2021年12月27日

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1―はじめに

IAIS(保険監督者国際機構)は、毎年GIMAR(Global Insurance Market Report:グローバル保険市場レポート)を公表しているが、2021年11月30日に、2020年のデータに基づく2021GIMARを公表している1

今回のレポートでは、この2021GIMARの概要を、主としてIAISのプレスリリース資料2とGIMARのエグゼクチィブ・サマリーの記載内容からの抜粋に基づいて報告する。

2―GIMARについて

2―GIMARについて

1|GIMARについて
GIMARは、(再)保険業界に関連する進展を評価し、IAISメンバー、ステークホルダー及び利害関係者の間での認識を促進するための業界の主要なリスクと脆弱性を特定している。

2020年から、GIMARは、IAISのグローバルモニタリングエクササイズ(GME)の結果を報告するように調整されている。なお、GMEは、世界の保険市場の動向と進展を評価し、世界の保険セクターにおけるシステミックリスクの蓄積の可能性を検出することを目的としており、保険セクターのシステミックリスクの評価と軽減のためのIAISの包括的枠組み(ホリスティックフレームワーク)の一部となっている。

2|2021 GIMARについて
今回のレポートは、第9回目のGIMARに相当している。

今回のGIMARは、COVID-19が世界の保険セクターに与える影響に関するIAISの対象を絞った評価からの最新の調査結果、潜在的なシステミックリスクの初めての完全なGMEの結果、及びグローバル再保険市場分析の主なハイライトをカバーしている。

3|Vicky Saporta会長の発言
今回の報告に関して、IAIS執行委員会のVicky Saporta会長は、次のように述べている。

「GMEを通じて、IAISは世界の保険市場の動向と動向を監視し、システミックリスクの蓄積の可能性を検出し、セクター及び個人の保険会社レベルでの適切な監督者の対応についての集合的な議論を促進する。」

「過去2年間に収集されたデータは、世界の保険セクターが財政的にも運営的にも回復力を維持していることを示している。それでも、このセクターはその活動に対するマクロ経済リスクに直面し続けており、そのうちの3つ、(1)低利回り環境とそれに関連する保険会社のプライベートエクイティ所有の増加傾向、(2)信用リスクの増加、(3)サイバーリスクの高まり、に焦点を当てた。」

3―2021GIMARの概要

3―2021GIMARの概要

1|今年のGMEについて
COVID-19が世界の保険セクターに与える影響に昨年より的を絞った焦点を当てた後、今年のGMEは、2019年に採用されたIAISのシステミックリスクの包括的枠組み内で最初に設計されたように、潜在的なシステミックリスクにさらに焦点を当てている。包括的枠組みは、グローバル保険セクターのシステミックリスクは、個々の保険会社の苦境や無秩序な失敗だけでなく、セクター全体のレベルでの保険会社の集団的なエクスポジャーと活動からも発生する可能性があることを認識している。

GMEは、約60のグローバル保険会社からのデータをカバーし、世界中の18カ国で27の監督当局からのセクター全体のデータを集約しているが、これらは世界の収入保険料の90%以上をカバーしている。GMEは、保険セクターのシステミックリスクを軽減するための監督上の対応の国際的な調整が証拠に基づいていることを保証するのに役立つ。

2|GMEの結果
前例のない財政及び金融刺激策に支えられた2020年下半期の金融市場の好調な業績により、保険会社のソルベンシー比率は2020年第2四半期と比較して2020年末に引き続き改善し、2019年末の水準に近付いた。全ての報告会社のソルベンシー比率が100%を超えているが、状況は会社によって異なっている。また大多数の参加保険会社のソルベンシー比率は、2019年末の水準を下回ったままだった。

今後も、COVID-19のパンデミックの継続期間と影響に関する不確実性、及び政府と中央銀行の支援措置の解消のタイミングにより、脆弱性が残るとしている。

流動性ポジションは総じて安定的に推移した。保険会社は、パンデミックに対応するため、株主配当や自社株買いの削減、ソルベンシーや流動性モニタリングの強化、債券発行、子会社間のソルベンシーや流動性を支援するための措置等、いくつかの措置を引き続き実施している。また、生命保険セクターは、主に殆どの地域で金利低下の影響を受け、負債の増加や収入の減少による収益の減少、再投資リスクの増大等の影響を受けた、としている。

なお、今年初めて、2年間のデータをカバーする通常のGMEが完成している。IAISは、GMEの結果について、個別の保険会社の定義された範囲と、監督上の優先事項として特定された3つのセクター全体のマクロプルーデンスのテーマ、 (1)低利回り環境とプライベートエクイティの所有、(2)信用リスク、(3)サイバーリスク、に基づいて、集団的な議論を行っている。

4―2021GIMARの具体的内容

4―2021GIMARの具体的内容-3つのマクロプルーデンスのテーマ及び再保険市場-

ここでは、3つのマクロプルーデンスのテーマ及び再保険市場について、GIMARのエグゼクチィブ・サマリーからの記載を紹介する。なお、「低金利環境とプライベートエクイティの所有」のテーマについては、具体的な数値等を含めて、レポート本体からの記載内容を抜粋してより詳しく紹介する。

1|低金利環境とプライベートエクイティ(PE)の所有
低金利環境に対応して、保険会社はビジネスモデルを変更しており、特に、生命保険会社は、商品構成の変更を実施し、保証利率を引き下げ、ユニットリンク型契約にシフトしている。

これに関連して、PE業界は、ファンドの提供に着実な資本流入を求めているため、生命保険事業の買収を進めてきている。

(1)テーマを巡る状況
COVID-19は前例のない金融政策介入を実施し、さらに金利を引き下げたが、これにより、保険会社に対して、直接的影響(例えば、収益性への負担)と潜在的な間接的影響(例えば、利回りの追求や生命保険商品の提供の変更、生命保険ポートフォリオのランオフ、(再)保険事業の一部の移転等によるビジネスモデルの変更等の関連する経営活動から)の両方をもたらしている。

関連して、特定の管轄区域における新たな傾向として、生命(再)保険資産の取得に対するPE業界の関心の高まりがあり、過去10年間、PE企業は、既存のポートフォリオやファンドの提供を補完するための恒久的な資本手段を求める中で、生命保険M&Aに積極的に参加してきており、この傾向は過去2年間でかなり加速している。

PEが保有する生命保険会社は、通常、複雑なグループ構造を有しており、保険契約者を金銭的損失に対してより脆弱にするリスクを負う可能性がある等の潜在的リスクが指摘されている。

(2)監督上の評価
監督当局は、低金利を保険会社の収益性及びソルベンシーに重大な影響を与える要因として評価している。

主な傾向として、平均保証利率の低下を上回る資産と資本の収益率の低下が挙げられている。具体的には、2020年の平均保証利率(Average Guaranteed rate)は、世界で2.57%となり、2019年に比べて3%低下しているが、資産収益率(Return on Assets)は0.8%で、2019年に比べて19.3%低下、資本収益率(Return on Equity)は7.52%で、2019年に比べて15.54%低下している。なお、レポートは地域別のグラフを掲載しているが、平均保証利率の低下率はアジアが9%で最大である一方で、欧州&アフリカは1%にとどまっているのに対して、各収益率の低下率は欧州&アフリカが30%を超えて最大となっている。

資産面では、一般的にはリスク・テイクの大幅な増加は見られていないが、全体としては、インフラ投資や不動産投資等へのシフトや主にヘッジ目的での金利デリバティブの増加が見られている。

負債面では、割引率の低下による負債の増加に加えて、新契約件数の減少や、伝統的な生命保険商品の解約・失効等の消滅が増加した。

(3)保険会社の対応
生命保険会社は、商品構成の変更を実施し、バイオメトリックリスクやユニットリンク契約等の資本性の低い商品にシフトしている。監督当局は、金利保証付商品の範囲が保険会社によって大幅に縮小されたとみている。一部の地域では、保険会社が年金等の長期商品や保証付契約の引き受けを取りやめ、既存事業を清算(ランオフ)している。

その他のビジネスモデルの変更として、1) 既存契約の価格再設定、2) 契約者・株主への利益還元の引き下げ、3) 手数料ビジネスの拡大、4) M&Aによるセクター統合の増加、が挙げられている。

また、低金利環境へのその他の対応策として、1) 金利動向とそれらが投資ポートフォリオ、保険商品の構成、デュレーション・ギャップ、キャッシュフロー・ギャップに与える影響のより詳細なモニタリング、2) 資産配分の見直し、3) 資本注入や(例えば、長期負債の金利感応度低下のための)再保険の増加、グループ内保証の発行等のソルベンシー対策、4) コスト削減やさらなるアウトソーシングやデジタル化、(健康保険等の)責任準備金積立割引率の調整等の収益対策、が挙げられている。

(4)監督当局の対応
主な措置としては、1) (月次インタビューのような)取締役会及び上級管理職との定期的な監督エンゲージメントを含む、このテーマに関する監督上の対話の強化、2) オルタナティブ投資の詳細情報を含めるための監督上の報告の更新、3) オンサイトレビュー(特に、責任準備金の十分性、ALM管理のレビュー、バランスシートの市場リスクへのエクスポジャーの評価等)、4) PEが所有する保険会社を特定し、これらの保険会社の投資運用報酬と複雑な所有構造を監視するために、ストックテイクの実施、5) 四半期モニタリングエクササイズ(金利モデル化の前提条件と準備金強化の変化の評価、リスク負担の増加と期間ミスマッチのレベルに特に注意を払った投資配分の見直し、(利回りを向上させるための潜在的な戦略としての)収益パフォーマンスの評価とレバレッジの活用)、6) ストレステストと感応度分析(金利がソルベンシーや収益性に与える影響、低金利が流動性に与える影響を評価するための流動性ストレステスト、ダイナミックヘッジ・モデリングの前提条件の見直し)、7) 低金利が投資や資本政策に与える影響に関するテーマ別研究、8) 低金利環境に係る配当政策の評価、9) 保険契約者の利益を確保しつつ、革新的な商品開発の促進、が挙げられている。

その他に、追加金利準備金積立、生命保険の最高保証利率の上限設定や金利リスクをよりよく捕捉するためのソルベンシー・フレームワークの更新、等の項目が規制の重点分野として挙げられている。

パンデミックにもかかわらず継続している低金利環境は、保険会社に対して、直接的影響(例えば、収益性への負担)と、潜在的な間接的影響(例えば、生命保険商品の提供を変更したり、生命保険ポートフォリオをランオフさせたり、(再)保険事業の一部を移転させたりすることによって、利回りへのリーチやビジネスモデルの変更等の関連する経営活動から)をもたらしている。関連して、生命(再) 保険資産の取得に対するPE業界の関心の高まりは、一部の国で新たな傾向として認識されている。

監督当局は、保険会社にとって、保証付生命保険商品に見合う十分な利回りの資産を見つけ、著しく高いリスクを負わずに資産と負債の整合性を維持することが課題であると指摘する。

監督上の対応に関して、主な監督要素は、強化された監督上の対話、監督上の報告の更新、オンサイトレビュー、四半期ごとのモニタリングエクササイズ、ストレステスト及び感応度分析からなる。

規制措置は、追加金利準備金積立、最高保証金利の上限設定、保険契約者の解約及び/又は税金のペナルティ導入、利益分配規制の変更等に関するものである。

PEの所有については、監督当局はその影響を十分に評価し続けている。ある当局は、PEが保有する保険会社は、私募債やプライベートラベル資産担保証券(特にローン担保証券(CLO))へのエクスポジャーが増加する等、固有のリスクを有している可能性があることを認めている。また、別の当局は、PE所有は、PE所有企業が提供する投資の専門知識等の相乗効果をもたらす可能性があると指摘し、PE所有企業が保険業界の他の場所で発生しているPE所有企業と関連しているとされる信用の質の低下という同じ傾向を観察したことを示している。

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中村 亮一

研究・専門分野

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【IAISが2021GIMAR(グローバル保険市場レポート)を公表】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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