- シンクタンクならニッセイ基礎研究所 >
- 経済 >
- 世界経済 >
- 世界の貧富格差、その現状・特徴と経済成長との関係
2022年03月08日
文字サイズ
- 小
- 中
- 大
1―世界における貧富格差の現状
我々は1割の富裕層が8割の富を所有する世界で暮らしているようだ。フランスの経済学者ルカ・シャンセル氏やトマ・ピケティ氏らの運営する世界不平等研究所(World Inequality Lab)が発表した「世界不平等レポート2022(WorldInequality Report 2022)」によると、世界トップ10%の裕福な家庭が所有する富(Wealth)は成人一人当たり平均550,920ユーロ(日本円に換算すると約7,790万円、€1PPP=JPY141.4)で全体の75.6%を占めている。他方、世界の中央値を下回る50%の貧しい家庭が所有する富は成人一人当たり平均2,908ユーロ(日本円に換算すると約41万円)で全体の2%に過ぎない[図表1]。
なお、世界トップ10%の所得は成人一人当たり平均87,200ユーロ( 日本円に換算すると約1,233万円)であるのに対し、世界ボトム50%の所得は同じく2,800ユーロ(日本円に換算すると約40万円)と31倍の差が生じている。
なお、世界トップ10%の所得は成人一人当たり平均87,200ユーロ( 日本円に換算すると約1,233万円)であるのに対し、世界ボトム50%の所得は同じく2,800ユーロ(日本円に換算すると約40万円)と31倍の差が生じている。
2―日本および関係諸国における貧富格差の現状
世界一の経済大国である米国の状況を見ると、全世帯の富は成人一人当たり平均4,010万円で日本の1.6倍の富を所有している。階層別に見るとボトム50%が日本の0.4倍、ミドル40%が1.2倍、トップ10%が1.9倍、トップ1%が2.2倍となっており、日本に比べて貧富格差が大きいことが分かる。なお、米国のボトム50%の富は中国のそれをやや下回る。
また、世界第2位の経済大国である中国の状況を見ると、全世帯の富は成人一人当たり平均1,217万円で世界全体よりやや多く1.2倍だが、日本の半分(0.5倍)に留まる。階層別に見るとボトム50%が日本の0.5倍、ミドル40%が0.3倍、トップ10%が0.6倍、トップ1%が0.6倍となっており、日本に比べてミドル40%の富の少なさが目立つ。
*1 世界不平等研究所は当該レポートを公表するに当たって、所得と富の不平等に関するデータの利用可能性と質がその国によって異なるとして「不平等透明性指数(Inequality Transparency Index)」というインデックスを掲載している。このインデックスは0から20の範囲で示されており、数値が大きいほど透明度が高いと評価されていることになる。ここで取り上げた4ヵ国については、米国が15.5点、韓国が10.5点、中国が6.5点、日本が6.0点と評価されている。日本の評価が中国より低い点には留意する必要があるだろう。
*2 ミドル40%はトップ10%とボトム50%を除いた残りの中間層のことを指している。
また、世界第2位の経済大国である中国の状況を見ると、全世帯の富は成人一人当たり平均1,217万円で世界全体よりやや多く1.2倍だが、日本の半分(0.5倍)に留まる。階層別に見るとボトム50%が日本の0.5倍、ミドル40%が0.3倍、トップ10%が0.6倍、トップ1%が0.6倍となっており、日本に比べてミドル40%の富の少なさが目立つ。
*1 世界不平等研究所は当該レポートを公表するに当たって、所得と富の不平等に関するデータの利用可能性と質がその国によって異なるとして「不平等透明性指数(Inequality Transparency Index)」というインデックスを掲載している。このインデックスは0から20の範囲で示されており、数値が大きいほど透明度が高いと評価されていることになる。ここで取り上げた4ヵ国については、米国が15.5点、韓国が10.5点、中国が6.5点、日本が6.0点と評価されている。日本の評価が中国より低い点には留意する必要があるだろう。
*2 ミドル40%はトップ10%とボトム50%を除いた残りの中間層のことを指している。
3―所得格差・水準と貧富格差
ここで貧富格差と所得格差の関係を見ておこう。貧富の格差が生じる背景には所得の格差があると考えられるからだ。貧富格差の代表指標としてトップ10%が所有する富のシェアを取り、所得格差の代表指標としてトップ10%が得ている所得のシェアを取って、経済規模が大きいG20諸国の状況をマトリックスにして見ると[図表3]、所得格差と貧富格差の関係は正比例であることが分かる。但し、フランスとイタリアでは所得格差が同水準なのに貧富格差はフランスの方が大きく、米国と日本でも所得格差が同水準なのに貧富格差は米国の方が大きい。また、日本とドイツでは貧富格差が同水準なのに所得格差は日本の方が大きいなどの違いが生じている。分配の在り方に対する国民の意識や政策スタンスの違いを反映しているのだろう。
次に、貧富格差と所得水準の関係を見てみよう。「衣食足りて礼節を知る」と言われるように所得水準が高くなれば貧しい人を救う余裕が生じ、分配などを通じて貧富格差を縮めようとする力が働くと考えられるからだ。貧富格差の代表指標としては図表3と同じトップ10%が所有する富のシェアを取り、所得水準の代表指標としては一人当たりGDPを取って、同様のマトリックスを作成して見ると[図表4]、所得水準と貧富格差には緩やかな反比例の関係が認められる。しかし、一人当たりGDPが1万ドル以下の新興国を見ると、メキシコとアルゼンチンでは所得水準が同程度なのに貧富格差はメキシコの方が圧倒的に大きいなどバラツキが目立ち、貧富格差に関するスタンスは国によって大きく異なるようだ。また、米国の所得水準は中国の6倍前後に達しているのに、両国の貧富格差は同程度であるなど、傾向ラインから大きく乖離した例外国も散見される。
4―貧富格差と経済成長
この超過成長率を経済成長の代表指標に取り、貧富格差の代表指標としては図表3、4、5と同様にトップ10%が所有する富のシェアを取って、G20諸国のマトリックスを作成したのが図表7である。これを見ると、貧富格差と超過成長率との関係は“逆スマイルカーブ”を描いている。すなわち貧富格差が大きい国では超過成長率がマイナスになることが多い一方、貧富格差が小さい国でも超過成長率がマイナスになることが多く、その中間に位置する国の超過成長率が最も高くなる傾向が見られる。貧富の格差が小さ過ぎれば人々は努力しても報われないと感じ、貧富の格差が大き過ぎれば人々の間に不公平感が高まって社会の分断を招くからだと筆者は考えている。
経済成長を極大化することが必ずしも国民の総幸福を高めるとは限らないとはいえ、分配と成長のバランスを考える上では興味深い事実である。
経済成長を極大化することが必ずしも国民の総幸福を高めるとは限らないとはいえ、分配と成長のバランスを考える上では興味深い事実である。
(2022年03月08日「基礎研マンスリー」)
三尾 幸吉郎
三尾 幸吉郎のレポート
日付 | タイトル | 執筆者 | 媒体 |
---|---|---|---|
2024/12/16 | 図表でみる世界のGDP-日本が置かれている現状と世界のトレンド | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
2024/07/30 | 図表でみる世界の人口ピラミッド | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レター |
2024/04/05 | 不動産バブルの日中比較と中国経済の展望 | 三尾 幸吉郎 | 基礎研マンスリー |
2024/03/11 | Comparison of Real Estate Bubbles in China and Japan, and Prospects for the Chinese Economy | 三尾 幸吉郎 | 基礎研レポート |
新着記事
-
2025年03月26日
語られる空き家、照らされる人生-物語がもたらす価値の連鎖- -
2025年03月26日
決済デジタル化は経済成長につながったのか-デジタル決済がもたらす新たな競争環境と需要創出への道筋 -
2025年03月26日
インバウンド市場の現状と展望~コスパ重視の旅行トレンドを背景に高まる日本の観光競争力 -
2025年03月25日
ますます拡大する日本の死亡保障不足-「2024(令和6)年度 生命保険に関する全国実態調査<速報版>」より- -
2025年03月25日
米国で広がる“出社義務化”の動きと日本企業の針路~人的資本経営の視点から~
レポート紹介
-
研究領域
-
経済
-
金融・為替
-
資産運用・資産形成
-
年金
-
社会保障制度
-
保険
-
不動産
-
経営・ビジネス
-
暮らし
-
ジェロントロジー(高齢社会総合研究)
-
医療・介護・健康・ヘルスケア
-
政策提言
-
-
注目テーマ・キーワード
-
統計・指標・重要イベント
-
媒体
- アクセスランキング
お知らせ
-
2024年11月27日
News Release
-
2024年07月01日
News Release
-
2024年04月02日
News Release
【世界の貧富格差、その現状・特徴と経済成長との関係】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。
世界の貧富格差、その現状・特徴と経済成長との関係のレポート Topへ