2020年05月27日

新型コロナウイルスの感染拡大が保険会社に与える影響(2)-欧州大手保険Gの2020年第1四半期公表による-

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1―はじめに

欧州や米国においては、4月下旬から5月にかけて、2020年の第1四半期の業績発表が行われてきている。今回の業績発表は、新型コロナウイルス(COVID-19)の感染拡大の影響を受けた時期が含まれていることや、まさに現在もその真っただ中にある状況下における業績発表であることから、各保険会社が、実際のCOVID-19の影響の程度や第2四半期以降の動向をどのように見ているのかを窺い知ることができるものとなる。

今回は、こうした欧州や米国の保険会社の第1四半期の業績発表の中から、大手保険グループのCOVID-19の影響等に関する公表内容について、2回に分けて報告している。前回のレポートでは、米国大手保険グループ及び大手再保険グループの状況を報告した。今回のレポートでは、欧州大手保険グループの状況を報告する。
 

2―欧州大手保険グループの公表内容

2―欧州大手保険グループの公表内容

ここでは、欧州大手保険グループから、AXA、Allianz、Generali、Aviva、Aegon及びZurichの状況について報告する。なお、Avivaは2016年から、Aegonは2018年から、四半期報告を行っていなかったが、2020年はupdate等の形で、第1四半期業績に関する発表を行っているので、これらの2社も含めている。
1|AXA
AXAは、その2020年第1四半期の業績発表1において、COVID-19について、統括的には「Covid-19:AXAは、従業員、クライアント、及びそれが活動するコミュニティをサポートするために強力な行動をとる。収益の低下が予想されるが、正確な収益ガイダンスを得るには時期尚早である。」と述べている。

さらに、「Covid-19の危機は、前例のない健康、経済、財政上の課題を生み出した。AXAの優先事項は、16万人の従業員とパートナーの安全を保護し、彼らとディストリビューターが1億800万人の顧客に中断のないサービスを提供し続けることを可能にすることである。 最も影響を受けるクライアント、特に中小企業を支援するために、特別な対策が実施された。」としている。

また、「3月に通知されたCovid-19関連の請求は限られており、危機の正確な影響はこの段階では依然として不明だが、Covid-19危機の影響は2020年の収益に重大な影響を与えると考えている。」としている。

AXAの2020年第1四半期の総収入は、317億ユーロ(前年同期は350億ユーロ)で、9%減少したが、これはEquitableの売却とSwiss Group Life Businessの転換によるもので、これらの影響を除いた比較可能ベースでは、全事業部門及び地域での成長により、4%増加した、と述べている。

さらに、「COVID-19 関連の影響に関する追加情報」として、以下の説明を行っている。

(1)収益
AXAは、影響を受ける国でのロックダウンが、特に、継続率の改善により一部相殺が見込まれるものの、殆どの事業部門での新契約活動の減少を通じて、売上高と収益に徐々に影響を与えると予想している。3月の総収入は昨年の同時期に比べて約5%減少した。4月の最初の傾向は、2019年4月と比較して、殆どの地域で総収益が約12%の減少を示した。影響は、L&S(生命保険&貯蓄)でより大きく、P&CとHealthで程度は小さいと予想される。

(2)請求
3月にCovid-19に関連して通知された請求は、この初期段階では制限されている。 ただし、全ての地域にわたる制限措置は、特にイベントの中止と事業中断において、多くの商品ラインにわたる請求のレベルに重大な影響を与えると予想される。

イベント中止の場合、Covid-19に関連する潜在的な請求の合計の暫定的な見積もりは、税引き前の再保険後で5億ユーロ(mid triple digit million euro)である。事業中断については、これまでに限られた請求しか通知されていないため、潜在的な請求のレベルを推定するのは時期尚早である。他の特定の項目(例:D&O(会社役員賠償責任)、賠償責任、旅行)も影響を受ける可能性があるが、程度は低く、これまでのところ、信用保険や死亡保険金に重大な逸脱は見られていない。

(3)利益
以下の項目の影響についての正確なガイダンスを提供することは時期尚早である。
(i)収益の減少、費用の削減により一部相殺
(ii)影響を受けたラインからの請求の増加、他のライン、最も注目すべきは自動車での請求の減少による潜在的な相殺
(iii)ユニットリンク及び資産管理手数料の削減
(iv)金融市場とマクロ経済の進展
(v)連帯措置に対するAXAの寄付の総コスト

AXAの経営陣は、Covid-19危機の影響は2020年のグループの収益に重大な影響を与えると考えている。

20年第1四半期の推定純実現キャピタルゲイン(株式ヘッジからの減損と利益を含む)は+2億ユーロであり、純利益を通じて公正価値で測定された金融商品の市場価格の影響の推定は+3億ユーロ

(4)資産
AXAは、主に国債(平均格付けAA)と社債(平均格付けA)で構成される高品質の資産ポートフォリオを備えており、現在の状況で最も脆弱なセクター(旅行、交通、レジャー、石油&ガス)へのエクスポジャーは限られている。 社債ポートフォリオは、内部格付けに基づいて積極的に管理されている。株式と金利のエクスポジャーは、ヘッジ戦略とデュレーションギャップ管理を通じて積極的に管理されている。

2020年3月31日現在、(その他の包括利益による)未実現利益は+17億ユーロと推定され、2019年12月31日と比べて30億ユーロ減少した。これは、企業スプレッドの拡大と株式市場の低迷によるが、国債に影響を与える金利の低下によって、一部相殺された。
2|Allianz
Allianzは、その2020年第1四半期の業績発表2において、COVID-19について、「COVID-19 問題を契機とした金融市場の混乱や景気減速は、金融業界の経営環境を一段と悪化させている。しかしながら、Allianzは、十分に多角化された事業ポートフォリオと強固なバランスシートを有しており、コロナ危機の管理に十分に備えており、2020年第1四半期に良好な業績を達成している。」と述べている。

ただし、2020年の営業利益見通し(120億ユーロプラスマイナス5億ユーロ)について、 COVID-19 の不透明感により撤回している。現時点で入手可能なグループの事業体の最新の財務計画を考慮すると、取締役会は、2020年の営業利益の目標範囲である120億ユーロプラスマイナス5億ユーロを達成できるとは想定していない、と述べ、2020年の新たな利益目標は、コロナ危機の影響がより正確に評価された時点で、修正計画の完了時に経営陣により発表される、とした。

より具体的には、COVID-19が営業利益に与える影響について、▲7億ユーロ(うち、損害保険事業で▲4億ユーロ、生命保険事業で▲3億ユーロ)とし、さらに資産管理事業においては460億ユーロの第三者資産のネット流出があったとしている。加えて、COVID-19関連の制限により、成長が影響を受けたとした。

なお、損害保険事業の▲4億ユーロの内訳は、娯楽▲2億ユーロ、事業中断/事業閉鎖▲2億ユーロ、Euler Hermesと旅行▲1億ユーロ、自動車+1億ユーロ)としている。

ビジネスユニット毎の営業利益等の状況は、以下の通りとなっている。

損害保険ユニットは、4.23億ユーロ減少して、10.32億ユーロの利益、生命・医療ユニットは2.77億ユーロ減少して、8.19億ユーロの利益となった。資産管理ユニットの営業利益は1.06億ユーロ増加して6.79億ユーロの利益となったが、管理資産は2兆2,680億ユーロから、1,340億ユーロ(5.9%)減少して、2兆1,340億ユーロとなった。

グループ全体の営業利益は、29.62億ユーロから23.04億ユーロに6.58億ユーロ(22.2%)減少した。
営業利益の内訳
3|Generali
Generaliは、他の大手保険グループが5月上旬には2020年第1四半期の業績発表を行っていたのに対して、他社に比較してCOVID-19が業務面に与える影響の大きさを反映して、5月21日に2020年第1四半期の業績発表を行った。

Generaliは、その2020年第1四半期の業績発表4において、COVID-19について、「グループの純利益は1億1,300万ユーロ(前年同期は、7億4,400万ユーロ)であり、金融市場に対するCovid-19の影響による投資への6億5,500万ユーロの減損とパンデミック緊急事態のための臨時国際基金へのグループによる割当の1億ユーロの寄付の影響を受けた。」と述べた。

また、調整後純利益は1億1300万ユーロ (前年同期は6億1600万ユーロ)で、COVID-19 特別国際基金の一時的費用を除いた場合、1億8800万ユーロだった。

CFOのCristiano Borean氏は、次のようにコメントしている。

「Covid-19の緊急事態とその結果としての強力なマクロ経済的および経済的影響により、ここ数十年で最も困難で不確実な時期の1つに、私たちのビジネスモデルはグループの事業継続を確保し、お客様のライフタイムパートナーとしての役割を維持することを可能にした。これは、私たちのプロセスと商品のデジタル化、グローバルエージェントネットワークを活用したマルチチャネル配信ネットワーク、及び国際的な分散化の結果でもある。今年の最初の3か月は良好な業績を示し、グループの堅実な資本基盤を確認した。 純利益は、世界的なパンデミックの結果としての現在の金融市場のパフォーマンスによる減損の影響を受けた。」

また、プレス資料の中では、以下のように述べられている。

「前例のないCovid-19パンデミックは、現在および近い将来の両方で、世界中のマクロ経済環境に大きな影響を与える。 現時点では、グローバル保険セクターへの全体的な影響を測定するのは時期尚早である。Generaliグループは、ビジネスミックスと分散化のおかげで、2019年と比較して減少する可能性はあるものの、2020年の業績は耐性力があると予想している。

運用の観点から見ると、Covid-19のマクロ経済的影響は、特に旅行保険において、グループのトップラインの進展に影響を与える。経常的な金融収入(配当、賃貸収入、手数料収入)も悪影響を受ける。請求経験に関しては、Covid-19の影響について正確なガイダンスを提供することはまだ困難である。 全般的に、Generaliは有利なビジネスミックスと堅牢な標準的契約条件に依存できる。

Generaliは、予想される収益の減少による影響を軽減するために、大幅なコスト削減に取り組んでいる。同時に、ライフタイムパートナーになるという野心と持続可能性への取り組みに沿って、グループは、従業員、クライアント、ディストリビューター、コミュニティをサポートするための一連の措置を実行できることを誇りに思っている。 これらの対策は短期的には当社のコストベースや業績に影響を与えるが、利害関係者の幸福と安全は私たちの未来への投資となる。

Generaliは、世界的な経済状況がより明確になるのを待って、金融市場の低迷とアウトブレイクの結果が、主に減損が原因で2020年の最終結果に悪影響を及ぼすと予測している。」

なお、第1四半期において、Covid-19関連の損害保険の請求は約1億ユーロで、配当と賃貸収入の低下により、リターンが想定より約1億5,000万ユーロ少なくなる、また、自動車保険の請求頻度が約30%減少する、と述べた。

さらに、「COVID-19 非常事態への取り組み」として、以下のように述べている。

「3月12日、Generaliの取締役会は、Covid-19の緊急事態を支援し、グループが事業を展開する国々の経済回復活動を支援するために、1億ユーロの臨時国際基金を設立した。 基金はまた、グループの従業員からの寄付の恩恵を受けた。 それは、イタリア国民健康システム及びイタリア市民保護と合意した優先順位に従って、イタリアの健康緊急事態を支援するとともに、グループが事業を展開する市場全体の顧客、中小企業、及びその従業員のための取り組みを支援した。

さらに、グループ管理委員会のメンバーと戦略的責任を負うその他のマネージャーは、2020年4月から年末までに固定報酬を20%削減することを自主的に決定し、基金をさらに増やした。」
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中村 亮一

研究・専門分野

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