2021年04月09日

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1)-2019年結果-

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1―はじめに

ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社を巡る状況については、基礎研レポート「ドイツの医療保険制度(2)―公的医療保険の保険者との競争環境下にある民間医療保険及び民間医療保険会社の状況」(2016.4.4)(以下、「前回のレポート」という)の中で、その現状と国全体の医療保険制度の中での位置付けの全体像について、2014年ベースの数値に基づいて、報告した。その後、毎年の保険年金フォーカスにおいて、直近の状況について報告してきた。昨年は「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(1)-2018年結果-」(2020.4.10)及び「ドイツの民間医療保険及び民間医療保険会社の状況(2)-2018年結果-」(2020.4.14)において、2018年ベースの数値に基づいて報告した。

今回と次回のレポートは、基本的にはこれらのレポートを2019年ベースに更新したものである1,2。まずは、今回のレポートでは、民間医療保険の普及状況について報告する。
 
1 ドイツの医療保険制度全体の概要及びその中での民間医療保険の位置付けや各種の制度の具体的な内容等については、基礎研レポート「ドイツの医療保険制度(1)~(3)」(2016.3.15~2016.4.18)を参照していただきたい。
2 以下の図表については、基本的には、ドイツ保険協会(GDV)の「Statistical Yearbook of German Insurance 2020」及び民間医療保険連盟(PKV)の「Zahlenbericht 2019」(ドイツ語版)からの数値に基づいているが、両者の数値は必ずしもベースが同じにはなっていない。PKVをデータ・ソースとするGDVの資料についても、GDVの資料に基づく、としている。また、GDVの資料で必ずしも数値の整合性が取れていないと思われるものについても、原資料の数値を尊重した。なお、2020年の公表資料において行われた2018年以前の数値の修正等を反映している。
 

2―民間医療保険の普及状況(1)

2―民間医療保険の普及状況(1)-被保険者数-

この章では、民間医療保険の普及のうちの被保険者数の状況について報告する。

1|代替医療保険
民間医療保険連盟(PKV)の資料に基づくと、次ページの図表が示すように、2019年において、公的医療保険を代替する代替医療保険1のうち、完全医療保険1の被保険者数が873万人、長期介護保険の被保険者数が926万人となっている。ともに、ここ数年間、前年に比べてほぼ横ばいないしは減少し続けている。

この主たる理由としては、所得の減少や家族の一員となること等の理由で、公的医療保険に移動している人数が、民間医療保険に移動してくる人数を上回っていたことが挙げられる。

公的医療保険と民間医療保険の間の移動状況については、2011年までは、民間医療保険への流入超過であったが、公的医療保険の加入要件等の制度変更の影響もあり、2012年からは公的医療保険への流出が上回っている。ただし、2015年までの3年間に高い水準で流出していたのに比べると、2016年及び2017年の流出数はそれぞれ1.5千人及び3.7千人で、大きく減少していた。2018年はさらに民間医療保険への流入が増加し、7年ぶりに流入が流出を若干上回っていた。2019年には、民間医療保険への流入がさらに13.2人増加して146.9千人となり、流出を17.4万人上回った。
代替医療保険の被保険者数/公的医療保険と民間医療保険の間の移動状況
(1)完全医療保険
完全医療保険には、2019年でドイツ国民の約1割にあたる873万人が加入している。ただし、所得水準の差異等を反映して、旧西ドイツの州からの被保険者が9割以上を占めており、旧東ドイツの州からの被保険者は1割未満に過ぎない。

さらに、完全医療保険の被保険者の構成は、以下の図表の通りとなっており、(1)財政支援3を受けている公務員やその家族等が約半分を占めており、(2)男性が5割、女性が3割強、子供が2割弱の構成比となっている。
完全医療保険の被保険者構成(2019年)
 
3 公務員やその配偶者、子供等は、医療給付等に対して、連邦政府や地域や地方当局からの財政的な支援が行われる。
(2)長期介護保険
長期介護保険の被保険者数は2019年において926万人で、完全医療保険に比べて約53万人多い。これは、ドイツポスト(Deutsche Post AG)やドイツ鉄道(Deutsche Bahn AG)の職員が含まれてくることによる影響が大きい。
2|付加医療保険
一方で、公的医療保険に対する付加的な保障を提供する付加医療保険1の被保険者数4は2019年で2,065万人となっており、追加の医療保障ニーズへの高まりを反映して、2018年に比べて59万人増加している。

さらに、商品別にみてみると,外来付加保険が807万人,病院付加保険が623万人,歯科治療保険が1,639万人となっており、2018年との比較では、歯科治療保険を中心に増加している。
付加医療保険の被保険者数
 
4 1人の被保険者が複数の契約に加入している場合、複数カウントされる。
(参考)被保険者数の増加率の推移
過去からの被保険者数の増加率の推移をみると、完全医療保険と長期介護保険については、ここ8年間、被保険者数が減少しているが、付加医療保険については、被保険者数が引き続き増加してきている。その増加率については、2016年までは逓減していたが、2017年に反転して、その後2018年、2019年と回復傾向にあり、2%以上の水準となっている。なお、完全医療保険と付加医療保険の合計の被保険者数も、付加医療保険と同様に傾向を示している。
民間医療保険の被保険者数の増加率
3|基本タリフ1
2009年1月から、(代替医療保険を提供する)民間医療保険会社は、公的医療保険の給付サービスに相当する「基本タリフ(Basistarif)」5を提供しなければならなくなった。基本タリフは、民間医療保険連盟が保険監督法に基づいて設計している業界共通の統一料率商品であり、(1)加入時の年齢別に保険料が決定されるが、健康状態は加味されない、(2)保険料水準は公的医療保険の平均最高保険料を上回ってはならない、等の制約がある。 

この基本タリフの2019年の加入者数は、32,400人であり、前年に比べて400人増加しているが、2009年の設立当初から、大幅に増加している状況にはない。また、全体の被保険者のうちの17.55%が財政支援を受けている。

なお、1994年に導入された「標準タリフ(Standardtarif)」の加入者数については、2019年において51,400人で、前年に比べて100人の増加となっている。
基本タリフへの加入状況/標準タリフへの加入状況
 
5 国民皆保険を実現するための第1段階の措置として、2007年7月からは、「標準タリフ(Standardtarif)」の提供が義務付けられていたが、第2段階の措置として「基本タリフ(Basistarif)」が導入されることになった。

3―民間医療保険の普及状況(2)

3―民間医療保険の普及状況(2)-収入保険料及び給付額-

この章では、民間医療保険の普及のうちの収入保険料及び給付額の状況について報告する。

1|収入保険料
収入保険料は41,024百万ユーロ、うち代替医療保険が31,061百万ユーロ(完全医療保険が27,848百万ユーロ、長期介護保険が3,212百万ユーロ)、付加医療保険が9,063百万ユーロとなっている。このように、代替医療保険からの保険料が全体の約3/4を占めている。

なお、この民間医療保険の収入保険料水準は、公的医療保険の収入保険料の2割弱に相当している。
民間医療保険の収入保険料(商品別内訳)
ドイツ保険協会(GDV)の資料に基づくと、2019年の収入保険料は、対前年3.1%増加している。この増加率は、2012年から、過去において批判が増加していた導入的タリフ(Einsteigertarifen:Starter tariffs)6の販売推進を止めたこともあり、2014年までの5年間毎年低下してきていた。2015年は増加率を若干反転させたが、2016年は再び低下、2017年は、久々に高い増加率となったが、2018年は再び1.8%の伸びに鈍化していた。2019年は再び反転した形になっている。
民間医療保険の収入保険料の推移
商品別の状況を見てみると、公的医療保険に対する付加的な給付を提供する公的医療付加保険や長期介護付加保険及び長期介護保険が他の商品に比べて、相対的に高い進展率を示している。
民間医療保険-収入保険料の商品別内訳の推移-
なお、医療保険の収入保険料は、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の収入保険料217,387百万ユーロの2割弱に相当しているが、医療保険に対するニーズの高まりを反映して、ここ四半世紀で、この比率は徐々に増加してきている。
民間保険会社における医療保険の位置付け(医療保険会社の収入保険料シェア)
 
6 限定された給付水準で、低い保険料水準からスタートして、その後保険料が増加していく商品
2|給付額
総給付額(老齢化積立金(生命保険の責任準備金に相当)への繰入額や保険料返還を含む)の推移は、次ページの図表の通りとなっている。以前は、老齢化積立金への繰入額の増加率が高かったが、ここ数年間は、高齢化の影響等もあり、老齢化積立金への繰入額の伸びは低くなってきている。なお、保険料返還準備金(RfB)への繰入額は、2016年は約3億ユーロ、2017年は約7億ユーロ増加していたが、2018年は約10億ユーロ減少していた。これに対して、2019年は再び約4億ユーロ増加した。
民間医療保険-給付額の内訳-
保険種類別では、医療費用保険(完全医療保険等)が全体の8割以上を占めているが、近年は長期介護保険の給付額の増加率が高い。
民間医療保険-給付額の内訳(保険商品別) -
長期介護保険以外の医療保険の給付タイプ別のシェアでは、通院給付が5割弱で最も高く、入院給付が3割弱で続いている。歯科治療給付は15.7%を占めている。
民間医療保険(長期介護保険以外)-給付額の内訳(給付タイプ別) -
なお、2019年の給付額の男性・女性・子供別のシェアは以下の通りとなっている。
民間医療保険-2019年給付額のシェア(給付タイプ別・男性・女性・子供別) -
2019年ベースの医療保険の給付額(老齢積立金繰入を含む)45,441百万ユーロは、生命保険・損害保険を含めた保険会社全体の給付額240,079百万ユーロの2割弱に相当しており、損害保険に近いシェアを占める形になっている。
民間保険会社における医療保険の位置付け(医療保険会社の給付額シェア)
(参考1)公的医療と民間医療の給付額(被保険者当たり)比較
公的医療(GKV)と民間医療(PKV)の給付額(被保険者当たり)を、給付別に2009年数値を100とした場合の推移を見てみると、以下の図表の通りとなっている。

医療(Medical treatment)については、GKVの伸びが高いが、それ以外は、基本的にPKVの伸びが高くなっている。
)公的医療と民間医療の給付額(被保険者当たり)比較
(参考2)医療保険普及率の国際比較
ドイツの民間医療保険の普及率を一人当たりの保険料及び対GDP保険料比率で見てみると、次ページの図表の通りとなっている。

なお、これをEU(欧州連合)の加盟国間で比較(2019年ベース)7してみると、(1)保険密度を示す1人当たりの保険料は493ユーロで、欧州の中で、オランダの3,030ユーロ、スイスの1,177ユーロに次いでおり、(2)普及率を示す対GDP保険料比率は約1.2%で、オランダの6.45%、スイスの1.6%、スロベニアの1.2%強に次いでいる。

医療保険の普及率等は、公的医療保険制度との役割分担が大きく影響しており、民間医療保険に大きく依存しているオランダやスイスが高いものとなっているが、ドイツもこれらに次ぐ国となっている。
民間医療保険-普及率の推移-

4―まとめ

以上、ドイツにおける民間医療保険の普及状況について、2019年数値に基づいて報告してきた。

ドイツの民間医療保険は、公的医療保険制度の代替をその主たる機能としつつ、高まる医療保障ニーズに対応する観点から、補完及び補足的な機能を充実させることで、着実に保険料を増加させ、その位置付けを高めてきている。

次回のレポートでは、民間医療保険会社の市場シェア、経営効率及び財務面の状況について報告する。

(2021年04月09日「保険・年金フォーカス」)

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