2021年04月26日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(1)-米国大手保険G及び大手再保険Gの2020年決算発表による-

中村 亮一

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2|Swiss Re
Swiss Reは、その2020年の決算発表9において、COVID-19の影響について、Christian Mumenthaler CEOが、以下のように述べている(日本語参考訳からの抜粋)。

「新型コロナウイルスのパンデミックは未だに世界中のコミュニティと企業に影響を与え続けています。ワクチン接種が開始されたことにより、まもなくこのパンデミックの状況が改善されるという希望が芽生えてきました。当グループは、この危機を確固たる信念で乗り越えてきました。そして、パンデミックの課題を軽減し、将来のシステミック・リスクに対するレジリエンスを高める衝撃吸収材としての役割を果たしています。」

「実際の保険金請求は徐々に上がってくるため、当社はパンデミックの当初から規律ある慎重な姿勢で準備金の積み立てを行ってきました。2021年には新型コロナウイルス関連の損失がさらにいくらか増えることが予想されますが、損害保険種目の該当エクスポージャーを大幅に削減しました。1月の契約更改を含め、損害再保険事業及びコーポレート・ソリューションズにおけるポートフォリオの質と引受収益率の広範な改善に期待を寄せています。」

また、実際の影響額等については、以下のように報告されている。

新型コロナウイルス関連の支払保険金及び準備金(税引前)の39億米ドルを除くグループの当期純利益は2019年の72,700万米ドルから22億米ドルに増加し、株主資本利益率(ROE)は7.3%

「損害再保険事業の純損失は24,700万米ドル。新型コロナウイルス関連の損失を除いた純利益は13億米ドル、ROE13.2%

「生命・医療再保険事業の純利益は7,100万米ドル。新型コロナウイルス関連の損失を除いた純利益は 85,500万米ドル、ROE10.4%

「コーポレート・ソリューションズの業績回復は計画を上回る。新型コロナウイルス関連の損失を除いた純利益は39,300万米ドルに増加し、ROE16.5%

さらに、2021年の見通しについては、以下のように述べられている。

「現在の情報に基づき、2021年の損害保険事業における新型コロナウイルス関連の追加の保険金支払額及び準備金は5億米ドル未満になると見込んでいます。パンデミックに関連する多くの要因を取り巻く不確実性は依然として高く、実際の保険金支払の動きは上下に振れる可能性があります。」

なお、Swiss Reは、新型コロナウイルス関連の支払保険金及び準備金の詳細について、以下の通りに報告している。
2020年度新型コロナウィルス関連の支払保険金および準備金の詳細(百万米ドル)
また、事業部門別についての追加情報としては、以下の内容が述べられている((日本語参考訳からの抜粋に基づく)。

(1)損害再保険事業(P&C Re)
・新型コロナウイルス関連の保険金支払額と準備金を除くと、損害再保険事業の2020年の純利益は、2019年の3億9,600万米ドルから増加し、13億米ドルになりました。新型コロナウイルスによる損失を除いたROEは13.2%

・新型コロナウイルスに関連する損害再保険事業の保険金支払額及び準備金は19億米ドルに達し、米国会計基準純損失額は2億4,700万米ドル、損害再保険事業の新型コロナウイルス関連損失額の約80%は、物的損害を伴わない事業中断保険、イベント中止・延期保険、損害賠償責任保険及び保証・信用保険に関する既発生未報告損害(IBNR)準備金である。

(2)生命・医療再保険事業
・新型コロナウイルス関連の保険金支払額と準備金を除くと、生命・医療再保険事業の2020年の純利益は、ROI 3.7%という好調な投資実績に支えられ、8億5,500万米ドルとなった。新型コロナウイルスによる影響を除いたROEは10.4%だった。

・新型コロナウイルス関連の保険金支払額と準備金を除くと、生命・医療再保険事業の2020年の純利益は、ROI 3.7%という好調な投資実績に支えられ、8億5,500万米ドルとなった。新型コロナウイルスによる影響を除いたROEは10.4%となった。

(3)コーポレート・ソリューションズ
・新型コロナウイルス関連の損失を除いた場合、コーポレート・ソリューションズは、2019年の6億4,700万米ドルの純損失から、2020年は3億9,300万米ドルの純利益まで回復した。

・新型コロナウイルスに関連する保険金支払額と準備金は、2020年通年で合計9億4,300万米ドルとなり、米国会計基準純損失は3億5,000万米ドルとなった。損失の約40%は、コーポレート・ソリューションズが2019年に撤退したイベント中止保険に関連して予想される支払保険金の準備金で、損失の3分の1は事業中断保険に関連する損失、その他の損失は主に保証・信用保険の支払保険金に関連するものだった。

(4) ライフ・キャピタル
・ライフ・キャピタルは、主にオープンブック事業への継続的な投資により、2020年に2億6,500万米ドルの純損失を計上しました。新型コロナウイルスに関連する損失は、 2,700 万米ドルにとどまった。
 
(参考)Swiss Reのプレゼンテーション資料10における報告内容(抜粋)
Swiss Reは、そのプレゼンテーション資料において、COVID-19の影響に関して、例えば以下の説明を行っている。今回のCOVID-19の全体像を見る上で、大変参考になると思われるので、抜粋して掲載させていただく。詳細は、Swiss Reの資料を参照いただきたい。
1.COVID-19の損失の大部分は、主として事業中断と超過死亡から、第2四半期と第4四半期に発生している。
Business Closing in Europe/Excess mortality the US,England and Wales
2.米国会計基準によるCOVID-19の報告された損失は、高水準のIBNRを反映している。
事業中断保険を中心に、全体の59%がIBNRとなっている。
Swiss Re's Reported COVID-19 losses in FY 2020
3.残りのCOVID-19の損失は2021年に損害保険再保険やコーポレート・ソリューションズで5億ドル未満と想定されている。
残りのCOVID-19の損失
4.COVID-19による損失額は、過去に記録された巨大事象を上回る最大級のものとなっている。
Swiss Re's Reported large natcatand man-made losses

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、米国大手保険グループ及び大手再保険グループの2020年決算のプレスリリース資料等から、COVID-19の影響等に関する公表内容について報告してきた。

各社の公表内容は、各社各様で、その説明資料等も様々である。今回の報告は、あくまでも各社の公表資料の中から、筆者が抜粋したものを報告しているので、このレポートで報告されたものが全てではないことを述べておく。

いずれにしても、各社とも、2020年決算において、COVID-19によって、事業全体が広範な影響を受けたことを述べており、その説明を行っている。また、損害保険(再保険)事業を中心に、収益面での影響も大きなものであったことを公表している。一方で、同時に、これらのCOVID-19の影響にも関わらず、会社の財務状況の堅固さや顧客対応等の業務運営は揺るぎないものである等との声明も公表している。

次回のレポートでは、欧州大手保険グループの2020年決算におけるCOVID-19の影響等に関する公表内容について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年04月26日「保険・年金フォーカス」)

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