2020年06月10日

欧州各国の保険監督当局等がIAIGs指定保険グループを公表

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1―はじめに

5月に入ってから、EIOPA(欧州保険年金監督局)や英国のPRA(健全性規制機構)といった欧州の保険監督当局等が、IAIGs(国際的に活動する保険グループ)に指定された保険グループを公表してきている。

今回のレポートでは、(執筆時点での)こうしたIAIGsの指定の状況について報告する。
 

2―IAIGsとは

2―IAIGsとは

IAIGsというのは、英語でInternationally Active Insurance Groupsと呼ばれており、その言葉通りに、国際的に有意なレベルで保険事業活動を展開している保険グループのことを指している。その具体的な選定基準については、IAIS(保険監督者国際機構)がその定量的基準等を定めている。また、IAIGsに対しては、特別な監督・規制が行われることになっている。
1|IAIGs の選定基準
IAIGs の選定基準のうちの定量的基準は以下の通りとなっている。
 

(1) 国際的活動
・3つ以上の管轄地域において、保険料が計上されていること
・本店所在管轄地域外のGWP(収入保険料)のグループ全体のGWPに対する割合が10%以上

(2) 規模(3 年移動平均)
・総資産が500 億米ドル以上、または
・総収入保険料が100 億米ドル以上


ただし、これらの定量的基準に関わらず、限定された状況において、GWS(グループ全体の監督者)と呼ばれるグループ全体ベースでIAIGs の監督に対して責任を有している監督当局が、グループがIAIGs とみなされるかどうかを判断するための裁量権を有している。例えば、(a)自国の保険事業活動が重大である場合、(b)合併および買収あるいは売却等により近い将来に基準を満たすあるいは満たさなくなる場合等が想定されている。
2|IAIGs の指定に関する情報の公表
GWSが、IAIGs の指定を公表するが、場合によっては、この開示が法的変更又は規制措置を必要とすることがある。

IAISは、このコミットメントを達成するためのGWSの進捗状況を監視する。IAISは、GWSによって公開されたIAIGs の公開登録を編集する。登録簿には、公開されたIAIGs の数と、IAIGs の基準を満たすこと又は監督裁量の行使に基づいてGWSにより特定されたIAIGs の総数等の情報が添付されることになっている。

なお、具体的にはグローバルに保険活動を展開している数十社程度がIAIGs に該当し、これらの会社で世界の保険料シェアの5割以上を占めると想定されている。
3|IAIGsに対する監督・規制
IAIGsの監督のための共通の枠組みとして、IAISは、2019年11月に、ComFrame(Common Framework for the Supervision of Internationally Active Insurance Groups:国際的に活動する保険グループの監督のための共通の枠組み)を採択している。

このComFrameの中で、IAIGs に対する監督・規制内容としては、(1)監督当局の枠組み(監督カレッジの組成や危機管理グループ(CMG)の設立)、(2)資本規制、(3)再建・破綻処理計画、(4)グループガバナンス、(5)ERM(統合的リスク管理)、が挙げられている。それぞれの項目の具体的な内容については、今回のレポートの趣旨ではないので触れないが、例えば、「(2)資本規制」について、IAISはComFrameの一環としてICS(保険資本基準)を策定中である。
 

3―IAIGsの指定保険会社の公表

3―IAIGsの指定保険会社の公表

EIOPA及びPRAは、IAIGsの指定保険会社について、以下の通りに公表している。

1|EIOPAによる情報開示
EEA(欧州経済地域)の各国監督当局は、IAIGsを特定し、EIOPAに報告する責任がある。

EIOPAは、5月12日に、「2020年5月12日現在、EIOPAと独自のリストを共有している欧州のGWSからの情報に基づいて」、9つのEU保険グループがIAIGsに特定されていると公表1した。具体的には、以下の保険グループである。

Aegon N.V.
Ageas SA/NV
Allianz SE
Assicurazioni Generali S.p.A.
Grupo Mapfre
HDI Haftpflichtverband der Deutschen Industrie V.a.G.
Münchener Rückversicherungs-Gesellschaft Aktiengesellschaft in München
NN Group N.V.
Vienna Insurance Group AG Wiener Versicherung Gruppe

なお、英国は移行期間中ではあるがEUを離脱したため、リストには英国の保険会社は含まれていない。さらに、このリストはあくまでも5月12日時点のものであり、さらに今後リストに追加されてくる可能性があると述べた。

事実、5月18日には、以下の8つのフランスの保険会社が追加され、この段階で、EU全体でのIAIGs指定の保険グループの数は17となった2

AXA
BNP Paribas Cardif
CNP Assurances
COVEA
Crédit Agricole Assurances
GROUPAMA
SCOR
SOGECAP

この段階での、国別のIAIGsの数は、以下の通りとなっている。

フランス  8  
ドイツ   3  
オランダ  2
イタリア、スペイン、ベルギー、オーストリア  1

フランスからのグループ数が多くなっているが、これらのフランスにおける8つの保険グループの収入保険料の状況は、以下の通りとなっている。
フランスのIAIGs指定保険グループの収入保険料の地域別状況(2019年)
2|英国のPRAによる情報開示
PRAは、5月28日に、英国に本社を置くIAIGsとして、以下の4社を指定したと公表している3

Aviva plc
Legal & General Group Plc
British United Provident Association Limited
RSA Insurance Group pl  

4―まとめ

4―まとめ

以上、今回のレポートでは、このレポート作成時点までの欧州各国におけるIAIGsの指定保険会社の状況を報告してきた。

ここまでの欧州各国におけるIAIGsの指定状況をみると、それぞれの国における保険市場や保険グループの海外展開の状況等を反映して、国毎にその指定会社数がかなり異なっている。

グローバルベースでのIAIGsの指定保険会社に関する情報は、IAISにより、7月以降に開示されることが想定されている。欧州の保険監督当局等は、それに先立つ形で、各国のIAIGs指定保険会社に関する情報を公表してきている。

北米(米国、カナダ)、日本、中国、スイス等のその他の国・地域からも、IAIGsに指定される保険会社が何社か出てくることが想定されている。欧州の保険監督当局と同様に、IAISによる公表以前に、独自の公表が行われてくることになるのか注目される。

IAIGsの指定に関する状況は、IAIGsに対する監督・規制を巡る状況と共に、関係者の関心の高い事項であることから、今後ともその動向を引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年06月10日「保険・年金フォーカス」)

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【欧州各国の保険監督当局等がIAIGs指定保険グループを公表】【シンクタンク】ニッセイ基礎研究所は、保険・年金・社会保障、経済・金融・不動産、暮らし・高齢社会、経営・ビジネスなどの各専門領域の研究員を抱え、様々な情報提供を行っています。

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