2020年05月27日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年第1四半期公表による-

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4|Aviva
Avivaの2020年第1四半期の業績に関する発表5において、Maurice Tulloch CEOは、「第1四半期の取引が堅調で、損害保険の売上高は3%増加し、生命保険の新契約が28%増加した」としながらも、第1四半期におけるCOVID-19 の影響について、以下のように述べた。

「COVID-19への対応において、Avivaはお客様をサポートするために迅速に動き、資金援助を含む支援するための様々な対策を導入した。」

「4月30日の分析に基づくと、通知された請求および予測された請求を組み込んだ、損害保険に対するCOVID-19の請求の影響の推定は、再保険を差し引いて1億6千万ポンドだった。」

「3月31日現在、当社の推定ソルベンシー比率は182%と引き続き高く、COVID-19関連の影響が組み込まれている。経済の見通しは不確実なままであり、当社の事業に影響を及ぼすが、当社の資本と流動性の強さは、この危機を管理し、お客様をサポートし続けることができることを意味している。」

また、COVID-19が私たちのビジネスに与える可能性のある影響を認識するために、早くから動いたとして、以下の項目を挙げている。

・損害保険におけるCOVID-19の影響範囲に対する引当

・第1四半期の英国不動産の前提の更新:Brexitの不動産引当のリリース:商業用不動産の15%低下:住宅用不動産の12%低下及びその後の長期的成長

・英国の年金社債ポートフォリオにおける潜在的な将来の信用格付けの格下げ(BBB格付け債の10%、A以上の格付けの債券では5%に関するフルレター格下げ)の調整

さらに、「損害保険金請求への影響」については、以下の通りとしている。

・まだCOVID-19の請求進展の初期段階にあるため、Avivaへのその最終的な影響には依然として高いレベルの不確実性がある。

・ただし、4月30日の分析に基づくと、通知された請求及び予測された請求を組み込んだ、損害保険事業におけるCOVID-19関連の請求の見積もりは、再保険を差し引いて1億6千万ポンドである。

・これは、事業中断保険、その他の商業ライン、旅行保険での推定請求(請求のうちの2億ポンドは事業中断保険によるもの)に基づいており、その他の商品ラインには有利な影響を考慮している

また「将来の見通し」については、以下のように述べている。

・COVID-19は前例のない不確実性をもたらし、深刻な景気後退を引き起こす可能性がある。これは私たちの結果に悪影響を与える可能性があり、特に投資パフォーマンス、資本生成、送金の潜在的な変化に影響する可能性がある。

・第2四半期の初期の傾向では、世界規模の政府による強制封鎖措置により、多くの事業で新契約の売上が減少した。ディストリビューターと顧客がこれらの措置を通じて管理するのを支援するにつれて顧客の活動レベルは最近少し上昇したが、通年の販売量は予想を下回る可能性が高い。

・COVID-19による推定の損害保険金請求の影響に加えて、金融市場のパフォーマンスと経済活動は、資産価値に敏感な貯蓄及び資産管理ビジネスの収益にも影響を与える可能性がある。

・生命保険では、COVID-19から発生する死亡及び長寿の請求の経験は、広く相殺されると予想される。

・私たちは、様々な基金や慈善団体への4300万ポンドの寄付、そして数多くの顧客サポートイニシアチブを通じて、顧客とより広いコミュニティをサポートしている。

・2022年の目標の達成に引き続き取り組んでいるが、COVID-19はこれらの目標を達成するために追加の課題を提供することが想定されている。私たちは引き続き、顧客と運用の基盤を強化して、リターンの向上、効率の向上、キャッシュフローの促進に注力していく。
5|Aegon
Aegonは、その2020年第1四半期の業績発表6において、第1四半期におけるCOVID-19 の影響は限定的なものに留まっているとしたが、一方で、2020年に年間株主資本利益率10%を達成する可能性は非常に低い、と述べた。

CFOのMatt Rider氏は「私たちは、 COVID-19 の大流行によって、お客様、従業員、そして私たちが事業を展開している地域社会に混乱が生じていることを強く認識している。従業員の安全と健康を守り、全てのステークホルダーに対する責任を果たすことを最優先課題としている。」とし、「このパンデミックが今後どのように展開され、経済的影響が継続するかは不透明であるため、中期目標に対する COVID-19 の影響を十分に評価することは困難だが、2020年に年間株主資本利益率10%を達成する可能性は非常に低いと考えている。」と述べた。さらに、株主への資本還元は、適切な時期に見直されるとした。

Aegonの2020年第1四半期の税引前利益は3億6,600万ユーロ7で、(COVID-19とはあまり関連の無い)米国における死亡率の悪化と金利低下の影響を受けた。オランダ、英国、国際部門や資産管理においては、第1四半期におけるCOVID-19の影響は限定的だった。因みに、オランダにおいては、COVID-19により、旅行保険と障害保険から9百万ユーロの損害保険請求があった。

収益への影響は、主としてボラタイルな市場と低金利によるものである。また、COVID-19パンデミック関連の市場金利低下、株式市場の急落、信用スプレッドの拡大、ボラティリティの増加の影響により、公正価値が13.72百万ユーロ減少した。

なお、COVID-19の影響は、対面販売が影響を受けていることから、第2四半期においてはより深くなると想定されている。
 
6 https://www.aegon.com/contentassets/348b0aa1dfe642c8992d5a2afeced020/pr-1q-2020-update.pdf
 https://www.aegon.com/contentassets/25d4b30f2367431a86934a99bc6f032e/1q-2020-presentation.pdf
7 Aegonは、2019年の第1四半期数値を公表していない。因みに2019年上半期の税引前利益は9億6,300万ユーロだった。
6|Zurich
Zurichは、その2020年第1四半期の業績発表8において、「COVID-19からの損害保険請求は重大な不確実性の影響を受けている。 これまでの経験とシナリオ分析は、これらが2020年に7億5,000万米ドルの範囲になる可能性があることを示唆している。」と述べた。また、「COVID-19からの請求はリスク許容度の範囲内にあると想定され、金融市場の影響は年間を通しての進展に依存している。」とした。

Zurichは、「COVID-19 の対応と予想される影響」について、以下のように述べている。

医療危機が始まって以来、チューリッヒはお客様への約束を果たしてきた。当グループでは、保険料の割戻しや納付猶予、保険期間の延長などにより、追加的な財政的救済を行っている。お客様とのやり取りは、ビデオによる請求の報告、ドキュメントへの電子署名、リモートでのリスク評価の依頼などのオプションを作成又は拡張することにより、シンプル化されている。

当グループでは、リスク管理や従業員保護に関する知識を共有することで、法人のお客様を継続的にサポートしている。

2020年の COVID-19 関連の損害賠償請求は、引き続き当社グループの収益リスク許容範囲内であると考えられる。これまでの経験と当グループのシナリオ分析から、P&Cは以下のことが示唆される。

請求額は年間で約7億5,000万米ドルに達する可能性があり、そのうちの2億8,000万米ドルが第1四半期に計上されている。事象が継続的に発生するということは、これが重大な不確実性に左右されることを意味する。このシナリオには、経済活動の低下によるより広範なプラス又はマイナスの影響は含まれない。

金融市場の動向及び継続的な景気後退は、年度末までの当社グループの収益と収益の両方に悪影響を及ぼすことが予想され、その正確な規模は、年度中の金融市場の最終的な水準及び景気後退の程度と期間に左右される。

また、Zurichは、COVID-19の影響について、以下の4つの領域での影響を詳しく説明している。

(1)事業中断保険 → 非常の特定のポートフォリオに含まれる
・事業中断エクスポジャーは限定的
・標準約款は物理的損害を要求している。
・不動産契約の99%超は、大多数の契約はウイルスや類似の免除規定を有しており、COVID-19の補償を提供していない。
・小さい割合の契約はより低い限度で請求への複数のトリガーを要求することで非物理的損害を補償
・ネット・エクスポジャーは、北米におけるクオータシェア再保険とキャプティブで軽減される。
地域毎には、EMEA(欧州・中東地域)及び北米で中程度、アジア・太平洋及び南米で最小限のエクスポジャーで、全体でも低から中の三桁の百万ドルの範囲

(2)米国の労働者 災害補償保険  → 重要な影響は想定されない
想定ネット損失は30~150百万ドルの範囲

(3)旅行保険 → 販売の低下と請求の増加
・いかなる理由に対する中止も保障する契約を除いては、大多数の契約で、既知の事象やパンデミックは補償されない。
・2020年には相当な保険料の低下が想定される。
・2020年の請求は低い三桁の百万ドルを想定

(4)金融市場の影響 → 年間を通じての進展に依存
なお、Zurichの第1四半期は、比較可能ベースで、損害保険料が7%増加したものの、生命保険の年換算保険料(APE)は10%減少した。  

3―まとめ

3―まとめ

以上、今回のレポートでは、欧州大手保険グループの第1四半期の業績発表の中から、COVID-19の影響等に関する公表内容について報告してきた。

各社の報告内容は、各社各様で、その説明資料等も様々である。

前回のレポートでも報告したように、各社とも損害保険(再保険)事業や投資関係を中心に、第1四半期においてCOVID-19の影響を受けて、損益の実質的な下方修正を迫られており、さらには第2四半期以降の動向についても高い不確実性を有しているとして、年初の収益予想の撤回等を行っている。一方で、同時に、これらのCOVID-19の影響にも関わらず、会社の財務状況の堅固さは揺るぎないものである等との声明も公表している。

なお、欧州大手保険グループの場合、現在SFCR(ソルベンシー財務状況報告書)の公表も行われてきており、この中でもCOVID-19の影響等に関する記述が盛り込まれている。これらの内容については、6月以降のSFCRに関するレポートにおいて報告することとしたい。

欧米においては、4月以降においても、引き続き多数の新たな感染者が発生していることから、COVID-19の本格的な影響がより明らかになってくるのは、少なくとも第2四半期以降であると思われる。

その意味で、COVID-19を巡る動向とともに、それらに対する欧米各社の対応やそれに伴う影響等については、引き続き注視していくこととしたい。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年05月27日「保険・年金フォーカス」)

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