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EIOPAが2021年の監督上のコンバージェンス計画を公表
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1―はじめに
2―EIOPAの2021年の監督上のコンバージェンス計画-考え方
EIOPAは、2月17日に、2021年の監督上のコンバージェンス計画を発表1した。2021年に、EIOPAは、Covid-19のパンデミックによる影響を監視及び軽減し続ける柔軟性を可能にしながら、前の計画に由来する優先事項を完了する予定である。
以前の計画と同様に、優先領域は次の3つの構成要素に含まれる。
1.共通の監督文化の実際的な実施と監督ツールのさらなる開発
2.監督上の裁定取引につながる可能性のある国内市場及び公平な競争の場に対するリスク
3.エマージングリスクの監督
共通の監督文化の実際的な実施の分野では、EIOPAは、他の優先事項の中でもとりわけ、内部モデルの監督、コンダクトリスクの監督上の評価のための共通のベンチマークに取り組み続けるだけでなく、さらなる進展の必要性が特定された分野、例えば、ソルベンシーIIでの比例適用、にも取り組む。
さらに、EIOPAは、内部モデルの結果の評価や技術的準備金の計算における監督上のコンバージェンスの促進など、監督上のコンバージェンスツールに引き続き取り組む予定である。エマージングリスクの監視に関連する作業は、たとえば、デジタル責任の一連の原則を開発すること、サイバーセキュリティとサイバー攻撃に関する情報の各国管轄当局間の交換システムを確立すること、及び2020年2月に定義されたサイバー引受戦略で設定された目的と目標を実装することによって、前進する。
EIOPAは、2021年の3つの新しい優先事項を特定し、以下の措置を講じる、としている。
1.環境、社会、ガバナンスのリスクを健全な行動監督に統合するための段階的な対策を講じる。
2.複数雇用者のIORP(職域年金)プロバイダーの最近の市場開発から生じる監督上の懸念に対処する。
3.各国の管轄当局が第三国に本社がある再保険会社を取り扱う方法の不一致を特定した後、国内市場に対する潜在的なリスクをさらに分析及び特定する。
EIOPAは、今回のコンバージェンス計画の説明に先んじて、コンバージェンスの目的やツールについて、以下のように説明している。
(1)監督上のコンバージェンス
監督実務のコンバージェンスは、法令の共通の解釈に基づき、監督上の判断又は比例原則の適用を妨げることなく構築されるべきである。
監督実務のコンバージェンスは、アウトプット、すなわち意見又は評価の数、質及び影響によって達成又は評価されるだけではない。コンバージェンスとは一緒に働くことでもある。監督実務のための共通のベンチマークを策定し、レビューを行い、困難な相互作用に取り組み、NCAsに研修を提供するプロセス自体が、監督上のコンバージェンスにつながる。
そのため、欧州全体で高い水準、効果的かつ一貫した監督を達成するため、EIOPAは、今後数年間の主要な戦略目標として監督のコンバージェンスを確認した。COVID-19の世界的大流行の初期には、極端な状況における監督のコンバージェンスを確実にすることが、より大きな意味を持つことが明らかになった。監督的コンバージェンス作業は、NCAとEIOPAの全職員による共同作業である。
(2)共通監督文化
他の強力な構造と同様に、監督上のコンバージェンスの枠組みは、明確で、よく知られ、一般に理解されている基盤の上に構築される必要がある。
EIOPAの小冊子「共通の監督文化-高品質で効果的な監督の重要な特徴」は、このフレームワークを構築するための最初のステップだった。この小冊子では、高品質で効果的な監督の5つの主要な特徴、すなわち、リスクベースで比例的、フォワードルッキング、予防的かつ積極的、挑戦的、懐疑的かつ関与的、包括的かつ決定的、を定義している。
共通の監督文化を一夜にして築くことはできない。これは、欧州のビジネス、経済、市民の利益の ために、共に取り組み、焦点を当て、互いに挑戦することによって、監督当局が、消費者保護を促進し、金融システムの安定性を高める強固で公正な監督文化を築く長い道のりである。プロセスと手順は行動よりも調整しやすいため、コンバージェンスは異なるペースで発生する。
共通の監督文化の実施には、変化と進化が必要である。これは、ESA規則の最新改訂、特にEIOPA規則の第29条の改訂で認識されている。
EUの戦略的な監督上の優先事項の設定、監督のコンバージェンスを促進し、ベストプラクティスを特定するための調整グループの設定、EUの最新の監督ハンドブックの作成と維持などのツールが特定されている。監督機関が、あらゆるレベルにおいて、EIOPAツールに容易にアクセスできること、ならびにそれらを使用する能力及び意思を有することが極めて重要である。
(3)監督上のコンバージェンスツール
監督上のコンバージェンスをさらに強化するために、EIOPAは異なるビルディングブロックを使用する。各ビルディングブロックには、監督上のコンバージェンスを支援する独自のツールがある。
>監督実務のための共通のベンチマークの構築
これは、監督指針及び勧告、意見、監督財務諸表、監督ハンドブック、質疑応答、一般的なベストプラクティス、レポート、監督者の研修・ネットワーク化、監督者間の視察に関する作業を通じて達成される。
>慣行の見直しと所管当局の比較
市場慣行の評価又は消費者のアウトカム及びこれらのアウトカムの推進要因に関する定量的及び定性的データの収集を目的とするテーマ別レビュー
各国の監督機関の監督業務の評価を目的としたピアレビュー、ならびに監督上のリソースの適切性及び監督機関の独立性の程度
>EIOPA独自の評価
EIOPAの監督業務は、監督業務の監視と課題解決、及びNCAの支援に重点を置いている。使用される手段には、二国間訪問、クロスボーダー業務に関する協力プラットフォーム、グループ監督者との対話、カレッジへの参加、欧州連合法違反、仲介の役割が含まれる。
なお、監督上のコンバージェンス計画を策定する際に考慮される優先事項は、以下の3つのカテゴリーに分類される。
>契約者及び金融の安定性に影響を与える分野。影響は、リスクが顕在化した場合に影響を受ける契約者の規模や数、契約者個人への影響の規模だけでなく、市場の評価やビジネスモデルに影響を及ぼす可能性がある場合にも及ぶ。
>監督上の裁定取引(特に、EU域内及びEU域外国との国境を越える取引について、同等国及び非同等国の双方について言及)が存在することにより、公正性、公平な競争条件又は域内市場の適正な機能に影響を及ぼす可能性のある分野
>実務が大きく異なる主な監督分野
さらに、2021年計画の高い優先事項は、以前の計画に基づく優先事項を可能な限り完了することであり、同時に、ある程度の柔軟性を維持して、2020年に予期せぬ作業を引き起こしたCOVID-19のパンデミックからの影響の監視と緩和を継続することである、としている。
3―EIOPAの2021年の監督上のコンバージェンス計画-具体的内容
本計画は、監督当局のコンバージェンスにつながる全てのEIOPAの活動の詳細なリストにはなっていない。既に存在している多くの活動が、定期的な監督上のコンバージェンスを促進している。これには、例えば、Sup Tech戦略の下での活動や、EIOPA監視活動の文脈におけるデータの利用やデータ分析の普及、その他の活動が挙げられる。EIOPAは継続的にこれらの提供と改善に取り組んでいるが、この計画には含まれていない。この計画は、2020年に特定された優先事項から始まり、まだ実施されていない具体的な成果物につながるプロジェクトに焦点を当てた、監督機関のコンバージェンスの実施に関する2021年のEIOPA優先事項の更新を提供している。
2020年には、監督コンバージェンス作業から得られた教訓が鍵となっていたソルベンシーIIの枠組みの見直しに必要とされる重要な努力も考慮に入れつつ、監督上のコンバージェンス作業にはかなりの進展が見られた。達成された進展にもかかわらず、いくつかの現行プロジェクトを完了させ、EIOPA内での作業を継続するためには、追加作業が必要となる。
2021年の優先分野は、更なる発展の必要性が確認された2020年以降の分野と、新たに特定された優先分野、すなわち、比例原則、年金セクターにおける監督の収斂、保険・年金セクターにおけるESG (環境・社会・ガバナンス)リスクの特定・管理・監督、及び第三国再保険の取扱いのミックスとなっている。
EIOPAの2021年の監督上のコンバージェンス計画は、引き続き、「2―1.全体概要」で述べた3つの構成要素からなる優先事項に取り組むとしている。
今年度に新たに特定された優先事項のうち、保険・年金セクターにおけるESG(環境・社会・ガバナンス)リスクの特定・管理・監督、年金セクターにおける監督のコンバージェンス、及び第三国再保険について、具体的には以下の通りとなっている。
1.共通の監督文化の実践的な実施と監督ツールのさらなる開発
d)環境・社会・ガバナンス (ESG) リスクに対する監督上のアプローチ (新規)
これについて、「EIOPAは、2018年~2020年に実施されたEIOPAの分析に基づいて、ESGリスクの評価と管理を健全な行動監督に統合するための段階的な措置をとる。」としている。
2.監督上の裁定につながる可能性のある内部市場と公平な競争分野へのリスク
d)年金問題 (新規)
これについて、「EIOPAは、2021年に予定されているIORPのPPRに関する監督ハンドブックのPPRの章の完成後、複数事業主のIORPプロバイダー(即ち、サービスプロバイダーが設立したIORPs)の最近の市場進展から生じる監督上の懸念を確立し対処する作業を開始する。」としている。
2.監督上の裁定につながる可能性のある内部市場と公平な競争分野へのリスク
e)EUにおける第三国再保険 (新規)
これについて、「EIOPAは、各国管轄当局が第三国に本社がある再保険会社を扱う方法に不整合があることを確認したことから、問題をさらに分析し、内部市場に対する潜在的なリスクを特定し、もしあれば適切なツールを開発する。」とし、「これがソルベンシーII指令によって完全に規制されていない分野であることを考慮すると、法律の改正も特定することができる。」としている。
(2021年03月22日「保険・年金フォーカス」)
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