2021年03月05日

NAICが2021年の規制上の優先事項を公表-問題の所在と現在の取組状況等-

保険研究部 研究理事   中村 亮一

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5―気候/自然大災害リスクと耐性力

NAICの気候/自然大災害リスクと耐性力に関するイニシアティブは、以下の通りとなっている8
1|現状
自然災害の経済的コストは、米国経済に計り知れない影響を及ぼす。自然災害は2019年に総費用で2,320億ドルを超え、保険損害額は710億ドルをカバーした。2019年の保険損害額は、2017年の記録的な1,570億ドル、2018年の1,000億ドルを大幅に下回った。保険損害額に関しては、過去20年間に国内で最も費用のかかる大災害のうち10件が発生した。これらのうち8つはハリケーンだった。保険は、カタストロフィックなイベントの後の経済回復を助ける上で大きな役割を果たす。ただし、2019年の Aonのレポートによると、保険でカバーされていない経済的損失の部分(保険ギャップ)は1,610億ドルだった。
2|背景
自然災害の頻度と深刻さの高まりは、耐性力にさらに重点を置くことを保証する。このため、NAICは2010年に保険会社の気候リスク開示調査を採用した。この調査では、次の分野における保険会社の戦略と準備を評価する8つの質問をしている。 

・投資
・緩和
・財務ソルベンシー(リスク管理)
・排出量/カーボンフットプリント
・カスタマーエンゲージメント

調査は現在、カリフォルニアが主導する複数の州の取り組みを通じて、義務的かつ公的に実施されている。調査結果は、カリフォルニア州保険局(DOI)の「気候リスク開示調査」9のWebページにある。現在、保険政策研究センター(CIPR)は気候データを評価して、保険会社が気候変動にどのように対応しているかについてのより詳細な情報を提供している。データの調査結果と分析プロセスに関する最新情報は、2020年9月にNAICの仮想保険サミットで提供された。「調査の2018年の定量的データを分析するレポート」10が2020年11月にリリースされた。気候変動がソルベンシーに及ぼす潜在的な影響について保険会社に尋ねる質問に関するガイダンスを検査官に提供するために、「NAIC財務状況検査官ハンドブック」も改訂した。
3|NAICの取組
極端でカタストロフィックな気象イベントの可能性が高まると、自然災害の頻度と影響を監視することが重要な規制機能になる。NAICのメンバーは、議会を教育し、自然災害に関する様々な提案について技術的なフィードバックを提供する上で積極的な役割を果たしてきた。過去数年にわたって、NAICのメンバーは国会議員と会い、これらの重要な問題について証言し、自然災害への対応を効果的に管理する上での州の役割を強調してきた。

大災害保険(C)ワーキンググループは、この分野でのNAICの取組を監督している。ワーキンググループは以下を担当している。

・(再)保険に関連する大災害の危険に対する能力を高めるための潜在的な州、地域、及び国のプログラムの評価
・連邦及び州レベルで災害保険の問題に対処する提案を監視及び評価する。これは以下を含む。

1.民間の洪水保険を育成し、消費者を保護するための州の取組を評価
2.長期的なNFIPプログラムの推進
3.ギャップを埋めるために連邦緊急事態管理庁(FEMA)などと提携

2020年7月、NAICは気候と耐性力(EX)タスクフォースの開発を発表した。タスクフォースは、規制当局間や業界、消費者、その他の利害関係者との対話を含む、気候関連のリスクと耐性力の問題に関するNAICの国内及び国際的な取組の全てを調整する責任を負っている。さらに、タスクフォースは次のことを行う。

・適切な気候リスクの開示を検討
・気候リスクと耐性力に対する金融規制アプローチを評価
・気候リスクと耐性力に対する革新的なソリューションを検討
・保険業界に関連する持続可能性、耐性力、緩和の問題と解決策を特定
・災害前の緩和と耐性力、及び耐性力における州の保険規制当局の役割を考慮に入れて、推奨事項を作成
 

6―データ利用、プライバシー及びテクノロジー

6―データ利用、プライバシー及びテクノロジー

NAICのデータ利用、プライバシー及びテクノロジーに関するイニシアティブは、以下の通りとなっている11
1|問題
今日の経済はデータに基づいて運営されており、保険業界も例外ではない。テクノロジーとコンピューター処理機能の向上は、前例のない量のデジタル消費者情報の利用可能性と相まって、様々な商業、金融、テクノロジー企業による消費者データの広範な使用につながった。これは、欧州連合(EU)での行動と、国のデータプライバシー法を可決するよう議会に圧力をかけることと相まって、保険業界に適さない可能性のある州の取組みと解決策の先取りの懸念を引き起こす。州の保険規制当局は、保険セクターにおけるテクノロジーと消費者データの革新的な使用から生じる利益と害について疑問を投げかけ続けている。彼らはまた、ビッグデータの影響を追跡している。人工知能(AI)などの自動化されたアルゴリズムベースの意思決定は、既存の規制の枠組みに基づいている。 

(1)データのプライバシー  
データプライバシーとは、消費者が個人データを管理する量を指す。現在、スマートフォン、インターネットブラウザ、その他のデジタル接続サービスを介して個人に関して収集された膨大な量のデータがある。EUの一般データ保護規則(GDPR)は2018年に発効し、消費者が個人データの収集と使用に「オプトイン」できるようにすることを企業に義務付けている。2020年1月、カリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA)が施行された。これには、カリフォルニア州で活動する営利企業が消費者に個人データの透明性と管理を提供することを要求している。イリノイ州、メイン州、ネバダ州も最近データプライバシー法を制定し、他の多くの州も同様の法律を検討している。 

NAICには現在、消費者データのプライバシーを扱う2つのモデル法がある。  

・NAIC保険情報とプライバシー保護モデル法 (#670)  
・消費者金融及び健康情報規制の プライバシー (#672)  

NAICプライバシー保護(D)ワーキンググループは、現在の州の保険プライバシー保護をレビューして、機能強化が必要かどうかを評価する責任がある。  

(2)データテクノロジー  
21世紀のデータの爆発的な増加に伴い、データを新しい方法で処理、管理、及び使用するための処理能力と速度の大幅な向上によって補完されるテクノロジーも開発された。クラウドストレージとSaaS(Software-as-a-Service)テクノロジーは、データストレージのコストを削減し、コンピューティング容量の大幅な増加に貢献している。AI、機械学習(ML)、自然言語処理(NLP)の手法を使用してデータを新しい方法で処理し、新しい洞察を引き出すことができる。 ブロックチェーンテクノロジーは、時間の経過とともに変更できない共有レコードを作成する。これにより、トランザクションの処理でエラーが発生しにくくなり、プロセスと組織の効率が向上する。これらのテクノロジーは全て、現在、世界中で保険事業を行うために使用されている。これは、州の保険規制当局に課題と機会をもたらす。 

州の保険規制当局は、様々な方法でデータとテクノロジーのこれらの新しい使用法に関心を持ち、関与している。NAICは 、イノベーションとテクノロジーの問題について業界と関わるために、各州の保険部門の連絡先のリストをまとめている。NAICのメンバーと規制当局は、定期的にInsurTech コミュニティに参加している。州の保険規制当局は、これらの問題とその規制への影響、特に消費者保護に関する協力と議論を受け入れている。 

(3)データの使用  
データテクノロジーは、膨大な量のデータの利用可能性に依存している。保険会社は、消費者がテレマティクス、ウェアラブル、又はその他の モノの ンターネット(IoT)プログラムにオプトインできるようにすることで、独自のデータを作成及び収集している。IoTデバイスは、保険引受に通知するために、身体活動や運転習慣などの保険消費者の行動に関するデータを収集する。また、建物の水分センサーなどの特性を監視して、水害を早期に発見することもできる。これは、リスクを評価及び軽減するために使用できるだけでなく、消費者行動への洞察を提供するためにも使用できる。保険会社はまた、政府機関、地理情報システム(GIS)、ソーシャルメディアなどの公的に利用可能なソースからデータを収集し、AIやMLなどの手法を使用して様々な保険プロセスに関する意思決定を行う。 

NAICビッグデータ及び人工知能(EX)ワーキンググループは、保険会社による消費者データ及び非保険データの使用を監視するために使用される既存の規制フレームワークのレビューを担当している。加速引受(Accelerated Underwriting)(A)ワーキンググループは、データ使用の分野にも携わっている。追加の規制措置又はガイダンスが必要かどうかを判断するために、加速生命保険引受における外部データ及びデータ分析の使用を調査する責任がある。 
2|NAICの取組
多くのNAICグループは、保険業界でのデータ使用に関連する問題に焦点を当てている。例えば、イノベーションとテクノロジー(EX)タスクフォースは、これらのグループの取り組みを調整し、消費者データの保険会社による使用とデータテクノロジーに関する業界慣行に関する全体的な規制ガイダンスの必要性を検討する責任がある。2020年に、人工知能(EX)ワーキンググループ(ビッグデータ及び人工知能(EX)ワーキンググループに改名された)は、保険業界向けの AI原則を開発した。NAICメンバーシップは、2020年夏季全国会議でこれらの原則を採用した。

NAICはまた、この分野の消費者保護を強化するために協力する方法を特定すべく、州及び連邦のデータプライバシー法に関して州の司法長官及び議会と引き続き協力している。
 

7―まとめ

7―まとめ

以上、今回のレポートでは、NAICの2021年の規制上の優先事項及びそれらの事項に関する現状及びNAICでの検討状況についての概要を報告してきた。

これらの課題は基本的にはNAICだけの課題ではなく、世界各国の保険業界に共通する課題であり、そのためEUにおけるEIOPA(欧州保険年金監督局)やグローバルレベルでのIAIS(保険監督者国際機構)においても、同様のトピックに関する検討が行われてきている。

これらの課題は、日本の保険会社にとっても極めて重要な課題であることから、米国のNAICにおける検討を巡る動向等については、今後も引き続き注視していくこととしたい。
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保険研究部   研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

(2021年03月05日「保険・年金フォーカス」)

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