2021年03月19日

「コロナワクチン保険」の出現(中国)

保険研究部 准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任   片山 ゆき

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1――中国はワクチンを28カ国にも輸出しているが、国内での接種率は未だ3.6%

世界で新型コロナウイルスのワクチン接種が進んでいる。また、先日には、国際オリンピック委員会(IOC)が東京オリンピックの開催に際して、中国オリンピック委員会からワクチン提供の申し出があったことが話題になった。「ワクチン外交」と揶揄されることもあるが、中国政府は中国製のワクチンをこれまで世界69カ国、2つの国際機関に提供、28カ国に輸出しているという1。ただし、2月には偽ワクチンの国内外での販売が発覚するなど問題も抱えている状態にある2
 
一方、当の国内となると接種率はまだ上がっていないようだ。3月1日に、中国の清華大学と米国のブルッキングス研究所が共同開催したフォーラムで、中国の感染症の専門家である鐘南山氏の発表によると、世界におけるワクチン接種率は、イスラエルが最も高く(92.5%)、アラブ首長国連邦(UAE)が60%超、英国が30%超、米国が22%であるのに対して、中国はわずか3.6%とした3。中国では、昨年12月から医療関係者や出入国ゲート職員、海外での感染リスクがある人などが優先的に接種していることもあろうが、他国と比べても接種率は高くない。なお、中国政府は1月、ワクチン接種の無償化も併せて発表している4
 
1 「中国向69個国家和2個国際組織提供疫苗援助」、捜狐網、2021年3月4日。
2 「中国で偽ワクチン3000本押収、密輸の疑い」、日本経済新聞、2021年2月1日。
3 「鐘南山:今年6月中国新冠疫苗接種率計画達到40%」、中国青年報、2021年3月2日。なお、ここでの接種率は、新型コロナワクチン接種者数の合計に対する総人口比を示すとしている。なお、中国国家衛生健康委員会によると、3月14日時点で、中国国内の新型コロナウイルスワクチン接種回数は6498万回。国務院聯防聯控機制推進新冠疫苗接種情況発布会、2021年3月15日。
4 「新冠疫苗全民免費接種!医保基金和財政共同負担」、中国政府網、2021年1月9日。
 

2――来年半ばまでに、接種率を最大80%までに拡大

2――来年半ばまでに、接種率を最大80%までに拡大

このような接種率の低さに対して、中国疾病コントロールセンターは、国内におけるワクチン接種の対象者を更に広げ、接種率を今年の年末から来年半ばで70-80%まで一気に引き上げる方針と発表した5。ワクチン生産量の増産への取組から、来年半ばまでに9~10億人分の接種が可能としている。
 
2月時点で、中国内で認可が得られているワクチンは4種類となっている。国有製薬大手の中国医薬集団(シノファーム)傘下の北京生物製品研究所、同様に、武漢生物製品研究所、製薬大手の科興控股生物技術(シノバック・バイオテック)傘下の北京科興中維生物技術による不活化ワクチン3種類と、製薬会社の康希諾生物(カンシノ・バイオロジクス)によるウイルスベクターワクチン1種類である。

なお、ワクチンの有効性については、北京生物製品研究所のワクチンが2回の接種で79.34%、武漢生物製品研究所のワクチンが同じく2回の接種で72.51%となっている6。北京科興中維生物技術のワクチンについては、ブラジルでの治験で、2回目の接種から14日以降の発症予防効果が50.65%、トルコでの治験では91.25%となっている。一方、康希諾生物のワクチンについては、接種は1回のみとなっており、接種から14日以降の発症予防効果は68.83%となっている。
 
5 「中国疾控中心主任高福:按照目前疫苗的产量,中国应能在今年年底至明年年中时达到70%-80%的新冠疫苗接种率」、毎経網、2021年3月13日。
6 「新冠疫苗接種、3月21日啓動!」、新浪網、2021年3月15日。
 

3――ワクチン接種により、副反応などで…

3――ワクチン接種により、副反応などで死亡した場合、国による補償はない。

日本において、新型コロナウイルスのワクチン接種により、副反応などで死亡した場合等には、国による救済措置がとられる。日本では、予防接種健康被害救済制度に基づいて、死亡時は遺族に対して一時金4420万円が支払われる7。また、常に介護が必要な障害(1級)となった場合は、本人に対して障害年金505万6800円(年額/18際以上)が支給される。入院せずに在宅の場合は、年額84万4300円の介護加算が支給されるなど救済措置が設けられている。
 
一方、中国では、「中国ワクチン管理法」において、疾病予防に伴うワクチン接種により、死亡、高度後遺障害、器官・組織に傷害を受けた場合、補償を行うべきとは定めている8。ただし、予防接種に伴う補助などの費用については、省・自治区・直轄市といった地方政府の経費から調達するとしている。また、副反応への補償については民間保険の活用を奨励すると定めている。中国においては、ワクチン接種の副反応への補償は法律で定められておらず、民間保険に委ねられている状態にある。
 
7 厚生労働省ウェブサイト「予防接種健康被害救済制度」、https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou20/kenkouhigai_kyusai/
「ワクチン接種後、副作用で死亡に4420万円 厚労相」、日本経済新聞、2021年2月19日。
8 「中国疫苗管理法」(2019年12月1日施行)56条。
 

4――新型コロナウイルスのワクチン接種拡大に…

4――新型コロナウイルスのワクチン接種拡大にともなう、「ワクチン保険」の出現

このような状況の下、新型コロナウイルスのワクチン接種に特化した「ワクチン保険」が保険各社から販売され始めている。副反応による死亡、高度後遺障害などを補償するもので、保険料も加入しやすいよう概ね低額に設定されている。
 
ワクチン保険は、中国の最大手、大手を中心に販売が開始されている。例えば国有最大手のPICC(中国人民人寿)は、65歳までを対象に、新型コロナワクチン接種後の副反応による死亡、高度後遺障害、入院などに対して補償をする「ワクチンガード保険」(疫苗衛士医療意外保険)を販売している。期間は1年で、保険料は20元(320円)と低額に抑えられ、死亡時には最高50万元(800万円)が給付される(図表1)。
図表1 「ワクチンガード保険」の給付内容
ワクチンガード保険は、ワクチン接種9後の副反応に加えて、偶然事象(ワクチン接種時に別の疾病の潜伏期間や発症前の状態で、接種後に発症するケース)の場合にも給付される。PICCが指定した医療機関で診断後、180日以内に死亡した場合は死亡保険金、生命保険障害評定基準に基づいた障害に認定された場合は障害レベルに応じた給付率を乗じた上で保険金が支払われる。死亡保険金は10歳未満が20万元、10歳以上は50万元となる。

なお、給付対象となる副反応(有害事象反応)は中国ワクチン管理法など10で定められた身体の組織や器官、機能の損失を指し、一般反応に分類される発熱、注射部位の腫れ、倦怠感、食欲不振などの症状は含まれない。
 
また、ワクチンを接種したものの免疫効果が発揮されず、PICCが指定した医療機関で新型コロナウイルスによる肺炎に罹患したことが診断された場合で、診断後180日以内に死亡した場合、障害に認定された場合についても上掲と同様の給付がなされる。

医療保険金の給付もあり、国が認可した2級または2級以上の公立病院で、公的医療保険が適用されない自己負担額は6割、適用される自己負担額については全額給付されるなど、実損填補もなされる。 

入院については60日を限度に1日100元、症状が重度でICUでの治療がなされる場合は同じく60日を限度に1日500元が給付されることになっている。

PICCのワクチンガード保険は、給付内容が手厚いものの、加入対象年齢が65歳までとなっており、リスクが向上する高齢者層はその対象から外されている。
 
一方、SNSのWeChatやネット決済のWeChatPayに強みを持つテンセント・グループ傘下の微保(WeSure)は、ユーザー向けに「新型コロナワクチン接種お守り保険」(護身福・新冠疫苗接種意外保険)を無料で提供している11。対象年齢は100歳までとし、医療機関で指定したワクチンを接種した後の副反応、副反応診断後180日以内に障害がみとめられた場合には最高2万元が給付される。政府が指定した予防接種機関で、契約したワクチンの中から接種し、ワクチンの免疫機能が発揮されずに6ヶ月以内に新型コロナウイルスに感染した場合は5000元の補助が支給される。微保は、このような無料保険について、保険当局の許可を取得しているとした。
 
中国では、新型コロナウイルスのワクチン接種については無償化をしているが、接種後の副反応による死亡や高度後遺障害となった場合の補償は設けられていない。よって、今後の接種拡大を見越して、保険会社による新型コロナウイルスのワクチン接種に特化した保険商品が出現してきている。特に、通常の医療保険商品などに加入が難しい所得層などを考慮した低額の保険商品や、無料での保障提供など民間によるサポートの広がりが見られている。
 
9 接種機関は、政府の衛生当局が指定し、中国ワクチン管理法で定められた条件を満たしている機関
10 中国ワクチン管理法に加えて、国家衛生健康委員会による「予防接種の有害事象反応の補償範囲参考目録及び説明(2020年版)に関する通知」(2020年12月14日)において、ワクチンの種類や副反応の内容、期間等について定めている。
11 中堅保険会社である中国大地保険が引き受けを実施。
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保険研究部   准主任研究員・ヘルスケアリサーチセンター兼任

片山 ゆき (かたやま ゆき)

研究・専門分野
中国の民間保険・社会保障制度

(2021年03月19日「基礎研レター」)

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【「コロナワクチン保険」の出現(中国)】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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