2022年04月05日

欧州大手保険グループの2021年末SCR比率の状況について(2)-ソルベンシーIIに基づく数値結果報告(比率の推移分析と感応度の推移)-

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4|Aviva
Avivaは会社ベースと監督ベースの2つのソルベンシー比率を開示している。

Avivaの以下の数値は、会社の株主ビューによるもので、完全に区分された(ring-fenced)有配当ファンド(2021年末で22億ポンド)、職員年金制度(2021年末で12億ポンド)のSCRと自己資本が除かれている。完全に区分された有配当ファンドと職員年金制度は、SCRを上回るいかなる資本もグループで認識されておらず、ソルベンシーII資本ベースでは自立している。それゆえ、会社の株主ビューは、株主のリスク・エクスポジャーと適格自己資本でSCRをカバーするグループの能力をより適切に表している、としている。
(1)SCR比率の推移
2021年末のSCR比率は、、2020年末の202%から42%ポイント上昇して、244%となった。

この要因については、以下の通りとなっている。

・資本形成や市場・為替により+21%ポイント

・主として子会社(フランス、イタリア、ポーランド、ベトナム)の売却により+41%ポイント

・配当により▲7%ポイント

・債務返済等により▲13%ポイント

SCRは、主として子会社の処分と金利の上昇に伴う様々なリスクへの影響により、2020年末の128億ポンドから37億ポンド減少して、2021年末には91億ポンドになった。
AvivaのSCR比率推移の要因(会社ベース)/Avivaiの自己資本とSCR等の推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、2020年末から2021年末にかけて、主にフランス、イタリア、ポーランドにおける事業を処分したことにより、低下した。なお、2019年末から2020年末にかけて、ヘッジ、資産配分の変更及び社債スプレッド感応度手法の改善により、社債スプレッド感応度が大きく変化したが、2021年末においては、処分された事業体が社債スプレッド拡大に悪影響を受けたのに対し、グループは社債スプレッド縮小に悪影響を受けることを反映して、社債スプレッド拡大の感応度がプラス方向に大きく増加している。また、多くの市場での追加のヘッジとリスク軽減により、株式に対する感応度が低下している。

なお、長寿リスクに対応した、年金死亡率の5%低下による影響が19%ポイントと大きなものとなっている。
Avivaの感応度の推移
(参考)感応度分析の限界
上記の表は、他の仮定は変更されていないが、主要な仮定の変更の影響を示している。実際には、仮定と他の要因の間には相関関係がある。これらの感応度は非線形であり、これらの結果からより大きな又はより小さな影響を内挿又は外挿してはならない。

感応度分析では、グループの資産と負債が積極的に管理されていることは考慮されていない。さらに、グループのソルベンシーIIのポジションは、実際の市場の動きが発生した時点で異なる場合がある。例えば、グループの財務リスク管理戦略は、市場変動へのエクスポージャーを管理することを目的としている。

投資市場が様々なトリガーレベルを超えて移動するにつれて、経営行動には、投資の売却、投資ポートフォリオの割当ての変更、保険契約者にクレジットされる配当の調整及びその他の保護行動の実行が含まれる可能性がある。

上記の感応度分析におけるその他の制限には、確実に予測できない可能性のある短期的な市場の変化に関するグループの見解と、全ての金利が同じように動くという仮定を表すだけの潜在的なリスクを実証するための仮想的な市場の動きの使用が含まれる。
5|Aegon    
(1)SCR比率の推移
Aegonは、上半期と下半期に区分したベースでの分析結果を開示しているので、以下の報告も基本的にはそれに従っている。

(1-1)上半期
2021年上期末におけるSCR比率は、以下の要因により、2020年末の196%から12%ポイント上昇して、208%となった。

・支払経験の改善を含む、強い事業成績を反映した資本形成で+6%ポイント

・好調な株式市場からの市場変動結果とオールタナ及び不動産の強い実績等があったものの、金利の影響による市場の影響等から▲1%ポイント

・モデルと前提の変更は、UFRの引き下げとオランダにおけるモデルの洗練化、米国の前提更新及び英国の法人税率の変化による影響等で+5%ポイント

(1-2)下半期
2021年下半期におけるSCR比率は、以下の要因により、2021年上期末の208%から3%ポイント上昇して211%となった。

・通常の資本形成からの貢献で+8%ポイント

・配当等の資本返済(変動報酬関連の自社株買いを含む)で▲4%ポイント

・NL Lifeに対するより高いLAC DTファクターによるプラスのモデルと前提の変化による影響+4%ポイント

・オランダにおける長寿取引の影響、オランダにおける利益分配関連や米国における一時的要因、永久債の償還等の影響で▲7%ポイント
AegonのSCR比率推移の要因/Aegonの自己資本とSCRの推移の要因
(参考)地域別のソルベンシー比率
地域別のソルベンシー比率は、以下の図表の通りとなっている。

(1) 2021年上半期
・オランダのソルベンシーII比率は、UFR引き下げの影響を受けたが、経営行動やモデル更新や好調な市場の変動により、2020年末に比べて、13%ポイント上昇して172%となった。

・英国のソルベンシーII比率は、法人税率の引き上げによるプラスの影響もあり、2020年末に比べて、7%ポイント上昇して163%となった。

・米国では、中間持株会社への配当支払で▲8%ポイントの影響があったが、好調な株式市場やプライベートエクイティや不動産の再評価等による市場変動のプラスの影響で、2020年末に比べて、12%ポイント上昇して444%となった。なお、米国保険会社のRBC比率のソルベンシーIIへの換算については、毎年見直し、DNB(オランダ中央銀行)の了解を得ているが、2021年上期末の444%はソルベンシーIIでは224%に相当していると報告されている。

(2) 2021年下半期
・オランダのソルベンシーII比率は、172%から186%に11%ポイント上昇した。長寿再保険取引により+15%ポイントの影響があり、その他に営業利益による資本形成や市場やモデルや前提の変更等の影響があった。

・英国のソルベンシーII比率は163%から167%に4%ポイント増加した。営業利益による資本形成に加えて、リスク回避の行動が有利に貢献した一方で、グループへの送金による影響が▲11%ポイントあった。

・米国のRBC比率は、444%から426%に18%ポイント低下した。NAIC規制資本(C1ファクター)の変更による影響が▲10%ポイント、死亡リスクの削減のための行動からの一時的マイナスの影響▲12%ポイント、変額年金に関する経営行動からの影響▲5%未満、営業利益による資本形成やグループへの送金等の影響があった。なお、米国保険会社のRBC比率のソルベンシーII比率への換算については、毎年見直し、DNB(オランダ中央銀行)の了解を得ているが、2021年末の426%は225%に相当していると報告されている。
Aegonの地域別ソルベンシー比率/Aegonの地域別ソルベンシー比率(目標範囲)
(2)感応度の推移
感応度は、基本的には2020年末と大きくは変わっていないが、2019年末から2020年末にかけても大きく低下していた株式市場+25%の影響が、2020年末の+7ptsからさらに低下して+2ptsとなっている。

2016年末から2017年末にかけて、米国事業の転換手法の改正等の影響もあり、金利上昇による感応度が大きく上昇したが、2018年末以降はこの水準は低下している。なお、AegonはVA(ボラティリティ調整)やUFRに対する感応度も示している。

米国信用デフォールトの200bps引き下げによる影響が▲17%ポイントと大きなものとなっている。また、長寿リスクに対応した、年金死亡率の5%低下による影響は▲7%ポイントとなっている。
Aegonの感応度の推移
Aegonは、これらの感応度をグループ全体だけでなく、地域別にも開示しており、さらにはそれらの要因等について、Annual Reportで詳しく説明している。
6|Zurich
Zurichは、ソルベンシーII制度の対象会社ではないが、ソルベンシーIIと同等と考えられているSST(スイス・ソルベンシー・テスト)による数値と社内の経済ソルベンシー比率であるZ-ECM(Zurich Economic Capital Model)を公表してきた。ところが、2020年からはSST比率での開示を中心に据えることに変更している。Zurichによれば、SSTはZ-ECMよりも安定性をもたらし、資本は基本的には同じ方法で管理される。

ZurichのSST比率は、監督当局であるFINMAと合意した内部モデルで算出している。
(1)SST比率の推移
2021年末のSST比率は、以下の要因により、2020年末の182%から、30%ポイントと大きく上昇して、212%となった。

・成長のための増分資本を差し引いた営業資本形成により、+17%ポイント

・金利や市場変動等の市場の影響で+33%ポイント(うち、金利の上昇で+16%ポイント、有利な市場変動で+9%ポイント、為替で+5%ポイント等)

・通常よりも高いレベルの自然災害とCOVID-19損失の影響等で▲3%ポイント

・配当支払や外部資金を差し引いたMetLife U.S. P&C事業の買収等の資本行動で▲19%ポイント

・株式エクスポージャーを削減するためのリスク軽減イニシアティブで+4%ポイント、不利な前提とモデルの更新により▲1%ポイント
Zurichのソルベンシー比率(SST)推移の要因
(2)感応度の推移
感応度については、他社とは異なり、業績表示が米ドル建で行われていることから、米ドルの為替レートの影響を含めてきている。また、SST比率の感応度の最新ベースの公表数値は、2021年第3四半期末のものとなっている。

これによると、過去においては金利や信用スプレッドによる感応度がかなり高いものになっていたが、2020年に比べて2021年の数値はかなり低下している。
SST比率の感応度の推移

3―まとめ

3―まとめ

以上、各社のプレス・リリース資料等に基づいて、欧州大手保険グループの2021年末におけるSCR比率の推移分析や感応度の推移の状況について報告してきた。

2016年1月1日に新たなソルベンシー制度であるソルベンシーIIがスタートして、6 年が経過した。この間、各社は自社の考え方をベースとしつつも、新たなソルベンシー制度に適切に対応すべく、各社各様の方策で各種の対応を行ってきている。

次回のレポートでは、資本管理に関係する取引等のトピックについて報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2022年04月05日「保険・年金フォーカス」)

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