2021年01月12日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(5)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-

中村 亮一

文字サイズ

(2) MA、VA、TRFR又はTTPを適用した会社の投資ポートフォリオ
以下の図表は、MA、VA、TRFR又はTTPを適用する、又はこれらの措置の1つも適用しない(no measure)会社の2019年末の投資配分を、全てのEEA会社の投資配分と比較して示している。これらの図表では、ユニットリンク(UL)/インデックスリンク(IL)契約に対する投資は除外されている。

最初の図表は、全ての会社の措置当たりの投資を示している。次の2つの図表は、生命保険会社と生損保兼営会社に対する措置当たりの投資を示している。

これらの図表は、投資配分にいくつかの違いがあることを示している。
図表 MA、VA、TRFR又はTTPを適用又はこれらの措置の1つも適用しない会社(no measure)の2019年末の投資配分(ILやULを除いたベース)
少なくとも1つのLTG措置を適用している会社と措置を適用していない会社との間には、一定の差異がある。技術的準備金の大部分を占める生命保険会社では、VAが最も広く適用されている措置であり、何らの措置も適用していない会社とVA適用会社間の差異は、過去数年に見られたように小さい。MA利用者には大きな違いが見られるが、これはMAが利用されている管轄区域における各国固有の資産配分によるものである。

国別の影響の問題は別として、これらの数字の因果関係の問題を解決することは難しい。LTG措置が特定の投資配分の原因であるというよりも、特定の措置を適用することを選択した会社は、そもそも保険会社の完全な代表例ではないかもしれない。
(3) MA、VA、TRFR又はTTPを適用した会社の債券ポートフォリオ
(3-1)債券の信用度
以下の図表は、MA、VA、TRFR又はTTPを適用した会社の債券ポートフォリオの信用度を示している。信用度は、0から6まで変化する信用度ステップ(CQS)で測定される。0は最も高い信用度を示し、6は最も低い信用度を示す。「投資適格」とみなされる社債は、通常、0と3の間のCQSを有する。

LTGを適用している会社と、自主的な措置を講じていない会社との間には、信用格付の格差が存在する。この違いはMA利用者のサブセットにおいて特に顕著である。しかしながら、 MAがスペインでのみ適用されるので、 MA利用者に対する投資の違いは国の要因によって説明される。VAを利用している企業では、その差は依然として大きく、CQS 0格付けの政府債が15%、CQS 0格付けの社債が16%である。全体的に、保有資産の大部分はCQS 0とCQS 3の間に格付けされており、LTG措置の使用にかかわらず投資適格である。

全体として、ここに示した2019年の結果は、過去数年の数字とよく似ている。国別に見ると、どちらの方向へのシフトも見られるが、明確な傾向は見られない。また、特に国債の場合、平均CQSの最も大きな変化は、異なるポートフォリオ構成ではなく、調整された格付けによるものと思われる。
図表 国債と社債の信用度(措置適用有無別)(ILやULを除いたベース)
(3-2)債券のデュレーション
以下の図表は、国毎に、債券ポートフォリオの平均デュレーションを国債と社債で分けて示している。少なくとも1つの措置を適用した会社と、いずれの措置も適用していない会社を区別している。なお、デュレーションに関する図表には、ユニットリンク/インデックスリンク契約に対する投資は含まれていない。

これによると、少なくとも1つの措置を適用した会社は、債券の平均デュレーションが平均して長い。この傾向は、社債よりも国債の方が顕著であるが、デュレーションには強い国の違いも重要な役割を果たしている。オランダ、ノルウェーのように、その差が非常に大きい国もあれば、小さい国もある。
図表 国債ポートフォリオの平均デュレーション(ILやULを除いたベース)
図表 社債ポートフォリオの平均デュレーション(ILやULを除いたベース)
ここでも、異なる国の間のいくつかの顕著な違いが明らかになる。全体として、2018年から2019年にかけて債券デュレーションがわずかに増加する傾向がみられる。この傾向は国債でより強く、EEA内の平均デュレーションはほぼ0、8年増加している。社債のデュレーションは、平均してわずかに増加しただけであり、一部の国では減少している。より長期のデュレーションは、現在の低金利市場の状況において、利回り追求行動を示唆している可能性がある。
(4)投資行動に関する監督上の観察
LTG措置及び株式リスクに対する措置が会社の投資行動に与える影響についての情報を収集するために、EIOPAはNSAsに対して、長期投資家としての会社の行動の傾向に関する観察、それらの動向に関連する要因及び措置と観察された傾向との間の関連についての見解を尋ねた。

全体として、NSAsからの反応は前年の観察と同様であった。殆どのNSAsは、監督する保険会社の投資行動に関連性のある重要な傾向を確認していない。確認された傾向の殆どは、低金利が続いている状況下での利回り追求行動に関連している。いずれの観察も、ともかく達成が困難な、事実の証拠に基づいたLTG措置の適用と明確に関連するものではなかった。

2019年のNSAによる主な傾向は昨年と同様であった。5つのNSAsが、インフラ、住宅ローン、ローン、その他の不動産投資などのオルタナティブ投資への転換について明確に言及した、利回り追求型の調査を行った。あるNSAは、投資決定におけるESG基準の認識が高まっているとコメントした。NSAsは2020年上半期にこの傾向に有意な変化を観察しなかった。

7つのNSAsは、株式保有に関する具体的な動向について言及している。このうち、4つが微増、3つが微減を確認した。2020年上半期、NSAsはこの傾向に大きな変化は観察しなかったが、あるNSAは株式投資の増加を観測し、別のNSAはより活発な売買行動を観測した。資産配分の項で示したグラフを考慮すると、2018年から2019年にかけて、株式全体の保有がわずかに増加していることがわかる。

3つのNSAsは債券デュレーションの増加傾向を確認した。デュレーションが増加傾向を確認した2つのNSAsは、これが利回り追求型の行動に関連しているとした。

2つのNSAsは、投資の動向をLTG措置の適用と関連付けた。1つのNSAは、VAは、承認プロセスの要件により、市場における債券ポートフォリオの構成に影響を及ぼすことに言及した。他のNSAは、LTG措置が長寿再保険の増加の動機であると観察した。彼らは、長寿リスクの減少は保険会社がより多くの投資リスクを引き受けることを可能にすると観察した。
 

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、EIOPAの報告書の第2のセクションに記載されているLTG措置や株式リスク措置が直接的に会社の財務状況に与える影響以外の項目のうち、保険契約者保護、保険会社の投資に与える影響について報告した。

次回の6回目のレポートでは、LTG措置や株式リスク措置が直接的に会社の財務状況に与える影響以外の項目のうち、消費者及び商品、EU保険市場における競争と公平な競争の場、金融安定性に与える影響について報告する。
Xでシェアする Facebookでシェアする

中村 亮一

研究・専門分野

(2021年01月12日「保険・年金フォーカス」)

公式SNSアカウント

新着レポートを随時お届け!
日々の情報収集にぜひご活用ください。

週間アクセスランキング

レポート紹介

【EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(5)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(5)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-のレポート Topへ