2021年03月05日

NAICが2021年の規制上の優先事項を公表-問題の所在と現在の取組状況等-

保険研究部 研究理事   中村 亮一

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1―はじめに

NAIC(全米保険監督官協会)は、2021年2月9日に、2021年の規制上の優先事項を公表1している。今回のレポートは、これらの優先事項及びそれらの事項に関する現状及びNAICでの取組状況についての概要を、NAICのWebサイトからの情報に基づいて、報告する。  

2―NAICの2021年の規制上の優先事項

2―NAICの2021年の規制上の優先事項

NAICの公表によれば、NAICのメンバーは、毎年、組織の役員や委員会の任命の発表後、優先順位を決定し、潜在的な作業計画を議論しているが、2月9日に、2021年の戦略的優先事項を発表した。

これについて、NAICの会長兼フロリダ州の保険コミッショナーのDavid Altmaier氏は、「今年は、消費者を保護し、公正で競争力のある健全な市場を確保するというコミットメントにおいて統一されたNAICメンバーの150年を迎える。」と述べている。さらに、「2021年、私たちはこの伝統を継続し、消費者に安全で信頼性の高い保険商品を提供する、堅牢で応答性の高い保険セクターの育成に役立つソリューションを推進する方法を見つける。」と述べている。

NAIC の2021年の規制上の優先事項は、以下の通りとなっている。

1.COVID-19
2021年、NAICは2020年の「Priority One」を継続する。これは、進行中のパンデミックと消費者及び保険市場への影響に対応するNAICメンバーをサポートするために設計された包括的なイニシアティブである。保険業界は、進行中の危機と回復を通じて顧客と経済を支援する上で重要な役割を果たしている。保険規制当局は、引き続きデータを分析し、進化する状況に適応し、消費者保護がこのウイルスによってもたらされる変化に対応できるようにするために必要なツールを開発する。

2.介護保険 (LTCI:long-term care insurance
州の保険規制当局は、LTCIレートレビュープロセスの一貫性を改善するための継続的な取り組みを継続する。保険会社の準備金の妥当性を調べる。革新的な商品の提供を促進する。LTCI契約について連邦の政策立案者と連携する。また、LTCI商品と代替の福利厚生オプションについて消費者を教育する。

3.人種と保険
保険規制制度、及び一般的な保険は、それが保護する社会を反映している。人種と保険に関する特別委員会を通じて、有色人種2や歴史的に過小評価されているグループ向けの保険商品の入手可能性と手頃な価格を引き続き確保し、セクター内の多様性と包括性を促進する。
 
2 NAICの使用している原語「persons of color」の翻訳として使用している。
4.気候リスクと耐性力
NAICは、州、連邦、及び国際的な利害関係者と協力して、気候関連のリスクと耐性力の評価、開示、及び評価イニシアティブを調整し、各州が耐性力を促進し、その市民のための安定した保険市場を確実にするための情報、政策、及びツールを持つようにすることをコミットしている。

5.消費者データのプライバシー
様々な商業、金融、テクノロジー企業による消費者データの使用に関する規制上の懸念が高まっている。消費者データのプライバシーが保護されるように、現在の州の保険プライバシー保護を引き続き確認、監視、更新する。

6.ビッグデータ/人工知能
州の規制当局は、保険以外の消費者データの使用から生じるメリットと潜在的な意図しない結果を引き続き調査している。保険業界にAI原則を採用することで、私たちは、消費者を支持するイノベーションを促進しながら、業界のコンプライアンスを監視及び監督する規制慣行の開発に取り組んでいる。
 

3―COVID-19への取組

3―COVID-19への取組

NAICは、COVID-19に関して、2月16日に、「2020年の年末COVID-19レポート」3を発表している4。これは、NAICが、保険契約者を保護し、保険セクターの支払能力を保護するために取られた規制措置をレビューする一連のレポートの3番目のリリースだった。最初のレポート5は、2020年1月1日から5月31日までのアップデートをまとめた「COVID-19に対する州の保険規制対応に関するNAICの報告(A REPORT OF THE NAIC ON THE STATE INSURANCE REGULATORY RESPONSE TO COVID-19)」であり、2番目のレポート6は、2020年6月1日から9月30日までのアップデートをまとめた「COVID-19に対する保険規制対応の状況に関するNAICの報告(A Report of the NAIC on the State of Insurance Regulatory Response to COVID-19)」だった。

今回のレポートは、2020年1月1日から2020年12月31日までの州の保険規制当局の行動と、これらの行動が、パンデミックが保険消費者に与える影響を緩和するのにどのように役立ったかを記録している。

レポートのハイライトは次の通りである。

・一貫性を促進するための州のデータ収集努力の調整
・仮想検査と新技術の使用のサポート
・労働者災害補償請求のための遠隔医療の使用
・州の行動とベストプラクティスの検索可能なデータベースの作成
・パンデミックが保険ラインに与える影響について消費者を教育するための会報
・COVID-19の影響に関する強化された市場分析と監視
・米国の政策立案者及び世界的な規制当局との調整  

4―介護保険(LTCI)を巡る状況

4―介護保険(LTCI)を巡る状況

NAICのLTCIに関するイニシアティブは、以下の通りとなっている7
1|LTCIの現状
 1960年代にLTCIが導入されて以来、LTCI市場は大きく進化した。2010年の米国の介護(LTC)サービスへの支出は、国内総生産の約1%だったが、2050年までに3%に増加すると予想されている。米国保健福祉省(HHS)によると、高齢のアメリカ人の少なくとも半数は、ある時点で介護者を必要とすることになる。 

ニーズが高まっているにもかかわらず、LTCIを提供する保険会社の数は、2004年の100をわずかに超える数から、2020年には約12に減少した。さらに、残りの引受会社が価格を調整したため、新たに発行される保険のレート(保険料率)が上昇した。 

LTCI契約には、次のようないくつかの代替サービスが組み込まれている。 

・在宅医療  
・レスパイトケア  
・ホスピスケア  
・家庭でのパーソナルケア  
・生活支援施設で提供されるサービス  
・デイケアセンターやその他の地域施設  

メディケアやメディケイドなどの公的プログラムも、特定の限定されたLTCサービスを対象としている。人口が高齢化するにつれて、LTCのサポートとサービスの必要性が高まり、革新的な新しいアプローチが必要になっている。
2|LTCIの課題
LTCI市場における保険会社と州の保険規制当局にとっての主な課題は、発行年の古い保険契約にある。これらの契約は、レートの計算に使用されるLTCIの経験が十分に開発されていなかった時に最初に価格設定された。経験が進むにつれ、LTC給付の対象となる保険契約者の数と請求者が請求を継続する期間に対する初期価格の前提が過小評価されていることが明らかになった。さらに、実際の保険解約失効率は当初の想定よりもはるかに低いことが判明し、保険金の支払いに対する保険会社のエクスポージャーが高くなった。初期価格の仮定の誤推定により、保険会社は将来の支払能力を確保するために介護保険料率を引き上げる必要があった。

古い発行年の保険契約によって生み出された数十年の経験の分析により、LTCIを販売する保険会社は新しい発行年の保険契約の価格をより正確に設定できるようになり、保険料率の上昇の可能性がはるかに低くなり、規模も小さくなった。
3|規制当局及びNAICの取組
州の保険規制当局は次のことに取り組んでいる。

1)LTCIのレート引き上げレビュー及び承認プロセスを改善する。
2)保険会社の準備金の適切性を高める。
3)革新的な商品の提供を促進する。

NAICは、2019年に執行(EX)委員会の下で介護保険(EX)タスクフォースを結成した。その焦点は、全国的なLTCIレート増加の調整と一貫性にある。タスクフォースの目標は次の通りである。

・保険数理的に適切な増加が適時に州によって付与され、州間のレート補助を排除する結果となる、LTCIレートをレビューするための一貫した全国的アプローチを開発する。

・レートの引き上げにより保険契約が手頃でなくなった場合に、LTCI契約の特典の変更に関する選択肢を消費者に提供するためのオプションを特定する。

2020年の夏、NAICは、タスクフォースがその責任を完了するのを支援するために3つのサブグループを結成した。これらのサブグループは次の通りである。 

・介護保険の金融ソルベンシー(EX)サブグループ 
・介護保険多州レートレビュー(EX)サブグループ 
・介護保険の減額給付オプション(EX)サブグループ

さらに、介護保険数理(B)ワーキンググループ、介護価格(B)サブグループ、及び介護評価(B)サブグループは、以下のことを行う。

・既存契約のLTCIレートの安定性に関連する提案を評価する。 
・2012年の個人年金責任準備金評価表に基づいて、LTCI準備金の新しい死亡率基準を作成する。 
・LTCI準備金の新しい表形式の任意失効基準の開発
・保険料不足準備金の計算に関する規制ガイダンスの作成
・アクチュアリアル・ガイドライン51(AG 51)-介護保険準備金への資産十分性テストの適用によって規定された新たに必要な提出書類のレビュー 

さらに、 シニア問題(B)タスクフォース は、購入者プロファイルの変化、販売されている商品の進化、規制目標など、LTCI市場の最近の変化を幅広く検討した。2016年、タスクフォースは、LTCIの将来を検討するために、介護革新(B)サブグループを任命した。サブグループは2つのドキュメントを作成した。 

・米国議会が民間のLTC融資消費者オプションを増やすことを検討できる連邦政策の変更のリスト 
・州の保険規制当局、消費者などに提供するLTCサービスに資金を提供するための民間市場オプションのリスト 

タスクフォースはまた、NAICの介護保険に関する購入者ガイドを更新した。NAICは、LTCと、LTCサービスの支払いに役立つ保険オプションを理解するのに役立つこのガイドを作成した。2021年に、タスクフォースは 、NAIC介護保険モデル法(#640)及び介護保険モデル規則(#641)をレビュー及び更新するサブグループを任命した。

破産した保険会社のLTCI給付債務は、生命保険及び健康保険保証協会モデル法(#520)の対象となる。NAICメンバーシップは、保証基金の評価ベースの拡大を可能にするために、2017年にモデル法(#520)を変更した。

そして、CIPR(Center for Insurance Policy and Research)は2019年12月6日に「介護保険の現状」というタイトルのイベントを開催した。このイベントでは、LTCI市場の現状、新商品と資金調達の革新、規制イニシアティブについて話し合われた。
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保険研究部   研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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