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2021年11月16日
インドの生命保険会社の状況-2020年度の決算数値を踏まえての成長性・効率性・収益性・健全性等の動向-
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以上のように、予定死亡率については、各社の経験データ等に基づいて、対象とする市場における経験発生率の状況等も勘案する中で、各社が合理的・妥当と考える水準に設定されてきている。
4 生命保険会社24社の調査機関(2012年4月1日~2014年3月31日)のデータに基づいて作成された。標準表は、有診査の男性被保険者の2年以上の段階的終局死亡率で構成されている。なお、2019年4月1日より適用されている。
4 生命保険会社24社の調査機関(2012年4月1日~2014年3月31日)のデータに基づいて作成された。標準表は、有診査の男性被保険者の2年以上の段階的終局死亡率で構成されている。なお、2019年4月1日より適用されている。
なお、LICのソルベンシー比率は安定的に推移してきたが、2020年度は1.76と2019年度に比べて0.21上昇している。一方で、民間の5社は、規模の拡大に合わせて、基本的には絶対水準は低下傾向にある。ただし、2020年度は民間3社のソルベンシー比率も上昇している。
3|剰余の分配(契約者配当)の状況
保険契約者に対する配当としては、保険金増額式配当(Reversionary Bonus)と消滅時配当(Terminal Bonus)がある。このうち、例えば、2020年度決算に基づいて、2021年度に割り当てられる、2020年度の保険金増額式配当率については、次ページの図表の通りとなっている。
2016年度から2017年度にかけては、ICICI Prudential、HFDC Standard及びBajaj Allianzが配当率の一部引き下げを行ったが、他社は2016年度と同水準となっていた。2017年度から2018年度にかけては、HFDC Standard、SBI Life及びBajaj Allianzが配当率の一部を変更した。2019年度は、LIC、SBI Life及びBajaj Allianzが変更を行ったが、2020年度は、ICICI PrudentialとSBI Lifeが水準引き上げを行っている。
なお、LICの養老保険や終身保険の場合、2018年度までの8年間の配当率は同水準であり、安定的な配当が行われてきていたが、2019年度に終身保険の配当率を引き下げている。
保険契約者に対する配当としては、保険金増額式配当(Reversionary Bonus)と消滅時配当(Terminal Bonus)がある。このうち、例えば、2020年度決算に基づいて、2021年度に割り当てられる、2020年度の保険金増額式配当率については、次ページの図表の通りとなっている。
2016年度から2017年度にかけては、ICICI Prudential、HFDC Standard及びBajaj Allianzが配当率の一部引き下げを行ったが、他社は2016年度と同水準となっていた。2017年度から2018年度にかけては、HFDC Standard、SBI Life及びBajaj Allianzが配当率の一部を変更した。2019年度は、LIC、SBI Life及びBajaj Allianzが変更を行ったが、2020年度は、ICICI PrudentialとSBI Lifeが水準引き上げを行っている。
なお、LICの養老保険や終身保険の場合、2018年度までの8年間の配当率は同水準であり、安定的な配当が行われてきていたが、2019年度に終身保険の配当率を引き下げている。
(参考)EV(Embedded Value)の公表
EVについては、大手の生命保険会社が公表している。算出方式は、ICICI PrudentialとSBI LifeがIEV(Indian Embedded Value)という方式で、HDFC Standard等がMCEV(市場整合的EV)となっている。 ここで、IEV(Indian Embedded Value)というのは、インド・アクチュアリー会が作成しているアクチュアリー実務基準に基づいており、基本的には資産と負債の市場整合的な評価を行うMCEVと調和している方式である。
EVや新契約マージンは、会社の成長性や収益性を示す1つの指標となっている。
これによれば、各社の2020年度の新契約マージンは20%~26%の範囲にあり、2019年度に比べて各社とも水準を上げている。このように、引き続き新契約における高い収益性を確保している。
EVについては、2015年度に増加率が低下していたが、2016年度から2020年度においては各社とも、Bajaj Allianzを除けば、毎年2桁近い進展を見せており、会社の価値を着実に高めてきている。
EVについては、大手の生命保険会社が公表している。算出方式は、ICICI PrudentialとSBI LifeがIEV(Indian Embedded Value)という方式で、HDFC Standard等がMCEV(市場整合的EV)となっている。 ここで、IEV(Indian Embedded Value)というのは、インド・アクチュアリー会が作成しているアクチュアリー実務基準に基づいており、基本的には資産と負債の市場整合的な評価を行うMCEVと調和している方式である。
EVや新契約マージンは、会社の成長性や収益性を示す1つの指標となっている。
これによれば、各社の2020年度の新契約マージンは20%~26%の範囲にあり、2019年度に比べて各社とも水準を上げている。このように、引き続き新契約における高い収益性を確保している。
EVについては、2015年度に増加率が低下していたが、2016年度から2020年度においては各社とも、Bajaj Allianzを除けば、毎年2桁近い進展を見せており、会社の価値を着実に高めてきている。
6―新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大による影響
インドは、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大による影響を大きく受けている。
ジョンズ・ホプキンス大学の発表データによれば、2021年3月末の時点で、インドにおけるCOVID-19による感染者数と死亡者数はそれぞれ、約1,214万人、約16万人であったが、その後の2021年4月から6月にかけての第2波の到来により、感染者数と死亡者数は大幅に増加して、10月末時点ではそれぞれ、約3,427万人、約46万人となっている。これにより、保険会社の収支等への影響も懸念されるところとなっている。ただし、これらの実数を人口比で他の国々との比較でみてみると、欧米諸国に比べて高いわけではなく、COVID-19による相対的な影響度合いは、少なくともこれらの発表数値に基づけば、必ずしも高くないことがわかる。
ジョンズ・ホプキンス大学の発表データによれば、2021年3月末の時点で、インドにおけるCOVID-19による感染者数と死亡者数はそれぞれ、約1,214万人、約16万人であったが、その後の2021年4月から6月にかけての第2波の到来により、感染者数と死亡者数は大幅に増加して、10月末時点ではそれぞれ、約3,427万人、約46万人となっている。これにより、保険会社の収支等への影響も懸念されるところとなっている。ただし、これらの実数を人口比で他の国々との比較でみてみると、欧米諸国に比べて高いわけではなく、COVID-19による相対的な影響度合いは、少なくともこれらの発表数値に基づけば、必ずしも高くないことがわかる。
さらに、インドではいまだ生命保険の普及率がそれほど高くなく、その普及も大都市圏や準都市部が中心になってきたことから、実際の死亡者数に対して、生命保険会社への死亡保険金の請求件数はその1割程度にとどまっているようである。ただし、団体定期保険等では保険金の請求が大幅に増加し、保険料率の見直しにつながってきているケースもあるようである。
一方で、健康保険会社や損害保険会社に対する医療保険金の請求に関しては、2020年においては、当初はロックダウンにより入院等が延期されていたことの影響で請求が大幅に減少していたこともあり、2020年度年間での影響は相対的に抑制されていた。ただし、2021年度に入ってからの第2波の到来により、その後の入院に伴う医療保険金の請求が大幅に増加しており、2021年度においては、2020年度に比べて、より大きな影響が想定されている。
新型コロナウイルス(COVID-19)の発生時に、金融市場が混乱したことにより、生命保険会社も大きな影響を受けたが、その後は各種の政策措置の発動によって、金融市場は落ち着きを取り戻した。一方で、インドの感染者数の動向は、引き続き不透明であり、さらには3000万人を超える感染者の今後の健康状態等、これらが今後の死亡率や罹患率に与える影響については、引き続き不確実性が高いと考えられている。
一方で、健康保険会社や損害保険会社に対する医療保険金の請求に関しては、2020年においては、当初はロックダウンにより入院等が延期されていたことの影響で請求が大幅に減少していたこともあり、2020年度年間での影響は相対的に抑制されていた。ただし、2021年度に入ってからの第2波の到来により、その後の入院に伴う医療保険金の請求が大幅に増加しており、2021年度においては、2020年度に比べて、より大きな影響が想定されている。
新型コロナウイルス(COVID-19)の発生時に、金融市場が混乱したことにより、生命保険会社も大きな影響を受けたが、その後は各種の政策措置の発動によって、金融市場は落ち着きを取り戻した。一方で、インドの感染者数の動向は、引き続き不透明であり、さらには3000万人を超える感染者の今後の健康状態等、これらが今後の死亡率や罹患率に与える影響については、引き続き不確実性が高いと考えられている。
7―まとめ
以上ここまで、2020年度決算に関する各社のPublic Disclosures資料等に基づいて、インドの生命保険業界の主要各社の成長性・効率性・収益性・健全性等の状況及び新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大による影響について報告してきた。
インドの生命保険市場は、大きな潜在力を有し、今後さらなる成長が期待できる市場であるが、市場の変化に対応して、これまで、各種の保険監督規制の改革等が行われてきている。こうした環境下で、生命保険会社は、商品開発とチャネルの改革、リスク管理体制の充実等の課題に取り組み、経営効率化を進めてきている。
成長性が高く、健全性を維持しつつ、一定の収益性が期待できる市場だからこそ、日本の保険会社も含めて、欧米の主要保険グループが、この市場に魅力を感じて、外資規制の緩和等に対して積極的に注力してきている。
なお、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大による生命保険会社への影響については、2020年度の最終的な決算数値だけでみれば、それほど大きなものとはなっていないようであるが、先に述べたように2021年度への影響は引き続き不確実なものと想定されている。
こうした点も含めたインドにおける生命保険各社の状況については引き続き注視していくこととしたい。
インドの生命保険市場は、大きな潜在力を有し、今後さらなる成長が期待できる市場であるが、市場の変化に対応して、これまで、各種の保険監督規制の改革等が行われてきている。こうした環境下で、生命保険会社は、商品開発とチャネルの改革、リスク管理体制の充実等の課題に取り組み、経営効率化を進めてきている。
成長性が高く、健全性を維持しつつ、一定の収益性が期待できる市場だからこそ、日本の保険会社も含めて、欧米の主要保険グループが、この市場に魅力を感じて、外資規制の緩和等に対して積極的に注力してきている。
なお、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大による生命保険会社への影響については、2020年度の最終的な決算数値だけでみれば、それほど大きなものとはなっていないようであるが、先に述べたように2021年度への影響は引き続き不確実なものと想定されている。
こうした点も含めたインドにおける生命保険各社の状況については引き続き注視していくこととしたい。
(2021年11月16日「保険・年金フォーカス」)
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