2020年08月03日

欧州大手保険グループの内部モデルの適用状況(標準式との差異)-2019年のSFCRからのリスクカテゴリ毎の差異説明の報告-

中村 亮一

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E.4 標準式と使用された内部モデルの差異
標準式と内部モデルの主な違い
内部モデルは、グループ方法論に基づいた集中化されたモデルである。これにより、ローカルの特殊性が存在する場合には、特にローカルレベルでの引受リスクの較正を通じて、そのことを考慮しつつ、グループ全体で同様のリスクのモデリングが完全に一貫性を保つことを確実にする。これらのローカルでの較正は、ローカルチームによって提示され、グループのリスク管理によって検証されている。検証は、内部モデル、とりわけデータ品質の量的側面及び質的側面の両方を網羅している。グループのデータ品質方針は、内部モデルの入力として使用されるデータが完全で正確で適切であることを要求する。内部モデルの範囲のさらなる情報については、本レポートのセクションE.2を参照のこと。

内部モデルの一般的な構造は、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナルリスクの5つの主要モジュールで構成されている。標準式は同様のモジュラー・アプローチに従うが、健康リスクのために別のモジュールを有している。代わりに、内部モデルでは健康リスクが形式原則上の実質に従って、生命リスク又は損害リスクに含まれている。

一般に、5つのリスクカテゴリでは、内部モデルは、標準式では適切に捕捉されないが、グループにとって重要なサブリスクのモデルを提供する。

■市場リスク:金利のインプライドボラティリティ、株式のインプライドボラティリティ、政府のスプレッド及びインフレは、内部モデルで明示的にモデル化されている。特に、これは、標準式とは異なり、内部モデルが、SCRの計算において、(EUの国々を含む)全てのソブリン債のスプレッドリスクを考慮していることを意味している。ポートフォリオの集中リスクは、企業のデフォルト計算(信用リスク)に含まれている。

市場リスクに関する内部モデルは、ボラティリティ調整の将来の変化を見込む「動的ボラティリティ調整」のモデルを含んでいる。これは、スプレッドの拡大による資産サイドの損失がボラティリティ調整の変化による負債サイドの動きによって一部相殺されるということを考慮に入れる経済的アプローチを反映している。内部モデルにおいては、ボラティリティ調整の水準は、社債及び/又は国債のスプレッドの動きに依存して評価され、その負債への影響が評価される。動的ボラティリティ調整のモデリングは、投資資産から派生するスプレッドリスクを一部相殺する。動的ボラティリティ調整のモデリングについては、EIOPAによって提供されるパラメータ(ウェイト、参照ポートフォリオ、基本スプレッド)が使用される。いくらかの保守性を加味し、モデルにおける潜在的な制約を反映するために、25%のヘアカットが社債のスプレッド水準の変動に対して適用される(即ち、もし所与のシナリオで社債のスプレッドがx bps動いた場合、xの75%のみがこのシナリオでの新しいボラティリティ調整を導くために考慮される)。内部モデルで使用されるサブリスクとリスクファクターの数が多いため、異なる資産クラスのリスクとそれらの間の分散効果は、標準式よりも正確に把握できる。例えば、ショックは経済に依存し、それはボラタイルな市場ではより高いショックが想定されることを意味している。

■信用リスク:社債のデフォルトリスクは、標準式のスプレッドの較正に含まれているが、内部モデルはこれを個別に扱った。

■生命リスク:内部モデルは、その他の顧客行動や医療費を明示的にモデル化している。改定リスク(即ち、保険契約者の健康状態における変化によるリスク)はグループにとって重要でないことから、内部モデルのデフォルトではモデル化されていないが、(就業不能リスクに埋め込まれて)ローカルレベルでは考慮に入れることができる。解約リスクは、内部モデルと標準式の両方において、3つの要素(解約の増加、解約の減少及び大量解約)に分けられるが、集計が異なっている(内部モデルにおける集計マトリックスに対して、標準式における3つの要素の最大値)。

■損害リスク:標準式ではリスクボラティリティを定量化するのに業界全体のパラメータに依存しているのに対して、内部モデルは会社固有のボラティリティパラメータに依存している。それゆえ会社のポートフォリオに埋め込まれたリスクに整合的で、一般的により詳細である。内部モデルはより正確なモデリングのために保険料と準備金リスクを分解し、それらの間の分散化を考慮している。最後に、解約リスクは保険料リスクを通じて把握される。

■オペレーショナルリスク:オペレーショナルリスクの内部モデルは、フォワードルッキングなシナリオベースのアプローチ(SBA)に従う。これは、一連の横断的なグループシナリオで補足された各エンティティの最も重要なオペレーショナルリスクの識別と評価に依存している。標準式とは対照的に内部モデルを使用する主な目的は、SCRにグループのリスクプロファイルをよりよく反映させることである。これは、オペレーショナルリスクの標準式が、オペレーショナルリスク基準に関連するリスクファクターのない純粋なファクターベースのものであるため、オペレーショナルリスクにおいて特に関係している。

■モデリング手法:標準式では、SCRを導出するために、殆どのリスクカテゴリにシンプルモデルが使用されている。殆どの場合、極端なシナリオは99.5%分位を表すものとして定義されている。内部モデルでは、極端なシナリオは生命SCRの計算にのみ使用される。他のリスクカテゴリについては、洗練されたモデルが適用される。特に市場、信用固定金利及び再保険、損害保険及びオペレーショナルリスクについては、損失の分布はシミュレーションから導き出される。

■分散化:標準式では、地理的分散は明示的に認識されていない。内部モデル集約アプローチは、AXAグループがグローバルに活動しているため、地理的な分散効果を考慮している。

ソルベンシーIIの枠組みでは、グループの自己資本の金額の変化に確率を割り当てる内部モデルの基礎となる確率分布予測(PDF)の提供が要求される。シミュレーションベースのモデリングアプローチが完全な確率分布予測を認めているのに対して、ショックベースのモデリングは(追加的なパーセンタイルと完全な分布が導出される)特定のパーセンタイルの計算に依存している。方法論上の理由から、以下のオリエンテーションが内部モデルのために選択されている。

■損害、市場及びオペレーショナルリスクモジュールのモデリングは、シミュレーションベースのアプローチを使用して、完全な確率分布予測を提示することができる。

■生命リスクに関しては、0.5%又は99.5%パーセンタイルベースの内部モデルの計算は、追加的なパーセンタイルの導出によって補完される。

■信用リスクのモデリングは、想定されるサブリスクに応じて、シミュレーションベースの手法とショックアプローチの両方に依存している。第1の手法については、完全確率分布予測が利用可能である。ショックアプローチ(債権から派生する信用リスクに対してのみ使用される)に関しては、生命リスクに対して実行されるアプローチと同様に、いくつかのパーセンタイルが計算される。

全体的な集計方法は、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナル要件の楕円集計(elliptical aggregationに基づいている。このモジュラー・アプローチは、主要リスク又はサブリスクのランク付けを可能にし、リスク(サブリスク)とその影響の十分な理解を提供する。

AXAグループは、リバースストレスシナリオも実行している。このようなシナリオの目的は、選択した評価日に同じSCRの金額を生む、市場、信用、生命、損害及びオペレーショナル・イベント(シナリオで定義されたショックが同時に発生している)の組み合わせを示すことにある。これにより、内部モデルに固有のいくつかの影響を評価することができる。

■それらは、異なるリスク間の相互作用のバックテストを構成する。実際、このようなシナリオを実行することで、潜在的なクロス及び非線形効果を際立たせることができる。

■全てのリスク要素が同時にシミュレートされる完全シミュレーションベースアプローチに対して、楕円集計は、理論的には、保険契約者の吸収能力の過大評価をもたらすかもしれない。テストは、200年に一度のストレスを適用する際に、いくつかの将来の裁量的なベネフィットがそのままで、既存の保険契約者の吸収能力を超えるいかなる超過も考慮されていないということを示している、ことを確実にする。

Generali
Generaliは、内部モデルと標準式によるSCRの計算の主な差異を、例えば、以下の通りまとめている。

・生命保険引受リスクのストレス較正は、標準式アプローチで要求されている規制で定義されているストレスレベルではなく、過去のポートフォリオデータに基づいている。

・損害保険引受リスクに関して、例えば、カタストロフィー(CAT)リスクに関しては、PIMは市場のベストプラクティスに基づく先進的な方法を使用しているのに対し、標準式の較正はエクスポージャーの地域に基づいて事前定義されたEIOPA比率を使用している。

・市場リスクに関して、PIMは、より詳細なリスクマップに基づいた、より洗練されたモデリング手法を採用している(例えば、金利及び株式のボラティリティリスクはPIMで考慮されるが、標準式では考慮されず、デフォルトリスクの計算は債券ポートフォリオにも拡張される)。

各リスクカテゴリの標準計算式とPIMの主な違い
各リスクカテゴリの標準計算式とPIMの主な違いは次のとおり。

1.生命保険引受リスクに関して:
・PIM生命保険引受ストレス較正は、標準式アプローチで要求されている規制で定義されているストレスレベルではなく、過去のポートフォリオデータに基づいている。特に、計算は、以下によって定義される、不利な事象から生じる、基礎となる計算の仮定における潜在的な偏差の、技術的準備金への影響に基づいている。
・市場データと、災害リスク(死亡及び健康)の調整のためのエクスポージャーの組み合わせ
・他の全ての生命リスクに関する単一法人の過去のポートフォリオデータ

2.損害保険引受リスクに関して:
・標準式アプローチが標準偏差に基づいているのに対して、PIM内の価格設定及び準備金評価リスクに関する引受契約に関するボトムアップの較正アプローチ

・カタストロフィー(CAT)リスクに関しては、PIMは市場のベストプラクティスに基づく先進的な方法を使用しているのに対し、標準式の較正はエクスポージャーの地域に基づいて事前定義されたEIOPA比率を使用している。

・再保険に関しては、標準式では単純化されたアプローチが採用されているが、PIMでは過去の協定の残りの単純化と任意再保険による将来の再保険条約の具体的なモデル化を検討している。

3.金融及び信用リスクに関して
・市場リスクについては、標準式アプローチは資産に直接適用される標準化されたストレスレベルの適用、又は金利リスクの場合は将来キャッシュフローを割り引くために使用される曲線への標準化され単純化されたストレスの適用に基づく。

・PIMは、より詳細なリスクマップに基づいた、より洗練されたモデリング手法を採用している(例えば、金利及び株式のボラティリティリスクはPIMで考慮されるが、標準式では考慮されず、デフォルトリスクの計算は債券ポートフォリオにも拡張される)

・PIMは、同じリスクモジュール内で、リスクプロファイルをより正確に表現することを目的としている。PIMアプローチは、大きな資産クラスに同じストレス係数を適用するのではなく、各金融商品の特性に関連する特定のストレス分布を調整する。較正は年ごとに見直される。

・信用スプレッド拡大リスクは、標準式とは異なり、PIMの下の信用リスクモジュールに分類されることは注目に値する。

Aviva
Avivaは、内部モデルと標準式によるSCRの計算における全体的なアプローチの差異について、例えば、以下の通り述べている。

・標準式は、様々なリスクへのエクスポージャーによってもたらされる必要資本を計算するための式を規定している。内部モデルについては、当グループは各リスクについて損失の分布を調整し、これらをこれらのリスク間の一連の相関関係とともに使用して、事業に関する共同の損失の分布を導き出す。

・2つのベースは、技術的準備金の損失吸収能力について異なる取扱いをしている。

・集計方法について、
・内部モデルの場合、Avivaは、ガウスコピュラを使用し、損失関数を適用して、各リスクの限界リスク分布を組み合わせて、損失の総計分布を決定する。
・標準式では、階層型相関アプローチを使用している。ここでは、明示的な相関行列を使用して各リスクモジュール内のサブモジュール損失を結合し、次に様々なリスクモジュールの計算損失を結合する。

・内部モデルは、ファットテールリスク(すなわち、極値の確率が正規分布を使用するよりも高いリスク)及び非線形損失プロファイルを捕捉できる。

・さらに、当グループは分散化をより詳細にモデル化することができ、特に地理的分散化などの重要な特徴を捉えることができる。

・内部モデルはAvivaがさらされている全ての重要な定量化可能なリスクを反映しているのに対し、標準式はリスクのサブセットのみを考慮している。

E.4.4標準式と内部モデルの方法論と基礎となる前提の差異
標準式と内部モデル方法論の主な差異は、内部モデルリスクの方法論と前提がAvivaのリスクプロファイルに合わせて調整されているのに対し、標準式は標準化されたアプローチであるという点である。

標準式は、様々なリスクへのエクスポージャーによってもたらされる必要資本を計算するための式を規定している。内部モデルについては、当グループは各リスクについて損失の分布を調整し、これらをこれらのリスク間の一連の相関関係とともに使用して、事業に関する共同の損失の分布を導き出す。当グループが99.5%の信頼性で十分な資本を保有することを確実にするために、所要自己資本はこの共同分布から導き出される。したがって、内部モデルのリスクを調整するには、詳細なデータ分析と最も適切な分布を導き出すための統計モデルの使用が必要となる。

2つのベースは技術的準備金の損失吸収能力について異なる取扱いをしている。内部モデルでは、グループはこれを控除した損失関数を使用するが、標準式では、これは基本ソルベンシー資本要件(BSCR)に対する調整として適用される。これは標準式の計算で指定されているため、税の損失吸収力の計算も2つのアプローチの間で異なる。

内部モデルと標準式の集計方法における1つの重要な違いは、異なるモデリング方法によるものである。

・内部モデルの場合、Avivaは、ガウスコピュラを使用し、損失関数を適用して、各リスクの限界リスク分布を組み合わせて、損失の総計分布を決定する。

・標準式では、階層型相関アプローチを使用している。ここでは、明示的な相関行列を使用して各リスクモジュール内のサブモジュール損失を結合し、次に様々なリスクモジュールの計算損失を結合する。

標準式と比較した我々のアプローチの重要な特徴は、ファットテールリスク(すなわち、極値の確率が正規分布を使用するよりも高いリスク)及び非線形損失プロファイルを捕捉できることである。さらに、当グループは分散化をより詳細にモデル化することができ、特に地理的分散化などの重要な特徴を捉えることができる。もう1つの重要な違いは、内部モデルはAvivaがさらされている全ての重要な定量化可能なリスクを反映しているのに対し、標準式はリスクのサブセットのみを考慮している。

市場リスクモジュール
・内部モデルは、市場のボラティリティの変化を考慮しているが、これは標準式では明確にモデル化されていない。金利及び株式のボラティリティリスクは、保証のある契約にとって特に重要である。

・信用リスク - Avivaのモデルにはソブリン債が含まれているが、現時点では標準式ではモデル化されていない。このモデルはまた、様々な信用エクスポージャー間の分散化に対するある程度の引当金を含む、デフォルトの移行及びスプレッドのリスクを明確に考慮している。

・金利は、標準式の下での金利水準の変化だけではなく、3つの主要な要素を使用してモデル化されている。

・インフレリスク - Avivaは明示的にインフレリスクをモデル化している - 標準式にはインフレリスクはない。

・株式/資産リスク - 資産価格の下落に対するエクスポージャーのみが標準式に反映されるが、Avivaは株式/資産収益の全分布をモデル化しているため、株価又は資産価値の上昇又は下落に対するエクスポージャーを把握できる。

・通貨リスク - Avivaは、このリスクへのエクスポージャーが他のリスクの影響によって異なり、通貨間に分散があることを反映して通貨換算リスクをモデル化するが、これらの要素は標準式では評価されない。

健康リスクモジュール
・当社の生命事業によって書かれた健康事業は、別々にモデル化されている。現在、当社の 損害保険事業によって書かれた健康事業は、標準式を使用して評価されている。

カウンターパーティデフォルトモジュール
・標準式では、1つのモジュールの下で全ての取引相手の債務不履行リスクを考慮している。一方、内部モデルについては、当グループは、モデルを取引相手の種類及びエクスポージャーの性質に合わせて調整している。

生命保険モジュール
・標準式は標準ポートフォリオを想定しているが、Avivaの較正はその特定のポートフォリオに合わせて調整されている。

損害保険モジュール
Avivaは、当グループがAviva General Insurance事業の特定のリスク及びエクスポージャーをモデル化することを可能にする損害保険固有のモデルを構築した。標準式では、インフレの影響を明示的に考慮していない。これは、Aviva General Insuranceにとって重要なリスクの1つである。

さらに、当行グループはコマーシャル・ラインとパーソナル・ラインを区別しているが、標準式はこのレベルの細分性を反映していない。

オペレーショナルリスク
・Avivaはシナリオベースのアプローチを使用してオペレーショナルリスクをモデル化する。標準式は公式のアプローチを使う。

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中村 亮一

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