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ドイツの生命保険監督を巡る動向(2)-BaFinの2020年Annual Reportより(生命保険会社の監督及び業績等の状況)-
中村 亮一
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2020年12月31日現在、中間報告の対象となる生命保険会社のSCRは、前年末の347億ユーロに対し、408億ユーロに増加した。総基本SCRで測定した場合、2019年に中間報告義務の対象となった標準式を適用した会社の資本要件の平均72%は、市場リスクに起因していた(分散効果を除く)。さらに、保険引受に関連するSCRの重要な部分は、生命(30%)及び健康(26%)保険の引受けリスクであった。対照的に、カウンターパーティデフォルトリスク(2%)の重要性は比較的低かった。総基本SCRを下げる分散効果がまだ含まれていないため、引用したパーセンテージは100%を上回る。分散効果は28%に達した。
カバーすることが要求されるSCRは、その他の変数を考慮して、総基本SCRに基づいて計算される。これに関連して、技術的準備金(72%)及び繰延税金の損失吸収効果(9%)が減少し、オペレーショナルリスク(3%)はわずかに増加した。
中間報告の対象となる生命保険会社のSCR適格自己資本は、2020年12月31日現在で1,460億ユーロに達した。自己資本の98%が基本自己資本により計上され、補助自己資金によるものは2%だった。適格自己資本の96%は、最も高いクラスの自己資本(Tier 1)に帰属し、残りの大部分は2番目に高いクラス(Tier 2)に帰属していた。平均して、調整準備金は業界の自己資本の67%を占め、剰余金は25%を占めた。報告日のその他の注目すべき構成要素は、発行プレミアムを含む株主資本(3%)及び劣後債務(2%)だった。
移行措置を適用し、その措置なしではSCRを十分にカバーできない会社は、保険監督法第353条第2項に従って改善計画を提出しなければならない。計画では、遅くとも2031年12月31日の移行期間末日までに、十分な自己資本を創出し、又はリスク・プロファイルを低減するために計画された措置を段階的に導入し、移行措置を用いずにソルベンシー資本要件を遵守することを確保しなければならない。
報告日において、2019年と同じ26の生命保険会社が、移行措置なしでは適切なSCRのカバレッジを保証することができなかったため、改善計画を提出する必要があった。BaFinは、SCRが遅くとも移行期間終了後に、長期的に遵守されることを確実にするために、これらの会社に密接に関与している。関連する会社は、移行措置を適用しないで適切なSCRカバレッジを回復したとしても、当該措置によって達成された進捗状況について年次進捗報告書において意見を述べることが求められる。
殆どの生命保険会社は、低水準の金利の継続を考慮して、2021年の裁量配当の2020年レベルを適度に引き下げている。養老保険の市場で利用可能なタリフの現在のトータルリターン、つまり保証された技術的金利と利子剰余の合計は、セクター全体で平均2.0%であり、 2020年の2.2%から減少した。なお、2019年は2.3%だった。
2011年以降、生命保険会社は、将来の投資収益の減少と、高額のままである保証義務に備えるために、追加責任準備金(Zinszusatzreserve:ZZR)を構築する必要がある。2020年のこの費用は104億ユーロを超えた。2020年末の累積ZZRは、859億ユーロ(2019年末は752億ユーロ)に達した。 ZZRの計算に使用された参照金利は、2020年末の時点で1.73 %(2019年末では1.92%)だった。
現在の金利環境において、生命保険会社にとっては、既存契約からの高い保証金利が課題となっている。そのため、新契約における貢献度や効果を算出する際には、こうしたリスクを回避する必要がある。
BaFinは2020年に、金利リスクが新契約にどの程度含まれているかを調査した。長期貯蓄商品は、保険契約期間中に支払われる保険料で測定して、新契約の75.7%を占めている。このうち年金保険の割合が最も高い(90.9%)。このうち12.6%は無利子のユニットリンク型年金保険に、40.4%は従来型とユニットリンク型の混合型年金保険に投資された。2024年までに、年金保険新契約におけるハイブリッド商品のシェアはほぼ50%まで拡大すると予想されている。
全ての生命保険会社で保証されている全ての貯蓄商品の据置期間中の保証金利の中央値は0.68%であった。支払段階では0.77%だった。
2020年第2四半期に保険料免除の増加が見られる。同様に、新契約数も減少した。同様の影響は2020年の残りの四半期では観察されなかった。
これとは対照的に、COVID-19のパンデミックが生命保険会社によって拡大された給付に及ぼす重大な影響は、これまで観察されていない。
5―「V.BaFinについて」より
COVID-19
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)中にBaFinが行った監督体制の変更についても、多くの問い合わせが寄せられた。BaFinの利益配分に関するスタンスが特にジャーナリストの関心を呼んだ。しかし、カウンターシクリカルな資本バッファーや事業中断保険の損失補填に関する問い合わせも多く寄せられた。
持続的な低金利
低金利が続いていることから、マスコミは2020年において生命保険会社と年金基金(Pensionskassen)の状況を詳細に調べ続けた。ジャーナリストは、特に監督の強化に関して、会社の財務状況と、計画された、あるいは既に取られた監督措置に関心を持った。また、生保の新契約における技術的金利や保険料保証の将来についても、数多くの問い合わせが寄せられている。低金利環境下にある銀行の状況も多くの照会の項目となった。例えば、ジャーナリストたちは、低金利が銀行の経済的地位にどのような影響を与えているか、そして銀行がこれにどのように反応しているかに関心を持っていた。
ソルベンシーII
メディアの関心を集めたもう一つの話題は、欧州のソルベンシーII制度の継続的な見直しである。ここでの主な焦点は、長期保証(LTG)及び例えば報告に関する保険会社に対する潜在的救済に関する措置にあった。
6―まとめ
ドイツの生命保険会社は、引き続く低金利環境の中で、これまでZZRの積立や新契約の保証利率の引き下げ、さらには保障性商品や固定保証利率を有さない商品へのシフトを進めることにより、健全性維持のために着実な対応を進めてきている。ただし、マイナス金利のさらなる進展等で、生命保険業界を巡る状況は、引き続き楽観視できないものとなっており、今後とも注意深く監視していく必要がある状況にある。
超低金利環境の継続をはじめとして、日本と類似した環境下にあるドイツの生命保険会社を巡る状況に関しては、日本の生命保険業界関係者にとっても極めて関心の高い事項であることから、その監督を巡る動向については、今後とも引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一
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(2021年09月21日「保険・年金フォーカス」)
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