2020年05月12日

新型コロナウイルスの感染拡大を受けての保険監督当局等の対応(2)-米国のNAIC、豪州のAPRA、カナダのOSFI-

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4―米国の保険会社の配当支払いに関する対応

欧州におけるEIOPAや各国保険監督当局による配当支払いや自社株買いの停止要請に対して、米国の保険監督当局からはこの点に関して明確な形での声明等が発出されていないことから、米国の保険会社の対応は欧州の保険会社とは異なっているようである。
1|MetLife
米国の保険会社は四半期毎に配当を支払っているが、例えば、MetLifeは、4月28日に、第2四半期の普通株式配当を第1四半期の1株あたり0.44ドルに比べて4.5%増加させて、1株あたり0.46ドルとすると公表17 している。
2|Prudential Financial
Prudential Financialは、5月5日の第1四半期の結果発表時に、普通株1株あたり1.10ドルの配当を公表しており、これは前四半期と同じ率で、1年前に比べて0.10ドルの増加となっている。
 

5―オーストラリアのAPRAの対応

5―オーストラリアのAPRAの対応

オーストラリアの保険監督当局であるAPRA(オーストラリア健全性規制機構)は、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、3月以降各種の措置を取ってきている。例えば、以下のような内容が挙げられる。
1|323日の通知
COVID-19への対応を優先するために、2020年の議題の順序を変更している。

APRAは、COVID-19の影響を受けて、計画された政策と監督の取り組みの大部分を一時停止した。

この決定は、APRAが規制する会社が、事業の維持と顧客のサポートに時間とリソースを費やすことを可能にする一方で、会社の財務及び運用能力に対する急速に変化する環境の影響の監視と対応に重点を置くことを可能にすることを目的としている。

したがって、APRAは、健全性及び報告基準に関する協議を含め、現在進行中又は今後予定されている健全性フレームワークの改訂を確定するための全ての実質的な公開協議及び行動を一時停止する。状況は引き続き見直されるが、2020年9月30日までに重要でない事項についての協議を再開する予定はないとしている。

APRAは、COVID-19の影響に関連する新しいデータ収集を含め、現在の環境でその義務を果たすために重要な特定のデータ報告イニシアチブを継続して進める可能性がある。

2017年10月にAPRAが発表した民間健康保険改革に関するデータを収集する新しい報告基準の実施は、2020年6月までの四半期に開始される予定だったが、民間医療保険会社(PHI)がCOVID-19の影響の処理にリソースを集中できるように、実施が一時停止された。今後協議が行われるが、この協議は早くても2020年9月まで延期され、このシナリオでは、最初の収集は2021年3月までの四半期に向けられる。
2|4月7日の資本管理に関するガイダンス18
APRAは、全ての認可された預金受入機関(ADI)と保険会社宛へのレターの中で、これらの機関が配当の延期や慎重な削減を含めて、今後数か月の裁量的資本分配を制限するとの期待を概説した。

APRAはADIと保険会社が今後数か月の裁量的資本分配を制限し、代わりにバッファーを使用し、保険の貸出しと引受を継続する能力を維持することを期待しており、これには、運用環境の不確実な見通しとこれらの重要な活動を優先する能力を維持する必要性を考慮した、配当の慎重な削減が含まれる、と述べた。

さらに、具体的に以下の内容が述べられている。

APRAは、少なくとも次の数か月間は、全てのADIと保険会社が次のことを行うことを期待している。

・資本を節約し、経済を支える能力を使用する必要性について、フォワードルッキングなビューをする。

・これらのビューを形成するために、ストレステストを使用して、もっともらしいダウンサイドシナリオ(定期的に更新され、状況の変化に応じて更新される)を十分に検討する。

・顧客に貸し続け、サポートし続ける自信と能力を維持することを確実にするために、先制的に対応して慎重な資本管理行動を開始する。

この期間中、APRAは、ADIと保険会社の見通しが明確になるまで、適切な配当水準に関する決定の延期を真剣に検討することを期待している。ただし、APRAと話し合った強固なストレステスト結果に基づいて、取締役会がこれより前に配当を承認できると確信している場合は、それでも実質的に削減レベルになるはずである。配当の支払いは、配当の再投資計画やその他の資本管理イニシアチブを使用して、可能な限り相殺される必要がある。APRAはまた、取締役会が現在の厳しい環境を考慮して、役員の現金ボーナスを適切に制限することを期待している。 
3|4月14日の新しい保険会社のライセンスの発行の一時停止19
APRAは、COVID-19によって引き起こされた経済の不確実性に対応して、新しい銀行又は保険及び年金のライセンスの発行を少なくとも6か月間一時的に停止するとした。

APRAは、経験から、通常の経済状況下でも新規参入者が成功することは困難であることがわかっているため、現時点で規制対象会社にライセンスを供与することを賢明とは考えていないとした。  

6―カナダのOSFIの対応

6―カナダのOSFIの対応

カナダの保険監督当局であるOSFI(金融機関監督官局)も、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、3月以降各種の措置を取ってきている20。例えば、以下のような内容が挙げられる。
1|3月13日の通知21
OSFIは、3月13日に、銀行がカナダの企業や家計をサポートするために追加の貸付能力を使用することを期待しており、株主や従業員への分配を増やすため又は自社株買いを行うために、この措置を使用してはならないとし、連邦政府で規制されている全ての金融機関(銀行や保険会社等)に対し、当面、配当の増加や自社株買いを停止すべきとの期待を示した。
2|3月27日のCOVID-19の取り組みをサポートする規制の柔軟性の公表22
(1) 支払いの延期に関連する住宅ローン保険会社の期待を設定
規制上の資本要件の下では、支払いの繰延により、金融機関への期待と一致して、保険付き住宅ローンが延滞または延滞として扱われることはない。

住宅ローンに関する未払いの請求がないとの条件で、規制上の資本要件を決定する際、住宅ローン保険会社は、預金取扱機関が住宅ローンの支払いの延期を承認し、借り手が住宅ローンの支払いを延期した場合、住宅ローンを滞納や未払いと見なすべきではない。この資本処理は、6ヶ月又は支払の延期期間の短い方に適用される。

(2)IFRS第17号の半年毎の進捗報告の一時停止
OSFIは、追って通知があるまで、保険会社がOSFIに提出する必要があるというIFRS第17号の半年毎の進捗報告を一時停止することを決定した。  

7―まとめ

7―まとめ

以上、今回のレポートでは、新型コロナウイルスの感染拡大を受けての、米国のNAICや各州保険監督当局、オーストラリアのAPRA、カナダのOSFIの対応及び米国の保険会社の配当支払いに関する対応状況について報告してきた。

配当支払や自社株買いへの対応に関しては、APRAやOSFIは、基本的には銀行等の金融機関と平仄を合わせた対応を行っており、またEIOPAにも準じた取扱としているようであるが、それでもその具体的な要請や指示の表現内容は国によって若干の差異がある。

これに対して、米国の場合、その保険監督制度の差異もあり、基本的には各種の対応は各州ベースで行われており、配当支払い等に関しても、現段階ではNAICベースでの統一的な声明等も発出されていない。このように、米国の対応は、欧州やオーストラリアやカナダといった国々とは若干異なる対応になっているようである。

次回のレポートでは、中国やインド等のアジアの国々における保険監督当局の対応等について報告する。
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中村 亮一

研究・専門分野

(2020年05月12日「保険・年金フォーカス」)

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