2021年04月01日

IAIGsの指定の公表に関する最近の状況-48グループのうちの45グループが明らかに-

中村 亮一

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1―はじめに

各国・地域の保険監督当局等によるIAIGs(国際的に活動する保険グループ)の指定を巡る状況については、これまで、保険年金フォーカス「欧州各国の保険監督当局等がIAIGs指定保険グループを公表」(2020.6.10)及び保険年金フォーカス「IAISがIAIGsの指定に関する登録簿等の情報を公表-48グループがIAIGsに指定される-」(2020.7.9)で報告してきた。その後、各国・地域の保険監督当局等(実際はGWS(group-wide supervisors)と呼ばれるグループ監督者)によるIAIGsに指定された保険グループの公表が逐次行われてきている。

今回のレポートでは、IAIGsの指定の公表に関する直近の状況を報告する。
 

2―IAIGsとは

2―IAIGsとは

まずは、繰り返しになるが、IAIGsについて説明する。

IAIGsというのは、英語で「Internationally Active Insurance Groups」と呼ばれており、その言葉通りに、「国際的に有意なレベルで保険事業活動を展開している保険グループ」のことを指している。その具体的な選定基準については、IAIS(保険監督者国際機構)が定量的基準等を定めている。また、IAIGsに対しては、特別な監督・規制が行われることになっている。
1|IAIGs の選定基準
IAIGs の選定基準のうちの定量的基準は以下の通りとなっている。
 

(1) 国際的活動
・3つ以上の管轄区域において、保険料が計上されていること、及び
・本店所在管轄区域外のGWP(収入保険料)のグループ全体のGWPに対する割合が10%以上

(2) 規模(3 年移動平均)
・総資産が500 億米ドル以上、又は 
・全体のGWPが100 億米ドル以上


ただし、これらの定量的基準に関わらず、グループ全体ベースでIAIGs の監督に対して責任を有しているGWSが、限定された状況において、グループがIAIGs とみなされるかどうかを判断するための裁量権を有している。例えば、(a)自国の保険事業活動が重大である場合、(b)合併及び買収あるいは売却等により、近い将来に基準を満たすあるいは満たさなくなる場合、等が想定されている。
2|今回のIAIGs の指定に関する情報の公表
GWSが、IAIGs の指定を公表するが、場合によっては、この開示が法的変更又は規制措置を必要とすることがある。

IAISは、このコミットメントを達成するためのGWSの進捗状況を監視する。IAISは、GWSによって公開されたIAIGs の公開登録を編集する。登録簿には、公開されたIAIGs の数とIAIGs の基準の充足又は監督裁量の行使に基づいてGWSにより特定されたIAIGs の総数を比較した情報が添付されることになっている。

3|IAIGsに対する監督・規制
IAIGsの監督のための共通の枠組みとして、IAISは、2019年11月に、ComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループの監督のための共通の枠組み)を採択している。

このComFrameの中で、IAIGs に対する監督・規制内容としては、(1)監督当局の枠組み(監督カレッジの組成や危機管理グループ(CMG)の設立)、(2)資本規制、(3)再建・破綻処理計画、(4)グループガバナンス、(5)ERM(統合的リスク管理)、等が挙げられている。それぞれの項目の具体的な内容については、今回のレポートの趣旨ではないので触れないが、例えば、「(2)資本規制」について、IAISはComFrameの一環としてICS(保険資本基準)を策定中である。
 

3―IAISによるIAIGsの指定に関する登録簿の最新情報

3―IAISによるIAIGsの指定に関する登録簿の最新情報

IAISは、IAIGsの指定に関して、以下の情報を公表1している。
1|直近のIAISによる情報開示
以前のレポートで報告したように、IAISの2020年7月1日の公表によれば、「2020年7月1日の時点で、16の管轄区域からの48 のIAIGsが関連GWSにより確認されている。さらにこれらの48のIAIGsのうち、11の管轄区域からの 30のIAIGsが関連GWSにより公開されている。」となっていた。また、「少なくとも、公開登録簿は毎年更新される。しかし、その年に発生する可能性のあるGWSによる開示に基づいて、アドホックな更新がより頻繁に行われる可能性がある。」としていた。

IAISは、その後も適宜、この公開登録簿を更新してきている。

直近では、2021年3月25日において、情報の更新2がなされている。今回のレポートはこの内容に基づいて報告する。
2|今回の情報更新に基づくIAIGsに指定された保険グループの状況
今回の情報更新によれば、全体で16の管轄区域からの 48のIAIGsのうち、15の管轄区域からの45のIAIGs が公開されている。
保険年金フォーカス「IAISがIAIGsの指定に関する登録簿等の情報を公表-48グループがIAIGsに指定される-」(2020.7.9)で報告した11の管轄区域からの30のIAIGsからは、その後の情報更新で、米国及び新たな4つの管轄区域(オーストラリア、日本、カナダ、スイス)からの以下の15の保険グループ(名前の後の( )内はGWS))の名前がIAIGsとして指定されたことが公開されている。

米国は各州の保険監督当局がGWSとなっており、州単位で情報公開がなされているので、これまで公開されていたIAIGsに対して、新たにNY州からのIAIGsが公開されている。日本については、2020年10月30日に、4つの保険グループがIAIGsに指定されたことが公表されている3

米国
American International Group (AIG)(New York State Department of Financial Services
MetLife, Inc.(NYSDFS)

オーストラリア
QBE Insurance Group Limited(Australian Prudential Regulation Authority (APRA))

日本
Dai-ichi Life Holdings, Inc.(Financial Services Agency (JFSA))
MS&AD Insurance Group Holdings, Inc.(JFSA)
Sompo Holdings, Inc.(JFSA)
Tokio Marine Holdings, Inc.(JFSA)

カナダ
Canada Life Assurance Company(Office of the Superintendent of Financial Institutions (OSFI))
Manufacturers Life Insurance Company(OSFI)
Sun Life Assurance Company of Canada(OSFI)

スイス
Baloise Group(Swiss Financial Market Supervisory Authority (FINMA))
Helvetia Group(FINMA)
Swiss Life Group(FINMA)
Swiss Re Group(FINMA)
Zurich Insurance Group(FINMA)
 
結局、これまでに公開された45のIAIGsの管轄区域別の内訳は、以下の通りとなっている。

フランス    8  
英国      4
ドイツ     3  
オランダ    2
イタリア、スペイン、ベルギー、オーストリア  1
スイス     5
米国      8
カナダ     3
日本      4
香港      2
シンガポール  1 
オーストラリア 1
3|公開されていないIAIGsの状況
IAIGsの名簿公開については、IAIGsに対する規制等の実施に関して、各管轄区域等での所要の対応が必要になってくる等の事情もあることから、それぞれのGWSの判断によって対応が異なっている。

今回のIAISの情報更新により、IAIGsに指定された保険グループのある16の管轄区域のうちの15の管轄区域が公開されたことになる。残された1つの管轄区域及び3つのIAIGsについては、以前のレポートでも報告したように、中国及び中国からの保険グループであると推定される。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、IAISによるIAIGsの指定に関する登録簿の最新情報について報告してきた。

IAIGsの指定状況は、それぞれの国や地域における保険市場や保険グループの海外展開の状況等を反映して、国・地域毎にその指定グループ数がかなり異なっている。

今回の48の保険グループのIAIGsの指定については、適宜見直しが行われていくことになっており、新たな追加や削除等が行われていくことにもなる。

IAIGsの指定に関する状況は、IAIGsに対する監督・規制を巡る状況と共に、関係者の関心の高い事項であることから、今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2021年04月01日「保険・年金フォーカス」)

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