2020年06月05日

欧州大手保険Gの生命保険事業の収益構造について-2019年決算数値等に基づく結果報告-

中村 亮一

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1―はじめに

欧州大手保険グループの2019年決算数値が、2月から4月にかけて、投資家向けのプレゼンテーション資料やAnnual Report等の形で公表されている。

これらの2019年決算数値に基づいて、前々回のレポート1では、生命保険事業を中心とした地域別の事業展開の状況について、前回のレポート2では、生命保険事業の新契約の状況について報告した。

欧州の生命保険事業の収益を取り巻く環境は、引き続きの低金利や不透明さを増す金融市場の下で、投資関係の損益を中心に、難しい経営管理が必要とされるものとなっている。

今回のレポートでは、2019年の生命保険事業の営業利益等の収益構造に関する各社の情報提供の内容について報告する。なお、今回は、これまでのレポートにおける7社とは異なり、収益構造に関する詳しい情報開示を行っているAXA、Allianz、Generali、Prudential 及びAvivaの5社に絞って報告する。  

2―欧州大手保険グループ各社の収益構造

2―欧州大手保険グループ各社の収益構造

この章では、欧州大手保険グループ各社の生命保険事業について、まずは営業利益等の収益構造に関する各社の情報提供の内容について報告し、その後投資損益に関係するスプレッドやマージン及びデュレーション・マッチングの状況等について報告する。

各社の開示情報は、その開示様式、使用されている用語及びそれぞれの数値の算出方法等は統一されておらず、各社各様のものとなっているが、ここでは各社の公表内容及び公表数値に基づいて報告する。

なお、以下の図表は、会社が公表している数値等に基づいて、筆者が作成したものである3
 
3 以下の資料において、例えば、営業利益や基礎利益の内訳項目としては、主要な項目のみを掲載しており、全ての項目を網羅しているわけではない。
1|AXA
(1)基礎利益の構造
AXAは、生命保険事業の基礎利益(underlying earnings)の構造を地域別に開示しており、以下の図表の通りとなっている。

2018年から2019年にかけて、米国のEquitableの売却に伴う影響により、グループ全体では、「付加保険料&手数料(Fees & revenues)4」が6,854百万ユーロから4,402百万ユーロに35.8%減少(欧州とアジアだけでみれば、3,686百万ユーロから19.4%増加、以下同様)し、「技術マージン(Net technical margin)」が993百万ユーロから1,355百万ユーロに36.5%増加(1,274百万ユーロから6.4%増加)したものの、「投資マージン(Investment margin)」も2,515百万ユーロから1,930百万ユーロに23.3%減少(1,803百万ユーロから7.0%増加)した。一方で、「費用(Expenses)」も5,883百万ユーロから4,625百万ユーロに21.4%減少(3,824百万ユーロから20.9%増加)した。

そもそも、欧州、米国、アジアという大きな3つの地域における収益構造は、それぞれの地域における市場や販売商品の特性等を反映して、異なるものとなっている。

各地域において、付加保険料&手数料が最も大きな収益の源泉になっており、投資マージンについては、欧州ではウェイトが高く、米国でも高い水準となっていたが、アジアでは日本の影響でマイナスとなっていた。また、技術マージンについては、欧州では高く、アジアでも一定の水準を占めているが、米国では変額年金保証に関するマージンの影響でマイナスとなっていた。こうした収益構造から、2019年には米国の生命保険・貯蓄市場から撤退したことにより、グループ全体では技術マージンのウェイトが高まっている。
生命保険事業の収益構造(地域別)/生命保険事業の収益構造(主要国別)
生命保険事業の収益構造(主要国別)/生命保険事業の収益構造(主要国別)
 
4 「Fees & revenue」は、「付加保険料&その他(Loading & others)」と「ユニットリンク管理手数料(Unit-Linked management fees)」で構成されるため、ここでは「付加保険料&手数料」としている。
(2)投資スプレッド(資産利回りと保証利率との差異)に関する状況
AXAは、投資スプレッドの状況を、会社全体及び主要国別に、保有・新契約ベースで開示している。

(2-1)グループ全体
金利低下で保有資産利回りは低下してきているが、一方で新契約の保証利率も低下させてきているため、保有契約のスプレッドについては、グループ全体で125bps(2018年 135bps、2017年 130bps、2016年 140bps、2015年160bps、2014年 160bps、以下同様)と、引き続き高い水準を確保している。これから経費等を差し引いた投資マージンは 65bps(70bps 、69bps、73bps、79bps、80bps)となっている。

AXAは2018年から2020年にかけての投資マージンのガイダンスとして、55bps~65bpsと設定しており、これを上回る水準を確保した。

なお、2019年末において、AXAの一般勘定投資資産のデュレーション・ギャップは約1年であると述べている。

一方で、新契約ベースでは、金利低下による再投資利回りの低下により、スプレッドは145bps(220bps、180bps、140bps、160bps、230bps)に減少した。

(2-2)国別
国別に見た場合、例えば、本国のフランスでは、1998年に長期保証付一般勘定貯蓄性商品の新契約販売を停止しており、さらに、貯蓄性商品については、一般勘定における貯蓄性商品から、高い新契約価値を有するユニットリンク型商品等へシフトさせてきているため、新契約の平均保証利率は0.0%となっている。この結果として、保有ベースで280bps(290bps、300bps、310bps、320bps、310bps)、新契約ベースで140bps(180bps、180bps、190bps、200bps、240bps)と、高いスプレッドを確保している。

一方で、ドイツにおいては、平均保証利率が毎年低下してきてはいるものの、2.6%(2018年末は2.9%)と引き続き高い水準にあることから、保有契約のスプレッドは40bps(50bps、60bps、40bps、40bps、40bps)と他の国に比べて、スイスと並んで低い水準となっている。また、新契約ベースでは、保証水準を低下させた商品を販売してきていることから、120bps(130bps、90bps、110bps、130bps、120bps)のスプレッドを確保している。
生命保険事業の主要国別投資スプレッドの状況(2019年)/(参考)生命保険事業の主要国別投資スプレッドの状況(2018年)
Allianz
(1)営業利益の構造
Allianzは、営業利益(operating profit)の構造を商品タイプ別に開示しており、以下の図表の通りとなっている。これにより、商品タイプごとの収益構造の特徴が一定程度認識できる開示を行っている。

2018年から2019年にかけて、グループ全体では、「付加保険料&手数料(Loadings & fees)」が6,148百万ユーロから6,644百万ユーロに8.1%増加し、「投資マージン(Investment margin)」も、3,794百万ユーロから4,038百万ユーロに6.4%増加したものの、「技術マージン(Technical margin)」は1,218百万ユーロから1,174百万ユーロに3.6%減少した。一方で、「費用(Expenses)」は7,043百万ユーロから7,392百万ユーロに5.0%増加した。

商品タイプ別の収益の源泉を見てみると、保証付貯蓄・年金は、投資マージン及び付加保険料&手数料が中心であるが、2019年は2018年に比べて、投資マージンが大きく増加している。一方で、高資本効率商品は、投資マージンのウェイトが高く、付加保険料&手数料がこれに続いている。保障・医療商品は、付加保険料&手数料に加えて、技術マージンが大きなウェイトを占めている。ユニットリンクは付加保険料&手数料が収益の殆どを占めている。
生命保険事業の収益構造(商品タイプ別)
各項目のより詳しい内訳は、以下の図表の通りとなっており、付加保険料率の水準や投資マージン率さらには事業費率の状況等が開示されている。

「付加保険料&手数料」については、①「保険料からの付加保険料」がドイツの生命保険事業だけでなく、アジア太平洋地域及びフランスの保障及び健康保険事業において、主に資本効率の高い商品の売上高の増加に伴って増加、②「責任準備金からの付加保険料」も主にドイツの生命保険事業及び米国での責任準備金の増加により、増加、③「ユニットリンク管理手数料」が、特にイタリアにおいて運用資産の増加に支えられて増加、したことから8.1%増加した。
付加保険料&手数料の内訳
「投資マージン(キャピタルゲインを含む投資収益から、保証利率や契約者配当等を控除したもの)」については、(1)フランスで、有利な市場環境による株式及び債券の減損の減少ならびに実現利益の増加が保険契約者への配当の増加によって部分的に相殺された、(2)米国では、有利な外貨換算効果と、変額年金事業における前提のロック解除がプラスの動きに含まれた、(3)ドイツの生命保険事業では、主に債券からのより高い実現益、主に株式からの減損の減少及び利息収入の増加を記録し、これらがともにより高い保険契約者の配当を上回った、ことから6.4%増加した。
投資マージンの内訳/費用の内訳
なお、内訳の図表はないが、「技術マージン」については、アジア太平洋地域と米国からのプラスの影響があったものの、特にフランスの保障・健康事業におけるコンバインドレシオが悪化したことから、3.6%減少した。

また、投資マージンの構造については、以下の図表の通りとなっている。

これによれば、2018年から2019年にかけて、キャピタルゲイン等を含まない直接利回り(責任準備金ベース)は4.03%から3.95%に0.08%ポイント低下したが、一方で、平均保証利率は1.98%から1.93%に0.05%ポイント低下した。なお、キャピタルゲイン等の増加はそのまま配当分配等の増加に反映されている。
生命保険事業の投資マージン(保有契約)
(2)保証利率の状況
Allianzの主要国における保有契約の平均保証利率の状況は、以下の図表の通りとなっている。

絶対的な保証利率の水準では、ドイツとベルギーが高く、イタリアとスイスがこれに続いており、フランスの保証利率が最も低いものとなっている。これは、同様の数値を公開しているAXAの状況とほぼ同じである。

2018年との比較では、横ばいのスイスを除く各国で平均保証利率が0.1%から0.2%程度低下している。
生命保険事業の加重平均保証利率(国別)
(3)デュレーション・マッチングの状況
Allianz は、資産と負債のデュレーション・マッチングを進めてきており、2017年末の生命保険事業においては、資産及び負債のデュレーションは共に9.5年で一致していたが、2018年末においては、経営行動によって資産のデュレーションの長期化を図った一方で、市場の動きやモデルの変更の影響を受けて、負債のデュレーションが短くなったことから、逆に資産のデュレーションが0.4 年長くなっていた。2019年は資産のデュレーションのさらなる長期化が図られるとともに、負債のデュレーションも長期化したことから、両者のギャップは逆に負債が0.2年長くなった。
生命保険事業における資産と負債のデュレーション・ギャップの推移
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中村 亮一

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