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EUソルベンシーIIにおけるLTG措置等の適用状況とその影響(3)-EIOPAの2020年報告書の概要報告-
中村 亮一
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TRFR又はTTPを適用する会社及びPIP(phasing-in plan:段階的導入計画)の提出を求められた会社の国別内訳は、以下の図表の通りである。
TRFR又はTTPを適用する会社は142社あり、このうちの45社が2019年のある時点でSCR全額をカバーするためにTRFR又はTTPの適用に依存しなければならなかったため、2019年にPIPを提出しなければならなかった。ただし、2019年末時点で、これらの会社のいくつかはSCRを遵守するためにTRFR又はTTPに既に依存していなかった。 2018年には、39社がPIPを提出することを要求されていたので、2019年には、6社増加している。
初めてPIPの提出を求められた会社は、2018年にはなかったのに対して、2019年には6社が該当した。5つの管轄区域における6社は、2018年には100%のSCRカバレッジを満たしていたが、2019年にはPIPの提出を要求された、6社のうちの1社はPIPを提出できなかった。
(2)PIPの更新
会社は、監督当局の要求又は会社自身の主導で、2つの管轄区域で既存の計画を修正した。修正は主に、段階的導入や事業予測の更新の結果である。
ある会社は、移行措置に基づくポートフォリオの推定ランオフをより良くモニターするために、監督当局の要請に応じて、PIPに負債及び裏付け資産から生じる将来キャッシュフローを導入した。
(3)進捗報告書の確認
SCRを完全にカバーするために移行措置に依存している会社は、進捗報告書を年1回提出することが期待されている。NSAsは一般的に、進捗報告書は十分であり、移行措置無しでSCRを遵守することに向けての会社の進捗状況を説明している、と報告した。
殆どの場合、会社は移行措置無しでSCRを遵守することにおいて継続的な進歩を示していた、とされた。しかしながら、いまだ金利環境への依存度が高い。
(4)NSAsの見解
2018年と同様に、NSAs は一般的に、会社が移行措置への依存を2032年1月1日までに依存がなくなるまで減らすことができる、と確信している。
これは、今年の進歩により自信が強まったことである。 PIPの中で会社によって計画された措置は、低金利環境下での会社のソルベンシーポジションの強化に既に効果的な貢献をしていると報告された。 しかし、2つのNSAsは、低金利環境により、会社の移行措置への依存度が高まっていることに注目した。
次の図表は、ソルベンシーIIの発効時及び2019年12月31日までの年末時点での、移行措置無しにSCRに準拠しない会社数の概要を示している。また、2016年1月1日、2016年12月31日、2017年12月31日、2018年12月31日、及び2019年12月31日において、移行措置無しでSCRに準拠するための適格自己資本の不足額を示している4。
4 この表には、2016年LTG報告書の時点では入手できなかったため、2016年1月1日の英国のデータが含まれている。英国のEU離脱のため、2019年末の英国のデータも考慮されていない。
NSAsは、SCRを遵守するために移行措置に依存している会社に対して取った措置や取ることを想定している措置についての報告を求められ、以下のような様々なアプローチを報告している。
・会社のリスクを評価する際に、TTPの適用有無の両方のケースの会社のソルベンシーポジションを検討する。
・2つのNSAsは、作業計画の作成時に移行措置の影響が無い会社のリスクの水準を測定し、特にSCRを完全にカバーするために移行措置に依存している場合に、TRFR又はTTPを適用している会社のレビューを優先する。NSAsは、会社が、リスクを測定し、リスク選好度を定義するために適切な指標(即ち、移行措置無しで)を適用し、その戦略において、移行措置の適用を通じてのみSCRを遵守するという事実を考慮し、ソルベンシーの問題に関してAMSB(管理・経営・監督機関)に明確で関連性のある情報を提示し、SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)に関連情報を提供する、ことを期待している。
・あるNSAは、移行措置に依存している会社数とSCRを遵守するために移行措置が必要とされる程度を定期的に市場に明示的に通知している。
・あるNSAは、追加の四半期報告を伴う「早期警告」を通じて、リスクがあるとみなされ、将来のソルベンシーの状況を危険にさらす可能性があると考えられる場合、配当金の支払いに同意しない会社を特定すると述べた。
・あるNSAは、SCRを遵守するために技術的準備金に関する移行措置に依存している会社に立入検査を行った。これらの立入検査の結果、採用された措置が効果的でなく、再計算が必要な場合、PIPを修正する監督措置が取られた。
・NSAsは一般的に、会社がPIPに取り組んでいる措置を実施することを期待し、進捗報告書をレビューして移行期間中の進捗状況を監視すると報告した。必要に応じて、会社の代表者との詳細な議論のための規制会議が設けられる。NSAsは、PIP又は進捗報告書が不十分であり、この不十分さが修正計画によって修正されない場合、移行措置の取消が考慮されると報告した。
3―まとめ
TTPについては、主要国の保険会社が適用しているが、特に英国やドイツで、SCRの遵守の上で大きな意味合いを有するものとなっている。また、今回の報告書では、SCR全額をカバーするためにTRFRやTTPという移行措置を適用している会社に対するPIPに関する状況や、それを受けてのNSAsのレビューや監督措置等が明らかにされている。移行措置適用の収束に向けて、今後各保険会社がどのような対策を図り、それに対して各国監督当局がどのように対応していくのかは大変興味深い。
次回の4回目のレポートでは、MA(マッチング調整)、DBER(デュレーションベースの株式リスクサブモジュール)とED(株式リスクチャージの対称調整メカニズム)という株式リスク措置及びERP(ソルベンシー資本要件に準拠しない場合の回復期間の延長)の適用状況について、その国別の適用会社数やSCR比率への影響等を報告する。
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中村 亮一
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(2021年01月04日「保険・年金フォーカス」)
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