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欧州保険会社が2020年のSFCR(ソルベンシー財務状況報告書)を公表(3)-SFCRからの具体的内容の抜粋報告(その2)-
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1―はじめに
今回のレポートでは、欧州大手保険グループのSFCR(含むQRTs(定量的報告テンプレート))の内容から、SCRとMCRの計算方法の説明等について報告する。
2―SCRとMCRの計算方法の説明
以下では、これまでのレポートで報告対象としてきた大手保険グループ5社の中から、その内容から判断して、AXA、Generali及びAegonの3社を選択して、その説明概要を報告する。
(1) AXA
AXAのSCRとMCRの計算方法の説明(の一部)は、以下の通りとなっている。
SCRとMCRを計算するために、内部モデルの使用や米国等での同等性評価、さらには非保険部門については部門別ルールに基づいていることを説明している。これにより、AXAのグループSCRのうち、グループ全体でみると、88%が内部モデル、4%が標準式、0%が同等性、7%が銀行・資産運用会社、年金基金等の他の規制基準の適用に基づくもの(2019年は、70%が内部モデル、23%が標準式、0.3%が同等性、7%が銀行・資産運用会社、年金基金等の他の規制基準の適用に基づくもの)となっている。2019年と比べて、XL事業体が標準式から内部モデルへと変更されたことから、標準式による割合が低下して、内部モデルによる割合が高くなっている。
また、内部モデルの使用に関しては、「内部モデルは、AXAの会社が、ローカルリスクプロファイルをよりよく反映するローカルキャリブレーションを選択し、グループがさらされている全ての重要なリスクを捉えることができるように設計されている。結果として、AXAグループは、内部モデルは、AXAグループ全体のSCRをより忠実に反映し、SCRメトリクスが経営陣の意思決定とより整合的になると考えている。」と説明している。
さらに、グループの分散化効果について、例えば、「内部モデルでは、主要なリスクカテゴリ(市場、信用、生命、損害、オペレーショナルリスク)全体にわたる集計と、地理/会社間の集計という、主な集計ステップを考慮したマルチレベル集計アプローチが実施されている。」と説明している。
E.2ソルベンシー資本要件(SCR)と最低資本要件(MCR)
当グループは、2015年11月17日、ソルベンシーIIのSCRを計算するために内部モデルを使用することについてACPR(フランスの監督当局)と監督カレッジからの承認を受けた。内部モデルは、2018年に取得した以前はXL Groupの一部であった会社(XL事業体)を除く、全ての重要な会社に対するAXAグループの定量可能なリスクをカバーしている。
内部モデルは、AXAの会社が、ローカルリスクプロファイルをよりよく反映するローカルキャリブレーションを選択し、グループがさらされている全ての重要なリスクを捉えることができるように設計されている。結果として、AXAグループは、内部モデルは、AXAグループ全体のSCRをより忠実に反映し、SCRメトリクスが経営陣の意思決定とより整合的になると考えている。
一般原則
ソルベンシーIIは、2つの異なるレベルのソルベンシー資本要件を規定している。(I)最低資本要件(MCR)。会社レベルで適用され、保険契約者や受益者が許容できないレベルのリスクにさらされる自己資本の額である。(II)ソルベンシー資本要件(SCR)は、会社及びグループの両方のレベルで適用され、保険及び再保険会社が多額の損失を吸収することを可能にする適格自己資本のレベルに相当する。それは、支払が期日までに行われるという保険契約者及び受益者への合理的な保証を与える。
規則の第297条(2)に従い、フランスの全てのSFCR提出者について、フランス政府は2020年12月31日までに終了する移行期間中に資本の追加項目の開示を要求しないことを選択した。
ソルベンシー資本要件(SCR)
2020年2月21日に公表された2020年12月31日現在のAXAグループのソルベンシーII比率は2019年12月31日の198%に対して、200%であった。グループは、2020年の全ての時点でSCRを超過する適格自己資本を維持した。
当グループは、内部モデルの範囲、基礎となる方法論及び前提条件を定期的に見直し続け、それに応じてSCRを調整する。しかしながら、内部モデルのいかなる大きな変更も、SCRの水準を調整することを要求するかもしれないACPRによって承認されなければならない。2018年のXLグループの買収と2019年の事前申請プロセスの開始に続いて、2020年の監督当局への内部モデルの範囲拡張が行われ、 グループSCRへのAXA XLの貢献度を認識するための認可につながった。
さらに、当グループは、その目的を通じて欧州保険会社のモデルの一貫性の見直しを行うことが期待されているEIOPA(欧州保険年金監督局)の作業計画を監視している。そのような見直しが、コンバージェンスを高め、国境を越えたグループの監督を強化するための、内部モデルやソルベンシーII資本要件への変更を含むさらなる規制改正につながる可能性がある。
2020年12月31日現在で、AXAのグループSCRは275億ユーロで、内部モデル範囲(246億ユーロ)、標準式会社(10億ユーロ)、同等性による会社(0億ユーロ)、部門別ルール (年金事業、銀行、資産運用)(19億ユーロ)という異なる要素に分割される。AXAグループSCRに関する追加情報については、QRT S.25.02.22「ソルベンシー資本要件- 標準式及び部分内部モデルを使用するグループのための」を参照のこと。
2020年12月31日の連結IFRS数値に基づくと、第231条の下での規制グループベースの内部モデルの一部である(再)保険会社は次の通りとなっている。
■(再)保険活動からの収益の91%
■(再)保険及び投資契約からの負債の97%
■ 投資の97%
2019年に比べて、AXAのグループSCRは300億ユーロから275億ユーロに減少した。この減少は主として以下の要素による。
■内部モデルの範囲にAXAXLを含めることで、グループSCRは約15億ユーロ削減された。この部門は現在、我々の規制ソルベンシーによりよく反映されている。
■中・東欧の事業体の売却もSCRを削減した。
■経済的要因によりSCRが増加:金利の低下により、生命保険リスクと国債エクスポージャーが増加した。 この増加は、USD/JPY対EURの減価によってほぼ相殺された。
2020年12月31日現在、SCRのリスクカテゴリによる内訳は、市場リスク37%、生命保険22%、損害保険28%、信用リスク8%、オペレーショナルリスク6%となっている。
グループ分散効果
内部モデルの分散効果は、異なるリスク/サブリスク又は異なるポートフォリオ/会社への集計方法の適用によって駆動される。したがって、分散効果は、特定のリスク要因の範囲内、ポートフォリオ間、地域間又は異なるリスクカテゴリ間で現れる。
一例として、デュレーションギャップは、例えば、保障商品の長いデュレ―ションと年金の短いデュレ―ションのように、異なるポートフォリオに対して異なる符号を有することができる。このような場合、2つのポートフォリオを組み合わせると金利リスクが低下する。
リスク集計アプローチ内の細かさのレベルは、分散効果の測定に影響する主要な要因である。典型的には、集計アプローチが、地理、事業単位/法人レベル、リスクタイプ、商品タイプなどの次元に応じて、ポートフォリオや活動を区別するほど、より明示的な分散効果が明らかになる。内部モデル では、主要なリスクカテゴリ(市場、信用、生命、損害、オペレーショナルリスク)全体にわたる集計と、地理/会社間の集計という、主な集計ステップを考慮したマルチレベル集計アプローチが実施されている。
2020年12月31日現在の主要なリスク(市場、信用、生命、損害、オペレーショナル)における分散効果は129億ユーロであった。
範囲と計算方法
以下の表は、グループSCRを計算するために使用される内部モデルの範囲内にある会社を一覧表にしたものである。
グループ内で、指令2009/138/ECの第230条及び第233条で言及されている方法1(デフォルト法)と方法2(控除合算法)の組み合わせを使用して、グループ・ソルベンシーが計算される。方法2を用いる会社は、銀行、資産運用会社、年金基金を中心とした保険以外の金融部門やソルベンシー制度が同等とみなされている米国の残りの子会社に関連している。 関連する主要な会社は以下の表に要約されている。
GeneraliのSCRやMCRの計算方法の説明(の一部)は、以下の通りとなっている。
SCRについては、監督当局の承認を受けた会社の金融リスク、信用リスク、生命保険引受リスク、損害保険引受リスクとオペレーショナルリスクをカバーする内部モデルとその他の(再)保険会社に対する標準式及び他の規制セクター(銀行業や年金業務)に対するセクターの要件を適用して算出される。なお、オペレーショナルリスクについては、2019年においてはグループの全ての保険会社において標準式により計測されていたが、2020年は内部モデルを適用している。
その他、LTG措置や移行措置、USPの使用、簡素化の使用等について説明しているが、以下ではその記述は省略している。
E.2.1.SCRとMCRの値
このセクションは、Generaliグループのソルベンシー資本要件(SCR) 及び最低資本要件(MCR)について記載している。
特に、SCRは、1年間の信頼水準が99.5%の自己資本のバリュー・アット・リスク (VaR) として計算される。
グループはSCRを部分内部モデル(PIM)で測定している。SCRは、監督当局の承認を受けた会社の金融リスク、信用リスク、生命保険引受リスク、損害保険引受リスクとオペレーショナルリスクをカバーする内部モデルとその他の(再)保険会社に対する標準式及び他の規制セクター(銀行業や年金業務)に対するセクターの要件を適用して算出される。
PIMは、グループがさらされている主要なリスクの正確な表現を提供しており、セクションE .4でより詳細に説明されているように、各リスクの個別の影響とグループ自己資本に対する複合的な影響の両方を測定する。
当グループでは、SCRの定義に簡易計算を使用していない。
会社固有のパラメータ(USP)は、Euro Assistance会社とイタリアの会社DAS のSCRの計算に使用される。これらのUS Pの使用は監督当局により承認されている。
ボラティリティ調整の詳細はセクションD.に記載されている。マッチング調整は適用されない。
グループのSCRは19,850百万ユーロ(2019年は20,306百万ユーロ)だった。減少は、内部モデルのオペレーショナルリスクへの拡張で、もはや標準式が適用されていないとする内部モデル承認プロセスによって大部分は説明されている。これがリスクプロファイルと分散効果に影響を与え、グループSCRの削減をもたらしている。
(図表等、省略)
以下のテンプレートは、分散を計算しない下記のカテゴリの会社に対する資本要件の合計としてSCRの総額を提供している。
・内部モデルに基づくSCRの計算にIMを使用する権限を付与されたエンティティは、EEA(欧州経済領域)と非EEAの間で区別される。
・標準式計算に基づくエンティティは、EEAと非EEAとその他の少数保有エンティティに区別される。
・クレジットその他の金融サービスはセクタールールに基づく。
・IORP年金基金は、指令2003/41/ECに従う。
グループの連結最低SCRの目的のために、算出はグループの法的単体のMCRに基づいており、EIOPAによって提供された指示に従っている。
MCRが2019年末の16,103百万ユーロから2020年末の16,569百万ユーロに増加したのは、保険料と準備金の動きや単体のSCRの動きによる。
(図表等、省略)
最も関連するリスクは、金融/市場リスクで、分散効果前のSCR総額の42.6%(2019年末は48.1%、以下同様)であり、信用/カウンターパーティリスクは26.7%(21.5%)、生命保険/健康保険リスク及び損害保険引受リスクで、それぞれ10.0%(9.8%)、13.4%(13.4%)、オペレーショナルリスクが7.3%(9.0%)となっている。
分散効果後では、金融リスクで50.3%(56.1%)、信用リスクが28.8%(22.4%)。生命保険/健康保険リスクが3.8%(2.3%)、損害保険リスクが11.1%(10.3%)、オペレーショナルリスクは内部モデルの使用と他のリスクとの分散効果により5.9%(9.0%)となっている。
モデル調整は中期的なタイムホライズンにおける計画されたモデル改善に対して割り当てられた付加的な任意マージンを表している。
RFR(リングフェンスファンド)/MAP(マッチング調整ポートフォリオ)調整は、グループがマッチング調整を適用していないのに対して、リングフェンスファンドの集計によるSCR計算へのバイアスを修正するための調整を表している。
(2021年07月05日「保険・年金フォーカス」)
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