2021年05月12日

欧州大手保険グループの地域別の事業展開状況-2020年決算数値等に基づく現状分析-

中村 亮一

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3―欧州大手保険グループ各社の地域別の事業展開状況

ここでは、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、保険料、営業利益に加えて、資産、EV(Embedded Value)7及び新契約価値等の状況を地域別に報告する。

さらに、各社の地域別の事業展開に関係するトピックについても報告する。
 
7 欧州大手保険グループは、これまでEEV(ヨーロピアンEV)とMCEV(市場整合的EV)のいずれかに基づくEV(Embedded Value:エンベデッド・バリュー)を地域別や各国別に公表してきていたが、ソルベンシーII導入後の2017年以降は公表しない会社やグループ全体又は地域別の数値のみの公表に留める会社もある等EVの開示の見直しを行ってきている。
1|AXA
AXAは、世界の50カ国以上で保険事業と資産管理事業を展開している。

AXAは、中国、インドネシア、フィリピン、タイを「Asia High Potentials(ハイ・ポテンシャル)」として位置付けていたが、インドネシア、タイ、フィリピンでは既に高いプレゼンスを有している。

なお、AXAは2018年3月に、XL Groupを153億ドルで買収し、年間保険料総額300億ユーロを有する世界的な損害保険会社を構築することを公表し、この買収について、当時のThomas Bubert CEOは、「L&S(生命及び貯蓄保険)事業中心から、P&C(損害保険)事業中心に、そのビジネスプロファイルを移行していく独特の戦略的機会である。」とし、「将来のAXAのプロファイルは、金融リスクから離れて、保険リスクに向かって大きくリバランスされていくことになる。」と述べていた。

XL Groupの買収及びEquitableの売却完了により、このリスクファイルの変換が進み、さらに金融市場に対してあまり感応的でない損害保険、医療及び保障を加速していく、としていた。

(1)地域別の業績-2020年の結果-
米州においては、AXA Equitableの売却により、米国の生命保険及び貯蓄市場から撤退している8

どの指標で見ても、日本を含むアジアの位置付けが高くなってきている。特に、新契約価値ベースでみると、アジアの構成比が40%となっている。

なお、AXAは、EEVをかつては国別に開示していたが、2017年以降は地域別のみの開示となっている。
保険事業の地域別内訳(2020年)/うち 欧州の主要国別内訳
Annual Reportによれば、生命保険と損害保険の市場シェア及びボジションについては、以下の通りとなっており、欧州やアジアの国々で高いプレゼンスを確保している。

なお、日本でのシェア(かんぽ生命除きの2020年9月末までの12か月ベース)は、生命保険は3.9%で第11位、その市場規模から、2020年では、AXAグループ全体の営業利益(生命・貯蓄・医療)の中で21.7%と高い位置付けを有している。

・フランス   : 生保9.7%(第3位)、損保12.6%(第2位)
・スイス    : 生保8.2%(第4位)、損保13.0%(第1位) 
・ドイツ    : 生保3.2%(第9位)、損保5.2%(第5位) 2019年末ベース
・ベルギー   : 生保9.0%、損保19.2% 2020年9月末ベース
・英国     : 損保8.1%(第2位) 2019年末ベース
・アイルランド : 損保28.6%(第1位) 2019年末ベース
・スペイン   : 生保2.9%(第10位)、損保5.2%(第4位) 
・イタリア   : 生保4.8%(第7位)、損保5.8%(第5位) 2019年末ベース
・日本     : 生保3.9%(第11位) 2020年9月末までの12か月
・香港     : 生保4.9%(第7位)、損保7.3%(第1位)
・XL(Lloyd‘s) : 損保6.0%(第1位) 2019年末ベース
・XL(再保険)  : 損保2.6%(第12位) 2019年末ベース
・タイ       : 生保6.9%(第5位)、損保1.4%(第22位) 
・インドネシア : 生保5.9%(第5位) 2020年9月末ベース
・フィリピン  : 生保12.9%(第4位) 2020年6月末ベース
・中国     : 生保1.5%(第16位)、損保0.5%(第21位)
・メキシコ   : 生保2.5%(第10位)、損保8.8%(第3位) 2020年9月末ベース
・ブラジル   : 損保2.6%(第13位) 2020年10月末ベース
 
8 Equitableは持分法を適用して連結され、2019年の数値においては、2019年1月1日から2019年11月13日までの期間の基礎利益、調整後利益及び純利益のみが反映されていた。
(2)地域別の業績-2019年との比較-
2019年との比較では、営業利益(生命・貯蓄・医療)は、欧州では▲14%であるが、アジアでは1%の進展となっている。

なお、全体の営業利益は、損害保険事業が、COVID-19の影響(▲1,547百万ユーロ)や通常水準を超える自然災害チャージの影響(▲502百万ユーロ)を受けたことから、2019年に比べて大幅なマイナスとなっている。
保険事業の地域別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
AXAは、2020年に、以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2020年2月7日には、ポーランド、チェコ、スロバキアにおける事業をUNIQA Insurance Group AGに売却する契約を締結した。合意内容によると、AXAは中・東欧の生命保険、損害保険、年金事業の100%を売却し、正味キャッシュ10億200万ユーロを支払うことになっていた。2020年10月15日に、10億ユーロの現金対価での売却が完了し、これにより、SCR比率に+2%ポイントの影響がもたらされたと発表された。

・2020年8月21日には、AXAとBhartiは、インドでの損害保険事業であるBharti AXA General Insurance Company Limited(「Bharti AXA GI」)をICICI Lombard General Insurance Company Limited(「ICICI Lombard」)に統合する契約を締結したと発表した。この取引により、統合された事業体は、インドの損害保険会社の中で3位になり、市場シェアは約8.7%になる。AXAとBhartiのBharti AXA GIの所有権はそれぞれ49%と51%である。

・2020年10月30日には、Architas UK投資事業のLiontrust Asset Management Plcへの1億ユーロでの売却を完了した。

・2020年11月30日には、Gulf Insurance Group(「GIG」)と、AXA Gulf、AXA Cooperative Insurance Company、及びAXA Green Crescent Insurance Companyの株式保有*を含む湾岸地域での保険事業を売却する契約を締結したことを発表した。なお. 取引の一環として、湾岸地域で最大のコングロマリットの1つであるYusuf Bin Ahmed Kanoo(「YBA Kanoo」)も、AXA Gulf及びAXA Cooperative Insurance Companyの株式を売却する。契約条件に基づき、AXAは湾岸地域での事業の所有権を合計269百万米ドル(225百万ユーロ)の現金対価で売却する。この取引は、規制当局の承認の受領を含む通常の完了条件に従い、2021年第3四半期までに完了する予定である。

・2020年12月31日には、Generaliとギリシャでの保険事業を売却する契約を締結したと発表した。契約条件に基づき、AXAはギリシャの生命保険事業と損害保険事業を合計1億6,500万ユーロの現金対価で売却する。これは、2019年度のP/E倍数の12.2倍を意味している。この取引は、規制当局の承認の受領を含む通常の完了条件に従い、2021年第2四半期末までに完了する予定である。
Allianz
Allianzは、世界の50カ国以上で生命保険、損害保険事業等を展開している。

Allianzは、以前に生命保険事業の主要な市場として、ドイツ、フランス、イタリア及び米国を挙げていたが、これらの市場における保険料や営業利益の構成比が大きなものとなっている。

(1)地域別の業績-2020年の結果-
Allianzの生命保険事業の営業利益は、自国のドイツの構成比が32%、フランス、スペイン、イタリア等の主要国からも有意な収益を上げており、欧州全体で68%の構成比となっている。

米国の子会社であるAllianz Life Ins Groupは、2020年末の認容資産ベースで、生命保険・健康保険グループで第16位(2019年末は第15位)となっており、その営業利益のグループ全体における構成比は21%となっている。

アジア・太平洋は、保険料や営業利益では1割程度の構成比となっていた。
生命保険事業(Life/Health insurance)の地域別内訳(2020年)/うち 欧州の主要国別内
(2)地域別の業績-2019年との比較-
2019年との比較では、生命保険事業の会社全体の営業利益は7%減少した。これは、ヘッジ費用の増加と米国における損失及びフランスにおける低い投資マージンによる、としている。他の要素として、2019年には米国において繰延新契約費の償却期間を延長したことがプラスに働いていたことやスペインにおけるAllianz Popular S.L.の売却が挙げられている。なお、プラスの効果としては、前提のアンロックや米国におけるモデルの洗練化、ドイツの生命保険事業における高い準備金ベースからの投資マージンの改善及びイタリアにおけるユニットリンク管理手数料の増加、さらにはアジア・太平洋地域における高い販売と請求の低さが挙げられている。また、COVID-19による営業利益へのマイナスの影響は2億ユーロで、主として第1四半期における市場の停滞による、としている。

新契約価値については、COVID-19による制限で、主として、ドイツにおける高効率商品、米国における固定インデックス年金及びフランスにおける保証付貯蓄や年金の販売が低迷したことの影響により、20%減少した。なお、一部はイタリアにおけるユニットリンク保険の販売増加で相殺されている。

地域別では、アジア・太平洋での営業利益やMCEV等は増加したが、特に米国米州で2桁台の大きな減少となった。
生命保険事業(Life/Health insurance)の地域別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)/うち 欧州の主要国別内訳(2019年から2020年に向けての増加額と進展率)
(参考)地域別のROE
Allianzは、地域別のROEを以下の通り開示している。これによれば、2020年においては、2019年と同様に、全ての地域において10%を超える水準を確保している。
生命保険事業のROE(資本収益率)の状況
(3)地域別展開に関する方針及びトピック
Allianzは、2020年に、以下の地域別展開の見直し等を公表してきている。

・2020年1月2日には、Allianz Holdings plcが、Liverpool Victoria Friendly Society (LVFS)からのLV General Insurance Group(LV GIG)の残りの51%の計画的買収を完了した。さらに、Legal & General(L&G GI)の損害保険部門の100%を2億4,200万ポンドで買収した。これらの取引の完了により、Allianz Holdings plcは、2018年の数値に基づいて、総保険料収入は40億ポンドを超え、市場シェアは9%となって、英国で第2位の損害保険会社に位置付けられることになる。

・2020年1月31日には、グループの60%所有子会社であるマドリードのAllianz Popular S.L.の売却を完了した。当該企業は2019年6月30日以降、売却目的で保有されていると分類されて、2020年1月31日の連結解除まで減損損失は認識していなかった。売却の完了に伴い、連結損益計算書の実現損益(純額)に含まれる4億8300万ユーロの利益を認識した。

・2020年2月4日に、Allianz SEは、イオンフィナンシャルサービス(AFS)と生命保険合弁会社(JV)を設立し、日本の現地顧客向けの生命保険ソリューションを開発及び販売する契約を締結した。

・2020年4月27日には、スペインのBanco Bilbao Vizcaya Argentaria(BBVA)とバンカシュアランスの合弁会社を設立すると発表した。

・2020年7月10日に、Allianz Seguros S.A.Brazilは、SulAmericaから自動車及びその他の不動産-災害事業の100%を取得した。この買収により、ブラジルにおけるAllianzの競争力が強化され、自動車保険で約15%、損害保険で9%の市場シェアを持つトップ3の保険会社の一つとなり、自動車保険でナンバー2の地位を確立した。

・2020年8月18日には、Allianz Benelux(ベルギー)とMonument Reは、クラシックな生命保険のクローズドブックと4,500件の住宅ローンをMonument Assurance Belgium(MAB)に譲渡し、規制当局の承認後18ヶ月以内に関連業務を譲渡することに合意した。この取引には、ソルベンシーIIに基づく14億ユーロの技術的準備金を伴う95,000の保険契約のポートフォリオが含まれている。なお、この取引は、2021年4月1日に完了したことが発表された。

・2020年9月29日には、Jubilee Insurance(Jubilee Holdings Limited:JHL)と戦略的パートナーシップを築くことを発表した。これは、東アフリカの5カ国の損害保険をカバーしており、東アフリカ全体の保険市場を拡張し拡大することを目的としている。取引は規制当局の承認が必要となる。提案されたパートナーシップ構造では、Allianzはこれらの各事業の支配持分を取得し、総額108億ケニアシリング(8,400万ユーロ、1億ドル)を検討するが、JHLは重要な少数株主持分を保持する。

・2020年12月2日には、オーストラリアのWestpacの損害保険事業を買収することに同意した。これは、7億2500万豪ドル相当の取引で、2021年半ばに完了する予定である。これにより、Allianzはオーストラリアの消費者保険市場でのシェアを拡大する。

なお、Allianzは2021年に入ってからも、以下のような動きを見せている。

・2021年1月28日には、Allianz China Insurance Holdingが中国で最初の完全に外資系の保険資産運用会社を設立するための承認を受けた。2021年2月5日には、Allianz China LifeがAllianz China Insurance Holdingの完全子会社となることが発表された。

・2021年3月4日には、Avivaグループのイタリアの損害保険会社であるAviva Italia S.p.A.を買収することが発表された。

・2021年3月26日には、Avivaグループから、ポーランドにおける生命保険及び損害保険事業、年金及び資産管理事業を買収し、SantanderとのAvivaの生命保険及び損害保険の合弁事業の51%の株式を取得することに合意したと発表した。これは、25億ユーロに相当する取引である。これによりAllianzは、ポーランドでは、総保険料に基づいて、全体で5番目に大きい保険会社になり、生命保険セグメントで2位に上昇することが見込まれている。また、営業利益の面で中東欧において第2位になることが想定され、中東欧での主導的地位が強化されたと述べている。
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中村 亮一

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