2021年05月21日

NAICの2020年Annual Report(年次報告書)からの抜粋報告-NAICの問題意識とそれへの対応等-

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1―はじめに

NAIC(全米保険監督官協会)は、2021年4月12日に、2020年のAnnual Report(年次報告書)を公表1している。

今回のレポートは、「Stronger and More Resilient」との副題が付けられた、このNAICのAnnual Reportからの抜粋を紹介することで、米国の州監督当局が、各種の具体的な課題に対して、どのような課題意識を持って、どのような対応を行ってきたのか、あるいは今後の見通しとして、これからどのように対応していこうとしているのかを報告する。

なお、こうした課題に関して、NAICは、2021年2月9日に、2021年の規制上の優先事項を公表している。この概要については、保険年金フォーカス「NAICが2021年の規制上の優先事項を公表-問題の所在と現在の取組状況等-」(2021.3.5)で報告しているので、こちらも参考にしていただきたい。  

2―NAICの2020年のAnnual Report(年次報告書)の概要

2―NAICの2020年のAnnual Report(年次報告書)の概要

1|全体像
NAICの公表によれば、今年のレポートのテーマは「弾力性(resiliency)」としている。NAICとそのメンバーがどのように変化を受け入れ、消費者を保護し、米国の安定した保険市場を確保するために行動を起こしたかに焦点を当てている。

「2020年に、組織はテクノロジーを適応させ、サービスを展開し、メンバーと一般の人々を新しく革新的な方法で関与させた。これらの取り組みにより、メンバーはパンデミックに適応する能力が強化され、戦略的優先事項や、人種や保険、気候や耐性力などのより大きな社会問題に引き続き焦点を当てることができた。」としている。
2|NAICのCEOとCOOの書簡よりの抜粋
NAICのCEOのMichael F. Consedine氏とCOOのAndrew J. Beal氏は、今回のAnnual Reportの中で、以下のように述べている。
 

2019年の作業に続いて、私たちは戦略的優先事項の野心的な予定表で今年に入った。介護保険、気候リスク、ビッグデータと人工知能、及びグループ資本は、私たちの議題の中で最も重要な問題だった。その他の重要な問題は次の通りである。

・サプライズ請求法の提唱
・全米洪水保険プログラム(NFIP)の再承認の促進
・健康保険の安定化に関する議会公聴会での証言
・State Ahead戦略計画の継続的な実施

3月までに、私たちは在宅勤務のプラットフォームに軸足を移し、パンデミックとそれに関連する課題をTo Doリストに追加した。私たちが実装したプロセスとテクノロジーのおかげで、私たちはより強く成長し、より効率的になった。

NAICには、最も困難な時期に保護と安定性を提供するという長い伝統がある。これは特に2020年に当てはまった。パンデミックが発生したとき、私たちは一夜にして大きく方向転換をした。メンバーが消費者の保護と健全な保険市場の維持に引き続き注力できるように、メンバーをより適切にサポートする方法に焦点を当てた。

このレポートでは、2020年の間の、NAIC、メンバー、及びそのスタッフの並外れた取り組みについて概説している。テクノロジーを適応させ、サービスを展開し、メンバーと一般の人々を新しい革新的な方法で関与させた。私たちは社会的に距離を置いていたが、決して切断されなかった。

パンデミックの間、私たちはこの特異な問題の外で、私たちの国と世界を形作る他の力、具体的には人種と平等、そして気候と耐性力に目を向けた。NAICのメンバーが集まり、これらの問題に取り組むために大胆な措置を講じた。

3|取り上げられているテーマ
目次の中で取り上げられているテーマとしては、例えば以下の項目が挙げられている。これらの具体的な内容について、順次紹介していくこととする。

・COVID-19への規制対応
・人種とダイバーシティ
・人工知能(AI)
・気候と耐性力
・災害時の準備とリカバリー
・介護保険
・グループ資本の計算
 

3―COVID-19への規制対応

3―COVID-19への規制対応

NAICは、「野心的な一連の優先事項から2020年を開始した。3月、パンデミックの潜在的な影響が明らかになったとき、私たちはすぐに単一の焦点である、消費者を保護し、前例のない時代を通じて保険セクターの安定と運営を確保するために設計された一連のイニシアティブ、に軸足を移した。」として、具体的には以下の対応を行ったとしている。
1|優先事項1:COVID-19への対応の管理が最優先事項となった
私たちは、取られた行動を詳述した3つの公開報告書を発表した。

・1月1日から5月31日にかけての州保険当局の措置について論じているNAICの報告書
The State Insurance Regulatory Response to COVID-19 Update 1

・6月1日から9月30日までの規制措置について論じているNAICの報告書
The State Insurance Regulatory Response to COVID-19 Update 2

・COVID-19の全活動の概要をまとめた2020年報告書
2|消費者保護と安定確保のための迅速な行動
(1)健康保険
NAICはメンバーの議論を促進し、州の保険部門がCOVID-19の検査と治療へのアクセスと費用負担の問題に対処するために迅速な行動をとることにつながった。全米でNAICのメンバーは、費用負担なしに検査を提供するイニシアティブを実施し、消費者の健康保険へのアクセス拡大に努めた。ほぼ全ての州が、COVID-19のテストのために消費者のコスト負担を取り除こうとした。

州はまた、早期処方薬の補充を保険会社に要請したり、委託したりしなければならず、アウトブレイクの間に必要な薬剤へのアクセスを容易にするための他の措置を講じた。州の保険部門もテレヘルスサービスへのアクセスを拡大するために取り組んできた。多くの州の保険規制当局は、保険会社に対し、加入者に保険料の支払期限の延長、解約の一時停止、小規模事業者への適用範囲の拡大を求めるか、又は要求した。

パンデミックが始まって以来、NAICは米国保健社会福祉省(HHS)、連邦メディケア・メディケイドサービスセンター(CMS)、米国労働省(DOL)などの連邦機関と定期的に連携し、健康保険に関する州と連邦の取り組みを調整してきた。この取り組みは、連邦保健当局が取った行動に反映されている。同様に、NAICは、健康保険市場を安定化又は支援するための連邦政府の取り組みが調整され、効果的であり、州の取り組みを補完することを確実にするのを支援するために、引き続き米国議会と直接関わっている。

(2)生命保険
パンデミック(世界的大流行)に対応して、一部の州は生命保険会社に保険料の支払いを延期し、解約や更新を停止するよう求めた。一部の州では、消費者は繰延払いを返済するために最長1年間の猶予を与えられた。また、生命保険会社には、延滞料や違約金の免除や保険料の支払いのための払方プランを認めるよう指示した。

(3)自動車保険
多くの州では、自動車保険会社に対して、その殆どがパンデミックの最中に走行距離を大幅に減らしている、運転者への保険料の払戻しや割引の実施を義務付けたり奨励したりしている。保険情報協会(III)は、消費者への払戻し、割引、配当金、その他のクレジットが合計で約105億ドルと推定している。NAICは州の保険規制当局と協力して、モデルの格付けに長期的な調整が必要かどうかを判断するためにデータの評価を続けている。

(4)事業中断保険
州の保険監督当局は、COVID-19に関連する市場規模、除外範囲、請求及び損失の範囲を評価するために、事業中断補償を引き受けている保険会社から重要なデータを収集するために共同で取り組んだ。最初の分析では、83%の契約でウイルス、細菌、パンデミックが除外されており、ほぼ全て(98%) の契約で物理的な損失が要求されている。保険はうまく機能しており、比較的少数の保険請求がより広範なグループに分散している場合に手頃な価格となっているので、これは驚くべきことではない。

したがって、殆ど全ての保険契約者が長期間にわたって同時に重大な損失を被る世界的なパンデミックには、通常は適していない。

NAICは、保険セクターのソルベンシー及び潜在的にはより広範な金融システムに与えるリスクを考慮して、遡及適用に反対する方針声明を発表した。事業中断補償の遡及適用については、いくつかの連邦及び州の提案がある。

10月、NAICは、この問題が進展する中、特にパンデミックのリスクに対する事業中断の適用範囲を広く確保するための連邦機構の創設を支援するために、米国議会に関与する我々の努力を導く方針を採択した。保険セクター又は保険契約がそのような保障を容易にするために使用される手段である限り、いかなる連邦制度も、保険消費者を保護するために州の保険規制当局を弱体化させないことが重要である。それは保険会社の財政状態を危うくしてはならず、保険契約者に負担可能でなければならない。NAICの政策声明とデータは、この問題に関する米国下院による11月19日の公聴会で引用された。

(5)生産者ライセンス
NAICは、加盟組織であるNational Insurance Producer Registry(NIPR)及び州の保険部門と協力して、生産者の報告及びライセンス要件の整合性を維持するために設計された様々な問題に取り組んできた。また、生産者ライセンスに関連した140件を超える注文や速報を受け、新たな動きを確認した。NAICのState Based Systems(SBS)は、複数の州にまたがる105,000を超えるライセンシーの有効期限を延長することで、各州の対応を支援し続けた。

保険会社は毎日、アメリカ人と直接接触し、彼らが財政的、個人的福祉について重要な決定をするのを支援している。このニーズは、経済が不安定なこの時期に高まっている。私たちの義務は、保険会社が責任を果たすための知識と人格を持っている生産者を通じて、消費者の保険商品に対する需要を満たすことができるようにすることである。

(6)貴重な資源と教育の提供
NAICのコロナウイルス・リソース・センターは、パンデミックへのNAICメンバーの対応に関する単一の情報源を提供している。コロナウイルス・リソース・センターは、国民が全国で取られた対策を把握するのに役立つ1,000以上の州の速報、行動、警報のデータベースを含んでいる。また、州保険局とNAICは、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に関連した保険の適用範囲について消費者を教育し、COVID-19関連の詐欺の可能性について警告することを目的とした資料を作成した。

(7)規制当局や政策立案者との調整
我々は、保険監督者国際機構(IAIS)において、国家規制システムのベスト・プラクティスを共有するための世界的な規制当局へのパイプ役として、様々なプロジェクト及びワークストリームへの積極的な関与を継続した。各国の規制当局とNAICのスタッフは、国際通貨基金(IMF)/世界銀行の金融セクター評価プログラム(FSAP)の報告書の最終化にも取り組んだ。COVID-19の事業範囲と影響をより深く理解するとともに、新興技術、ビッグデータ、気候変動リスクなどの前向きな課題に継続的に取り組んでいくために、主要な規制当局とのバーチャルな対話を確立した。また、連邦政府機関や州の保険規制当局と様々な問題について協力し、連邦政府の規制案に対応した。COVID-19による災害対応の変化に対する連邦緊急事態管理庁(FEMA)との調整から、州と連邦政府の健康保険への取り組みを調整するためにHHSやCMSと緊密に協力するまで、NAICとそのメンバーは引き続き、州の規制上の存在感と見解を主張した。

(8)COVID-19における健全な市場の維持
NAICの努力の結果、保険セクターは危機のこの時期にも引き続き強さと耐性力を示している。世界的なパンデミックの最中であっても、消費者は政策の恩恵を受け続けていた。これは、歴史的な数の自然災害が米国中で起こったことを考えると、特に重要である。州の保険監督当局は、COVID-19が提示した重大なストレスを考慮して、保険会社が保険契約者の請求を支払い続ける能力を確保するために、保険会社の財務健全性を監視した。我々は、パンデミックの真の影響を理解するためにデータを収集し、保険会社と消費者の負担を軽減するためのガイダンスを実施した。企業のエクスポージャーを評価し、影響を受けるリスクの高い商品を保有している企業と、金利引き下げや市場の低迷でリスクが高まっている企業を特定した。事業中断、労働者補償、旅行保険のためのライン固有のデータ要求を開発し、生命保険会社と協力して流動性に対する経済的ストレスを評価した。

具体的には、州保険監督当局とNAICは以下のことも行っている。

・資本市場を監視し、景気後退が保険会社の資産に与える潜在的影響を評価するために使用する報告書を州に提出することを含め、COVID-19に対する企業のエクスポージャーを特定し、評価した。

・州の保険監督当局が2021年の健康保険の保険料率の申請を審査する際に使用する、COVID-19の仮定に関する資料とガイダンス文書を作成した。

・期限を過ぎた住宅ローンの取扱いに関する新たな会計及び報告のガイダンスを提供し、いくつかの救済及びガイダンスを提供するために四半期毎の申請の期限を提供した。

・レポート作成とライセンス要件の整合性を維持すると同時に、シェルター・イン・プレース命令を効果的に処理するためのプロセスを合理化した。

・新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への対応に関するガイダンスを標準的な事業中断契約として発行し、多くの契約でウイルス、細菌、パンデミック(世界的大流行)が除外されており、殆どの契約で物理的な損失が必要であることを事業主に警告した。

世界市場の格付けを行っているS&Pの最近のグローバル・レポートは、保険業界がCOVID-19にどのように対処してきたか、それが業界の資本バッファーにどのような影響を与えているかを分析している。2020年9月に発表された報告書は、こうしたバッファーの全体的な耐性力を指摘し、ストレステストの結果、北米の保険会社が世界で最も耐性力の高い地域であることが判明した。このようなテストでは、保険会社の全体的な資本力、リスク管理、資産配分を考慮する。米国の州保険規制当局は、この地域の耐性力の一部は、ソルベンシー、コーポレート・ガバナンス、グループ監督に関連するものを含め、過去10年間に規制制度になされた改善と進歩にあるとしている。
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中村 亮一

研究・専門分野

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【NAICの2020年Annual Report(年次報告書)からの抜粋報告-NAICの問題意識とそれへの対応等-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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