2021年09月03日

注目が高まる日本へのプライベートエクイティ投資

金融研究部 准主任研究員・ESG推進室兼任   原田 哲志

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日本国内の企業へのプライベートエクイティ(PE)ファンドによる投資が活発化している。2020年には国内でPEファンドによって92件の投資が行われた(図表1)。単年毎に見ると、少数の大規模案件の有無によって取引総額は大きく変化しているものの、取引件数は増加が続いている。近年では、日本のPE市場への注目が高まっており、海外のPEファンドによる日本企業への投資が増加している。2021年に入ってからは、スウェーデンの投資ファンドEQTや香港の投資ファンドPAGが日本での投資開始に向けた準備を行っている。

こうした動きは、海外投資家から日本のPE市場は投資機会が多く魅力的と見られていることが背景となっている。日本では事業の売却が少なく、低採算事業の切り離しが進んでいないと言われている。GDPに対するM&A取引の金額は米国3.2%、欧州2.4%に対して、日本はわずか0.2%にとどまっている。しかし、近年では事業の選択と集中に取り組む企業が増えており、またコロナ禍による経済の変調が起こったことで非中核事業を売却する動きが加速している。今年4月には、日立製作所が日立金属をベインキャピタルなどに売却するなど、大型の事業売却が行われている。これは、PEファンドにとっては、投資機会が増加していることを意味している。また、日本企業はPEファンドによる生産性や利益の向上余地が大きいと言われており、実際、米調査会社Preqinによれば、2008年から2017年の間に設立されたプライベートエクイティ・ベンチャーキャピタルファンドの2019年末時点でのIRRは北米では15%であるのに対して日本では18%と比較的高い収益を獲得している。
図表1:日本のプライベートエクイティ市場の取引金額と件数の推移
このように、PEファンドによる投資や経営改善が増えているが、日本企業全般に対してより効率的な経営を求める声は年々強まっている。これには様々な要因があるが、日本企業の株主構成が変化したことが一つの要因として挙げられる。日本企業の株主構成の推移を見ると、1990年代には、金融機関(都銀・地銀、生損保等)や事業法人による株式の保有が多かった。こうした株主の影響力が大きく、株主総会においては会社提案や経営方針がそのまま承認されるのが通常であったことから、事業の切り出しなどによる大胆な経営効率の向上を外部から求められることはなかったと考えられる。しかし、金融機関の保有割合は1995年の30.9%から2020年には7.5%まで減少した。一方で、外国法人の保有割合は1995年の10.5%から2020年には30.2%まで増加しており、外国人投資家の影響が大きくなっていることが分かる(図表2)。こうした株主構成の変化等により、近年の株主総会での役員選任や株主提案などでは変化が見られ、会社提案の役員選任案等が否決されたり、より大胆な経営改善が求められたりする事例が珍しくなくなってきている。

また、グラスルイスやInstitutional Shareholder Services (ISS)といった議決権行使助言会社が海外機関投資家の議決権行使に大きな影響を与えるようになっている。これらの会社は議決権行使助言方針を定め、これに基づいて投資家に議決権行使に関する助言を行い、会社提案に反対する助言を行う場合も多い。その例として、グラスルイスは持ち合い株など政策保有株が連結純資産の10%以上となっている企業について、経営トップの取締役選任議案に反対投票を推奨するとしている。この理由について、グラスルイスは「株式の持合いや政策保有は経営側の説明責任の低下、不十分な危機管理能力、非効率的な自己資本管理政策等にもつながる可能性が高く、敵対的買収の回避にも寄与していると考えられるため」などとしている。

このように、近年では効率的な経営とともに株主との対話やガバナンスがより重要となっている。PEファンドの投資により、企業に外部の資金や経営ノウハウが持ち込まれることは経営効率やガバナンスの改善の機会となる可能性がある。投資家にとっても、PEファンドにより企業の収益及び株価が向上することは、短期的な市況変動に左右されにくい安定的な収益の獲得につながると期待できる。海外PEファンドの日本企業への投資の増加が日本の株式市場やガバナンスの改善につながっていくことを期待したい。
図表2:主要投資部門別株式保有比率の推移
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金融研究部   准主任研究員・ESG推進室兼任

原田 哲志 (はらだ さとし)

研究・専門分野
資産運用、オルタナティブ投資

(2021年09月03日「ニッセイ年金ストラテジー」)

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