2021年01月07日

EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(4)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-

保険研究部 取締役 研究理事   中村 亮一

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1―はじめに

前回のレポートでは、EIOPA(欧州保険年金監督局)が2020年12月3日に公表1した「長期保証措置と株式リスク措置に関する報告書2020(Report on long-term guarantees measures and measures on equity risk 2020)」の第3のセクションから、TRFR(リスクフリー金利に関する移行措置)とTP(技術的準備金に関する移行措置)という移行措置の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告した。

今回のレポートは、EIOPAの報告書の第3のセクションから、LTG措置のMA(マッチング調整)、DBER(デュレーションベースの株式リスクサブモジュール)とED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)という株式リスク措置及びERP(ソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告する2,3
 
1 https://www.eiopa.europa.eu/content/report-long-term-guarantees-measures-and-measures-equity-risk-2020_en
2 前回のレポートで述べたように、以下の図表及び図表の数値は、特に断りが無い限り、EIOPAの「長期保証措置と株式リスクに対する措置に関する報告書2020」からの抜粋によるものであり、必要に応じて、筆者による分析数値を加えたり、表の項目の順番を変更する等の修正を行っている。
3 LTG措置や株式リスク措置の具体的説明については、「EUソルベンシーⅡにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(1)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-」を参照していただきたい。
 

2―MAの国別の適用状況

2―MAの国別の適用状況(適用会社及びSCR比率への影響等)

1|適用会社
MAについては、Brexit後のEEA(欧州経済領域)においては、スペインの14社のみが適用しており、前回の報告書からは1社減少している。会社は複数のマッチング調整ポートフォリオを保有することが認められており、各ポートフォリオは別々の承認を必要とする。これまでと同様に、損害保険会社の適用はなく、生命保険会社が2社、生損保兼営会社が12社適用している。

適用会社の技術的準備金の市場シェアは、EEA全体の1.8%であるが、スペイン国内では59%となっている。
MAの適用状況
さらに、MAとTTP(技術的準備金に関する移行措置)を併用している会社は8社で、これらの会社の技術的準備金の市場シェアは、EEA全体の0%、スペイン国内では10%となっている。前回の報告書に比べて1社のみの減少であるが、スペイン国内での市場シェアは前回の27%から大きく低下している。
MAとTTPを併用している会社の国別状況
なお、MAの適用状況をグループで考えると、7グループが適用し、その国別内訳は、スペインが6、オランダが1となっており、こちらの数は前回から変わっていない。
2|MA率の分布
MA率の分布は、以下の図表の通りとなっている。

また、加重平均ベースでは、スペインで2018年末の70bpsに対して、2019年上期末は65bps、2019年末は34bpsとなっている。
図表 MA率の分布
3|SCR比率への影響
MA適用会社がMAを非適用とした場合、SCR比率(MA適用会社のみ、以下同様)は、スペインで250%から231%に19%ポイント低下する。なお、この影響度は、規模の大きな1社がそもそもMAを非適用としたことにより、前回の報告書までに比べて、大きく低下している。
図表 MA適用によるSCR比率への影響
以下の図表は、MAを適用した全ての会社のSCR比率に対するMA非適用の影響を示している。 図中の各点は、個々のSCR比率をMA非適用の場合の推定SCR比率と比較した1つの会社を表している。各会社の種類は点の色で示される。SCR比率では、全ての会社が100%未満の絶対的な影響を報告している。MA非適用により、SCR比率が100%を下回る会社はなかった。
図表 MA非適用によるSCR比率への影響(会社別)
4|技術的準備金への影響
MA非適用による適用会社における技術的準備金への影響は、スペインで2.0%の増加となっている。
図表 MA非適用による技術的準備金への影響
5|会社毎の影響の分布
以下の図表は、MA非適用によるMCR、SCR、技術的準備金及び適格自己資本への会社毎の影響度合いの分布を示している。
図表 MA非適用による会社毎の影響度の分布
6|会社の投資への影響
MA適用会社とMA非適用会社の国債と社債のポートフォリオの信用の質は以下の図表の通りとなっている。

これによれば、MAを適用している会社と適用していない会社との間で、債券の信用の質に若干の違いがあることが示されている。ただし、これらのデータを、レポートのセクションII.4に示されているように、国間の債券の信用の質の違いと比較すると、MAを適用する会社と適用しない会社の違いは比較的限られている。 言い換えれば、「カントリー効果」が、MAを適用する場合と適用しない場合の効果よりも、かなり大きくなっている。 さらに、スペインでMAを適用する会社のサブセットは、MAとは独立した他の保険会社とは異なる方法で資産を割り当てる可能性があるため、この違いの因果関係を証明することはできない。また、MAを適用する会社の数は非常に少ないため、明確な傾向を特定するいかなる試みも、このことを念頭に置いておく必要がある。
MA適用会社とMA非適用会社の国債と社債のポートフォリオの信用の質
また、以下の図表は、MA適用会社とMA非適用会社の国債と社債のデュレーションの差異を示している。
MA適用会社とMA非適用会社の国債と社債のデュレーションの差異
7|商品や消費者への影響
次の図表は、各保険種類(1列から6列)、生命保険と生命再保険事業の合計(7列)、損害保険と損害再保険事業の合計(8列)について、MAを適用した会社の総収入保険料に対する割合を示している。
MA適用会社の収入保険料割合
スペインでMAを適用する保険会社によって提供される保険商品に関して、以下の特徴がNSA(国家監督当局)によって報告されている。

・商品の目的は老後のための貯蓄
・商品の保険義務はソルベンシーIIの商品種類の「その他の生命保険」に該当する。
・商品は終身年金又は一時金を保証
・商品には保証利率がある。
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保険研究部   取締役 研究理事

中村 亮一 (なかむら りょういち)

研究・専門分野
保険会計・計理

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