型自動車クレームソリューションプロバイダーであるGT Motiveに投資すると発表した。また、2021年11月9日には、CLARK1 はAllianz Xポートフォリオ企業finanzen Groupを統合し、それによって世界最大の保険会社の1つになると発表した。Allianz Xは現金とCLARKの株式を受け取り、最大の少数株主になる。
 
1 CLARKは、2015年6月に、Christopher Oster博士、Steffen Glomb博士、Marco Adelt博士及びChrisLoddeによって設立された大手保険マネージャーで、顧客に保険契約をデジタルで管理、比較、改善する機会を提供している。
3|Generali
Generaliの2021年における主な資本取引等とその概要は、以下の通りであった。

2021年5月31日に、イタリアの保険会社SOCIETÀCATTOLICA DI ASSICURAZIONE SPAの全株式に対して、公開買付けを開始すると公表した。また、CATTOLICA ASSICURAZIONIの全株式に対して現金による公開買付けを開始すると公表した。Generaliの保険料は、Cattolicaの購入により、58億ユーロが追加され、約760億ユーロとなり、元受保険料で欧州第3の保険会社になる。

2021年5月31日に、AXAグループのギリシャ子会社であるAXA Insurance SAの買収を完了し、Alpha Bankとの20年間の独占販売契約を開始すると発表した。

2021年6月22日に、AXA とAffinの合弁事業の過半数の株式を取得する契約をマレーシアで締結し、MPI Generaliの100%の株式を購入する予定であると発表した。具体的には、(1)GeneraliがMPI Generaliの現在の49%の株式保有を100%に引き上げ、(2)GeneraliがAXA Affin Life Insurance合弁事業の70%(AXAから49%、Affinから21%)の株式を取得し、AXA Affin General Insurance合弁事業の約53%(AXAから49.99%、Affin及びマイノリティから3%)の株式を取得、(3)AXA Affin General InsuranceとMPI Generaliは買収後に合併され、マレーシアを代表する損害保険事業の1つとなり、Generaliが70%の株式を保有、となる。この取引により、Generaliは、潜在力の高い市場でのリーダーシップの地位を強化するという戦略に沿って、マレーシアで第2位の損害保険会社になる。

2021年6月24日に、2032年6月に期限が到来する新しいユーロ建てのTier 2債券(ノート)を、その持続可能性債券フレームワークに従って「持続可能性債券」の形で5億ユーロ発行することを無事完了したと発表した。

2021年9月17日に、SOCIETÀCATTOLICA DI ASSICURAZIONE SPAの支配権の取得及びCFAの第102条第4項に基づくその他の事前セクター承認について、イタリアの監督当局のIVASSから事前承認を受けたと発表した。また、10月21日に、ASSICURAZIONI GENERALI SPA(「買付者」)は、SOCIETÀCATTOLICA DI ASSICURAZIONE SPA(「発行者」)の支配持分の取得について欧州委員会から承認を受けたと発表した。11月4日に、公開買付けの最終結果が発表され、取引が完了したことが報告された。

2021年 11月24日に、GeneraliとCRÉDITAGRICOLEASSURANCESが、Crédit Agricole Assurancesの医療専門家向け保険子会社であるLAMÉDICALEの買収について独占交渉を開始したことが発表された。なお、この取引に関しては、2022年2月1日に買収契約に署名したと発表された。

2021年12月22日に、永久劣後債(元本1.67億ユーロ)に関して早期償還オプション(償還日2022年2月8日)を行使すると発表した。

なお、Generaliは2022年に入ってからも、以下のような動きを見せている。

2022年1月27日に、インドの生命保険会社Future Generali India Insurance Company Limited(FGLI) と 損害保険会社Future Generali India Life Insurance Company Limitedの両方で、最初の国際的プレーヤーとして、インドの保険合弁事業の過半数株主になると発表した。その後3月30日に、関係者からの必要な全ての承認を受けた後、Industrial Investment Trust Limited(IITL)が保有するFGLIの全株式(約16%)の取得と、FGLIの追加株式の引受を完了し、インドの生命保険会社の過半数株主になったと発表した。
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中村 亮一

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